目の前には凶悪な大きさをしたバイブと、それを固定するためのベルトがある。
誘拐犯曰く、今後もこれと似たような道具がいくつか用意されていて、それを私か真波さんのどちらかが身に付けていかなければならないのだという。
(今後、どんなものが、何個用意されているかもわからない……)
すでに私の乳首にはピンクローターが張り付けてある。最初の駅のトイレからここに歩いてくるまでの間、不規則に動きだすものだから気が散って仕方なかった。
感じるほどのことはなかったというか、自分で望んだわけでもないこんな状態では感じるものも感じられなかったからそういう心配はいらなかったけど、これは問題だ。
バイブの太さ・大きさがそもそもやばいというのもあるし、親切に用意されたローションもローションで怪しすぎる。
(この挿入する時に使う用のローションっぽいもの……絶対怪しい)
瓶はバイブを抜き差しできるくらいに細長く、ミトンみたいな手袋をはめられた不自由な手でもバイブに塗布することは出来るようになっている。
その辺はちゃんと考えられているみたいだけど、どう考えてもこれがまともなローションだとは思えなかった。
媚薬のような成分が入っているのかもしれないし、もっと凶悪なものが含まれている可能性もある。
(こんなのを身体の中に、なんて……絶対嫌!)
かといって、眼の見えない真波さんにそんなものを挿入してしまっていいのか。
(いいわけ、ないよね……)
明らかに怪しいものを彼女に用いることに良心が咎める、ということもあったけど、それ以上に、状況を把握出来ない彼女がこれを挿入される刺激に耐えられるのか、という不安が大きかった。
私と彼女は鎖で繋がれている。もしも彼女が動けなくなったら、一蓮托生で私も身の破滅を覚悟しなければならない。動けなくなった大人の女性一人を抱えて歩けるほど、私の力は強くない。
(私が身に付ける……しかないの?)
眼が見えない彼女と違って、私ならまだ気の散らしようがある。彼女なら耐えられないことでも、私なら耐えられるかもしれない。
けれど、この先どんな道具がどれだけあるかもわからない。
私が全部身に付けるのは無理だった。
(道具だけならまだしも……もしかすると薬を飲まされるかもしれないし……)
道具が身に付けるだけの道具であると楽観は出来ない。
身体への刺激だけではその気がなければ感じない、なんていうのは常識だ。
私たちを辱めようとしている誘拐犯がそれを踏まえ、その気にさせる薬を飲ませようとしてくることは十分にあり得る。
(どうすれば……どうしたらいいの……?)
私は真波さんの様子を見る。
真波さんは私が動かないので黙って待っていた。状況の把握が出来ないから無理もないのだけど、少しは私の苦しみをわかって欲しくて苛立ってしまう。
(一つ目は私が身に付けたわけだし……二つ目は彼女が身に付けるのが筋ってものよね……)
感情的にそう考えかけた時、真波さんが口を開いた。
「ね、ねぇ……足音、聞こえない?」
ぞくり、と背筋が粟立った。
耳を澄ませれば、トイレの外から砂利を踏むような足音が確かに聞こえてくる。
私は洗面台に置かれた紙袋を手に取り、真波さんが転ばないギリギリの速度で、男子トイレの一番奥の個室に駆け込んだ。
そして、個室の扉は閉めず、なるべく入り口側から視覚になる位置で息を殺した。喋れないから真波さんに何の指示も出せなかったけど、彼女も口を手で塞いで息を殺してくれた。
足音はどんどん大きくなって、すぐ近くに――明らかにトイレの中に入って来た。
「ひぅ……っ」
真波さんが息を飲む。その音さえ聞こえてしまいそうで、私は焦った。
どくん、どくんと緊張で鼓動が早くなる。
「フゥー……フゥー……」
荒くなりそうな呼吸を必死に堪え、音を殺す。
(どうか気付かないで……!)
ごそごそ、と何か動いている音がする。続いて、微かな水音。それはほどなくして止んで、またごそごそと音がした後、足音は足早に遠ざかっていった。
トイレの中が静かになっても、しばらく動けなかった。
完全に去ったことを確認しようと、個室から首だけをそっと出そうとして、首輪同士を繋いだ鎖がぴんと張る。
「ムグッ」
鎖が引っ張られて首が絞まる。一瞬息が出来なくて焦った。
「きゃっ! きゅ、急に動かないでよ!」
「ウオゥ……」
これは私が悪かった。首が絞まったこっちも苦しかったけど、いきなり首輪を引かれる形になった彼女はかなり怖かっただろう。そっと覗こうとしていたおかげで、それほど勢いがついていなかったことが、お互いにとって救いだ。
とにかく、外を見てみた限り、トイレに入ってきていた人はこちらに気付かず出て行ったみたい。
(ドアを閉めていたら人がいるってことだから、かえって不審に思われていたかもしれないものね……賭けだったけど)
もしも個室に用事があったり、あの人が奥の方の小便器を使おうとしていたらまずかったけど、たぶんそうではないと考えた私の判断は正しかった。
なにせ、いくら比較的綺麗なトイレとはいえ、公園のトイレであることに違いは無いからだ。
なるべくなら手早く済ませて出て行きたいはずだから、入り口に近いところで済ませるだろう、という予想は当たったみたいだ。
(とっさの判断だったけど……無事にしのげて良かったぁ……)
相手にもよるけど、見つかっていたらどうなっていたことか。
その人がいい人で拘束から解放してくれるならまだいいけど。
でも、その場合私たちは良くても、ゲーム失敗と見なされて妹たちが大変なことになっていただろう。
(仮に助けてくれそうな人に見つかったとしても、私たちは自分の意思でその人から逃げないといけないってわけかぁ……はぁ……)
こんな悪魔的なことを考えた誘拐犯に、改めて憤りが湧いてくる。
とにかくこんなことはさっさと終わらせないと、こちらの精神が保たない。
(悩んでる暇はないよね……)
こうしている間にも日はどんどん昇り、街に人は増えるはず。
早く決断して動かなければならない。
(……彼女と協力しないとダメだ)
もし彼女が足音に気付いてなかったら。
私たちは逃げることも出来ない状態で人に出くわしていたかもしれない。
眼が見えない分、彼女は耳を澄ませてくれている。
私が気付けないことにも気付いてくれるだろう。
眼が見える私が出来ることはしなければ。
(でも、明らかにやばい薬は使いたくない……)
私はコートの裾を捲り上げ、自分のあそこの様子を確認する。私は処女ではなかったけど、こんな状況で感じるような変態ではないから、そこは乾いた状態で硬く閉ざされたままだった。
(うう……普通にオナニーする時でも、そう簡単に濡れないしなぁ……)
こんな状況で刺激を与えたとしても潤滑油として十分なほど濡れるのは難しいだろう。説くにいまの指先の状態では。
「ねえ、どうしたの……? 何を悩んでるの?」
人がいなくなったはずなのに動かない私を不審に思ったのか、真波さんがそう尋ねて来た。 説明のしようが無いから、どうしようかと真波さんの顔を見て――閃いた。
(これしか、ない……!)
あの怪しげなローションに頼らず、挿入するに足る潤滑油を得る方法がそこにある。
私は意を決し、袋の中からベルトつきのバイブを取りだした。バイブの根元を手に持ち、その男性器を模したバイブの先端を真波さんの口元に当てる。
真波さんはびくりと身体を震わせ、一歩下がった。けれどそうすると首輪を繋ぐ鎖がぴんと張って、それ以上は逃げられなくなる。
「待って、なに、いまの、まさか、口枷……?」
「ウーッ」
私は真波さんの肩を二度叩く。
ずっと口を塞ぐわけじゃない。工夫したらこの器具を口に付けることも可能かもしれないけど、そんなことをしたら真波さんが喋れなくなって、真波さんがただのお荷物になってしまう。
再度真波さんの口にそれを近づけ、触れさせる。その妙な柔らかさを持つ物が円筒形をしていることを身体でわからせるため、彼女の頬に触れさせて突いたり転がしたりして形を認識させる。
「棒……? まさか、咥えてろって言うの?」
「ウウゥー」
近いけど、ずっと咥えられたら困るので否定する。
「違う? じゃあ、舐めろ?」
「ウッ!」
やっとたどり着いてくれた。
私が会心の声を上げて肩を叩くと、真波さんは渋々だったけど口を開けてくれた。
彼女を苦しめるのが目的じゃないから、口の中にゆっくりとバイブを差しいれていく。
恐る恐る動いた真波さんの舌がバイブに触れ、慌てて引き戻される。
「なにこれ……? 柔らかいような……硬いような……変な……棒……」
ゆっくりと真波さんの舌が動く。大きく開いた口内で、赤いものがちろちろと蠢き、唾液が糸を引いてバイブに塗されていく。
棒アイスを舐めるように、真波さんは大きく太いバイブを舐めていた。
これでいい。用意された潤滑油を使いたくないのなら、代わりの潤滑油を用いればいいだけのこと。
そして、いますぐ準備が出来そうなのは、真波さんの唾液くらいしかなかった。
正直、赤の他人の唾液を潤滑油に使うのは避けたかったけど、自分の口が塞がれている以上やむを得ない。
真波さんは状況が掴めないなりに、精一杯バイブを舐めてくれていた。
その必死な様子は親鳥に餌をもらう小鳥のようだ……というのにはさすがに無理があるけど。
状況が状況だし、舐めているものがものだから。
とてもそんな微笑ましい光景に例えるのは難しかったけれど、ともあれ頑張ってくれていることには違いが無い。少し真波さんに対する意識が良くなるのを感じる。
(そろそろ、いいかな?)
十分唾液が塗されたと判断できたところで、ゆっくりバイブを引き抜いていった。
ずるりと抜けてくるバイブには真波さんの唾液がしっかり塗されていて、最後のひとしずくが真波さんの舌と糸を引いて卑猥なアーチを形作る。
バイブを追いかけて口の外に出かけていた真波さんの舌が、バイブが引き抜かれていることに気付いたのか、慌てて口の中に戻っていく。
少し唇に垂れた唾液をその赤い舌がぺろりと舐め取った。
その艶めかしさに少し胸が高まる。
(……っと、いけないいけない。見入ってる場合じゃなかった)
唾液はローションなどと違ってすぐ乾いてしまう。真波さんにはみえないのはわかっていたけど、彼女に背を向け、脚をがに股に開いて股間を露出する。とても人には見せられない、間抜けな格好だ。
誰に見られているというわけではなくとも、こんな格好をしているということ自体が恥ずかしくて顔に熱が集中するのがわかる。
急がなければならないという理由で自分を急かし、情けない格好をしていることを極力考えないようにしながら、バイブの先端を自分の秘部に宛がった。
唾液で濡れた先端がひんやりと私の身体に刺激を与えてくる。
(ちょっと、待って……わかってたけど……こ、これ……太……っ)
処女というわけではないからここへの挿入が初めてというわけじゃないのだけど、私の経験したどんなものよりそのバイブが太いのは確かだった。
決心したはずの心が揺れる。
(うぅ……真波さんが、こういうの慣れてたら任せられるのに……!)
でもそれは出来ない。私に施された口枷はどこまでも私を追い詰めてくる。
私はこんなことを仕掛けてきた誘拐犯に対する恨み言を心の中で繰り返しつつ、手に力を込めてバイブを体内に押しこんでいく。
唾液は十分に塗してもらっていたけど、所詮唾液は唾液。ローションに比べれば粘性は明らかに低く、抵抗が強くてかなり痛い。
「う、ウゥ……ッ」
ほとんどやけくそだった。ぐるぐるとバイブを回転させ、ねじり込むようにしながら、バイブを体内に潜り込ませる。
幸い、程なくしてバイブは私の膣の中に収まった。身体の中から押し広げられているような異物感はすごかったけど、耐えられないほどじゃない。
(これで……あとはベルトを……)
不自由な指先で四苦八苦しながら、バイブが抜けないように固定するベルトを締めていく。
肌に食い込む締め付けはかなり苦しかった。緩めようにも、このベルトにそういう機能はなく、革のベルトが持つわずかな伸縮性を活かして誰にでも身に付けられるようにしているみたいだ。
(それにしたって、上手くできすぎてる気がするけど……私か真波さん、どっちが付けるかもわからないはずなのに)
ちらりと真波さんの体格を見る。大体私と同じくらいのはずだ。
胸は彼女の方がちょっと大きいようにみえるから、その分腰の細さも違ってみえるけど、腰だけを見ればほとんど変わらないはず。
「……大丈夫?」
ごそごそとする物音だけでは私が何をしていたかわからなかったのだろう。真波さんが不安そうな声で問いかけてきた。
彼女に心配させても仕方ないので、私は肯定の合図を出した。
深呼吸をして一息つきたかったけど、鼻しか使えないし、トイレの中で深呼吸は嫌だったのでやめた。
(これで道具は身に付けたけど……次の指示は?)
私はバイブの入っていた紙袋を改めて調べて見る。
バイブやローションの瓶を取りだした時は気付かなかったけど、バイブの下になるように手紙らしきものが底に張り付けてあった。
『無事にバイブは身に付けられたかな? ローションは好きに使ってくれて構わない。あまり広範囲に塗らない方がいいと思うけどね。次は公園の奥にある東屋に向かってくれ』
そんなメッセージが、相変わらず無駄なまでの達筆で書かれている。
(そういえばこの公園……街中にあるにしては広くて、散歩コースみたいなのもあったわね)
公園に入る時、ちらりと見た案内図に、そんなことが書いてあったような気がする。
しかし散歩コースということは、いまの時間帯でも人が歩いていておかしくない場所のはず。収まりかけていた緊張の鼓動が再び早くなるのを感じた。
(ええい……行くしかないわ!)
私は軽く身支度を調えた後、真波さんの腕を取って私の腕に絡めるように指示を出す。
真波さんは何も言わずに従ってくれた。
なんとなくだけど、彼女から感じる気配が柔らかくなっているような感じがする。
(見えないなりに、何か察してくれたのかしら……? まあいいわ)
都合がいいならそれでいい。少しでも私の負担が減るのなら大歓迎だ。
このまま順調に、このふざけたゲームをクリアしてやる。
そんな風に意気込んで、脚を動かす度に感じる体内の異物感に顔を顰めつつ、私はトイレの外へと向かい――
トイレから出た瞬間、体内のバイブが動き出した。
つづく