※繋がれたふたりのリメイク版です。登場人物・設定・シチュエーションなど大幅に変更していますので、ほぼ別物と言っていいかもですが……ーwー;
※序章は全体公開にしています。
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繋がれたふたりは。序
目を覚ますと、そこは広いトイレだった。
スペースが大きく取られたトイレであることと、置いてあるトイレの感じ。それに手すりなどが充実していることから、障害者用のトイレであるようだ。
幸い清掃が行き届いている場所のトイレのようで、汚い感じや臭い感じはしない。床も壁もぴかぴかに磨き上げられている。
床に座らされているみたいだったから、綺麗なトイレで良かった。
それにしてもなぜトイレで目を覚ましたのか。記憶を探る。
(えっと……確か大学の帰りで……)
私は妙に重い頭の痛みを感じながら、状況を把握しようとする。
その途中、私は自分が裸なことに気付いて、思わず悲鳴をあげた――正確にはあげようとした。
だけど悲鳴は上げられなかった。
「ン、グッ!? ンンーッ!?」
私の口は何かでがっちり固定されていて、開くことができなかったからだ。
思わず手で何が覆っているのかを確認しようとして、その手も分厚い革の手袋で覆われていることを知る。
鍋掴みのような、親指だけが独立している手袋で、指先での細かい作業は出来そうにない。しかもただの手袋ではなく、手首の辺りで金属製のバックルが締め付けていて、勝手に脱げないようにされていた。
(なにこれ、なにこれ!? 誘拐されたの!? 監禁? え? でもここトイレよね?)
革の手袋は鍵か何かが必要なのか、どう頑張っても外すことが出来そうになかったので、仕方なくその手袋をしたままの手で身体を隠す。
自分の身体を見下ろせば、一糸まとわぬ胴体に対し、両足にも革のブーツが履かされていた。かなりヒールが高い。しかもブーツは膝くらいまであって、膝を動かそうとするとギシギシと音が鳴るほど硬かった。
(こ、こんなので歩けるの……?)
とても安定した体勢にはなれそうにない。ふらふら歩くのが精一杯だろう。
とにかく周りの状況をしっかり把握しようと、トイレの中を見渡し――私は『その人』の存在に気付いた。
私の隣の壁にもたれかかるようにして、私と同じよう座らせられた女性がいた。
そしてその彼女も――私と同じく、まともな姿をしていなかった。
手足は私と同じで、手首まで革の手袋が、膝までを革のブーツが覆っている。
胴体も私と同じで、下着も何も身に付けていない、あられもない姿。
首には太い金属製の首輪のようなものが巻き付けられていた。そしてどうやらそれは私の方も同じようだ。首が重くて動かしづらい。
唯一違うのは、私が口を塞がれているのに対し、彼女が塞がれているのは目だということだろうか。細いゴーグルのようなものが彼女の目を覆っているのだけど、それはゴーグルというには、レンズの部分があまりにも不透明な素材で出来ていた。
サングラスとかブラックミラーというレベルの話ではなく、私の口を覆っているような革で出来た目隠しが、彼女の目を完全に覆っていた。
目を覚ましているのかいないかもわからないけど、力無く首を傾けているので、寝ているように見える。
そして最大の問題は別にあった。
(こ、この人……だれ……?)
目が見えないとはいえ、口元は見えているし、顔全体の様子や髪型なんかで知り合いかどうかくらいはわかる。
その限られた要素から察するに、その彼女は私の知り合いではなかった。
一度か二度擦れ違った程度ならわからないけど、面と向かって会話したことはまずない相手だと断言出来る。
つまり私はいま、知らない人と一緒に、とんでもない格好でトイレに放置されているということになる。
同性とはいえ、意識がない彼女はその身体を無造作にさらけ出してしまっており、見るのも気の毒に思えて、目を反らす。
反らしたついでに、トイレのドアを確認し、鍵がしまっていることを確かめた。
(ひとまず誰かが入ってくることはなさそう……彼女には起きてもらいたいけど……)
その時、予想だにしないことが起こった。
突然、身体の中で小刻みな震動が発生したのだ。
思わずびくんと背筋を伸ばしてしまう。その震動は私の身体の中から発生していた。
(な、なにこれ……! 変な、ところで……動いてるぅ……!)
ぞわぞわする感覚。
その震動の出所は、信じられないことにお尻の穴の中だった。寝ている間に入れられていたようだ。前の穴じゃなかったことに安堵すればいいのか、それとも恐怖すればいいのか。
前の穴にはいまのところ異変は感じなかったけど、何かされていない保証もない。とんでもないことをされている可能性もあった。それを考えると、恐怖を感じるしかない。
それはそれとして、後ろの穴に対する刺激も相当なものだ。
(ンンッ、いやぁ……っ!)
お腹の中で何かが動いているという、違和感と嫌悪感に顔を歪める。
「んっ、ッっ、あっ!? な、なにっ!? なんなの!?」
突然横で声があがって、私は焦る。
どうやら、眠っていた彼女も同じようなことをされていたようで、文字通り飛び起きたのだろう。
さらに彼女は目を塞がれている。状況も何もわからないのだから、混乱するのもわかる。
大騒ぎするのも無理はなかったけど、それはまずい。
(騒いだら、外に聞こえちゃう……!)
助けてもらえるならそれでもいい気はするけど、こんなあられのない姿を見られるのは嫌だ。
私はとにかく叫ぶのを止めてもらおうと、その口を手で塞いだ。
しかし見えない彼女には状況がわからないのだろう。急に飛びつかれて、さらに悲鳴をあげる。
「ンンンーッ!? ンゥ-ッ!」
力の限り暴れるものだから、こっちも抑えるのに全力を出さないといけなかった。
幸い、眼が見えていない分、彼女はどこにどう力を込めたらいいのかわからなかったのが良かった。じゃなければ止められなかっただろう。
「ンッ、ンンンッ、ムゥーッ!」
声が出せたらいいのだけど、私の口は塞がれている。明瞭な言葉にならない呻き声で理解して欲しいというのは、あまりに無理な話だった。
くんずほぐれつして、互いに体が触れあう。汗ばんだ身体が触れ合って変な感じだった。
けれど暫くそうしていたら、彼女の方も何かおかしいということに気付いたのか、ゆっくりと抵抗を弱めていった。
大暴れしている間に、お尻の中のものが止まってくれたのも大きい。
私は鼻呼吸しかできないから、乱れた呼吸を必死に整えながら、彼女の口からゆっくりと手を離す。
「ぷはっ……だ、誰なの……? なんでわたし裸なの……?」
そんなのはこっちが聞きたい。
「ンンンン……ッ」
なんとか少しでも声を出せないものか、少しでも口を開こうとしてみるけど、口を塞ぐものは私の口をがっちりと固定してしまっていた。
そうしようとしている努力を、彼女もわかってくれたようで。
「……? もしかして……喋れないの……?」
そう察してくれた。なかなか勘が良い。
「んッ!」
私がそう一声上げると、彼女は少し考えて言ってきた。
「……それなら……肯定は一回、否定は二回わたしの肩を叩いてくれる?」
頭の回転の速い人だ。私は手袋に覆われた手を彼女の左肩に伸ばし、軽く一度叩いた。
もちろん肯定。
「んッ!」
「あなたはわたしたちの状況について理解してる?」
否定。
「目がみえないんだけど、あなたは見えてるのよね?」
肯定。
「じゃあ、私の目隠しは外せそう?」
言われて、改めて確認してみる。がっちり固定されていてずらしたりすることも出来そうにない。外そうにも鍵が必要そうな構造だった。
否定。
「近くに他の人はいる?」
否定。
「助けは期待出来そう?」
「ンン……」
迷った末、否定を選んだ。場所はトイレだからここから出さえすれば助けてもらえそうではある。けれどそのためには鍵を開けて自分たちで外に出なければならない。
「状況の確認が最優先ね。何か……周りに誘拐犯からのメッセージ的なものはない?」
「ンン……ッ」
私は即答出来なかった。なにせ私も目がさめたばかりで、そんなに周りを見てなかったからだ。
急いで周りを見渡していると、その動きで彼女は察してくれた。
「ごめんなさい。もしかして、あなたもまだ起きたばかりなのかしら」
「ンッ!」
肯定。察しが良くて本当に助かってしまう。
「それじゃあ、悪いけど周りにそういうものが無いかどうか確認してもらえる? 待ってるわ」
「んっ」
彼女には出来ないことだから仕方ない。
私は肯定の返事をしてから、とりあえず立ち上がった。高いヒールと曲げにくい膝のせいでかなり不安定だったけど、手が使えるからなんとかなる。
(でもこれ……目が塞がれてる彼女には、立つこともめちゃくちゃ難しいんじゃ……)
彼女の脚には私と同じブーツが履かされている。ちょっとだけヒールが低いような気もするけど、それを差し引いても目がみえない彼女には辛いだろう。
(かといって裸足になるのもなぁ……ん?)
立ち上がってトイレの中を見渡した私は、洗面台のところに紙袋が置かれていることに気付いた。
普通なら忘れ物かと思うところだけど、いまの状況でそれはないだろう。
私は高いヒールにふらつきつつ、コツコツ音を立てながら洗面台の前まで移動する。
その紙袋の中を覗き込んでみると――中には「囚われの姫たちへ」と無駄なまでに達筆な文字で書かれたメモが張り付けられたボイスレコーダーが入っていた。
つづく