学園島 その4
Added 2020-01-06 14:42:51 +0000 UTC脱衣所と浴場とを隔てる、曇りガラスの扉に映ったシルエット――それは、あまりに異質な形をしていた。
まず葵は、人影の股間部分の輪郭がおかしなことに気付いた。
細長い棒のようなものと、丸い玉のようなものが、股間からぶら下がっているのだ。
(なに、あれ……? なにか、ぶら下がって……?)
最初、葵はそれがペニスなのかと考えた。それにしては大きかったが、人間の股間にありうるもので、細長いものといえばそれだったからだ。
葵は女湯のつもりでいたが、浴場というだけしかなく、男湯と女湯に分かれていたわけではない。
だから浴場は男女共用なのかと、一般人と変わらない視点でそう考えた。
だが――ガラス戸を開けて脱衣所に入ってきた者の姿を見て、葵は自分がいかに常識的に物を考えていたか、知ることになった。
脱衣所に入ってきたその人物は、視線を感じたのか、葵たちの方を見た。
「ん……? 晶くんと一緒にいる君は、初めましてだね。よろしく」
その人物は、女性であった。
落ち着いた声音で、葵に声をかけてくる。
「ひゃ、ぅ……は、はい。井塚葵です」
思わず葵の声が上擦ったのは、その人物の姿があまりに異様だったからだ。
彼女は、落ち着いた物腰とは裏腹に、両足をがに股に開いて歩いていた。
それも、中年男性が自然となってしまうようなレベルのがに股ではなく、力士が四股を踏んで土俵入りするときのように、両膝が肩幅以上に離れ、足の先が左右に向いているほど、露骨な開き方だ。そこまでがに股になっては、かえって歩きにくいだろう。
しかしそれは、無理からぬ事情があってのことだった。
彼女の股間には、巨大な男性根が、同じように巨大な金玉を携えて、鎮座していたのだ。
その逸物は彼女の腕ほどに太く、金玉は固めた拳のように大きい。そんなものが股間を占拠しているため、彼女はがに股にならざるを得ないのだ。
彼女が足を閉じれば、閉じた足によってその男性器が潰れ、地獄の激痛を味わうことになってしまうだろう。
彼女の本来の性別からすると有り得ないはずのその男性器は、ちゃんと血が通っていて、作り物ではないことを示すように、びくんびくんと脈打ち、表面には赤黒い血管が浮かび出ている。凶悪な見た目、といって差し支えなかった。
彼女自身は落ち着いてクールな振る舞いをしているだけに、その異常さが際立っていた。
「ああ、驚かせてしまったかな。ごめんね」
葵のことを気遣う常識的な態度と、異常すぎる姿が両立しない。
「い、いえ……そういうのもあるんだ、って思っただけですから……」
そうとしか葵は返せない。
家畜のように体の至るところに穴を空けられた晶や、四肢や耳を切断された胡桃など、『元々あった何かを失う』という実例はすでに見ていたものの、いま目の前にしている彼女のように『本来あるべきではないものを持たされる』こともありうることを、葵は知ってしまった。
それは、今後自分がどっちの形にされてしまうのか、わからないということでもあった。体の一部を失う想像はしていた葵だったが、何かを生やされるという形は想像していなかった。
それは一抹の不安を覚えることで――同時に、楽しみなことでもあった。
彼女もまた、度を超したマゾヒストであるのだから。
体の奥が切なくなるのを感じていると、ふたなりにされた女性が自己紹介を葵に向かって行った。
「私の名前は家倉尚美。ペニスなどの男性器を移植する手術を受けさせられてね。射精も出来るんだよ。もっとも精液に生殖能力はないから、完全にそういったプレイ用のものだね。ちなみに一度の射精で出る精液の量はとても多いから、もしも飲む機会があったら精液で覚えれないように気をつけてね」
「……?」
からかい混じりであったが、尚美の忠告と思わしき言葉に、葵は首を傾げる。
彼女の精液を飲む機会があるのだろうか、という疑問だったが、先達の晶は、尚美の口にした内容に深く頷いている。
「ナオっちの射精量はほんとやばいんだし。ただでさえアレがぶっとくて長いから、喉の奥までいっぱいになるのに、そこから喉の奥に向かって、どろっと濃い白い液体がぶわって流れ込んでくるんだし!」
「ふふっ、最初に晶くんにして貰ったときは、余りの量に飲みながら吐いてたもんね。あのときの晶くんは無様で可愛かったな」
無様、という言葉は一般的には侮蔑の言葉だが、この島における彼女たちの間では褒め言葉の一種だ。
無様と言われたことは一切気にした様子はなく、晶はぷぅ、と不満げに頬を膨らませる。
「あ、あんなのいきなりは無理だし! 慣れた最近は一滴も零さず飲めるようになったし!」
姦しく騒ぐふたりに置いてけぼりになった葵は、手をあげて二人の気を引き、恐る恐る質問した。
「えっと……それを飲む機会……私にもあるの? いえ、あるんですか?」
「タメ口でいいよ。ここじゃ年齢なんて意味ないし」
快活に応える尚美自身、初めから葵に対して敬語は使っていなかった。
「質問の答えだけど……所有者さん次第ではあるけど、十分ありえると思うよ」
「ナオっちはこの体だから、お客さんの責めの補助に回ることがあるんだし。この島に来る人は、大体普通の人だから、持久力に限界もあるしねー」
「その点、私は色々と改造されてるからね。激しい責めを代替させるにはちょうどいいってわけ。一度も抜かずに五連発も余裕だよ」
「あれは二度とされたくないし……見るからにでっかいキンタマとはいえ、あんな量が本当にそこに入ってたんだし?」
「私の身体は限界を超えて精液を作るように弄られてるからね……だから、数日射精を我慢するだけで、睾丸が破裂しそうなほど膨らむんだ。……溜めると生理痛並に痛いから、出来れば射精管理はされたくないけどね」
しみじみと尚美は呟く。
「どれくらい精液が溜まるか、正確に測ったことはないけど、ざっと1リットルくらいは圧縮された精液が溜まるんじゃないかな?」
さらりと恐ろしいことをいう尚美だったが、晶は特に大きな反応を見せなかった。「ナオっちは大変だし……」と同情するように呟くだけだ。
そんなふたりの先輩の姿を見て、葵もそれがこの島での日常なのだということを、深く実感する。
「葵くんの所有者さんは誰なんだい?」
「あー、えっと……吹田、って人みたい」
応えた葵に、尚美はなんとも形容しがたい顔をした。
「ああ、吹田様だったか。だとすると、しばらくは葵くんと私は絡むことがないかもしれないな」
「そうなの?」
「あの人、私ほどの大きな人体改造とかはしないタイプだからね。自分で犯すことに重きを置いている人でもあるし……何より、あの人はふたなりがあんまり好きじゃないみたいなんだよ」
深く溜息を吐く尚美。
そんな彼女を慰めるように、晶が肩を叩いた。
「それぞれの好みがあるから仕方ないし!」
「それはわかってるんだけどね……吹田様も全く呼んでくれないわけじゃないし」
必要な時は呼ぶが、その頻度はあまり多くないのだ。
責め役として優秀な尚美は、出番があるに越したことはない。だからあまり呼んでくれない吹田は尚美にとって複雑な感情を抱く相手なのである。
そんな尚美を励ますように、晶が言う。
「最悪なのは、面と向かって『お前は要らない』とかいう男だし! あたしはそんなことをいう奴のために、家畜になったんじゃないし!」
頬を膨らませて苛立ちを露わにする晶を、今度は尚美が慰める。
「気持ちはわかるよ。私もごくたまに汚らわしいものの扱いを受けることがあるしね。この前なんて、廊下を歩いていたらいきなり股間を蹴り上げられてさ……さすがに暫く悶絶したよね」
睾丸を蹴り上げるというのは、直接内臓を蹴り飛ばす痛みと大差ない。
尚美は先天的には女性であるため、本来ならば理解するはずのない痛みだ。それを、ふたなり改造手術を受けた彼女は、理解してしまったのである。
困ったように体験談を口にする尚美であったが、彼女が浮かべている表情を見た葵は、何とはなしに指摘していた。
「でも、嬉しそうね?」
「うっ……まあ、この島にいることから察しておくれよ」
くどいようだが、この島にいるのは破滅願望を持つような、度を越したマゾヒストばかりなのである。
「ナオっちは良かったかもしれないけど、本来無闇に奴隷や家畜に危害を加えるのはNGじゃなかったし?」
「うん。だから割と暴挙ではあったんだよね。私は蹴り上げられた痛みで悶絶して気絶しちゃったから知らないけど、その人には結構キツいペナルティが課せられたみたいだよ」
「ああ、つまりその程度のビジターだった、ってことだし? 代表的な出資者なら厳重注意くらいで済むはずだし」
「そうみたいだね。詳しくはわからないけど。……っと、すまないけどそろそろ服を着てもいいかな。肌寒くなってきちゃった」
浴場からあがってきた全裸のままで話し込んでしまっていたため、尚美は少し体が冷えてしまったようだった。その規格外のサイズの睾丸も、寒さによって縮こまっている。
「あ、うん。引き留めちゃってごめんだし!」
「風邪引かないでね」
そう気遣う葵に、尚美は快活に笑ってみせた。
「体の免疫力も強化されているから、たぶん大丈夫だけどね。ありがとう。また今度ゆっくり話そう」
相変わらずクールな態度であったが、それをすべてぶち壊す不格好ながに股で、尚美は自分の脱衣籠の方に歩いて行った。
(……あんな大きなものをぶら下げてるのに、どうやって服を着るのかしら)
一瞬そんなことが気になった葵だったが、きっと何かしら専用の服があるのだろうと解釈する。
そんな葵の前で、脱衣籠を手に取った晶は、その籠の中に、着ていたオフショルダーの上着を放り込む。
「あたしたちもお風呂入るし! あたしが葵さんの背中を洗ってあげるし!」
「あ、ありが……と……」
葵が思わず言葉を失ったのは、いままで隠れていた晶の胴体の有様にあった。
葵は最初広間で晶の胸を見た時、服が不自然な盛り上がり方をしていたので、乳首に大きなピアスでも貫通しているのだろうと考えていた。
露わになった彼女の乳首には、確かに特別な処置が施されていたが、それは葵の想像を超えた処置であった。
思わず目が釘付けになってしまったのも、無理はない。
「あ、驚かせちゃったし? 『これ』、ちゃんと取れるんだし」
そういって晶は片手で片乳を掴み、そして、先端の円形の金具に指をかけ、乳房の先端を、きゅぽん、と引き抜いた。
葵の乳房は、三分の一ほどが排水口の穴のように変えられており、先端は金具の着いたゴム栓で塞がれていたのである。
ぽっかり空いた穴の奥には、どろりとしたピンク色の肉壁が見える。
「ちゃんと内側も処置されてるから大丈夫だし。いわゆる……ニップルファックが出来るように改造されてるんだし」
なんということはない様子で、晶はその乳房に空いた穴に自分の指を突っ込む。くちゅり、とまるで性器を弄った時のような、いやらしい水音が響いた。
「い、いたくない……の?」
「むしろ気持ちいいし! 葵さんも触ってみるとわかるし!」
まるで大きなバストを誇る女子学生が、興味を持った友達に「触ってみる?」と促すように、晶は言った。
ごくりと葵は息を呑みつつ、晶の差し出した乳房の穴へと指を伸ばす。
恐る恐る排水口の淵を越え、穴の中へと指を入れた葵は、そっと内壁に指を触れさせた。
「ん……っ」
「わっ、ごめん、痛かった?」
「ううん。気持ちいいんだし。……葵さんは、気持ちよくなかったし?」
「う……なんて、いうか……その、いけないところを触ってる気がするわね……」
生暖かく、湿った感触は、それこそ自分の秘部を触っている感触と大差がなかったのだ。
(男の人なら、ペニスを入れたいって思うのかしら……)
尚美だったらどうなのだろう。ふとそんなことが気になった葵は、思わず視線を尚美が去って行った方へと向ける。
その動きで何を考えたのか晶は察したらしく、苦笑いを浮かべた。
「さすがにナオっちのペニスは入らないし。入れようとした人はいたけど……さすがに危険ってことでドクターストップがかかったし」
「やろうとはしたんだ……」
尚美のペニスの太さや、晶の胸の穴の大きさからすれば、どう考えても入りそうにないものだ。
それでも試させられはしたということから、自分も含めたこの島の女性たちが、来訪者にどういう扱いを受けるのか、葵は理解してしまう。
そしてそういった扱われ方は――彼女にとっても、とても期待してしまうことだった。
危うい期待に思わずぞくぞく震えている葵に、気付いているのかいないのか、晶は自分の胸の穴にゴム栓を戻す。
「葵さんも毛布を置いて、早く浴場にいくし!」
浴場に向かって歩き出す晶。
「そ、そうね」
我に返った葵も、適当な脱衣籠に羽織っていた毛布を放り込み、彼女の後に続くのだった。
つづく