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夜空さくら
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ヒトネコトリップ! ~ヒトネコホテル~ 5


 黒色のヒトネコが、床に着いた俺の膝にすりついて来る。

 ヒトネコとして甘えることに慣れていないのだろう、その動きはどこかぎこちない。

 俺は手にしたねこじゃらしローターを、まずはスイッチを入れないまま黒色の子の顎に触れさせる。これにはローターの機能はあるものの、外見だけを見れば大きな猫じゃらしそのものなので、毛先のふさふさ具合も再現されている。

 手触りがとてもよいその部分で、黒色のヒトネコの顎の下をくすぐる。

「んにゃ……にゃあ……っ」

 絶妙な刺激になったのか、身体を竦めてしまうヒトネコ。

 だがその目が一瞬とろんとしたのを俺は見逃さなかった。

(うん……やはり触れ合いに慣れていないだけか。素質は十分って感じだな)

 この子の場合、いきなり手で触れるより道具で遊んであげた方が良さそうだ。

 俺はそう考えて、両手にねこじゃらしローターを持つ。それを使って黒色のヒトネコの身体を弄り始めた。

 顎の下を撫でつつ、背骨に沿ってローターを動かす。

「んにゃっ、にゃふ、っ!」

 くすぐったかったのか、黒色のヒトネコは身体を震わせながら身悶える。ローターを振り払おうとしない辺り、良く我慢出来ているというべきか。

(この子は受け身なんだな……それならそれで接し方を変えないと……)

 例えばさっきまで遊んであげていた栗色の子は、嬉々として自分から身体を擦り付けてくるタイプだった。

 そういう子は、自分から気持ちよくなれる場所を晒すし、触って欲しい場所の主張が激しいのでわかりやすい。こちらも相手が求めるように触ればいいだけだから、扱いとしては簡単だ。

 しかし受け身な子が相手の場合、そうはいかない。

 受け身ゆえに、気持ちよくもないお触りを我慢してしまう可能性がある。逃げたり抵抗したりすることではなく、ただじっと動かずに耐えるのだ。

 そうなると気持ちよくなれないし、お触り自体に拒否感が生まれてしまうことがある。

 一度そうなるとそれを克服するには相当時間が必要になるし、そもそもヒトネコになりたくないと思ってしまう危険があった。扱いには慎重にならなければならない。

(ヒトネコになってくれる子を減らすなんて、ヒトネコ愛好家にとって損失もいいところだからな……)

 ここに集まるヒトネコ愛好家の間で、ヒトネコの意志を尊重することが徹底されているのはそういう理由だ。

 ヒトネコとの触れ合いには、慎重に慎重を期さなければならない。

 無論、各々の好みど真ん中のヒトネコを前にして冷静さと理性を保つ、というのは並大抵の苦労ではない。だが、それをきちんと出来てこその触れ合いである。

 愛好家の中には自分が気持ちよくなれれば良いと考えている者もいるが、俺の知る限りは少数派だ。

 俺も当然、ヒトネコの意志を最大限尊重する。

 ゆえに、慎重に黒色のヒトネコの反応を見極めながら、猫じゃらしによる愛撫を続けた。

 一般的に性感帯となる乳房や秘部はあえて避け、喉元、背中、うなじ、太ももなどの部位をじっくりゆっくり解していく。

「ん……っ、にゃぁ……」

 最初はびくつきながら、猫じゃらしが触れる度に身体を硬くしていた黒色のヒトネコだが、だんだんその身体の硬直がマシになってきた。

 猫じゃらしでくすぐられるのに慣れてきたのだろう。

 明らかに力みが取れ、猫じゃらしの動きに身を任せるようになってきている。

(思ったより順応が早い……これならいけるか?)

 まずは軽いジャブから試してみることにする。

 片方の猫じゃらしで顎下をくすぐり、頭を上げさせる。

「んにゃぉ……」

 ちょっと角度を付けてやると、自然とそれに合わせて顔も上がった。その結果、狙い通り彼女は胸を張る姿勢になり、その胸元が晒される。

 彼女のそれは、小さいわけではなく、過度に大きいわけでもない。巨乳というよりは美乳という表現がぴたりとくる。そしてラバースーツによって形が整えられ、なおかつ薄手のものであるため、身体のラインがかなりハッキリ見えている。

 俺はその乳房の先端が――乳首が、確かに存在を視聴しているのを見た。

(よしよし……いい感じだ)

 乳首がそうなっているということは、黒色のヒトネコの意志はともかく、身体としては気持ちよくなっているということである。その子自身はまだその部分がそうなっていることに気付いていない。

 床に寝っ転がって黒色のヒトネコの様子を窺っていた栗色のヒトネコは、俺の視線を辿ったのか、乳首の状態に気付いたようだった。

 思わず視線を向けると、栗色の子の目がにやりと半円を描く。

(あとで弄る気だな……あんまりからかってあげないでやってくれよ?)

 そういう意図を込めて苦笑すると、栗色の子はすっとぼけたように視線を斜め上に向けた。弄る気満々のようだ。

(まあ、一緒に触れ合い場にくるような仲なんだし……その辺は任せるしかないな)

 俺に出来るのはいまこの場で配慮するだけで、あとのことまではフォローできない。

 分を弁えて行動するのも、ヒトネコ愛好家の勤めである。

 改めて、俺は黒色のヒトネコとの触れ合いに集中した。





 猫じゃらしの細い毛が、全身の感覚を鋭くさせている。

 絶妙なタッチの刺激はそれそのものはくすぐったい程度なのに、繰り返される度に徐々にその刺激が強くなっていっているかのようだった。

「にゃふ……、んにゅぅ……っ!」

 堪えようとして思わず変な声がでてしまい、顔が真っ赤になるのを感じる。

 幸い男の人はほとんど表情を変えず、優しい微笑みを浮かべたまま、その手を動かしていた。

 程よく全身を撫でさすられていくと、徐々に弄られるのに抵抗がなくなっていくのを感じる。自分でも身体から緊張が解けていくのがわかるのだ。

(うぅ……いまさらだけど……見ず知らずの人の前でこんな格好をして、体中弄られてるのに……気持ちよくなるなんて……)

 普通なら恥ずかしくて死にたくなることだろう。

(わたしはヒトネコ……ヒトネコ……)

 そう心の中で念じて、意識しないように勤める。

 わたしは美里と違って、積極的に自分を誤魔化して現実逃避をしないと、自分の現状を受け入れられなかった。

 自分でも不器用だと思うけど、それくらいしか自分に出来ることがないから仕方ない。

 そう念じて意識を散らしていると、触れ合いが気持ちよく感じるのは嬉しい誤算だった。

 男の人はわたしの嫌がるところには絶対に触れてこなかったというのもあって、純粋な気持ちよさに集中することが出来たのだ。

 そうして、少し良い気分になってきた頃、不意にねこじゃらしの動きが変わった。

 それまでは身体の表面だけを撫でる動きが多かったのだけど、顎の下を執拗に擦りあげてくる。

「んにゃっ」

 それまでとは違う強い動きに、思わずわたしはその猫じゃらしの動きに合わせて顎をあげた。

 漫画の表現でいう顎クイ、というものに近いだろうか。猫じゃらしの動きに身体を委ねるようになっていたので、自然にそういう状態にされていた。

 そうして自ら晒してしまった顎の下を、ねこじゃらしが執拗に撫でてくる。

「ふにゃ、あ……」

 いままでも顎の下は何度もくすぐられてきたけど、喉をさらけ出すように仰け反った状態だと、喉元に触れられる感覚が違ったものになる。

 気持ちいい感覚に思わず目を細める。いままで顔は伏せがちだったから、改めて男の人が真正面に座っているのを自覚して、顔が熱くなるのを感じる。

 自分がいまどんな顔をしているのか、考えかけてやめた。

(いまのわたしはヒトネコ……気にしない……気にしない……)

 自己暗示というものも案外バカに出来ないもので、わたしは落ち着いた気持ちでねこじゃらしを受け入れることが出来ていた。

 その猫じゃらしが、顎をあげたことで無防備になっていた胸元に触れる。

 乳房の膨らみの上、鎖骨に近い辺りを、猫じゃらしの先端が撫でていく。

 ゾクゾクッ、という感覚が身体を駆け巡った。

(そ、そういえば……その辺には全然触れられてなかった……っ)

 いままで触れてこなかったのは、あえてなのだろう。そうでなければ、胸と股間に一切触れてこなかったわけがない。

 わたしは思わず身体を硬くしかけたけど、ことここに到って恥ずかしがる必要があるかと考えると、自然に身体の力が抜けた。

 それはここまでの彼の触れ方が、とても心地の良いものだったからだ。十分に馴染むまで手を出さずにいてくれた。その信用があって、きっとここからの触れ合いも気持ちいいものになるだろうという確信が持てた。

 だからわたしは逃げずにその場に留まって、猫じゃらしの動きを待つことにする。

「ふー……ふー……ふー……」

 緊張で呼吸が荒くなる。猫じゃらしは少し逡巡するように揺れつつ、いままで触れて来なかった胸の愛撫を開始した。

 膨らみに沿うように猫じゃらしが動く。まずは乳房の縁をなぞるように、円を描く動きで刺激を与えてくる。

「んにっ……ふ……っ」

 いつのまにか顎から猫じゃらしは離れていた。ふたつの猫じゃらしが、わたしの両胸を同時に撫でている。わたしは顎をあげ、自然に胸を張ってしまっている姿勢のまま、そのふたつの動きをじっくりと味わっていた。

 くすぐったいというだけじゃなく、気持ちいいという感覚が強く出ている。

 変な声がでそうになるのを必死に堪えなければならないほどに、その刺激は無性に激しかった。

(うう……ただ触れられているだけなのに、こんなに……気持ちいいなんて……!)

 愛撫というのはまさにこういうことのことを言うんだろう。男の人は相当なテクニシャンだった。

 ひとしきり縁を撫でられた後、ゆっくりと猫じゃらしの感触が先端部に向けて移動してくる。乳房の縁でさえ気持ちよかったのに、あの場所を弄られたらどれほどの感覚を得ることが出来るのか。

 私はじっとその時を待った。

 猫じゃらしの先端が、わたしの先端に、触れる。

「にゃッ!?」

 瞬間、電流が流されたのかと思った。猫じゃらしの毛は決して鋭いものでも、硬いものでもない。

 なのに、針で突かれたような衝撃がわたしの身体を貫いた。

 それは単なる痛みではなく、強い刺激。身体と心が十分にできあがっていなければ、激痛と勘違いしていたかもしれない。

 予想外に強い刺激に、わたしの身体は跳ね、よろめき、後退しようとして。

「ににゃっ――ッ!」

 思ったように身体が動かず、そのまま仰向けにごろんとひっくり返ってしまった。

 自分でもびっくりして、その体勢のまま、ぽかんと天井を見上げてしまう。

 少し慌てた様子で男の人が側に移動してきた。天井を見あげた視界の端に、男の人の顔が入り込んでくる。反対側に、美里の顔も入り込んでくる。心配させてしまったようだ。

 男の人はゆっくり手を伸ばして来て、わたしの頭を撫でてくれた。怪我をしていないか、後頭部を打っていないか確認してくれたのだろう。

 わたしはひっくり返ってしまったのが恥ずかしくて、両手で顔を隠す。消え入りたい気持ちだった。

 美里がそんなわたしの手に、自分の手をぽんぽんと当ててきた。ドジを晒したわたしを慰めてくれているらしい。

 少し落ち着いて来たわたしは、とりあえず起き上がろうかと身体を捻ろうとして――男の人にお腹に手を置かれ、その動きを封じられた。暖かくて大きな手だ。

 びくっと身体を震わせつつ、恐る恐る翳していた手を下ろして男の人の方を見る。

 男の人は、にっこりとした笑顔で、もう片方の手に持った猫じゃらしを、わたしの胸元に触れさせる。

(こ、この体勢で愛撫を続けたいってこと……?)

 わたしはあおむけに寝っ転がった体勢になってしまっている。こうなると自然と両手両足が開き、身体の前面が無防備に晒されてしまう。閉じられなくもないけど、手をいつまでもあげておくことはできない。

 触る方にとっては、この体勢の方が触りやすいのだろうけど。

「ふー……ふー……」

 再び呼吸が荒くなり、心臓が痛いほど大きく鳴り響き出した。緊張で喉が渇き、思わずごくりと息を吞む。このまま触れられてもいいのか、心の中に疑問が湧いた。

 けれど、それでも体勢を崩そうとしなかった時点で。


 わたしはすっかり――その男の人の術中だった。


つづく


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