ヒトネコトリップ! 6
Added 2019-09-30 14:43:29 +0000 UTCヒトネコになる理由は人それぞれ違う。
人としてのプライドや理性などのしがらみを捨て、心のままに人に甘えてみたい者もいれば、純粋にプレイの一環として、ヒトネコという状態を愉しんでいる者もいる。
例えば甘城美里。
元々の性格的な一致もあるが、彼女はヒトネコになって人に甘えることを好んで愉しんでいる。性的な行為は含んでも含まなくても構わず、ヒトネコとして人と接すること自体を愉しんでいるタイプだ。彼女のようなタイプはそこそこ多く、ヒトネコのひとつのスタンダードタイプと言えるだろう。
一方、彼女の友人である藤原宮子。
彼女はヒトネコになる理由にまだ個人的なものを得ていない。今回のヒトネコトリップに参加したのも、友人の勧誘や店の誘導に流された結果でしかない。ヒトネコになっている回数は他の者より多いものの、彼女自身がヒトネコを望んでいるかといえば、それは否であった。もっとも、彼女のことをよく知る美里や、彼女達が働く店で『ママさん』と呼ばれている女性にしてみれば、宮子はヒトネコの素質を間違いなく持っている。これからの成長を楽しみにしているのだ。
美里と宮子。少なくともこのふたりにとって、ヒトネコはそういうものである。
そのため、行程において体を動かせず、独りになってしまう移動時間は退屈な時間であり、寝て過ごすのが一番良い過ごし方だった。
しかし、ヒトネコになる理由が彼女達と違う者にとっては、移動時間中は自由に、積極的に愉しむことが出来る時間である。
つまりは――お楽しみの時間、なのだ。
狭苦しいケージの中で、そのヒトネコは器用に体を回転させ、お尻を入り口側に向けた。 仰向けになって、奥の壁に後頭部を着け、体勢を整える。
もしいま誰かが小窓からケージの中を覗き込んだなら、ヒトネコの股間と胸が見え、同時にヒトネコの蕩けた顔も見えただろう。
「にゃぁう……♡」
そんな自分の姿を想像したのか、そのヒトネコは喘ぎ声をあげつつ、自分の股間に手を這わせる。そのヒトネコはラバースーツに加え、貞操帯と貞操ブラを身につけていた。
それらの機能は、外からの刺激を中に伝えること。
つまり貞操帯の上からヒトネコが手――ヒトネコ的には前脚というべきだが――を這わせると、その刺激が内側の突起に反映され、股間に直接刺激を与えることが出来る。
「んにゃっ♡」
それによって指の動きが肉球グローブによって制限されているヒトネコも、手にローターを持って股間に当てるのと同じくらいの快感を得られるのだ。
手で貞操帯や貞操ブラを擦り、ヒトネコは気持ちよさそうに啼いた。
感じるにつれ、じわじわと体が熱くなっていく。
そんなヒトネコの啼き声に呼応するように、周囲のケージからも声が聞こえ始めた。
「にゃあぉ……っ♡」
「ふにゃぁ♡」
「う……なぁぉ♡」
独り遊びに興じるヒトネコ達の嬌声が、トラックの荷台に艶やかに響き渡る。
ごそごそ、と蠢く彼女たちの身じろぐ音もその一部となり、それぞれがそれぞれ、狭いケージの中で自由に快楽を貪っているのが伝わって来ていた。
そんなヒトネコたちの合唱を、ケージの外にいる女性は耳を澄ませて聴いていた。そして、本当に楽しそうに、笑みを浮かべる。
「うふふ。皆楽しそうね。いいことだわ」
彼女は管理者としてそこにいる。
ヒトネコたちに何かあった時には、すぐに助け出せるようにしているのだ。
それが彼女の責務であるとはいえ、数十のヒトネコ全員に気を配り続けなければならないというのは、なかなか難しい。並みの人間なら、あっという間に気力が消費され、疲弊してしまうことだろう。
しかし彼女本人は、そのかなり厳しい責務を、むしろ役得であると感じていた。
目の前に並んだ数多あるケージひとつひとつに、ヒトネコがいることを考えるだけで、彼女は幸せな気分になれるのだ。
時折、小窓からこっそり中を覗き込み、安らかに眠っているのを見たり、快楽に浸っているのを見たりするだけでも、彼女は楽しめている。
そして、そんな彼女が見てくれているからこそ、ヒトネコたちも安心して『お楽しみ』に興じることが出来るのだった。
「うん、バイタルチェック終了……皆大丈夫そうね」
彼女はそう言いながらも、藤原宮子が入っているケージを覗き込む。
宮子はヒトネコになっている回数こそ多いが、こういった扱いには慣れていないため、他のヒトネコよりも注意を払う必要があった。それは宮子に対する純粋な気遣いという面もあるが、ヒトネコ状態での人気が高い宮子を下手に扱って、彼女がヒトネコになるのを拒否するようになってしまったら店の損失にも繋がるからだ。
彼女は宮子をからかうような言動を良くするが、本当に宮子が嫌がるような一線は越えないように細心の注意を払っている。
だからこそ、今回のチェックでも宮子に関しては何度も行っているのだが。
(ちょっと不安だったけど……この調子ならまったく心配なさそうね)
宮子はケージの中で丸まって眠っていた。一般的な女性よりも体が柔らかく、また閉所に対する圧迫感なども全く感じていないのか、拍子抜けするほどスヤスヤと眠っている。
その自然な寝姿は、まるで本物の猫のようだ。
「さすが宮子ちゃん……というべきなのかしら」
ヒトネコの素質、というものがあるとすれば、間違いなく宮子は逸材だった。
とはいえ、本人的にはいまだ吹っ切れていないところがあり、恥を感じている初々しい姿も彼女の人気のひとつなのだが。
「この先が楽しみね」
そういって彼女は宮子のケージから離れる。次に目を向けたのは、宮子の真下に位置するヒトネコのケージだった。
中では、あられもない姿をした発情したヒトネコが、仰向けにお尻を窓の方に向け、両足を開いて秘部をさらけ出しながら、両胸を自分の手で揉んでいた。
肉球グローブをつけた手で乳房を弄っている向こう側に、気持ちよさそうに蕩けている顔が見える。
とろんと蕩けていた目が、覗き込まれていることに気付いたのか、焦点が定まった。
見られている。
貞操ブラを活用してオナニーしていたところを、お店のママさんが覗き込んで来た。
思わず手を止めかけたあたし。人としての恥が沸き上がって来て、顔が熱くなるのを感じる。
けれど、いまのあたしはヒトネコなのだと、すぐに思い直した。
ヒトネコのいいところは、誰にはばかることなく、思うように行動していいというところにある。
SMの世界でよくあるヒトイヌプレイだと、ご主人様の言うことに従わなければならない場面も多いけど、ヒトネコにはその制約がない。
自由奔放に振る舞い、好き勝手に遊んでも構わない。
気分屋の自覚があるあたしは、ヒトネコのスタンスがとても気に入っていた。
気持ちよくなっているのだから、それを恥じることなんてない。
むしろ見せつけるようにすればいい、と思い直した。
「にゃぁお♪」
そういう気持ちを込めて啼き、あたしはオナニーを再開する。
ママさんは窓の外からじっとあたしを見詰めていた。その目はとても優しい。
お店にくるお客さんもそうだけど、そうやって全てを受け容れてくれると信頼できるから、こうしてヒトネコに成ることを躊躇わずに済むのだ。
「ふにゃ……あっ♡」
胸を揉んでいると、じわじわと快感が高まっていく。窮屈な体勢であることも相まって、どこにも快感を逃がしようがない状態での責めとなり、なかなか強烈だった。
十分に気持ちを高めた後、今度は貞操帯に手を這わせる。
触れた瞬間、思わず腰が跳ねた。
「ふにゃ、あっ」
声が止められない。じっとママさんがあたしを見ている。優しい目で。
恥ずかしさが堪えられなくなって、脚を閉じたくなる。閉じれば、少なくとも感じている顔は見られなくて済む。
(でも……みて、欲しい……っ)
そういう気持ちが湧くのも、どうしようもない事実だった。
だからあえて脚を閉じずに、ママさんの目を見ながら、見られていることをハッキリ自覚しながら、手でひたすら刺激を与え続ける。
逝くまでにそう時間はかからなかった。
「にゃふっ、にゃああああッ♡」
縮ませた体を震わせ、涙の滲む視界を真っ白に染めながら、あたしは激しく絶頂する。
そんなあたしを、ママさんは最後まで見てくれていた。
しかし一度絶頂に達してしまうと、少し冷静な思考が戻ってきてしまう。いくらヒトイヌに成っているとはいえ、恥ずかしいと感じる人間のあたしもあたしなのだから。
余韻に震える脚を動かして脚を閉じ、狭いケージ内で体を回転させて横向きに丸まる。
身体全体が横を向いたので、ママさんからはあたしのお尻しか見えていないはずだ。
少し首を持ち上げ、横目で小窓の方を窺ってみると、ママさんが小さく手を振っていた。
「ふふっ、とっても可愛かったわよ」
短い感想。あたしは顔が真っ赤になるのを自覚しつつ、ママさんの視線から隠れるように体を丸め直した。
ママさんがそれ以上何かいうことはなく、そのまま離れていったようだ。
恥ずかしさで死にそうだけど、見て貰えて嬉しいという感情も確かにある。
(……目的地に着くまではもう少しあるかな)
無理な体勢で愉しんだからか、少し体がだるい。
あたしは目的地に着くまでの間、寝ておくことにした。
移動中のお楽しみもいいけれど、目的地でも愉しまなければならないからだ。
体力を蓄えるため、あたしは体を丸めたまま、眠りにつく。最初の頃はこんな姿勢で寝るのは大変だったけど、いまではすっかり慣れたものだ。
ヒトネコとして奔放に振る舞う楽しさを予感しつつ、あたしは眠りに落ちるのだった。
目覚ましの音が響く。
普段かけている目覚ましと音が違うなと思いつつ、目覚ましを止めるために手を伸ばそうとして――ケージの壁に思いっきり手を打った。
「に”ゃっ!?」
思わず凄い声が出てしまったけど、幸い打ち付けた手に痛みはない。ある程度の厚みがある肉球グローブが衝撃を吸収してくれたみたいだった。
自分の手がそれに包まれているのを見て、わたしは自分の状況を思い出す。
(あ、ああ……そうだった……いま旅行中なんだった)
ヒトネコに成って、独り専用のケージの中に入れられ、トラックで運ばれているところだった。
(ん……わたし……我ながらよく寝れたなぁ……)
一度寝てからだと、改めてこのケージの狭さを実感してしまう。
体を丸めれば、まあなんとか寝れなくはないけど、寝れない人は絶対寝れない狭さだ。
わたしは眠気を完全に払うため、くわりと大きく口をあけてあくびをする。
(あ……ちょっといまの猫っぽかったかも。別に猫に成りたいわけじゃないんだけどなぁ)
とは思いつつ、手の甲で顔を擦る。これもまた猫っぽい仕草で、少々毒されすぎな気がしてきた。
(美里がいつもこういう仕草するから……移っちゃった)
わたしとよく一緒にヒトネコに成っている美里は、猫らしく、かつ可愛い動きの追求に余念がない。その情熱をもうちょっと大学の講義に向ければ良いとは思うけど、それは言っても仕方のないことだ。
ともかく、眠気を覚ましたわたしは、小窓から外の様子を窺う。
わたしが納められた側から見て、向かいでママさんがケージの扉を開け、中のヒトネコを外に出してあげていた。少し高い位置に詰まれた子には台を用意してあげていて、それを伝って床に降ろしてあげている。ヒトイヌ拘束と違って、比較的四肢の自由が利くから出来る芸当だろう。四肢を折り畳むようにする拘束だったら怖くて出来ない。
(目的地についた……みたいね)
そう考えていると、ママさんがわたしのいる側の方にやってきた。
ママさんはいつもの優しい笑顔で、わたしたちに向けて言う。
「さあ皆。最初の目的地に――『ヒトネコ横町』に着いたわよ」
ヒトネコトリップ最初にして最大の目的地にわたしたちは到着していた。
開かれたトラックの扉の向こうに、昔ながらの商店街の景色が広がっていた。
つづく