利用客の大半がカップルか、単身の男性である会員制のバーの中で、その若い女性二人組の存在は珍しかった。
このバーではあまり見ない客層であるため、存在がそもそも目立つのだが、現在そのふたりが注目されているのには別の理由があった。
バーのどこからでも見れるように設置された大きなモニター。
その中で彼女達ふたりを含んだ女性四人組が、とんでもない目に遭っていたからだ。
四人のうち、ふたりは壁に四肢を埋め込まれて拘束されており、そうではないふたりは互いの肛門をチューブで繋ぎ、その中にある流体状の何かを相手の腹に押しこまんと息んでいる。
片方の口には、壁に繋がれた女性の肛門から伸びるチューブが繋げられていた。
さらにその壁に繋がれた彼女の口には、壁に埋め込まれたもう片方の女性の肛門から伸びるチューブが連結されている。
四人はチューブによって、繋げられていた。
いまバーにいる者達は、そんな彼女達が必死に藻掻き、苦しむ様を見て楽しんでいた。純粋に好奇の視線を向ける者もいれば、欲情を隠そうとしない者もいる。四人がされている行為に憧れているような、キラキラとした目をしている者もいた。
酒の肴にされている当の四人の内のふたりも、だ。
そして、ふたりは時折他の客から向けられる視線に、軽く手を振ったり会釈をしたりで応えている。声をかけようとする者はいなかった。
そういった客同士の交流はあらかじめ厳しく制限されているためだ。
会員になる際に厳重に注意されているため、そのルールを犯してまで彼女達に話しかけようというものはいない。もっとも、いたら容赦なく退店させられるだけだ。
唯一、客に自由に話しかけられるのは店員だけだった。
そのためか、彼女達は二重に見られていても、さほど気にしてはいなかった。
「いやぁ、昨日はすごかったねぇ」
片方がしみじみとした様子で呟く。
バーの会員相手とはいえ、自分たちの痴態が不特定多数の目に晒されているというのに、その彼女は平然としていた。
それはもう片方の女性も変わらない。
「うん……でも、映像の時の記憶がないのは残念」
「アナルゼリー相撲、直接見たかったよねぇ」
ふたりともほんの少し頬を赤く染めているが、それは映像を見られて恥ずかしいというよりは、映像の中の痴態に影響を受け、興奮しているためだった。
そんなふたりに、バーのマスターが声をかける。
「あの映像、評判良いわよ。姉妹が共演するのも珍しいのに、それが二組同時だからね。珍しさはピカイチだし」
実際彼女が知る限り、実の姉妹がこの店に来ることは滅多にない。そういう意味で彼女達が非常に珍しい存在なのは確かだった。
だが、そのマスターの評価は嬉しくないものだったらしく、ふたりは不満げだ。
「えー、内容を褒めてくださいよぅ」
「……珍しいってだけは、心外」
希少性だけを褒められてもいい気はしないのだ。
慌ててマスターは言い直す。
「ごめんごめん。もちろん内容も評価されてるよ。姉ふたりが妹ふたりを想って、それぞれの決断と形でアナルゼリー相撲に挑む……真に迫った『演技』がとても良かったって」
にやにやとした笑みを浮かべているマスターに、ふたりは苦笑いを浮かべた。
「マスター……わかって言ってるでしょ」
「真に迫ってて当然。……ふたりは知らない」
そういって、ふたりは互いの手に己の手を絡ませ、友達以上の距離感を見せつける。
「あたしと美波が、前から恋人同士だってこと」
「あれは、わたしと愛華が依頼したことだって」
彼女達――恋花の妹の愛華と、真波の妹の美波――はそう言ってキスを交わした。
マスターはふふふ、と笑みを浮かべる。
「見せつけてくれるねぇ……お姉さんたちも大変だ。妹たちの趣味に付き合わされ、あんな目に遭わされて」
そのマスターの言葉に、ふたりは顔を見合わせる。
「んー、あたしのお姉ちゃんは大丈夫そうだけどなぁ。美波の方は?」
「全部忘れることにしたみたい。姉さんもいつも通り。……いつも通りすぎて少し拍子抜け」
「まあ、何の痕跡も残ってないからねぇ。休みが一日なくなったってくらい?」
「夢だと自分を納得させてるっぽい。……薬で記憶を薄れさせるって聞いた時は大丈夫なのか正直心配だったけど」
「ほどよく意識させない程度に記憶を薄れさせるとか、撮影班は凄いよね」
「ほんとうに、優秀……」
くすくす、と笑い合うふたりの小悪魔に、マスターはやれやれと溜息を吐いた。
そんなマスターに対し、愛華がにこやかな笑みを受ける。
「そうそう、聞いて聞いてマスターっ。今度ね、お姉ちゃんたちを含めた、四人で遊ぼうと思ってるの!」
その言葉にはさすがのマスターも少し目を見開いた。
「あのふたりにしてみれば、相当びっくりする繋がりね。……大丈夫なのかな? 狂言誘拐だったってことがバレるんじゃない?」
「たぶん、大丈夫。それに、もしバレたとしても、店には迷惑かけないようにするから」
ふたりは再び顔を見合わせて楽しげに笑う。
「うふふ。楽しみだなぁ……お姉ちゃん、すごくきょどりそう! そういうとこが可愛いんだよねぇ」
「わたしの姉さんはたぶん、あんまり顔には出さないと思う。……ちょっと不満」
「わかんないよ? 意外と一番動揺するのが見れたりして! だってほら、美波のお姉さんは……」
「……あ。そういえばそうだった。愛華のうんち飲んじゃったものね」
「きゃー! はっきり声に出していうのはやめてよー! 大体、あれは排泄物を模した浣腸液であって、本物じゃないもん!」
べしべし、と美波の肩を平手で叩く愛華。
「いたた、いたたた。ごめん、デリカシーなかった。いたたっ。ごめんってばっ」
じゃれあいの範疇とは言え、勢いのある連打を受けた美波は、慌てて愛華に謝罪する。
カウンター越しにそんなふたりのじゃれ合いを見ていたマスターは思う。
(大半は浣腸液だっただろうけど、多少は愛華ちゃん本人の排泄物も混ざってたよねぇ。袋で腸壁を完全に覆っていたわけでもないし)
そうは思ったが、口に出せば恥ずかしがる愛華の八つ当たりを受けることは明らかだったため、沈黙を守った。
ひとしきり騒いだあと、愛華は美波の肩に頭を乗せて息を整える。
「はぁ……はぁ……とにかく、あの日のことが夢じゃなかったってわかった時のお姉ちゃんたちの反応が楽しみね」
「うん。……姉さんたちもわたしたちと同じような関係にならないかな」
「それはさすがに難しいんじゃない? ……ああ、でも、体験しちゃったからこそ、無視出来ない程度に、ああいう世界への興味は生まれちゃってるかもね」
「……連絡先を交換するところまでいけば、可能性はありそう」
「そうだね! じゃあまずは、当日わたしたちでできる限り楽しく場を盛り上げよう! そしたら、自然と連絡先を交換するだろうし。ふたりがやりとりをし始めれば……うふふ」
「姉さんがわたしたちと同じ趣味になったら……うん、楽しそう。愛華、がんばろう」
強固に繋がっているふたりは、がっしりと手を組んだ。
そんなふたりの悪巧みに、マスターは苦笑せざるを得なかった。
「まあ、止めはしないけど……やりすぎて姉妹の縁を切られたりしないようにね」
マスターの至極真っ当な忠告に、愛華と美波は即答する。
「「大丈夫。愛されてるもの」」
どんなことになっても、ふたりの妹はそれぞれの姉に愛されていることを疑いもしていなかった。それは彼女達にとって絶対で、逆に言えば彼女達もどんなことがあっても姉たちを嫌いになることはないのだろう。
そんなふたりはさっそく当日の計画について、嬉々として相談し始める。
その光景だけ切り取れば学校帰りに寄り道して遊びの計画を練る、ごく普通の女子の姿だったが、彼女達がいる場所は若干アングラ寄りのバーであり、あられもない姿の自分たちを含んだ、実の姉たちの官能的な映像が現在進行形で流れている。
その光景まで含めると平時と変わらない彼女たちの様子は、明らかに浮いていた。
当の本人達は全く気にせず、姦しく会話を続けていたが。
そんな小悪魔ふたりの姉に同情しつつ、マスターは仕事に戻るのだった。
繋がれたふたりは。おわり
夜空さくら
2019-09-07 01:15:16 +0000 UTC夜空さくら
2019-09-07 01:13:17 +0000 UTCken
2019-09-06 17:32:32 +0000 UTC