奴隷商人リルドが所有する館の地下で、真っ黒な生物が蠢いている。
人間のようにも見えるそれは、頭部から足先に至るまで、真っ黒なラバースーツに覆われていた。
目は分厚い半透明なゴーグルで覆われ、耳も全頭マスクによって塞がれているため、見ることも聴くことも中途半端にしか出来ていない。
鼻の部分には穴が開いているが、とても小さなもので、またラバースーツ自体のゴムの臭いが強いため、まともに匂いを嗅ぐことは出来ていないだろう。
五感の大部分を制限されている上で、身体の自由もまたその大部分を制限されていた。
四つん這いの姿勢を取っているその存在の四肢は、半分に折り畳んだ状態で固定されている。肘と膝で体重を支えなければならない極めて厳しい姿勢だ。
肘と膝には緩衝材兼、蹄のように地面を掴む役割を果たす機構が着いているとはいえ、人間の身体は、肘と膝で支えるようには出来ていない。
その生物はふらふらとよろめきながら進んでいる。その動きは犬のようで、犬よりも不自由で惨めな姿だった。
頭部や胴体には革のベルトで構成された拘束具が取りつけられており、通常でも魅力的であろう彼女の女体を、よりイヤラシく、性的な魅力を強調して彩っている。
頭部には犬の耳を模したと思われる着け耳が装着されており、その生物の存在を犬に寄せていた。
彼女の首には太い首輪が巻かれており、そこに繋げられているリードを牽いているのは、この館の主である奴隷商人のリルドだ。
彼はのろのろと四つん這いで進む女性の横を歩き、彼女がバランスを崩して倒れそうになるのを察すると、完全に体勢が崩れきる前にリードを牽いて倒れないように引き上げてあげていた。
優しさのようにも見えるが、そうすることによって彼女の首は絞まり、呼吸が制限されてしまうことになる。彼女は苦しみに耐えつつ、身体のバランスを取るしかない。そうやって身体で犬としての動きを覚え込ませるのだ。
「ルル、もう少し早く歩け。遅すぎると罰を与えるからな」
横を歩き、ほどよいテンションで彼女の動く方向を指示しつつ、リルドはそう告げる。
すでにいまの拘束具合でも罰の域にあるというのに、さらなる罰を加えられるかもしれないと思ったルルは、慌てて手足の動きを早めていた。
無論、それによってバランスを崩すことが多くなり、リードを通じて首を絞められる回数も増えるのだが、リルドは容赦なく彼女を追い立てる。
ヒトイヌと呼ばれる存在にルルを――シェラ姫を堕とすこと。
それがリルドの目的だからだ。
そして、それは成し遂げられつつあった。
四つん這いで進む彼女の四肢には、大きな負担がかかる。
仮に十分な筋肉量を誇る、剣闘士のような存在が行ったとしても、その負担は絶大であるため、そう長い距離を進むことは出来ない。
ましてや、運動といえばダンス程度でしかなかった彼女が行うにはあまりにも厳しい体勢であり、動きであった。
目的の部屋に着いた時、彼女は苦しげに呼吸をくり返していて、いまにも倒れそうなほど、四肢が震えていた。
彼女のそんな様子を横目で確認しつつ、リルドはその部屋の灯りを付ける。
そこには、ヒトイヌとなった彼女を絶望させる光景が広がっていた。
比較的広い部屋で、調教部屋と同等程度の広さがあった。その部屋は調教部屋と違って物が少なく、道具箱らしき数個の箱以外、床に物が置かれていなかった。
部屋の中央には広い空間が確保され、地面に楕円形の線が引かれていた。それはいわゆるレーンであり、ヒトイヌを歩かせるためのコースである。
この部屋の特徴的なところは、壁際に積まれたものにあった。
無骨な鉄で形作られたそれは、檻と呼ばれるものだった。それも、人が入るための大きなものではない。
サイズは様々なものがあったが、いずれも人間が入ることを想定されているものではなく、捕らえた獣を閉じ込めて置くための檻だ。
いずれの檻も、分厚く冷たい鉄の板を上下にして、腕ならなんとか通る程度の幅で、鉄の棒の格子が組まれており、入り口の扉から以外は脱出出来そうにない。その扉も丈夫な鉄で作られており、外から南京錠で厳重に鍵をかけられる構造をしていた。
仮に何の拘束もない状態で入れられたとしても、とても脱出など不可能と思われる鉄の檻。それが壁際に幾つも積み上げられていた。
そして、その檻の積み上げられた光景が恐ろしいのは、外見だけのことではなかった。
いくつかの檻の中には――すでに先客がいたのである。
いずれも、新たに部屋に入ってきたルルと同様の拘束を施されたヒトイヌたち。
違うのは、彼女達にはラバースーツが着せられておらず、その瑞々しい柔肌を露出しているところが多いというところだ。
ただし、拘束具はルルと同様に装着されていて、頭部に至っては犬の頭部の形を模した全頭マスクが被せられていた。ゆえにルル以上に個性がなくなっており、わずかな体格の違いでしか個々の判別が出来なくなっている。
「……ゥゥ……」
「ウ……アァ……」
全頭マスクの奥からは微かな呻き声だけが聞こえている。口枷の役割も果たしているようで、犬型の全頭マスクの口元からは、糸を引いて涎が零れ落ちていた。
彼女たちはリルドの腰の高さほどしかない檻に押し込められ、その身体の各部に繋げられた鎖で檻の中に吊されていた。
鎖によって吊されることで、四肢への負担は軽減していると思われたが、拘束具が身体に食い込む強さはむしろ強まっている。
わずかに身体を揺するだけでも、全身に食い込む拘束具に翻弄されることになり、自力で身体を支えなければならないのと、どちらが楽かは決められないだろう。
そのヒトイヌたちは檻の中に吊されて放置されており、人の扱いでないことは明らかだ。
実際、彼女たちはルルに対する演出のためだけにこの場に繋がれているのであり、その扱いは極めて不遇であった。
無闇に雑に扱われているわけではないが、ルルを堕とすための装置の一種として使われているのは、不遇という他ないだろう。
しかしその甲斐あってというべきか、彼女たちの姿がルルに与えた衝撃というのは絶大だった。
目も耳もまともに機能していないとはいえ、ぼんやりと周りの様子は見えているし、呻き声も聞こえないわけではない。
ルルが恐れを強めるには十分な効果だった。
それを確認してから、リルドは彼女の傍に膝を突き、間違いなく聞こえるように耳元で囁く。
「今日からしばらく、お前にはここで寝てもらう。あいつらは先輩ということになるな。仲良く……する必要は無いか」
どうせ売れた者からいなくなるのだから、とリルドは呟いた。その言葉に、ルルはびくりと身体を震わせた。
調教の激しさに翻弄されて忘れていたようだが、奴隷商人が奴隷を仕込むというのは、当然売るためだ。
いずれ自分も誰かに売られることになるのだと、絶望を濃くするルル。もちろんリルドに彼女を売る気は無いが、それを彼女が知ることはない。
リルドはそんなルルのリードを檻の一つに繋ぎ、いったん彼女の傍を離れた。
「少しそのままで待っていろ。こいつらに水分補給をしてやらないといけないからな」
そういってリルドは水の入った細いボトルのようなものを手に、彼女たちの入っている檻へと近付く。彼女たちはいずれも四つん這いの姿勢から首を限界まであげた姿勢を保っている。
それは彼女たちの意思ではなく、彼女たちの後頭部に接続された鎖が、肛門に突き刺さったアナルフックに接続されているためだった。
もし彼女たちが首を下げようとすれば、そのアナルフックが彼女たちの肛門を抉り、変形させる。そうなりたくなければ、彼女たちは顔を上げ続けるしかない。
少し苦労しながら格子の隙間に腕を入れたリルドは、そんなヒトイヌたちが開けている口の奥、外側の口と連動して開くようになっている人間の口の中に、水の入ったボトルの先端を突き入れる。
ボトルの中の水が流れ込み、そのヒトイヌは必死になって注がれた水を飲み干していた。
その行動にためらいはなく、犬のよう、という表現が的確な様子で注がれる水を必死に貪っている。
晒された喉が上下に動き、水を嚥下しているのがわかる。
しばらくそうして呑ませた後、リルドは隣のヒトイヌにも同様に水を与えていく。その動きは極めて事務的であり、家畜の世話でもしているようにためらいがない。
そうやって檻に囚われたヒトイヌたちの世話を終えた後、リルドは再びルルの元に戻ってきた。
「お前も呑むか?」
そういって水の入ったボトルをルルの目の前に翳すリルド。
ルルはその提案に、非常に悩ましい思いをしているようだった。
短い距離とは言え、四つん這いの不自由な姿勢で動いたことで、彼女はラバースーツ内に大量の汗を搔いている。
その結果、喉は渇いており、普通に水を提供されたのであれば、躊躇わず呑んでいたことだろう。
しかし、彼女の現状は四肢を拘束され、ほとんどの自由がない状態。さらに、リルドが翳した水の入ったボトルは、いましがた檻に囚われたヒトイヌたちに水を与えたもの。
要は彼女たちの唾液が先端にこびりついており、それで水を呑まされるということは、彼女たちの唾液なども摂取するということになる。
かつての生活において、回し飲みなどという行為をしたことのないルルにとって、それは非常に抵抗のあることだった。
そんな彼女の複雑な思いを察しつつ、リルドはあえてその躊躇いを突いていく。
「これから先、他人の唾液くらい躊躇わず摂取しなければ辛くなるだけだぞ? 心配しなくとも、不健康な奴隷は飼育していないから、安心して飲め」
いずれは他者の精液や排泄物も飲ませることになるのだから、この程度のことで抵抗感を強く持たれてはリルドにとっても困るのだ。
幸い、ルルも調教の結果か、徐々に抵抗感の敷居は下がってきているようだった。あるいは、喉の渇きに耐えかねたのかは定かではないが、恐る恐る口を開き、差し出されたボトルの先端を咥えた。
そんなルルの様子に満足しながら、リルドは水をルルの口内に注いでやる。喉が嚥下し、美味しそうに水を飲んでいた。
彼女の頭を撫でてやりながら、リルドは調教を次の段階へと進めることにする。
「さて、と。いいかげん腕や足が疲れただろう? 少し休ませてやる」
そういって、リルドはほどよい硬さのマットを床に敷いた。ルルを有無を言わさずに抱き上げると、器用に身体を回転させ、そのマットの上に仰向けに寝かせる。
背中がマットに付き、折り畳まれ、短くなった四肢が空を泳ぐ。自然と身体を開くような体勢になってしまっていた。
それに気付き、慌てて膝同士、肘同士を合わせて身体を隠そうとするが、肘と膝の先が重くなっていることもあり、時間と共に徐々に離れて行き、最終的には結局身体を大きく開く状態になってしまった。
すでに全裸どころか排泄する姿まで見られているわけだが、それはそれ。彼女の感じる羞恥に変わりはない。
大股開きになってしまっているのを恥じながら、彼女は呻いていた。
「……ウゥ……ゥゥッ」
口を開きたくなるであろう状態にありながら、人間の言葉を喋ればまた罰が与えられるであろうことをわかっているルルは、必死に堪えていた。
その辺りは学習能力の高い、生真面目な姫らしい良さが出ている。
(奴隷として、本当に申し分ないなぁ……)
リルドはそんな風に考えつつ、彼女の膝に引っかけるようにして、重りを付け加えた。不自然な体勢に重りが加われば、ルルがどんなに頑張っても膝を持ち上げることは出来なくなる。
それは彼女がどれほど頑張っても、足を閉じれなくなったということだ。
「ウ……? ゥッ、ウーッ!」
その事に彼女も気づいたようで、慌てて悲鳴を上げる。わずかに見える口元を引き絞って、足に力を込めているのがわかったが、わずかに持ち上がるだけで、ほとんど膝は持ち上がらない。
十分に自由を奪えたことを確認したのち、リルドは彼女の股間に触れた。
「いッ……ウゥッ!」
思わず「イヤ」と叫びかけたが、すんでのところで踏みとどまった。
そんな彼女のささやかな抵抗を感じつつ、リルドはその股間を覆うラバースーツに存在するジッパーに手をかける。彼女は気づいていなかったようだが、実はラバースーツの股間には脱ぎ着するための背中のジッパーとは別に、もう一つジッパーが存在したのだ。
そのジッパーは股間を縦断しており、つまりそれを開けると。
ラバースーツに閉じ込められていたルルの股間が露わになった。
むわり、と。女の匂いが閉じ込められていたのが解放される。
身体の感覚でその場所の異常に気づいたのか、ルルは目を見開き、身体を起こそうとした。
「ンァッ……ッ、ゥッ!」
しかし彼女は所詮元王女。
無理な動きが出来るほどの筋肉は全体的についておらず、ただわずかに上半身を持ち上げただけで終わった。動かせないように重りが追加された両足については、言うに及ばず。
無防備な身体を開いたまま、ただ無様に身体を震わせることしかできなかった。
リルドはそんな彼女をあざ笑うかのように股間のすぐ傍に膝をついて座ると、そのズボンの中からそそり立つ男性器を取り出した。
「せめて、初めての挿入くらいは生の性器でしてやるよ。温情に感謝しろよ」
実際、雌犬奴隷となった者で、運良く――あるいは悪く、処女だった者は、無骨な器具などで初めてを散らさせることも多かった。ひどい時には、本物の雄犬に犯させることもあるのだ。
そういう意味では、最初の挿入くらい普通の男性器で迎えさせるというのは、奴隷商人としては優しい部類に入るのである。
だがもちろん、事実そうであるとしても、ルルが大人しく享受出来る優しさではなく。
「い……いやあっ! やめ、やめて! それだけはっ、やめてくださいっ!」
そう叫んだのも、仕方の無いことだった。
だが、奴隷商人としてのリルドが、それを看過するはずもない。
「なに? ルル、お前、身も心も主人に捧げると誓ったばかりだろう。それを破ると?」
リルドが奴隷商人として培った、威圧感を与える低い声。
それを叩きつけられたルルは、哀れなほどにびくりと身体を震わせた。
だが実のところ、ルルが拒否反応を示すのはリルドにとって想定の範囲内である。
わざとらしく、考え込む素振りを見せてから口を開く。
「ふむ。そうだな……実のところ、未使用であるということに価値を見出す買い主がいないこともない。範囲は狭まるが。お前が今度こそ俺の言うことに逆らわないと誓うのなら、お前の処女だけは奪わないでおいてやろう」
無論、それが処女を奪われるよりマシな状態になるかといえば、そうではないのだが。
だがルルは、処女を守りたいという思いで、頷くしかない。
「ち、誓います……誓いますから……お願いします……」
ルルは、自ら地獄への道を突き進んでいくことになるのだが、それを彼女が自覚することはない。
リルドは思い通りの展開に仮面の中でほくそ笑みながら、男性器を仕舞う。
「よし。ならば前の穴には手を出さない。あとで貞操帯で封じてしまうことにしよう。……だが、その代わりにもう一つの穴はしっかり仕込まないとな」
もう一つの穴とは当然――肛門のことである。
つづく