シェラ姫をその場に縛り付けていた拘束が、順番に解かれていく。
アンカーのように四方からのテンションを保っていた、首輪に繋がれた鎖。
彼女の首の可動域を制限していた、分厚い金属の首輪。
後ろ手に回した腕を、一本の棒のように固めていたアームバインダー。
脚を折り畳んだ状態で固定していた、細い鎖で連結されていた足首と太もものベルト。
ラバースーツを除き、身に付けていたものが全て解かれたシェラ姫は、ここに来て初めて四肢の自由を得たが、逃げることは出来そうになかった。
座った姿勢の身体を支える事も出来ず、力尽きたようにその場に崩れ落ちる。
「ハァッ……ハァッ……ハァッ……」
手足は力無く投げ出され、短く切りそろえられた髪が、滲んだ汗によって額や頬に張り付いていた。
時折小さく痙攣しているのは、動かせないように固定されていた手足に感覚が戻りつつある証拠だった。
恐らくは痺れて、何の感覚もないであろう手足。
それが力無く投げ出されている様は、妖艶な雰囲気を醸し出していた。
そんなシェラ姫の様子を観察しながら、拘束を外すために彼女の手足に触れていたリルドは、スーツの内側に大量の汗が溜まっているのを感じ取っていた。
(このまま放置するのは、肌に良くないな)
リルドはシェラ姫の調教のために用意しておいた、地下室の機能を使うことにした。
(と、その前に。逃げるつもりもないだろうが……念のためだ)
体力・気力を限界近くまで消耗したシェラ姫に逃亡を許すほどリルドは甘くない。
加えて、もし仮に逃げ出せたとしても、もはやシェラ姫に逃げる先など存在しないのだ。シェラ姫は自分の立場を正しく認識しているため、それをよくわかっているはずだった。
それでも、万が一にでも逃亡を許せば、リルドもシェラ姫も身の破滅が待っている。
その可能性をゼロにするために、リルドは手を打った。
シェラ姫の頭に、乱暴に麻で出来た袋を被せた。首を締めないように注意しながら袋の口を絞り、容易なことでは外れないようにする。
「きゃあっ! な、なに、なんですかっ、これっ」
袋は彼女の頭部を完全に覆っているが、いままで彼女の目や口を覆っていたものとは全く異なる。
袋はラバー素材ではなく、単なる麻袋なため、袋越しにも明るいか暗いくらいは感じ取れるし、喋ることもできた。
突如視界を奪われ、慌てふためくシェラ姫。リルドは袋越しにその頭を鷲掴み、低い声で恫喝する。
「やかましい! 単なる目隠しだ。黙ってじっとしていろ!」
怒鳴られ、身体を竦ませて怯えるシェラ姫。
そんな彼女の身体を、リルドは脇の下と膝裏に手を入れて、抱き上げた。
いわゆるお姫様抱っこと呼ばれる抱き上げ方であったが、抱き上げられているシェラ姫が麻袋を頭に被せられ、身体にぴっちり張り付くラバースーツという異様な姿であるために、ロマンチックな雰囲気にはなりようもない。傍目にも誘拐されていく女性としか見えなかった。
リルドが彼女を抱き上げたのは、手足の痺れている彼女を無理矢理歩かせるのは時間がかかる上に危ない、という合理的な判断からだ。
だが、身体が密着することで感じる、ラバースーツ越しにもわかる柔らかな彼女の身体の感触に、リルドは自分の心臓が早鐘を打つのを感じていた。
(ふー……落ち着け……落ち着け……さっき出したばっかりだろ……)
密着していることを意識しないように、自分に言い聞かせながらリルドは部屋を出る。
一方のシェラ姫は、これから何が待っているかわからない恐怖で、男性と密着していることなど気にしている余裕はないようだ。
同じ行為に、それぞれ違う感情を抱きつつ、ふたりは調教部屋の隣の部屋に移動する。
そこは、トイレよりは広いが、調教部屋よりは狭い部屋だった。
のっぺりとした石作りの部屋で、シェラ姫がもしその部屋の様子を見ることが出来たなら、一瞬で何を目的とした部屋なのか察しただろう。
そんな部屋の中心にリルドはシェラ姫を下ろした。
「脚に力を入れて、立て」
命令に従い、シェラ姫は力の入りづらい身体に鞭を打って、なんとか倒れずにその場に立つことに成功した。
リルドはそんなシェラ姫の背後に立ち、首筋、うなじあたりにあるラバースーツのジッパーに指をかけた。
「いったんラバースーツを脱がすぞ。じっとしていろ」
そうシェラ姫に呼びかけたリルドの指が、彼女の着ているラバースーツのジッパーにかかる。
力を込めてリルドがそれを引き下げると、蝶のサナギが羽化するように、合間からシェラ姫の背中が剥き出しになった。夜会用のドレスなど、背中が大きく開いた衣装を着ることはままあったからか、シェラ姫の背は若いというだけではなく、綺麗に手入れが施されている様子だった。
じんわりと汗が滲み、艶めかしい色気を醸し出している。スーツの中から解放され、周囲に漂う彼女の匂いに、リルドは自分のものが改めて硬くなるのを感じ取っていた。
(平常心、平常心……)
他の奴隷相手なら無視出来るのだが、相手がシェラ姫というだけでリルドの心と体は彼の意思通りに収まってくれない。
インディーからは初恋を捩らせているという表現をされたが、実際そうなのだから始末が悪かった。
(思春期の少年でもあるまいに……はぁ……)
シェラ姫が極上の女体であるということももちろん影響はしているのだが、自分でも若干情け無いと思ってしまうリルドであった。
そんなことを思いつつ、リルドはジッパーを一番下まで引き下げ、シェラ姫からラバースーツを脱がしていった。
華奢な肩、細い腕、豊かに育った双丘に、よく引き締まった腰。
触れがいのありそうな張りのあるお尻の丸みや、美しい流線を描く脚が、黒いラバーの衣から解放された。
素裸になった彼女の艶姿。これが男女として愛し合った結果ならば、リルドには何も言うことがなかったのだが、残念ながらそうではない。
それを象徴するように、シェラ姫の頭部は無粋な麻袋によって覆われている。
被せられた麻袋は彼女を、ひとりの個性ある人間ではなく、次の調教を待つだけの、哀れな奴隷の一体へと貶めていた。
「そこで大人しく待っていろ」
リルドはそうシェラ姫に告げ、脱がしたばかりのラバースーツを手に部屋の片隅へと移動する。
シェラ姫は頭の麻袋以外自由になったが、麻袋を外そうとはせず、両腕で自分の身体を隠し、なるべく背を丸めて小さくなろうとしていた。
麻袋を外せば逃げることも可能だが、リルドが自分を見ているかどうかもわからないため、下手に動けないのである。
(よしよし……そのままじっとしていてくれよ)
リルドは手早くラバースーツを洗浄していく。この部屋はそのための設備が整っていた。
油断なくシェラ姫の様子も逐一確認しつつ、作業を進める。ラバースーツの洗浄を済ませると、ラバースーツはいったん部屋の隅に吊しておいた。
(ふぅ。ここからが本題だ)
リルドは柔らかな布を手に、部屋の中心に経つシェラ姫へと近づく。近付いてきた気配を感じ取ったのだろう。シェラ姫がびくりとその裸の身体を震わせた。
「ルル、いまからお前の身体を洗浄する。無意味な抵抗はしないことだ。身体を清潔に保たなければ、辛い思いをするのはお前自身だからな。被れて地獄の痒みと痛みに死ぬまで侵されるのは嫌だろう?」
シェラ姫もその理屈はわかるのだろう。もしもそうなったとしても、楽に死なせてもらえないであろうことくらいは理解できるはずだ。
そして厳しく拘束されたまま放置された時を経て、シェラ姫にリルドに刃向かおうという気はなくなっていた。
「うぅ……」
「返事はどうした?」
唸るシェラ姫に対し、リルドは容赦なく促す。シェラ姫は観念したように頷いた。
「は、はい……」
「よし。ではまず身体の洗浄を行う。両腕を左右に開き、両足も肩幅以上に開け」
頭では納得しても、すぐに行動に移せるわけではない。すでに色々と見られているとはいえ、うら若き乙女の羞恥心というものはそう容易く消えるものではないからだ。
しかし、リルドの予想よりも素直に、シェラ姫はその身体をゆっくりと開いていった。リルドの想像以上に、拘束した状態での放置は、彼女の反抗心を折っていたのだ。
調教する上では都合のいいことだが、心が折れすぎると今度は修復が困難になる。
リルドは今後はより絶妙な加減を要求されることを感じつつ、ひとまずはこのまま進めることにした。
まずは汗などの老廃物を洗い流すため、通常の水での洗浄を行う。
「水をかけるぞ」
そう声をかけ、用意しておいた桶から汲んだ水を彼女の肩から身体にかけた。
「ひゃあっ! つめ、た……っ」
冷える地下室に用意されていた水は、氷水とまでは行かずとも、普段彼女が水浴びする時のような、ほどよい温度に調整されたものではない。
かけられた冷水は一気に体温を奪い、彼女を寒さに震えさせた。
「我慢しろ。ちゃんとあとで暖めてやる」
どう暖めるのかは言わなかったが、そう言われたシェラ姫が少し安堵するのがリルドに伝わってきた。大人しくリルドに洗われるに任せている。
男性に身体を洗われるということは未経験でも、使用人に身体を洗われることはあった。いまもそうだと考えることで、恥ずかしさを誤魔化しているのだろうとリルドは察する。
(ふむ。良い傾向だ。都合良く解釈して、普通ならば絶対に受け入れないことも受け入れるようになれば、こちらとしても都合が良い)
丹念にシェラ姫の身体を隅々まで洗うリルド。股間に触れようとした時は、さすがにシェラ姫も脚を閉じて抵抗しかけたが、リルドが内ももを平手で叩くと、観念したように身体を広げた姿勢を維持した。
彼女にとっては、羞恥極まる時間だっただろう。
丁寧に全身を洗浄した後、リルドはいったん洗浄のために使用した布を置いた。
そして代わりに、ある薬品とそれを塗り込むための布を持ってくる。
「これから必要な処置を行う。多少むず痒くなると思うが、あの拷問用の薬ではないから安心しろ」
伝えるべきことだけ告げると、リルドはシェラ姫の身体に、その薬品を塗っていった。
背中、脇、そして股間。その三カ所を重点的に、さらに手足にも薄く。
薬を塗った後、数分放置する。
シェラ姫は確かにむず痒く感じていたようだが、前回使われた拷問にも用いられる薬が生み出す痒み比べれば、痒みは弱く、堪えることが十分に可能な水準だった。わずかに身体をくねらせる程度で済んでいたのだ。
だが、その動きが傍から見ているリルドにとっては毒で、艶めかしく誘われているような気分になってしまう。頭を振って、相手はただの奴隷だと念じる。
(いかんいかん……そろそろいいか)
次の作業に移る。新しい布を用意し、シェラ姫の身体に塗りつけた薬を拭き取って行く。
多少力を込めて拭いていくと、その薬の効果は明確に現れた。
元より毛深い方ではなかったシェラ姫だが、王城から脱出してしばらく、きちんとした身体の手入れを行えていなかった。
それゆえ、年齢相応に無駄毛などが生えて来ていたのが、綺麗に拭き取られていた。りるどがシェラ姫に塗りつけた薬は、体毛を除去するためのものだったのである。
(シェラ姫のあそこは……まあ、年齢相応って感じだったな)
いまは無毛となり、ぴっちりと閉じた割れ目が露わになっていた。
リルドが用いた薬は非合法なものではなく、一般的にも使われているものだが、普通は股間には用いない。永久脱毛ではなく、時間が経てば自然と元に戻るが、リルドの目的には十分な効果を発揮する。
首から下に一切毛が生えていない、つるつるとした身体になったシェラ姫。それこそがリルドの目指していた状態だった。
(これで身体の洗浄はよし……といいたいところだが)
今後のことも考え、避けられないことがあった。
その時――ちょうどいいタイミングで、シェラ姫のお腹が大きな音を立てた。
空腹の時に鳴る、腹の虫の音ではない。
その証拠に、シェラ姫の呻きには、羞恥よりも苦しみが勝っていた。
「う、ぁ……っ!」
それは、腸が蠕動する、誰にとっても不穏な、腹を下す音だったのだ。
冷水をかけられ、身体を冷やしたから、だけではない。
先ほどリルドがシェラ姫に呑ませた水。その中に、無味無臭の下剤が含まれていたのである。
目論見通り、リルドはシェラ姫に告げる。
「よし、薬が効いてきたな。ルル。出したくなってきただろう?」
優しいようで、残酷に。
リルドはそれを指摘した。
「体内の洗浄もしないといけないからな。トイレに移動するぞ。ついてこい」
シェラ姫の両手をまとめて片手で掴み、リルドはシェラ姫を排泄部屋に誘導する。
ごろごろと腹部から不穏な音を立てながら、苦しみに呻くシェラ姫はそれについていくしかなかった。
彼女の人としての尊厳は、いま、完全に失われようとしていた。
つづく