奴隷商人リルドは、ギルバストックから元王女付き女騎士アーリアを提供された。
リルドが彼女についての調教の方針を固め、元々の目的である『シェラ姫を生きて国外へと逃亡させる』ことを実現すべく、改めて決意を固めていた頃。
シェラ姫本人は地下の調教室に、他のヒトイヌと共にいた。
彼女には徹底的なまでのヒトイヌ拘束が施されており、人間だった頃の面影は全くない。
その全身は余すところなく黒い光沢に輝くラバースーツに覆われている。頭も全頭マスクによって覆われているため、素肌が露出しているのは口元、唇とその周りくらいのものだ。
手足は折り畳んだ状態で動かせないよう、肘や膝にクッションがついた袋状の枷で固定されている。四つん這いで歩くことを強制するための拘束具だ。
それだけでも十分なほどの拘束だったが、彼女の身体には他にも五感の自由を奪うものが取りつけられていた。
耳を押さえるように固定されている耳当ては、聴覚を完全に奪っている。彼女は身体越しに聞こえる微かな音しか感じられない。
目にはゴーグルのようなかけられており、レンズ越しに視界は確保されているとはいえ、レンズはかなり分厚く、彼女の視界は若干ぼやけて見えている。
鼻は栓こそされていなかったが、全頭マスクが覆っていて、そのマスクの臭いが強烈なため、ほぼ周りの臭いはわからない。
彼女の口には中央に穴の開いた口枷が嵌められており、身体や五感の自由だけではなく、発声すらも奪われている。
さらに肛門にも尻尾飾り付きの栓が突き刺さっており、自由に排泄することもできない。
「ウゥ……」
微かに呻くことくらいは出来るが、それが何になるというのか。
シェラ姫は――雌犬ルルは、調教者がいなくなった部屋で、弱々しく呻く。
ほんの数日前までは、ムトゥ王国の王城で何不自由ない暮らしをしていたというのに、いまや自由という自由を奪われていた。
王や王妃の暴走を目の当たりにしていた彼女には、いつか民の怒りが爆発する予感があった。ゆえに、革命が起きてしまったこと自体は意外でもなんでもなく、いざと言うときは自身の命を差し出す覚悟もあった。
だが、そんな彼女にも現状は全く予想することができず、悪い夢でも見ているかのようだった。
寝不足の頭やはっきりしない視界も相成って、現実感がないのだ。
それは奴隷商人リルドの狙い通りの形であった。
調教する者がいなくなり、静かになった調教部屋で彼女は呆然としていた。
その目が、床に固定されている男性器を模した張り子を捉える。
先ほどその張り子を喉の奥へと受け入れていたということが信じられない。明らかにその張り子は太く、大きく。咥え込むだけでも苦労しそうだというのに。
自分が今後どういった目にあわされるのか。性的な行為の経験がほぼない彼女には、想像することもできなかった。
彼女の胸中に今後への不安ばかりが広がっていく中、視界に肌色の何かが入り込んでくる。
「ウーッ?」
驚き、その『何か』に意識を向けたルルが見たのは、自分と同じように四つん這いに拘束された、年若い女性の姿だった。
四肢こそルルと同じような拘束具によって固定されているものの、それ以外は大きく異なっている。
目を覆うゴーグルも、口枷も、耳当てもされていないその先輩のヒトイヌ――ファーファは、ほぼ裸に等しかった。
ラバースーツで全身を覆われているルルと違い、目映いばかりに白い肌を惜しげも無く露出している。隠すものもなく露わになっている乳房の先では、綺麗なピンク色の乳首がつんと尖っていた。
女性同士とはいえ、あられもない格好であるのは事実。特にルルは同性とも裸で向き合う機会がなかったため、見るのも見られるのも恥ずかしかった。
一方、そのヒトイヌは恥ずかしがる様子などなく、自然な調子で四つん這いを維持して、ルルに近付いていた。微かに首を傾げ、ルルのことを観察している様子でもある。
ルルがファーファに見られることを恥ずかしく思うのは、ルルは先ほど彼女と交尾の真似事を行ったことも関係していた。ヒトイヌ同士の交流に慣れているファーファは、それを行ったことでルルを仲間として認識するようになっていたが、ルルからすればむしろ恥ずかしさが増大することでしかない。
ルルはそんな彼女に真正面から見られることに耐えられず、後退しようとした。
だが、咄嗟に上手く身体を動かせず、尻餅をつくように腰を落としてしまう。
「ウッ……!」
その際、彼女の肛門に嵌められている尻尾飾りのついた栓が押され、彼女の体内に圧迫感を与えた。泡を食って四つん這いの姿勢に戻ったルル。
その間にファーファがさらに距離を詰めていた。
「わぅ……うー、わぅ」
怯えるルルを宥めようとしてか、ファーファが頭をルルの肩口に擦りつける。
良く手入れされたファーファの頭髪が、ルルに触れていた。ラバースーツで覆われているため、細かな感覚までは伝わらなかったが、ファーファの体温はルルに伝わっていた。
人肌のぬくもり、というものは人を安心させる大きな要素のひとつである。
異常な状況に立たされ、混乱と困惑が色濃いルルにとっても、それは変わらない。その相手のファーファが、敵意も警戒もなく、ただ純粋にルルを気遣って身体をすり寄せていることも大きかった。
少し緊張が緩み、ファーファの行動を受け入れる余裕が生まれたルル。逃げようという動きがなくなり、ファーファの擦り寄りを受けとめていた。
そのルルの頬を、ファーファが舐める。ヒトイヌとしての親愛の表現だった。もしもルルがそれを感知出来ていたとしたら、思わず逃げていたかもしれない。
だが、全身を覆うラバースーツが、この場合はいいように働いた。ファーファが頬に触れたことは感じたものの、舌で舐められたことまでは伝わらなかったのだ。
ラバースーツはムトゥ王国では珍しい類のアイテムであるため、ファーファがその感覚を理解できないのは無理もなかった。
ゆえに、ルルが自身を受け入れたとファーファが勘違いするのも無理はなかった。
新入りであるルルに遠慮していたファーファが、大胆に動き出す。
つづく