SamSuka
夜空さくら
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繋がれたふたりは。4


 トイレから出た瞬間、バイブが動き出した。

「ンゥ……ッ!」

 まるで監視されているようなタイミングだった。

 幸いその気になっていない状態で刺激を与えられても、そこまで気持ちよくはならない。変な気を起こさなければ十分に耐えられる。

 変な気分にならないよう、急いで移動を始めた。歩きだしながら、考える。

(監視されてるみたいなタイミング……って、当たり前よね)

 こんなことを仕掛けてきている誘拐犯が、私たちを監視していないわけがないのだから。

 当然、記録にも残されているのだろう。

 それは私たちにとって最悪のことではあった。

(ここを無事に切り抜けて……絶対、訴えてやるんだから……!)

 誘拐犯への怒りを燃やすことで、股間の振動から意識を逸らす。

 そこに胸に張り付けたピンクローターの刺激が加わってきた。

(っ……こっちは真波さんに着けてもらえば良かった……かな……)

 でも最初から真波さんに押しつけていたら、彼女は私を信用してくれなかったかもしれない。

 やってしまったことはもう仕方ないとして、問題は今後の装備だった。

(極力私が引き受けるとしても……どこかで真波さんに身に付けてもらわなければならなくなる時は必ず来る……その時、真波さんが受け容れてくれるか……ッ)

 股間に入り込んでいるバイブが、急にその動きを変えた。

 いままではただバイブとして震えていただけだったのに、バイブ全体が蛇のようにうねり、私の身体の内側を抉るように刺激を与えてくる。

 思わず立ち止まって内股になってしまう。

 動きの質によるものか、動く音も大きくて、隣に立つ真波さんには聞こえてしまったようだ。

 私の腕に掴まっていた真波さんが、手を繋いで来た。

「……小声で喋るわ。人が近付いてきたら手を握り返して」

 周りが見えない真波さんはそう対策を取ってから、本題に入った。

「もしかしなくとも……バイブのようなものを、装着させられたのね?」

「……ウゥ」

 音や態度でバレるとは思っていたので、私は素直にそれを肯定した。

「そう……眼が見えない私を気遣ってくれたのはわかるけど、私は処女じゃないし、少しは経験も豊富なつもり。次何か道具が用意されていたら、遠慮しないで私にもつけてちょうだい。貴女が倒れたらどうしようもないのだし」

 状況を的確に読んでくれている。

 確かに彼女を気遣いすぎて私が気を失いでもして倒れてしまっては、彼女にはどうしようもならなくなる。

 彼女の言葉に甘えておくべきだろう。

「ウゥ……」

 わかった、という意味を込めて肯定の合図を出した。

 真波さんに頼ってもいいということを確認し、少し気が楽になった。

 私たちは寄り添うようにして、公園の中を歩いて行く。

 しかし気が楽になって安心してしまったせいか、かえって股間に突き刺さったバイブの振動が気になるようになってしまった気がする。

(うぅ……平常心、平常心……っ)

 心の中でそう念じながら歩いていると、不意に前から人が歩いて来ることに気付いた。どっと全身から冷や汗が滲み出す。

 このままだと確実に擦れ違うだろう。公園の道はそんなに大きな道じゃないから、すぐ側を擦れ違うことになる。

(絶対不審に思われる……! どうする? どうしよう……! 脇道なんてないし……っ)

 真波さんも足音で気付いたのか、身を固くしているのがわかった。握った手が強く握られる。

(茂みの中に隠れる……? だめ、そんなことしてたら余計に不審だし、何より時間が……! 一々隠れてたら、もっと時間が経っちゃう……)

 ここが分水嶺だと私は悟った。幸い相手はひとり。積極的に絡んでくるとは限らない。

 相手がそういうタイプの人間ではないことを祈るしかない。

(幸い……といっていいかわからないけど、私は口元が、真波さんは目元が完全に覆われてるし……)

 行動を制限するこれらの枷が、私たちの正体を隠す助けになってくれるはずだった。

 私は覚悟を決め、真波さんの肩に手を回す。安心させるために、その肩を強く抱いた。

 真波さんも私の考えを理解してくれたのか、何も言わず、素直に体を預けてくれる。

 かつん、かつんと足音を立てながら私たちは堂々と――というには脚が震えていたけれど――歩み続けた。

 前から歩いて来た人は、スマホを弄りながら歩いていたので、私たちに気づくのがかなり遅れた。

 擦れ違う間際に、足音に気づいたのか顔を上げる。

「……へ?」

 そう間抜けな声をあげるその人に反応せず、私たちはその脇を通って歩き続けた。

 擦れ違うタイミングでバイブの動きが強くなり、思わずびくりと腰が跳ねたけど、それ以外はなんとか平静を装うことが出来た。

 その人が振り返ってこちらを見ていることにはなんとなく気づいたけど、私は振り返ったり反応を見せたりせず、慌てず騒がず歩き続ける。

 幸い、その人もわざわざこっちを追いかけては来なかったようだ。不思議な夢でも見たと思っていてくれればいいのだけど。

「フゥー……」

「はぁ……」

 とりあえずなんとかすれ違いに対応した私たちは、一呼吸つくことが出来た。

 まだ心臓がドキドキしている。もしも話しかけられたらどうしようかと思っていたところだ。

(ああでも……見られちゃったわね……うぅ……)

 見ず知らずの男性に、こんなおかしな格好を見られた。

 恥ずかしくて顔から火が出そうだ。

(早く済ませなきゃ……もっと色んな人に見られちゃう……!)

 改めてそう感じた私は、真波さんの手を引いて、公園の休憩所を目指して脚を進めた。

 この公園の休憩所は、どこにでもあるような、円形の傘の下にベンチがおいてあるものだった。

 大きな運動公園などであったら、休憩所の周りは開けていたりするけど、ここは街中にあるような公園だから、それほど開けてはいない。

 むしろ周囲に木が植えられていて、休憩所周りの視界は極端に悪いと言っても良かった。

(また道具と指示を書いたメモが置いてあるのかしら……? 誰かに持って行かれたりしてないよね……)

 全く関係のない人が先に休憩所にやって来て、誘拐犯が用意した道具などを持ち去ってしまう可能性だってある。

 急がなければ危なかった。

 そして、私たちは休憩所へとたどり着く。

 休憩所には誰もいないようだった。

 ひとまずほっとした私の袖を、真波さんがひいた。何かと思って真波さんの方を見ると、真波さんは見た目にも怯えていた。

「ね、ねえ……もしかして……いま、朝だったり、する?」

 どうやってわかったのだろう、と一瞬思ったけど、鳥の鳴き声が近くから聞こえてきて、それで夜じゃないことに気づいたようだ。

 言われて耳を澄ませてみれば、明らかに夜には鳴かない鳥が鳴いている。眼が塞がれていても、時刻が朝かもしれないと感じるだろう。

 誤魔化すべきか迷ったけど、はいかいいえ、極端な二択でしか応えられない私には、上手く誤魔化すことは出来そうにない。

 正確な情報を渡すためにも、朝であることを肯定するしかなかった。

 周りが明るいことがわかったからか、真波さんは益々その身を固くしてしまう。ぶつぶつと小声で呟いているのは、誘拐犯への恨み言だった。

 私はそれに同意しつつ、このふざけた状況を突破するためにも、休憩所の中を覗き込んだ。

 休憩所に誰もいないうちに、道具や次の指示を回収しなければならない。

 ぱっと見、何もおかれていなかったけど、ベンチの足下に小さな紙袋がひっそり置かれていた。

(あれだ……! 真波さんに身に付けてもらうんだから、変なのじゃありませんように……!)

 そう思いつつ、私はその紙袋を拾い上げ、ベンチの上に一端置いてから、中身を覗き込んで――固まった。





 どうやら次の目的の場所にたどり着いた私たちは脚を止めていた。

 そこがどこかは私にはわからなかったけど、公園の中であることは変わらないらしい。周囲から鳥の鳴き声が聞こえてきていたからだ。

 それは早朝によく聞こえてくる音で、そう思って耳を澄ませて見ると、街を満たしているのは夜の静けさではなく、これから活動を始めようとしているざわめきだった。

(私の記憶ではまだ夜だったはずなんだけど……眠らされている間に、そんなに時間が経ってたってことよね……)

 さっきも人とすれちがったわけだし、急がなければどんどん人が溢れてくるのだろう。

 早く行動しなければまずい。

 誘拐犯とて、私たちを安易に破滅させるつもりはたぶんないはずだ。そうでなければゲームなんて成り立たないし、ここまでおおがかりなことをやっておいて、終わりは適当に済ますのは考えたくない。

 ならば、誘拐犯の想定している以上の速さで各チェックポイントを通過して、ゲームを終わらせるのが私たちに取れる唯一の抵抗方法だった。

 だからこの場でじっとしているのは具合が悪い。

「恋花さん……? どうしたの? 何かとんでもない指示でもあった?」

 小声で恋花さんに呼び掛ける。

「ぅう……」

 恋花さんは困惑したように小さく呻きながら、その何かを私の手に乗せてきた。分厚い手袋越しだとわかりづらかったけど、なんだかボールのように丸い、いや、完全な円ではなさそうだ。

「……?」

 とにかく手のひらに乗る程度の大きさであることはわかった。

 それを恋花さんは再び手に取ると、私の腕を伝わせて、肘、肩、背中、と移動させていく。

(どこに使うものか教えてくれようとしているのね……でもどこに……っ?)

 背中を通り過ぎ、背骨を沿うようにして降りていく。そしてそれは腰を超え――お尻の、割れ目へと移動してきた。

 そしてその何かの先端が、上着の裾越しにお尻の中心、肛門へと押しつけられる。

「ひゃっ!? ま、まさか……そこに挿すもの……?」

 否定して欲しかった私の言葉は、恋花さんの手で無情にも肯定される。


 用意されたそれは、アナルプラグだった。


 私は生理的嫌悪感が噴き出すのを止められなかった。

 当たり前だ。本来排泄のために使う穴を弄るなんて、いままでしたことがない。

(大体、便が溜まってたらどうするの……? 便秘気味ではなかったけども……!)

 アナルを使ってオナニーをする人がいるということくらいは知っていても、それを実行したことがあるかどうかは別問題だ。

 私はいままで自慰をするときもセックスをするときも、秘部しか使ったことがなかったし、それが普通だと思う。

 いきなりそこに物を入れろと言われても、すぐに受け容れられるわけがなかった。

(大体、さっき手のひらで感じた限り……大きかったじゃない……そんなのを入れるのなんて……無理よ……!)

 私は一縷の望みをかけ、恐る恐る恋花さんに尋ねる。

「ね、ねぇ、恋花さん……失礼なことを聞くようだけど……お、お尻を使った経験って……」

 即座に二度肩を叩かれる。

 そうよね。あるわけないわよね。

 もしも、恋花さんが経験者であったなら、恥を忍んで彼女にそれを引き受けてもらうことも考えた。その代わりに一度彼女に挿入したあとであっても、バイブを受けいれてもいいと思っていた。

 けれどお互い未経験であるのなら、まだ何も受け容れていない私がそれを受け容れるのが、筋というものだろう。

 私は覚悟を決める。

「……恋花さん、いいわ。やっちゃって」

 ここで躊躇っている時間は無い。

 私は覚悟を決め、恋花さんにそう宣言した。

「ウゥ……ムゥッ」

 恋花さんにも私の覚悟は伝わったのか、やってくれる気になったようだ。

 恋花さんは一度首輪を繋いでいる鎖を外し、ある程度離れられるようにしたようで、眼の見えない私を誘導して、壁らしきものに手を突いて上半身を前に倒し、お尻を突き出すような格好にさせられた。

 上着の裾が持ち上げられ、むき出しになったお尻に直接外気が触れる。

「ひぅ……っ、ご、ごめんね、汚いものを見せて……」

 アナルプラグを入れるということは、肛門を絶対に見せなければならない。

 死ぬほど恥ずかしかったけど、それを堪えて恋花さんに謝った。

「ウゥゥ……」

 恋花さんがどう感じているかは、正確にはわからない。呻き声からすると向こうは向こうで申し訳なく感じているようだ。

 ともかく、私の後ろに立った恋花さん。その視線が私のお尻に突き刺さっている。

 上着の裾がずり落ちそうになるのを感じて、咄嗟に私は片手で押さえた。自分から恋花さんにお尻を晒しているような状態になってしまったけど、仕方ない。

「ウー……」

 恋花さんが小さく唸り、私のお尻に片手を添える。割れ目を形成している肉を引っ張られ、肛門にプラグを差し込みやすいようにされたことを、体の感覚で悟る。

(ううううッ! 死にたいッ! 恥ずかしいッ!)

 この歳になって誰かに肛門をまじまじと見られる日がくるとは思わなかった。羞恥のあまり頭の中が沸騰しそうなほどに熱くなり、いっそ殺して欲しくなる。


 ひんやりとしたものが、肛門に触れてきた。


「ンひっ、ンッ」

 変な声が出たのも仕方ない。トイレやお風呂場で洗うときでさえ、そこに硬くて冷たいものが触れることなんてないのだから。

 ましてその冷たくて硬いものは、私の身体の中に潜り込もうとしてくるのだ。

 私は顔を伏せ、歯を食いしばって声を上げることを堪える。

 思った以上にスムーズに、押しつけられたアナルプラグは私の肛門を割り裂いて、にゅるりと便を出す時の逆回しで体内へと侵入してきた。

「はぅっ……! ふっ、ふはっ。……はぁっ、はぁっ」

 自然と肛門に力が入る。

 しかし、なぜか肛門は締まりきらず、何かがつっかえているような感覚が残っていた。

(……? なにこれ……? 何か、まだ飛びだしている、ような……)

 恐る恐る手をお尻に伸ばしてみると、明らかに何か柔らかな物が私の肛門から垂れ下がっている。そんなに大きくはなく、重くもないから括約筋が引っ張られる感じはしなかったけど、かすかな異物感が常に生じて気持ちが悪い。

 不快な感覚を振り払おうとお尻を小さく振ると、それに合わせて垂れ下がった何かも揺れる。

 その感覚に、私はぴんと来た。

「まさか……尻尾飾り……?」

 呆然と呟くと、恋花さんが肯定してくれる。

 私の肛門に差し込まれたアナルプラグには、どうやら尻尾飾りがついていたようだ。

 弄ばれている感覚に、なんとも屈辱的な気分になる。

 私は体を起こし、上着の裾を降ろした。これで隠せるはずだったのだけど、太もものあたりに何か柔らかな物が触れる感触がある。

 嫌な予感がした。

「ねえ、もしかして……これ、周りから見えてる……?」

「ウッ……」

 小さく呻いた恋花さん。

 私はその反応から、確実に周りから見えていることを知る。

(さ、さ、最悪……っ、完全に、変態じゃない……!)

 実はアナルプラグを着ける前から、すでに変態の見た目でしかなかったのだけど、その時の私はわかっていなかった。

 上着の裾から尻尾飾りが覗いているのを想像して、私は初めて自分が変態だと周りから認識されると思った。

「うぅ……帰りたい……」

 一体誘拐犯は私たちをどこまで辱めれば気が済むのか。

「……ウゥ」

 恋花さんも同意見のようだった。

 恋花さんとの連帯感を覚えると同時に、誘拐犯の恨みを募らせていく。

(とにかく、早く次の指示を……)

 一刻も早くこのふざけたことを終わらせたい。

 再び私と恋花さんの首輪が鎖で繋がれ、私たちはまた歩きだした。

 歩く度に肛門に差し込まれたものが気になって、速く歩くことが出来ない。

(急がないと……なのに……!)

 焦りが焦りを呼ぶ。

 冷や汗を流しながら、恋花さんの誘導に従って歩きだしてすぐのことだった。


 アナルプラグを差し込まれた肛門に、妙な異変を感じたのは。


つづく

繋がれたふたりは。4

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