尿意を催したシェラ姫。
肌寒い地下室で、下着姿で、何時間も放置されていれば、そうなるのは当然のことだ。
彼女を調教するリルドは、その生理現象を利用し、シェラ姫の人間としての矜持や尊厳を地に落とすつもりであった。
だが、いきなり急激に落としすぎても、彼女の心が壊れてしまうので良くない。
(あくまで第一段階はほどよく……だ。焦るな、俺。時間は少ないが焦って目的を見失うな……)
リルドは自分に言い聞かせるように内心で呟き、シェラ姫から数歩離れる。
「その場に垂れ流されても困るからな。いま便所を用意してやる」
そのリルドの発言に、シェラ姫は用を足しに行かせてもらえると勘違いしたのだろう。あからさまに安堵する気配がリルドにも伝わってきた。
無論、そんなわけがない。
「確か隣の部屋にバケツがあったな。持ってくるから待っていろ」
『便所を用意する』という言葉と、『バケツを持ってくる』という言葉。
ふたつの言葉を合わせれば、どういう意味かは誰にでもわかる。
当然、シェラ姫が理解しないわけもなく。
「ンンッ!? ンーーッ!」
激しく呻き声をあげ、抗議するように身体を震わせる。
そんなシェラ姫に対し、リルドはあくまで冷淡に応じた。
「なんだ? 不満か? バケツじゃ嫌だと? ならそのまま漏らすか?」
びくり、と怯えるように身体を震わせ、動きを止めるシェラ姫。そんなシェラ姫の怯えた反応を心苦しく感じつつ、リルドは容赦しない。
「俺は別にそれでも構わんが、おそらくその下着はダメになるだろうなぁ。尿に汚れたものをそのまま身に付けていれば、かぶれて痒みが酷いことになるだろう。そうならないように、下着は剥ぎ取るしかなくなるな」
最終的には剥ぎ取るつもりではあるが、あえてそう口にする。
その内容に反応して震えるシェラ姫の反応を見つつ、リルドは彼女の傍に立つ。
耳元に向け囁くように、言う。
「そうして欲しいか?」
声が近づいた事には気付いただろう。だが、それを気にするよりも先にシェラ姫は首を左右に大きく振った。その際、下着のみが覆っている彼女の豊かな乳房が大きく揺れる。
リルドはそんな彼女の胸を鷲掴みにして、悲鳴を上げさせてから、脅すように口を開く。
「嫌ならバケツに用を足すのでいいな?」
「ッ、ウゥ……ッ、ウ……」
シェラ姫が葛藤しているのはリルドにも伝わって来ていた。
下着を剥ぎ取られることは当然嫌だろうが、かといってバケツに用を足すなどということが簡単に受け入れられることは出来ないとリルドもわかっていた。
より悪くなることを考えれば、バケツに用を足すので妥協するべきかどうか、差し迫る尿意を感じながら、必死に考えているに違いなかった。
そこで、リルドはさらに一手を加える。
「だが俺も鬼じゃない――どうしてもバケツが嫌なら、条件をひとつ呑めば普通に便所に行かせてやる」
一手ずつ、シェラ姫をヒトイヌへと落とす手を加えていくのだ。
シェラ姫は、リルドの言う条件を聞き逃すまいと、ぴたりと動きを止めていた。
そんなシェラ姫の耳元に、リルドはその条件を囁く。
「普通に便所に行かせて欲しいなら……今後、俺はお前をルルと呼ぶことにする。お前はそれを自分の名前だと認識して、きちんと反応すること。それが条件だ」
名前はとても重要なものだ。特にシェラ姫は王族であり、その名前に対する誇りはなによりも強いだろう。
そして、条件として示した「ルル」という名前は、この国において一般的に犬に名付ける名前のひとつだった。遠い異国ではポチやタロウといった名付けが多いらしいが、この国の民にとって「ルル」と言えば大抵は犬に名付けるものであるという認識だ。
それをシェラ姫は当然知っている。自分に犬の名前をつけようとしている、という意図は伝わっただろう。
拒否反応を示すシェラ姫に対し、リルドは冷淡を装って告げる。
「それが嫌なら、その場で垂れ流すんだな。俺はどっちでも構わんぞ」
新たな二択。リルドはここであえてシェラ姫の乳房から手を離し、わざとらしく足音を立てながら数歩後退した。
この機会を逃せば、トイレに行かせてもらうことはなくなり、その場で漏らすことになって、下着を剥ぎ取られてしまう、とシェラ姫が思うのは当然だった。
「ンーッ! ンンゥーッ!」
鎖を鳴らし、声をあげるシェラ姫。リルドはにやりと口の端を歪めた。
「ふむ。何を言っているのかわからないな。そのまま漏らしたいのか?」
「ウウウウッ」
ぶんぶん、と首を横に降るシェラ姫。
「では、普通にトイレに行かせて欲しいんだな?――ルル?」
呼ぶときに声を強調して、シェラ姫をルルと呼ぶ。
シェラ姫はぎしりと音が立ちそうなほど硬直し、迷い、迷った末に。
「ウゥ……」
ゆっくりと、しかし確実に頷いた。
リルドは再び前に数歩進み、手を持ち上げると、シェラ姫の頭に優しく手を置いた。
「よし、いいだろう。トイレに行くことを許してやろう、ルル」
可能な限り優しく、柔らかく、愛おしく。リルドはシェラ姫の頭を撫でる。
その場違いなほど暖かい手つきに、シェラ姫が困惑するのが伝わって来た。
調教士としては甘すぎる行動だが、しかし今回の場合、リルドはそれくらい優しくて良いと考えている。
(シェラ姫は王族だ。本来は命令する側であって、される側ではない。シェラ姫に命令を受け入れさせ続ければ、壊れてしまうかもしれない。だから――『ルルとして』命令を聞くことは良いことで気持ち良いことだと、学習してもらう)
名前は大事なものだ。名前は自己認識にも大きな影響を与える。
リルドは、シェラ姫に『ルル』という名前を、それに伴う役柄を与えることで、シェラ姫の本質を壊さないようにしつつ、限りなく肉便器の振る舞いが出来るようにする目論見があった。
ルルと呼ばれるのは、シェラ姫と呼ばれる自分ではなく、別の自分だと。
男の命令に従い、頭を垂れ、腰を振っているのは誇り高い王族の自分ではなく、雌犬のルルであると。
そう錯覚させるために、名前を与えるのだ。
命令に従えば気持ちよくなれるのだと、気持ちよくなるのはルルであってシェラ姫ではないと、そう思わせるのが目的だった。
リルドはシェラ姫の足枷の鎖を解き、手枷の鎖を手に持つ。
「よし。いくぞ、ルル。足下の心配はしなくていい。大人しく俺についてこい」
大人しく命令に従えば何も怖いことはないのだと、じっくり教え込む。
そんなリルドの目論見を知ってか知らずか、シェラ姫は手枷の鎖を引かれるまま、リルドの後をついて歩き出した。
リルドはシェラ姫が転ばないように注意しつつ部屋を出て、冷たい石造りの廊下を歩く。
歩いているうちに、シェラ姫の様子がおかしくなり始めた。現在のシェラ姫は素足であり、石造りの廊下を歩くことで身体が冷えたのだろう。
それどころではなく忘れていた尿意を思い出したのだ。
「もう少し我慢しろ。もう着く」
そう声をかけつつ、リルドは地下に用意された部屋のうちの一つに入った。
そこはいわゆる便所であったが、シェラ姫の調教のために様々な道具が運びこまれている。いずれはそこにある道具も用いるつもりだったが、まだ早い。
いまはただ、普通に用を足させてやるだけのつもりだった。ただ、トイレはトイレでも、普通のトイレとは違う。
この国では王侯貴族は便座に座って用を足すのが一般的だが、普通の民衆は床、もしくは地面に開けた穴を跨がるようにし、腰を落として用を足す。
色々な都合を考慮した結果、このトイレも穴に跨がってするタイプのものになっている。
「着いたぞ。ああ、言っておくが……拘束を外すことはできんからな」
自殺でもされては溜まらない。リルドは天井の滑車にシェラ姫の手枷の鎖を引っかけ、シェラ姫が両腕をまっすぐ上に伸ばした状態になるように引き揚げた。
戸惑うシェラ姫に構わず、リルドはシェラ姫の背後に回ると、手の内に収まる程度の小さな刃物を用いて。
その下半身から、下着をするりと剥ぎ取った。
あまりに素早い、一瞬の早業だったためか、シェラ姫はしばらく何が起きたかわからずに硬直していた。
だが、しばらくしてようやく、下着を脱がされたことに気付くと。
「ウゥーーッ!」
いままでで一番大きな悲鳴をあげ、その場にしゃがみ込んだ。両手は吊り下げられた状態で限界まで引っ張られたが、少し調整すればしゃがみ込むことは出来た。
真っ白い臀部が曲線を描く様子が、背後に回ったリルドにはよく見えた。
安産型の丸みを帯びたお尻は、非常に男好きがしそうで、リルドはもし本当にシェラ姫を奴隷として売買すれば破格の値段がつくだろうと感じる。
そしてそんなことをつい考えてしまう自分に、嫌気が差すのだった。
(職業病だな、これは……やれやれ)
こっそり溜息を吐きつつ、リルドはしゃがみ込んで震えるシェラ姫を見つめる。シェラ姫は結局下着を剥ぎ取られてしまったことにショックを受けたのか、しゃくりあげていた。目隠しが涙を吸収してしまっているためよくわからないが、泣いているのは明らかだ。
そんなシェラ姫の状態に心を痛めつつも、リルドは調教のため、心を鬼にして続ける。
「脱がさないと用を足せないだろうが。用を足したら新しい下着を穿かせてやるからさっさと済ませたらどうだ?」
呆れを滲ませる声音を装いつつ、リルドはシェラ姫の目隠しを外す。
リルドは真後ろに立っているが、羞恥心に煽られるシェラ姫は後ろを振り向けない。
「床に穴が見えるだろう。それが庶民の使う便所だ。その穴に跨がって、用を足せ」
そう告げるが、いきなり穴に跨がって用を足せといわれても、出来るものではない。座ってするのが当たり前だったシェラ姫には当然の葛藤だ。
しかしこれ以上譲歩するつもりのないリルドは、迷い、惑うシェラ姫に対し、冷酷に告げる。
「やり方がわからん歳でもないだろう。どうしてもやれないというのなら、手取り足取り、抱えあげてでも教えてやるが?」
そのリルドの言葉に、覚悟を決めたのか、シェラ姫がしゃがみ込んだままじりじりと穴の近くへと移動する。なるべく身体を縮こまらせたいがゆえの行動なのだろうが、後ろから見ているリルドからすれば、とても滑稽な動きだった。
シェラ姫という麗しの存在がやっていい動きではない。彼女のそんな姿を見ているという背徳感に、リルドの心の意地の悪い部分が反応するのがわかる。
(まったく……シェラ姫は本当に可愛らしいな)
そんな風にリルドが考えていることなど露知らず、シェラ姫は躊躇しながらも、床に空いた穴に跨がり、用を足す体勢を取った。
前から見れば、シェラ姫の開帳した股間の様子がよく窺えただろう。あえてリルドは今回前には立っていなかったため、見えなかったが。
(下着越しに触れはしたが、どんな状態かは見てないからな……本人の印象通り、清楚な生え方か、それとも意外と剛毛か……全く生えていない、という感じではなかったが……)
そんなことをつらつらと考えるリルド。思い人のその場所の状態を考えてしまったため、少し情欲が反応するのを感じたが、意識してその衝動を抑え込む。
背後に人が立っているという状況で、そう簡単に用を足すことはできないだろう、と考えていたのだが。
リルドの想定以上に、シェラ姫の膀胱はせっぱ詰まっていたようだった。
後ろから見ているリルドには、シェラ姫のお尻の下から、ちょろちょろと黄色い水が流れていくのが見えていた。身体の構造上、一度出し始めた尿を止める事は出来ない。
シェラ姫は耳の先までどころか、全身を真っ赤にして恥じらいながら、排尿を続けている。穴の底で尿が音を立てて弾けているのがリルドの耳にも聞こえていた。
やがて水の勢いも弱まり、シェラ姫が身体を震わせて、最後まで出し切ったことを示す。
リルドはゆっくりとそんなシェラ姫に近づき、後ろから頭を撫でてやった。
「よし。よく出したな、ルル。偉いぞ」
王族のシェラ姫に対してではなく、雌犬のルルに対する口調で、用を足したことを褒める。シェラ姫は微かに身を捩った。不満がありありと伝わってくる。
いまはまだ嫌悪感の方が上だろう。それを徐々に、ルルとして命令を聞くのは嬉しいという方向に誘導していくのだ。
(まだまだ先は長いな……だが、これでまずは一手だ)
庶民用ではあったが、一応ちゃんとしたトイレで用を足させる代わりに、ルルと呼ばれることを受け入れさせた。今後、ルルと呼ばれることにシェラ姫は反抗できなくなったし、もし反抗するようなら本当に漏らさせてやればいい。
十分な布石が打てたと言える。
リルドは柔らかな布を取り出して、背後から手を回してシェラ姫の股間を拭いてやった。布越しとは言え、そこを拭かれることにシェラ姫は抵抗を示したが、目隠しはまだされておらず、リルドが明らかに見えない位置から手を伸ばしてそこを拭いているのがわかったためか、抵抗は控えめだった。
それがリルドの思い通りの反応だとは知らず。
シェラ姫の股間を拭き、用を済ませたリルドは、シェラ姫を腕を吊り下げている鎖をさらに吊り上げ、シェラ姫をつま先立ちの状態になるように調整する。
「下着を着せてやる。嫌がれば下着はなしで戻るからな」
「ウゥ……アウ……」
リルドはそう冷たく言い放つ。約束が違う、と言いたげな様子だったが、嫌がらなければいいとすぐ理解したのだろう。シェラ姫は大人しく従うつもりのようだった。
(まあ、下着は下着でも……ちょっと特殊な下着だが)
そういってリルドが取り出したもの。
それは――金属製の、貞操帯であった。
つづく