ルルを檻の中に拘束していた鎖を取り外し、檻の扉を開く。
彼女は一瞬檻の外に出るのを躊躇ったが、下手な抵抗はかえって酷いことをされることになると悟ったのか、恐る恐る檻の外に自ら出てきた。
そんな彼女の様子を見ながら、リルドは仮面の奥でほくそ笑む。
(よしよし、いい傾向だ。この調子でいまの状況を受け入れるようになれば、偽装は十分なものになるだろう)
リルドは自ら檻の外に出てきた彼女を褒めてやる。
「いいぞ。素直に言うことを聞くのであれば、何も問題はない。言うことを聞かないのであれば、それ相応の対応をするだけだからな」
その言葉に、ルルが身を竦ませるのを、リルドはきちんと確認していた。
あくまで『ひどいことをされるのを避けるために』言うことを聴いているのだと、ハッキリと認識させておく必要があるのだ。
ゆえに他のヒトイヌに行うような『ご褒美』は必要最低限にしなければならない。
下手にご褒美を与えて快楽に心が侵されてしまっては、リルドの目的は果たせなくなる。
(だがいまのところは目論見通りに進んでいる……この調子で慎重に進めないとな)
檻から出てきたルルの体を、リルドは触りながら異常がないか確認した。
夜間ずっと檻の中で吊るされていたため、体の各部がかなり強張っている。本人は身体中が軋んでいるような、辛い感覚のうちにあるだろう。
そんな彼女は、リルドの手が体に触れる度に、びくんと体を震わせ、目をぎゅっと瞑って接触に耐えているようだった。
いまだ淑女としての羞恥心が完全に消え去っていない証拠だった。
それ自体は良いことだが、触れられることには慣れて貰わなければ、シェラ姫ではないと誤認されるようにはならないだろう。
主人との接触を嫌がるヒトイヌなど、そういるものではない。
無論、先方の要望によっては、あえて調教を中途半端に仕上げて、嫌がったり恥ずかしがったりする様子を楽しもうという趣向も全くないわけではなかった。
だが、ルルに関してはそういう仕込みだと疑いを持たれ、彼女がシェラ姫だということを最悪知られてしまう可能性がある。疑いを持たれた時点でアウトなのだ。
(心は完全な犬に堕とさず、しかし完全な犬のように振る舞わせる……なかなか難題だ)
リルドは二日目の調教を前にして、難しいことをやろうとしていることを改めて自覚し、気合いを入れ直す。
一通りルルの体の確認を終えたリルドは、さっそくルルの調教を始めることにする。
まずは食事の時間である。
リルドはルルに噛ませていたボールギャグを取り外す。ずっと開かされていた彼女の口は乾いており、乾いた皮膚の一部が張り付いていたほどだ。それを水を含ませた脱脂綿で濡らしつつ、血が出たり傷つけたりしないようにゆっくりと取り外す。
「ウゥ……けほっ、こほっ」
口の中が乾いて苦しいのか、ルルが小さく咳き込む。リルドはそんな彼女の前に、底の浅い皿に水を注いで置いてやった。
彼女が待望していたであろう水だが、そこに注がれていたのは普通の水ではなかった。
それは――どろりとした粘性のある、白い液体だったのだ。
生臭い臭いを漂わせるその白い液体は、男性が放つ白濁液を模して作られたものだった。
味や臭いを再現しており、栄養が豊富で非常に優れた飲料である。本物を用意するのは大変だし、量を用意するのも難しいが、この液体ならば大量に作れるというのも都合のいい点だった。
(どうしても精液がダメだった奴を精液に慣れさせるための、最終手段として使ったなぁ)
樽一杯に満たしたこの液体の中に漬け込んだのだ。排泄するとき以外、三日三晩その中に漬け込んだ結果として、その奴隷は精液狂いになってしまった。
それはそれで評価を受け、好事家に買われ、大事にされているようだから、結果としては悪くない話に終わったのだが。
ルルに対してそこまでするつもりはなかったが、精液に慣れさせるためにその液体は非常に都合が良かった。
リルドはその餌皿の縁を指で叩き、ルルに液体を飲むように促す。
聴覚を奪う耳当てをしているいまのルルに言葉での命令は通じないので、仕草で示したのだ。半透明のゴーグル越しにも、その液体が精液に酷似してるというのはわかったのだろう。鼻を塞がれているわけではないため、精液を模した強烈な臭いは感じ取っているはずだった。
ためらいを見せていたものの、リルドが動かずにじっと待っていると、観念したように顔を餌皿へと寄せた。
彼女が底の浅い皿に注がれた液体を、直に舐めるなどという行為はしたことがあるはずもない。惨めな自分を自覚しつつ、震える舌先をゆっくりと餌皿へと伸ばす。
まさに犬がそうするように、舌で粘性のある液体を絡めとり、口の中へと運んだ。味も精液を再現しているため、非常に渋い顔をする。だが乾ききった喉を潤すためには、それを舐め取るしかない。
必死になって白い液体を舐め続けるルル。早く終わらせようと必死になっているのが、リルドにも伝わってきた。
「ウゥッ、けほっ、うぇ……ウゥ……ごほっ」
どうしても顔を突っ込まざるを得ないので、鼻の頭や目を覆うゴーグルが白い液体に塗れる。鼻に直接精液の臭いがこびりつき、強烈に感じてしまうのか、ルルは何度も小さく咳き込んでいた。
必死な彼女の様子を眺めつつ、ようやく白い液体がほぼ飲み切られる。ほっとルルが安堵している雰囲気を捉えつつ、リルドは空いたばかりの餌皿に今度は餌を盛り付けた。
細かく砕いた茶色の肉団子は、見ようによっては排泄物にも見える。それが残っていた白い液体と混ざり合って、なんとも形容しがたい、人間が好き好んで食べることはない物質へと変わっていた。
それを目にしてしまったルルは、体を硬直させてそれを見やる。恐る恐るといった調子でリルドの顔を窺ってきたので、リルドはわざとらしく、わかりやすく大きく頷いてみせた。
聡いルルはそれだけで食べろと言われているのを理解したらしく、またゆっくりと餌皿に顔を近づけていった。そして、ひとつひとつゆっくりと口の中に餌を入れていく。
その動きは亀のように鈍重だった。
嫌悪感を堪えながらのことだということはリルドにもわかっていたが、それでもその動きは遅すぎて、そのペースで食べ続けては時間がかかりすぎる。
(あまり急かしたくはないが……)
時間をかけすぎると、彼女の準備が整う前に他のヒトイヌたちが戻ってきてしまう。
リルドはルルの真横に回り込む。視覚や聴覚が制限され、かつ食べることに必死なルルは、彼の動きを認識できていなかった。
そんな彼女が突き出しているお尻を、リルドは手のひらで軽く叩く。ラバースーツに包まれ、胴体を縛るハーネスが体を絞り出しているためか、ラバースーツだけの時よりも遥かにいい張りの音が響く。
「ングッ! ゲホッ、ゴホッ!」
叩かれた拍子に妙なところに食べていたものが入ってしまったらしく、盛大に咳き込むルル。そんな彼女の様子を見ながら、リルドは彼女のお尻に手を置いて、軽く揉みしだいた。
「ンッ、や、やめ……っ、ひゃうっ!」
思わず声をあげようとしたルルのお尻を、リルドは再度叩く。人の言葉を使った罰も含め、今度は少し強く。
リルドは手を伸ばして、餌皿の縁を指先で叩いた。さっさと食べろ、という意図の動きだ。それを察したらしいルルは、リルドの手が触れているお尻を気にする素振りを見せつつも、大人しく、急いで餌を食べ始めた。
彼女にできる限り大きく口を開け、なるべく多くの餌を口の中に入れる。
「はフッ、んっ、はぐっ、うぅ……」
順調に食べ進めるルル。その食べる姿は荒い呼吸も相成って、完全に犬のそれだった。
彼女の人としての尊厳はどんどん剥げ落ちて行っている。
(なんだかんだ、素直で従順だし、本気で犬に堕とそうと思えば、めちゃくちゃ楽に堕ちてくれるタイプだよなぁ……)
リルドはルルのお尻に手を当てたまま、時々軽く力を入れてお尻の肉を揉みながらそう考えていた。そのリルドの手つきが嫌なのか、ルルは必死に食事をしている。
より嫌なことから逃れるために嫌なことを受け入れてしまうタイプは堕としやすい、というのがリルドの経験則だ。
罰をちらつかせ、ある程度その行動に慣れさせた後で、今度はその行動をすることで気持ちよくなるようにすればいいのだ。
そうすれば、行動に慣れてしまっている対象は嫌なことをされるよりは、と行動にためらいがよりなくなっていき、最終的には自分からそれを求めるようにすらなる。
逆に堕としにくいのは、自尊心が無駄なまでに高く、死んでも嫌なことは絶対にしない、と拒否するタイプだ。自分のことを選ばれた特別な存在だと勘違いした貴族の令嬢に多い。
そういう者を堕とすには荒っぽい手段を使わなければならない場合も多く、シェラ姫がそういうタイプでないことはリルドにとっても、彼女自身にとっても幸運なことだった。
(シェラ姫が自尊心が極端に高い可能性もあったもんなぁ。そうでなくてよかったというか、それでこその彼女だというべきか……)
リルドはとりとめもないことを考える。
そうしているうちに、食べられる範囲のものは全て食べ終わったルルが顔をあげた。
「ウ……わ、わん……」
お尻に置かれた手がどうしても気になるのだろう。ルルは下手な犬の鳴き真似までして、リルドに食べ終わったことを伝える。
リルドは残念に思いつつ、最後にもう一揉みしてルルのお尻から手を離した。
彼女のお尻はとても柔らかく、ラバースーツと拘束のおかげで張りも増していて、ずっと触っていたくなるほどの魅力に満ちていた。
残念に思うリルドとは対照的に、ルルは手が離れたことに露骨に安堵の気配を滲ませる。
(尻を触られる程度で、そんな風に感じていたら、とても保たないんだけどな……まあ、いいか)
慣れないなら、慣れさせればいいのである。
人間というものはどれほど嫌がっても、何度も同じ刺激を与えられれば慣れてしまうものだから。
リルドはじっくりと調教を進めるつもりで、この場では何もしないことにする。
ルルの首輪を掴み、動きを封じてから、液体や餌でどろどろに汚れた口元を柔らかい布で拭いてやる。幼子のような扱いをルルは嫌がったが、口周りが汚れているのも問題だと思ったのか、比較的大人しくされるがままになっていた。
彼女の顔を綺麗にした後、リルドは彼女の耳当てを少し浮かし、そこに囁きかける。
「いいかルル。よく聞け。これからお前の先輩たちが戻ってくる。そしたら今日の躾を始めるぞ。そいつらの動きをよく見て、そいつらと同じように行動するんだ。ためらったり遅れたりしたら容赦なく罰を与えるから、しっかりやれよ。……ああ、あと言うまでもないが、人の言葉は喋るなよ。ヒトイヌの中には、元はそれなりにいい身分にいた奴もいる。王族を殺したいと思う奴もいるからな?」
実際、そういう考えをしていた者がいるのは事実だった。万が一にも共謀して逃げようとすると面倒になるので、リルドはルルをそう脅しつけておく。
ルルは体を震わせ、素直に頷く。彼女は王族の、主に彼女の両親の暴走に心を痛めていた人間であるが、それゆえに自分たち王族がどれだけ憎まれているかも理解しているのだ。
実際、革命が成立するほど憎悪が集まっていたのだから。
基本的にルルから目を離すつもりはないとはいえ、念のための布石を打ち終えたリルドは、耳当てを元に戻す。
そして、ひとまずそれぞれの存在に慣れるまでは完全に言葉を奪っておくため、口枷を取りだした。今度装着する口枷はボールギャグではなく、彼女の口を完全に塞いでしまうタイプのものだった。
口を割り開くように、その口枷をルルに噛ませる。
「ングっ、ム、ムぅッ、ウゥ……ッ」
顎が外れそうなほど大きな口枷を?まされ、呻くルル。
その口枷は彼女の口を開いた状態で固定する部分が非常に大きく、顎が外れそうなほどに大口を開けなければ咥え込むことが出来ず、ルルは涙目になっていた。
口枷はルルの頭部を拘束するベルトに接続され、ルルがどれほど頑張っても外せなくなる。
「この口枷も、結構希少なものなんだからな」
少しでも確実にルルの調教を行うために、色々な道具を用意しておいたのだ。
リルドはそう思いつつ、ルルに噛ませた口枷の、中央の部分を取り外した。
するとルルの口は大きく開かされたまま、口枷の中央が空洞になって、彼女の喉奥を無防備に晒させられる。
それはまるで、彼女の口が排水溝の穴になってしまったかのように見えた。
つづく