ふたりの女性が、恋人のように寄り添って歩いている。
男女の恋仲にある者同士でも、そんな風に寄り添っては歩かないであろうというほど密着しており、ふたりとも非常に歩きにくそうにしていた。
それだけでも不自然な姿であったのだが、ふたりが不自然なのは歩く姿だけではない。
まず服装が奇妙なものだった。
ふたりは男物のコートを身に付けており、裾から生足が覗いていた。傍から見るとそれしか身に付けていないように見える。
脚にはヒールの高い、膝まであるブーツを身に付けており、時折よろけている様から、歩き慣れていないのは明白だった。
手にはミトンのような、指が自由に使えなくなりそうな手袋を身に付けており、絶妙に外れた季節感も相成って、異質感を醸し出している。
さらに片方の口元を覆っている革は、見ようにとってはファッションと言い張れないこともなかったが、もう片方は目が同じような物で覆われており、目を怪我しているにしても完全に視力を放棄している。
その上、二人の首には明らかに首輪のようなものが巻き付いており、その首輪同士は細組次回首輪で結びつけられている。
二人が寄り添って歩いているのは、それが原因なのだろう。
一目見ただけでも異常なそれらの外見以外にも、彼女たちには異様な点があった。
ひとつは、口元を覆われている側の女性の胸。
コートは厚手のものらしく、透けることこそなかったが、その彼女の胸の形は見た目からしておかしかった。乳首が立っている、というレベルではなく、丸っこい異物があるとわかる盛り上がり方をしていたからだ。
もうひとつは、目を覆われている女性の臀部。
コートの裾はちょうど彼女達のふくらはぎ辺りまでを覆う形になっており、その下にショートパンツか何かを履いていると思われるのだが、その裾から柔らかそうな動物の尻尾らしきものの先端が覗いているのである。
もはや違和感という言葉では言い表せない。
そんな異様な格好をしたふたりの女性が、早朝の街中を歩いているのである。
当然、早朝とはいえ、人が全くの皆無というわけではなく、彼女たちはたくさんの人に見られてしまっていた。
だが、あまりにも異質で異常なふたりに声をかけようという者はひとりもいなかった。最近は特に余計なトラブルに巻きこまれることを嫌う者が増えていることも大きい。
それは助けを求められない彼女たちにしてみれば、非常にありがたいことではあったのだが、視線は容赦なく向けられた。
中には彼女たちがそういう趣味の物であると判断し、あからさまな侮蔑の視線を向ける者もおり、彼女たちの精神をこの上なく疲弊させるのだった。
そんな彼女たちはいま――指定された街中の倉庫街へと向かっていた。
公園で真波さんの肛門にアナルプラグを入れた後、私と彼女はアナルプラグが入っていた紙袋の中に書かれた地図を頼りに、街中の倉庫街へと向かっていた。
倉庫街、といってもあまり活発に利用されている場所ではないのか、先ほどまで良く擦れ違っていた通行人とも擦れ違わなくなりつつある。
(うう……あんなにたくさんのひとたちに……見られた……)
誰も声をかけて来なかったのは幸いだったけど、容赦の無い視線に晒されることになり、それが見えている私には相当堪えていた。
私たちは決して望んでやっているわけではないのに、好奇の視線や侮蔑の視線を向けられる羽目になった。
(とにかく、早く終わらせたい……さすがにもう、限界……)
時間帯的にも、これ以上は無理だろう。
いままで擦れ違った人たちは皆出勤途中だった人たちらしく、関わり合いになりたくないとばかりに私たちをスルーしてくれたけど、もし好奇心旺盛な子供や、お節介焼きのご年配の方に出会ってしまったら、私たちは逃げられない。
騒ぎになれば警察を呼ばれ、私たちの脱出ゲームは失敗ということになり、妹たちが今度は危機に晒される。
それだけは絶対に避けなければならないのに。
私は一緒に歩く真波さんに視線を向ける。
(真波さん……がんばって……! もう少しで、目的地だから……!)
その一言が伝えられないのがもどかしい。
「フゥーッ……フゥーッ……」
先ほどから真波さんは荒い呼吸をくり返し、唇の端から涎が垂れていることにも気づいていないようだった。頬が赤みを帯び、額に髪の毛が張り付くほど、汗を搔いている。
(やっぱり、あれに何か含まれてたんだ……! 真波さん、ごめん……!)
アナルプラグを入れる際、さすがにそれをそのまま入れるのは、肛門が傷つく可能性もあって出来なかった。
だからやむを得ず、アナルプラグとセットになっていたローションを少しだけ使い、アナルプラグを濡らして彼女の穴に差し込んでいた。
結果として、アナルプラグはあっさり彼女の体の中に入ったけれど、やっぱり誘拐犯が用意した道具がまともなわけがなかった。
真波さんの様子からすると、媚薬のようなものがそれに含まれていたみたいで、時間が立つにつれて彼女の様子はどんどん艶っぽく、熱っぽくなっていっていた。
(このままじゃ、彼女が動けなくなる……っ!)
さらに悪いことに、アナルプラグそのものにも仕掛けがあった。
尻尾飾りが着いているだけのプラグではなく、それは尻尾が揺れれば揺れるほど、アナルプラグが振動する仕組みになっていたのだ。それに気づいてから、彼女はなるべく尻尾飾りを揺らさないように歩こうとしていたが、目隠しされ、高いヒールの靴を履かされた彼女が完全に体を揺らさずに歩くなんていうことが出来るわけがなく、媚薬の効果も相成って、どんどん彼女自身が気持ちよくなってしまっていっていることがわかった。
そしてそんな気持ちよくなる彼女の姿を間近で見続けなければならなくなった私もまた、だんだんと変な気分になって来てしまっているのが問題だった。
(うぅ……また……っ、バイブが……!)
私の身体に入っているバイブは、相変わらず不規則に動き続けている。規則的な動きならいい加減慣れるのだろうけど、急に止まっては急に動くの繰り返しであるため、なかなか刺激になれることが出来ない。
人と擦れ違う瞬間など、動いて欲しくないときに限って激しく動いたりして、意識し続けなければならないというのも辛かった。
隣の彼女の影響と、私自身が意識した結果、こういう趣味がないはずの私のそこも、徐々に濡れ始めている。
認めたくはないけど、刺激によって気持ちよくされられているのだ。
それでも薬を使わずに挿入した分、私の性感帯は完全に活性化はしていない。
弱火でじわじわと炙られるような、絶妙にくすぐられている感覚は感覚で辛かったけども、まだ耐えることが出来る。
(私まで真波さんみたくなっちゃってたら……どうしようもならなくなるところだった)
誘拐犯の目論見は、そうやって街中でゲームオーバーにすることだったのかもしれないけど、それは回避出来たということだろう。
(けれどこの先……まだ何かあるのかしら? もうこれ以上は耐えられないけど……)
不安になりつつも、私はふらふらする真波さんを連れ、指定された場所へと向かう。
指定された場所は、広い倉庫街の一角、いかにも古ぼけた、使用されている感のない小さな倉庫だった。
地図を見直して見ても、やはりその倉庫が指定の場所らしい。
その倉庫のドアが半開きになっている。
(中に入れってことかしら……?)
きょろきょろと周りを見渡してみても、他に指示は見当たらない。
人っ子一人いない閑散とした立地のため、人に見られる心配がないのはありがたかった。
(どっちにしても……ここまで来ちゃったわけだし……行くしかないのかな)
私は不自由な体で深呼吸をひとつ。
快感の波が来たのか、肩を小さく痙攣させた真波さんのことには気づかない振りをして、倉庫の中へと入った。
倉庫の中は、外から見た印象よりは、ずいぶん綺麗に整えられていた。少なくとも入るのを忌避するほどの汚らしさや乱雑さはない。
暗くて中の様子はよくわからなかったけど、外の光が差し込んでいる入り口付近なら問題なく踏み入れる。
(まるでこのために整えたみたい……私たちを嬲るためだけに、ここまでするのかしら)
そもそも、私たちを拉致してトイレに放置する段階から、相当難しい。
まして、誰かが遠隔で操作しているとしか思えないタイミングでバイブが振動していたことを考えると、ずっと監視されていたことになる。
仮に何らかの組織が、そういう主旨の映像を作って販売するためにしたことだとしても――果たして採算が取れるのだろうか。
(でもそれ以外に私たちが狙われる理由なんて……っ!?)
その時、倉庫の中の電気が点いた。
暗かった倉庫の中が明るく照らされ、暗さに慣れ始めていた目が眩む。
暫くして、倉庫の中の様子が見えた私は絶句することになった。
倉庫の一角には――私の妹の愛華が、もうひとり別の女の子と一緒に、繋がれて放置されていたからだ。
つづく