ヒトイヌ拘束を施されたシェラ姫――雌犬のルルを四つん這いで歩かせること数十分。
傍で監視していたリルドからすれば短い時間でも、ルルからすれば何時間にも感じる地獄の時間だっただろう。
ただでさえ四肢に負担のかかるヒトイヌ拘束。
だというのに、その時のシェラ姫にはそれに加え、肛門を抉るアナル尻尾が取りつけられていた。
しかもそのアナル尻尾は特殊なフック型の器具によって、後頭部を走るベルトと鎖で繋がれており、彼女が頭を下げようとするとアナル尻尾の張り子が肛門を抉る仕組みになっていた。
結果として、彼女は常に頭を上げ続けなければならず、それは四つん這いの姿勢も相成って極めて苦しい姿勢となった。
その上で、肘と膝で体を支える四つん這いで歩き続けなければならないというのは、その状態に慣れた人間でもかなり厳しいものだ。
もしうっかり転倒でもしようものなら、彼女の肛門はたいへんなことになっていたであろうが、幸いにして転倒することだけは免れた。
しかしその体力は限界まで消耗し、口を大きく開けて涎を垂れ流しながら苦しげな呼吸をくり返し、その目は白目をむきかけ、手足はガクガク震えている、と今にも倒れてしまいそうだった。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ……!」
激しい呼吸を繰り返すルルは、まさしく犬のような様子であり、かつてのシェラ姫を知る者が見ても、ルルがシェラ姫だとは気づけないに違いない。
順調に仕込みが出来ていることを実感しつつ、リルドはそんなルルに近づき、平手でルルが突きだしている尻を叩いた。
「はぅっ!」
ビクン、と体を跳ねさせるルル。
危うくバランスを崩しかけたが、なんとか持ち直した。
「止まって良いぞ。よく頑張ったな」
飴と鞭の方針はいまも続いていた。リルドはルルの頭を片手で優しく撫でてやる。
「ンッ、アッ!」
だがそれを喜べる余裕は、ルルにはなかった。
撫でられるということは、多少なりとも頭が動くということだ。頭が動けば当然それに連動してアナル尻尾も動き、肛門が抉られる。
まだ性感帯となるほどにその場所を開発されていないルルにとって、抉る動きは純粋な苦しみや痛みとなり、枯れ果てたはずの涙がまた零れだした。
そのことに気づいたリルドは、内心冷や汗を流しつつ、ある程度のところで撫でていた手を離す。
手が離れた時、ルルはほっと安堵していた。
そんな彼女の様子に、リルドも安堵する。
(ふぅ……あぶないあぶない。そうだった。本気で尻穴を開発するわけにはいかないんだから……)
リルドが最も気をつけなければならないのは、一時的な処置のつもりで、シェラ姫の性癖を永久に歪めてしまうことだ。
もし本気で彼女を性奴隷にする気ならば、後ろの穴でも快感が得られるよう、張り子を入れる際の潤滑油に媚薬を選択していただろう。
性奴隷の基本は、痛みや苦しみの中でも快楽を見出すようにするもので、「ひどいことをされているのに気持ちよくなってしまう」という誤認をさせるためには、媚薬は手っ取り早く確実な手段なのだから。
その手段を取っていないため、ルルは肛門に異物が挿入されることを純粋に気持ち悪く、苦しく感じている。
その状態で動くこと自体には慣れてもらわなければ困るのだが、気持ちよくまでなられては彼女のこれからの生活に支障をきたしかねない。
特に後ろの穴は日常的に排泄に用いるものだ。排泄する度に気持ちよくなるようになったら、まともな生活はできないだろう。
(インディーの例もあるから、切り替えられればいいんだが……)
彼の腹心であるインディーは、元々は性奴隷として仕込むために仕入れた女性だった。
だが調教する過程で想定以上のポテンシャルを見せたため、急遽予定を変更し、腹心の部下として扱うことにしたのだ。
彼女自身が高い適性を持っているためか、インディーは調教する女性にそういった性癖を開花させることに長けている。
彼女の手にかかれば慎ましく育てられた貴族の令嬢も、瞬く間に快楽に溺れ、股間を主に向けて差しだし、自然と性奴隷へと身を堕とすようになるのだ。
そんな彼女はリルドの部下としてとても優秀である。大抵の雑務は手早くこなしてしまう彼女。
だが同時に性に奔放であり、時間が空けば自ら調教した女の子と愛し合うのを何よりも楽しんでもいる。
(あいつは希有な例だしなぁ……)
インディーのように切り替えが出来るのであれば、ルルもそのようにすればいいのだが、性癖は一度開花してしまったら止められない。
そういったものに開眼してしまって戻れなくなった場合、「シェラ姫に普通に暮らして欲しい」というリルドの目論見は崩れ去ることになる。
ゆえにリルドとしては、開発してしまわないよう、最新の注意を払ってルルを躾けなければならないのである。
それは単純に性奴隷に調教するより、よほど難しいことだった。
(習慣って怖いな……頼むから、歪まないでいてくれよ……)
本人が聞いたなら、理不尽さに憤慨しかねないことを内心呟きつつ、リルドはルルの後頭部とアナル尻尾を接続していた鎖を、アナル尻尾側の接続を切り離す。
後頭部と肛門にかかっていたテンションが緩み、ホッとした様子で首を下げかけたルル。
それを、リルドは後頭部に接続されたままの鎖を引くことで無情にも引き留める。
「ンギッ!?」
ようやく頭を下げられると思っていただろうルルは、再び顔を強制的に上げられる形になり、苦しみに大粒の涙を流す。
「誰が下げていいと言った? その姿勢が雌犬の基本だ。慣れておかないと後が辛いぞ」
言いながら鎖の反対側を、ルルの体を絞り出しているベルトの一つに繋いだ。
先ほどまでと違って肛門が抉られることはないが、首を上げ続けなければならないことに変わりはない。
むしろ、肛門なら――拡張されるというリスクはあったが――ある程度遊びがあったところ、体に食い込むベルトにはわずかな遊びもないため、無理やり下げる事も出来ない。
苦しみはより激しく、同じ姿勢を強制される痛みもまたより激しい。
呻きながら堪えるルルであったが、その状態で先ほどのように歩くのは全く無理だと思われた。
リルドもその状態で長々と歩かせるつもりはない。
首輪にリードを繋ぎ、転ばせないように注意しながら、壁際の檻の前へと連れて行った。
「今日からしばらくここがお前の家だ。狭いがどうせ体を動かすことはできないから安心しろ」
言いつつ、リルドはルルを檻に入れる前に、リードを短くして檻の格子に巻きつける。
ルルの頭は格子の間に頭を突っ込むような状態で固定され、まともに動かすことはできなくなる。
その状態で、リルドはまず片脚の拘束を解いた。彼女をヒトイヌたらしめていた拘束の一つが解け、片脚だけがまっすぐ伸ばせるようになる。
ラバースーツに包まれた彼女の足は魅力的だったが、リルドは色香に惑わされず、慎重に足の付け根から先端にかけてを摩り、撫で、強張っていた筋肉をほぐしていく。
「は、ふぅっ……ッ! ……うぅ」
久々に足を伸ばすことの出来る悦びと開放感に、シェラ姫の口から熱い吐息が零れた。あまりに気の抜けた声になってしまったため、彼女はすぐに恥じて口を噤んだ。
そんな彼女の行動を可愛いと感じつつ、リルドは淡々と、しっかり彼女の足をもみほぐす。ずっと固めていて血行が悪くならないよう、必要な処置だった。
同時に、開放感をわざと与えることで、拘束に慣れすぎさせない目的もあった。拘束した状態で動くことにある程度は慣れて貰わないと困るが、慣れすぎさせても良くない。
リルドはつくづく困難な道を選んでしまったと内心思いつつ、手は止めなかった。
彼女の四肢を順番に拘束を解いては揉みほぐし、十分にもみほぐせたら元のように拘束して、次の手足に、という流れでルルの手足を順番にもみほぐしていった。
やがてすべての手足のマッサージが終わると、ルルはずいぶん楽になっていた。再び拘束されてしまったが、手足の先端まで感覚がしっかりと戻っている。
とはいえ、彼女の体を覆うラバースーツはそのままであったし、肛門にさし込まれたままのアナル尻尾は変わらず彼女に違和感を与えている。
そしてなにより、頭を上げ続けなければならないようにテンションのかかった鎖はそのままなのである。
手足はマッサージによって楽になったが、折れそうなほど反らされた背筋はそのままで、苦しい状況に変わりは無い。
「さあ、檻に入れ――頭からじゃない。尻からだ」
「ウゥ……」
リルドはルルを追いやるように、檻の中へと押し込んでいく。
檻の大きさはルルが四つん這いになって、ギリギリ入れる程度のもので、ほとんど体の自由はない。
そんな彼女の状態を見ながら、檻の入り口を閉めるリルド。そして、一端その檻全体を、ルルを入れたまま手前に引き出した。元からそういった機構が組み込まれていたようで、車輪が床の溝に合わせて転がるようになっていた。
「ひっ!?」
檻が自分事動いたことに驚愕するルル。何をされるのか不安になっているのが、傍から見てもわかる。
そんなルルに構わず、リルドは幾つもの短い鎖を取り出して来て、それらをもってルルの体を檻の中に拘束していった。体の各部を縛り上げる拘束具が金具の役割を果たし、ルルの体を吊り下げるようにして檻の中で固定していた。
胴体や頭部を檻の天板から吊り下げられることで、自由こそないが、地面に接している四肢への負担はほぼゼロになる。
それがそこに連れて凝られたヒトイヌたちの基本就寝姿勢なのだ。標本のように空中に張り付けられてしまったヒトイヌに自由はなく、ただ微かに四肢を揺らすことしかできない。
檻を再び押し込めば、ルルは他のヒトイヌたちと同様に、飾られた調度品のように、異様な部屋の一部となった。
「よし、これでいい。最初は寝れないかもしれないが、無理にでも寝ないと明日以降もっと辛くなるからな。覚悟しておけ。それと……」
リルドは不安げにしているルルの口に、穴の開いたボール状の開口具を噛ませる。
「ングッ、ンッ……ウゥ……ッ」
思わず口を開けてしまったルルは、ボールギャグをしっかりと咥え込んでしまった。
すかさず、リルドはボールギャグをルルの頭部を縛るベルトに固定し、外せなくする。
その上でボールギャグの穴に管を接続し、彼女の口内に流動食を流し込んだ。
「ングッ!? グッッ、ウぐゥッ!」
ただしそれは精液の臭いがする特別製だった。
そんなものを口内に流し込まれたルルは溜まらず小さく咳き込むが、ボールギャグによって塞がれた口から吐き出すことは出来ず、鼻から逆流したものが垂れてしまう。
情けない姿であることを自覚しつつ、ルルは流し込まれたものを必死に飲み込んだ。
最初こそ噎せてしまったものの、一度精液の味や臭いをさせた液体を飲まされていたためか、それ以上拒絶反応を示すことはなく、最後まで飲み干すことが出来た。
栄養がたっぷり詰まったその流動食は、彼女の消耗した体力を回復させるだろう。
リルドは流動食を全て飲ませ終えると、管を外し、檻の格子越しにルルの頭を撫でてやった。
「ではまた明日。眠れるといいな」
そう言葉では優しく告げつつ、難しいであろうことは彼が一番よくわかっている。
睡眠不足になることも折り込みずみであり、それによって彼女の正常な判断能力を鈍らせることを目的としていた。
明日からはより能動的に奉仕する訓練を積ませる予定なのだ。
リルドは部屋の灯りを落とし、ルルを暗闇に残したまま、部屋を去る。
扉を閉める寸前振り返った暗闇の部屋の中で、ヒトイヌたちが微かに呻く声が響いていた。
ルルの前から離れたことで、リルドは一つ息を吐く。
ひとまず彼女の調教に関しては順調に進んでいた。だが、まだ安心は出来ない。
万が一にでもルルがシェラ姫であるということを悟られてはならないのだから、より彼女にはヒトイヌらしい振る舞いを覚えてもらい、完全な性奴隷として見られるようにしなければならない。
ゆえに明日からの調教はヒトイヌとしての動きだけでなく――人に奉仕することを主体としたものになるのだ。
つづく