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夜空さくら
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ヒトネコトリップ! 3


 首から下を覆う全身スーツは、わたしの身体にぴっちりと張り付いている。

 ちょっと身体を捻るだけで――いや、大きく深呼吸するだけで――ぴちぴちと音が鳴って身体を締め付けてくる。

 身体のラインが浮かび上がり、かなり恥ずかしい。

 くびれや胸の形も引き絞られて綺麗に作られるために、体つきがだらしなく見えることはなく、そういう意味ではいいけど、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。

(ん……やっぱり、変な感じ……)

 いつも着ているコーティング型の全身スーツも全身を締め付けてくるけど、そもそもの素材が違うからか、なんとなく慣れない感覚だった。

 そして首輪。こちらもいつもと違う感じだ。

 いつもの首輪は、元々わたしの首周りに合わせて作られていた。金属の輪っかを半分に割って、その間に首を挟み込むような形で身に付けていた。首輪とは言われていても、実際にはチョーカーの方が形状としては近かった。

 ところが今回付けられた首輪は、バックルで止めるタイプの、あまり堅牢じゃなさそうなものだった。

 個人的に首輪の目的は自由に全身スーツを脱ぎ着できなくするためのものだと思っていたので、思いっきり引っ張れば外れそうな強度の首輪にしてあるのが不思議だった。

 もちろん、普通に外すのには鍵が必要そうなので、わたしの考えも外れてはないのだろうけど。

 不思議に思っていると、ママさんから補足の説明があった。

「ちなみに今皆に付けてもらった首輪は、ある程度の加重がかかると外れるようになっているわ。お店の中なら万が一があってもすぐ助けられるし、目を離さないでいられるけど、外でもし誰も見ていないタイミングで何かに首輪が引っかかって、首が締まったら危ないからね」

 その説明にわたしは納得する。

(なるほど……そういうことだったんだ)

 安全意識が高いというのは、こういうことをやる上でとても重要だ。

 なんとなくペットに対する安全意識、という意味合いが強いような気もするけど。これも含めてペットプレイということなのかもしれない。

「もちろん、スイッチを入れると猫のような声しか出せなくなる機能はそのままだから、安心してね!」

 何を安心しろというのか。

 ママさんのにこやかな宣言に一瞬そう思ったけど、自分の意思で猫の啼き真似をするのは別種の覚悟と意思がいる。だから、その機能がちゃんとあるというのは、実際安心すべきことなのかもしれない。

(まあ……あの機能はあんまり使わない方がいいんだろうけど……)

 人語抑制機能を使われていると、口から猫らしい声しか自然と出なくなる。その状態に慣れてしまうのは危険だった。

 うっかり日常生活を送っている時にも、猫のような声を出してしまうことがあるのだ。

 いまのところ大きな問題にはなっていないけど、事情を知る美里以外の友達には盛大に笑われてしまったものだ。

(あれは本当に恥ずかしかったからなぁ……気をつけないと)

 わたしは首輪に指先で触れながら、決意を新たにする。

 次に着けるように言われたのは、耳当てと一体化した猫耳だ。

(あー……これも着けるのかぁ)

 いつも着けてるわたしにとっては慣れてしまっているものだった。

 この耳当て、遮音式であり、猫耳の部分で捉えた音をヘッドホンのように再生するようになっている。

 なんでわざわざそんなことをするのかというと、人の声を意味を成さない音に変えてしまう機能があるからだ。それによって、人と身振り手振りで意思疎通を図らなければならなくなる。

 要は『猫が人間の言葉を完全に理解していたら変だろう』という理由での、ペットプレイの真実みをあげるための仕掛けというわけ。

「今回の小旅行では、人声抑制機能はあまり使わないけどね」

「え? そうなんですか?」

「ええ。もちろん使うときは使うけど、外を移動している時に不意の落下物に対する注意を促す声とか、そういう必要な声までシャットアウトしちゃうわけにはいかないでしょう?」

 限られた空間でプレイするときとは、色々勝手が違うらしい。

 その機能に救われていた面もあったわたしとしては、なんだか複雑な気分だった。

(それってつまり……周りが自分を見て何を言っているのか、はっきりわかるってことでしょ……あああ、想像するだけでも恥ずかしい……!)

 行くのはこのお店が関わっている施設だし、たぶんそんな変なことを言われることはないと思うけど、ヒトネコの姿を褒められるというのはそれはそれで恥ずかしいことだった。

 とはいえ、猫耳を着けない選択肢は無い。

 中途半端な方が恥ずかしいのだということをわたしはよく知っている。さっきも思い知らされたばかりだ。

(周りにもヒトネコ状態の人はたくさんいるはずなんだから……それに紛れてしまえば、恥ずかしさも軽減されるはず……!)

 ひとりでヒトネコになるわけじゃない。

 もう何度自分に言い聞かせたかわからない言葉で、わたしは自分を納得させる。

 そんなわたしの苦労など置いて、皆は次の装備を身につけていた。それを持った美里が、わたしの後ろに回り込む。

「ミヤ、あたしが着けてあげるねー。はい、前屈してお尻突きだしてー」

「えっ、あ、う……はうっ!」

 流れるような美里の指示に、思わず従ったわたし。その尾てい骨の辺りに衝撃が走って、猫の尻尾が取りつけられた。

 この尻尾、わたしの脳波を読み取り、わたしの感情に合わせて動くようになっているハイテクな代物である。どういう理屈かはいまだにわからないけど、スーツと一体化するようになってわたしのお尻に張り付いている。

「あたしにはミヤが着けてー」

 そう言って美里はわたしに猫の尻尾を手渡し、そして自分のお尻をわたしに向けて突きだしてくる。ラバースーツに覆われているとはいえ、ぴっちりとしたスーツは美里のお尻の形をばっちり浮かび上がらせている。

 美里のお尻はかなり小ぶりで、活発な彼女の気質を表しているかのように引き締まって綺麗だった。脚もかなり引き締まっているので、脚と脚の間から、股関節に盛りあがっている恥丘が確認出来てしまう。

 格好、体勢、見た目が合わさると、普段は意識しない美里が、非常に扇情的に感じた。

 さっきはわたしがこんな風に美里から見られていたのかと思うと、その事実に赤面してしまう。

 動かないわたしを不審に思ったのか、美里が体勢はそのまま、肩越しに振り返る。

「ミヤ~、早くして~」

 ほんの少し美里の頬が赤いのは、さすがの彼女も恥ずかしいからだろうか。

 わたしは慌てて謝りながら、美里のお尻に猫の尻尾を近づける。

(えっと……尾てい骨に合わせるように、尻尾の面を合わせればいいんだよね……)

 突き出された美里のお尻。その割れ目の上あたりをじっと見る。

 ただ、見ただけではどのあたりが尾てい骨なのか、はっきりとはわからなかった。

「えっと……さ、触るね」

 美里は一発でわたしの尾てい骨に尻尾を押し当てていたけど、わたしは実際に触ってみないとちゃんと場所が合っているのかわからない。

 美里のお尻の割れ目の上を、人差し指で突いてみた。

 彼女のお尻を覆うラバーと、わたしの指先を覆うラバーが擦れ合い、独特の音を立てる。

「んー、もうちょっと下だよ」

 美里が間違いを指摘してくれる。わたしは慌てて、指を下にずらす。

 そして、再度指を押しこむと――美里が甲高い悲鳴をあげた。

「に”ゃッ! そ、そこはお尻の穴! ミヤのバカっ」

「ごごご、ごめん!」

 うっかり下にずらしすぎたようだ。

 慌ててもう少し上に戻し、尾てい骨の感触を確かめる。そして、そこに猫の尻尾を押しつけた。

 びりっと猫の尻尾が震え、固定される。

「んっ……ふぅ、ありがと。でも許さない」

 さすがの美里も肛門を指で突っつかれて平静では居られないのか、ぷくぅ、と頬を膨らませ、そっぽを向いた。尻尾がぴんと立って不満げに揺れているので、怒っているのは明らかだ。

「ご、ごめんなさい……」

 本当に申し訳なく思って謝る。いくら色々している仲でも、肛門を触れられて愉快なわけがない。

 申し訳なさで一杯になっていると、美里がちらりとわたしの方を見て、深く息を吐く。

「はぁ……まあいいよ。わざとじゃないのはわかってるし……そんな態度取られたら許すしかないよね」

 そんな態度とは何のことだろう。

 一瞬そう思ったわたしだったけど、すぐに猫耳と尻尾の状態だということに気付く。

 わたしのも身につけた時から起動していたらしい。わたしの猫耳と尻尾は、本物の猫が叱られた時のように、耳はぺたりと寝て、尻尾は縮こまって丸まっていた。

 なるほど、我ながらこれは確かに怒りづらい。無意識とはいえ自分でいうのもなんだけど、実にあざとい仕草だった。

 いままでとは別種の恥ずかしさを感じ、ますます縮こまる。

 そんなわたしのことなど構わず、衣装の装着は着々と進んだ。

 手足にはほどよく猫の手足を意識し、触ると気持ちいい肉球がついた手袋とブーツを身につける。

 足首と手首までしっかりと覆うそれらを装着されると、わたしたちは手を使った行動がもう取れなくなった。

 手袋は軽く拳を丸めた状態で保持する形になっていて、不格好ではない程度にデザインが工夫されている。子供向けの着ぐるみには見えない、という意味だ。

 これらを周りの人にも手伝ってもらいつつ皆で身につけ、最後になったひとりがママさんに手袋を着けてもらうと、ヒトネコたちの完成――の、はずだった。

 少なくともわたしがいつもヒトネコになる時の衣装はこれだけで、それ以上何か身につけることはなかった。

 けれど今回は、それだけじゃ終わらなかった。

「これでヒトネコの基本衣装は終わりね~。あとは自由選択の装着分よ」

 ママさんがにこやかに言いながら、わたしの見たことのない道具類を、カートに乗せて出してくる。

(え……、えええっ!?)

 わたしはそうやって目の前に示された道具類を見て、目を見開く。


 それらの道具類はどう見ても――わたしの知る限り――どれもこれも性具と呼ばれる類いのものだったからだ。


 卑猥な形をしたものもあれば、どう使うのかすらわからないものもある。

 そんな道具がカートの上に所狭しと並べられていて、わたしは自分の顔が真っ赤になるのを自覚した。

 思わず周りの様子を確認すると、皆微かに赤面こそすれ、比較的平然とした様子で受け容れているように見える。

 美里でさえ、微かに頬を染めているだけで真っ赤にはなっていない。実態は、皆にはあらかじめ装着する道具の希望を出してもらっていたようだ。

「あくまで希望制だから、着けたくなければなにも着けなくていいのよ。実際そういう希望を出してる子達もいるしね」

 そうママさんが言うのと、数人が部屋の隅に寄るのは同時だった。たぶんあの人たちはいま着ている衣装だけを希望しているのだろう。

「一種類ずつ、希望者につけていきながら説明するから、宮子ちゃんも着けたいものだけ申告してちょうだい」

 そう朗らかに言ってくれるママさんに、とりあえず頷きを返す。

(……どれも着けたいとは思わなさそうだけど……着けた方が楽なものもあるかもしれないし)

 そう打算的に思うのと同時にわたしは「せっかくの小旅行、普段はしないことをしてみるのもいいかな」ということも心の片隅で考えていた。

 果たしてどんな道具があるのか。

 心臓がドキドキするのを感じながら、わたしはママさんの説明を待つ。

 後に、そんなわたしを傍からみていた美里から「ミヤったら、めっちゃキラキラした目で道具を見てるんだもん。こっちが恥ずかしくなっちゃったよ~」と衝撃の事実を告げられ、わたしは羞恥で転げ回ることになる。

 だけど、その時のわたしはそんなことは全く意識せず、ママさんの説明を待っていた。

 ママさんがまず手に取ったのは――金属で出来た、パンツのような道具だった。

「これは貞操帯……のようなものよ。スーツの上から身につけるわ」

 サイドの部分が分かれて開き、前後のパーツで身体を挟むように装着される。

 黒いラバースーツに銀色の貞操帯はよく目立つ。

「このパンツには、内側にわずかに突起があってね。クリトリス、秘部、肛門をそれぞれ抑えるようになっているわ。両足を動かせば動かすほど、刺激が与えられる仕組みね」

(それで、なのかな……)

 ママさんの説明を聴きながら、わたしはその金属の貞操帯のようなものを装着させられた人の様子をこっそり見た。その人は身体を小刻みに震わせながらも、なるべく脚を動かさないように堪えているようだ。

 震えるその人の貞操帯に、ママさんが指を這わせる。

「ひゃぅっ」

 指が触れた途端、その人は素っ頓狂な声をあげて悶えた。貞操帯の上から触られただけにしては、妙に反応が大きい。

 その疑問に対してママさんは、顔を真っ赤にして俯くその人の背中をゆっくり擦りながら、説明してくれた。

「ふふふ……この貞操帯もどきにはね、バイブレーション機能が搭載されているの。外側を撫でたり触ったりすると、その振動パターンが変化するようになっていてね。だから、こうすると……」

 コツコツ、とママさんの指先がその人の貞操帯を叩く。するとその人は電気でも流されているかのように、腰が跳ねていた。

「こうなるわけけね。人に触ってもらった方が気持ちいいけど、独り遊びも出来なくはないわ。宮子ちゃん、着ける?」

 さっきの人以外の装着希望者にも、手際よく貞操帯をハメながらママさんがわたしに尋ねてくる。

 わたしは一瞬どうするか考えた後、恥ずかしすぎて無理だということに気付いた。それを身につければ、ラバースーツに包まれた股間を隠すことは出来るけど、代わりにそんな機能があるんじゃ、とても平静でいられる自信がない。

 いくら旅の恥は掻き捨てとはいえ、限度がある。

 勢いよく首を横に振った。

 ママさんは無理強いすることなく、次の装備へと移行する。

「次は……これもいまのと同じようなものね、貞操ブラ。同じように外部の刺激を乳房や乳首に伝えるわ。乳首に対する刺激はこれを着けてる方が強く感じられると思うけど……どう?」

 それは、金属で出来たビキニの水着のようなものだった。

 さっきの股間に取りつけたものと同様の機能があるということで、謹んで辞退させてもらう。

 貞操帯もどきと貞操ブラもどき。

 両方を身につけた人は、ヒトネコになっているというのに、中途半端に下着だけ身につけているようにも見え、見ていて少々恥ずかしい。

 それがまた独特の魅力を生み出していることは否定できないけど、少なくともわたしはそういう姿にはなれそうにない。

 しかし意外とこの貞操帯と貞操ブラは人気なのか、着けることを選択する人が多いらしく、ざっと見た感じだと三分の一くらいが着けていた。

 美里は「窮屈なの嫌い~」と猫っぽい、というか彼女らしい理由で拒否していた。窮屈というなら全身スーツこそ窮屈だと思うのだけど。

 その辺はラバー素材と金属パーツで、美里なりに譲れない拘りがあるらしい。

 閑話休題。

 続いてママさんが手に取ったのは、普通のものとは明らかに違う――口枷だ。


つづく


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