学園島 その5
Added 2020-01-10 14:36:05 +0000 UTC荒い呼吸音と、ランニングマシーンの激しい駆動音が部屋に木霊している。
ランニングマシーンの上を走らされている彼女は、全身から滝のような汗を流しながら、懸命に足を動かしていた。
元々運動が決して得意な方ではない彼女――井塚葵が走るにしては、ランニングマシーンの速度設定はかなり厳しく、彼女が力を振り絞ってようやくついていける速度だった。
普通に学校の授業などで走らされているのならば、とっくの昔に走る速度が落ちていることだろう。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ……!」
それでも彼女は走る速度を一切緩めなかった。緩められなかった。
大きく口を開き、涎を含む色んな液体が撒き散らされるのにも構わず、ただひたすら懸命に走る。
外聞になど構っていられない、という余裕のなさがその決死な表情にも現れていた。
彼女がそれほど必死な形相である理由は、大きく二つある。
ひとつは、ランニングマシーンで走る彼女の後ろに、鋭い一本鞭を持った彼女を所有するひとりの男――吹田が立っていること。
彼は葵が走る速度を少しでも緩めた時、容赦なくその手に持つ鞭を振るった。
その鞭の狙いは正確で、葵の丸みを帯びた尻や背中には幾つもの鞭の跡が刻まれている。昨日散々に打ち据えた鞭の跡の上から、さらに傷跡が刻まれ、彼女の身体は痛々しく彩られていた。
「ほらほら、まだまだ走れ!」
葵の走る速度が緩んだ瞬間を見逃さず、吹田の鞭が振るわれる。今度の鞭は彼女のむき出しになっている尻を真一文字に打ち据えた。
「ヒギッ!」
鞭による痛みゆえか、走り続ける苦しみゆえか、大粒の涙を零しながら葵は走り続ける。
涙が視界を歪ませ、走りにくくさせていたが、彼女はそれを拭うことはできなかった。
彼女の両腕は、高手小手縛りの形で捻り上げたまま固定されていたからだ。
ただでさえこなすのが厳しい速度設定で、両腕が固定されて身体のバランスが取りづらいというのは、彼女の体力をより多く消耗させる。
「ハヒッ、ハヒッ、フヒッ、フハッ……!」
それでも彼女が走り続けなければならないもうひとつの理由は、彼女の急所に繋がった三本の鎖にあった。
それらの鎖は、ランニングマシーンが置かれた前の壁から伸びていて、彼女の女としての急所――左右の乳首と、股間のクリトリスに繋げられていた。
その先端は強力なバネを有するクリップになっていて、彼女の乳首とクリトリスをギザギザの歯に食い込ませながら引っ張っている。
強力なバネによって挟み込まれているため、それを付けられているだけでも辛いだろう。
その上で、その三点は鎖で繋げられている。長さに多少の遊びはあったものの、少し葵の足が止まれば、その瞬間容赦なく葵の急所三点を引き裂く激痛を与えるに違いない。
それを避けるため、彼女は全力に近い速度を維持し続けなければならなかった。
転ばないように懸命に、ただ必死に走り続ける。
そんな彼女の姿はなんとも滑稽で無様と言えるものだった。
おさげにした髪の毛を振り乱し、大粒の涙と鼻水、そして涎をまき散らし、むき出しの乳房をゆすり、後ろ手に両手を縛る縄を軋ませながら、いまにも崩れ落ちそうなほど震える膝で、なんとか堪えて走り続ける。
そんな風にして限界一杯まで追い込まれた彼女には、もはや何かを考える余裕など一辺もなくなっていた。
「ハヒッ、ハヒッ、はぅッ、あぅぅ……」
いよいよ彼女の足がもつれそうになった頃、吹田がランニングマシーンを止める。ゆっくりとランニングマシーンの動きが収まり、立ち止まれるようになった。
「ハッ、ハッ、ハッ――ヒギャッ!」
膝からその場に崩れ落ちた葵だったが、その動きで壁に繋がれた鎖がぴんと張り、彼女の急所三点が容赦なく引っぱられた。
まるで吊り上げられた魚のように、びくん、と身体を震わせた葵は、膝を突いた体勢のまま、腰や胸を突き出すように身体を反らせる。
そんな葵の姿を、吹田が嘲笑う。
「くくっ、何をやっているのやら……ほれ、立て!」
吹田の鞭が振るわれ、彼女の背中を打ち据える。
「ハヒッ! ……ハァッ、ハァッ、ハッ」
ガクガクと膝を震わせながら、葵がなんとか立ちあがる。
捻り上げられて拘束されている彼女の腕を掴んだ吹田は、そのまま葵の上半身を無理矢理倒させた。
そうすると、葵はお尻を後ろに向かって突き出す体勢になる。その股間を、吹田は後ろからじっと見つめていた。
彼女の股間には、太いバイブのようなものが押しこまれていた。走る障害にならないよう、身体の外には極力出ないようなものだったが、葵は走っている間ずっとそのバイブが膣内を擦り上げているのを感じていた。
吹田がそのバイブに指をかけ、無造作に引き抜く。大きなバイブが抜き出される感触に、葵は思わず悲鳴をあげた。
「んぎぃ……っ」
「ははっ、ずいぶんいい反応をするようになってきたな。ここはもう十分すぎるくらい解れたか?」
吹田の指が葵の膣に潜り込んでくる。埋めこまれていたバイブによって広げられていた葵の膣は、吹田の指くらいはあっさり飲み込んでしまった。
身体の中を無造作に触られる感触が、葵の背筋を這いあがっていく。
「はぅぅ……っ」
「くくく、安心しろ。これのせいでお前の穴がガバガバになることはないさ。これは私のものの形を模して作られたものだからな」
そういって吹田は自らの逸物をズボンの中から取り出す。確かにその形状は、いましがた葵の身体の中から引き出されたばかりのバイブの形と同じだった。
葵があられもない格好で走るのを見て、吹田のものも準備は万端になっていた。無機質なバイブとは違い、確かな命を感じさせるようにグロテスクに脈打っている。
「さあ、一分以内に私のものを満足させてみろ。できなければ、また走り込みの続きだ」
残酷な宣告を受け、絶望した表情になる葵。
そんな彼女の表情を楽しむようにしながら、吹田は容赦なく葵の膣に自分の逸物を挿し込むのだった。
そんな光景の映像が、学園の地下にある広間で再生されていた。
広間にはソファがおかれており、そのソファに座ったり寝転んだりしながら見やすい位置に、プロジェクターがあって、そこに葵が吹田に調教されている映像が流されている。
だぼっとしたオフショルダーの服を着た真辺晶は、自分の首に巻かれた太い首輪を弄りつつ、ソファのひとつに腰掛け、中央の机の上に置かれたポップコーンを口の中に放り込みながら呟く。
「うわぁ……これは普通にえげつない責めだし。あたしだったらぜったいムリだし……」
「私も無理だね。がに股じゃ、あの速度は出せない」
その晶の言葉に同意したのは、別のソファに座っていたふたなり娘の家倉尚美だった。
彼女は足を百度近く開くという、柄の悪い男性のような座り方をしているが、それは彼女の股間に聳え立つ逸物と規格外のサイズの睾丸が邪魔になるためである。
「乳首引っぱられるのもすっごく痛そうだし。まあ、あたしはもうなくなっちゃってるんだけど!」
「そういう意味じゃ、まだまだ序の口と言えば序の口かな。ピアスホールをあけて、そこに輪っかを通すくらいはするかと思っていたけど」
そんな彼女たちの足元には、四肢を半ばから切断されたヒトイヌの梅垣胡桃が寝転んでいる。彼女は犬の動きを模してゴロゴロと寝転びつつ、ちゃんと映像には目を向けていた。
「わぅん……」
そして力無く啼くと、尚美の足元から離れ、別のソファの近くに歩いて行く。
人が一人寝転べる大きさのソファの上では、精根尽き果てた様子の、全裸の女性――井塚葵が俯せに倒れていた。
「いたた……人ごとだからって、勝手なこと言ってっ……あいたたたっ」
全身が筋肉痛になっているらしく、わずかに身体を動かすだけで彼女は悲鳴をあげていた。
拗ねた様子の葵に、晶が苦笑いをしながら声をかける。
「ごめんごめんだし! 別に葵さんを馬鹿にしたわけじゃないし」
「ああ、晶くんの言うとおりだとも。こういう責めは、どれくらいキツいかは逆にわかりやすいから、感情移入はしやすいしね」
「まあ、二日目の責めにしては優しい方かな、とは思うし?」
「そうだね。吹田様はそこまで極端な人体改造をしない趣向っていうのもあるだろうね」
「あたしの所有者様なんて、二日目には右の乳首切り落としたんだし-。いま思い出しても、チョー痛かったし……」
「私は所有された直後に改造手術を受けて、いきなりこの身体にされたからねぇ……さすがにショックも大きかったね」
「あー、それわかるし。あたしも乳首が排水溝に改造されてすぐは、暫く本気で落ち込んだし……」
しみじみと自分たちの経験を語るふたり。
内容こそ悲惨なものだったが、そこに悲壮感はない。
全身が筋肉痛でまともに動けない葵は、小さく悲鳴を上げながら仰向けに寝っ転がり直し、二人の方に首を傾けた。
なお、プロジェクターによって映し出されている映像の中では、相変わらず葵に対する吹田による容赦のない調教が続いていた。
自分自身が喘いで呻く声が響く中、葵は少し顔を赤くしつつ、気になっていたことをふたりに尋ねる。
「いたた……そういえば、私避妊とかしてないけど……いいのかしら?」
「いいんじゃないし? 妊娠させるかさせないかは、所有者次第だし」
「うん。仮に妊娠したとしても、生まれた子どもは学園が引き取って育ててくれるから心配ないよ。会うことは出来ないけどね」
「そうなの?」
「外国に連れ出されて、そこで孤児として、一人前の大人になるまで育ててくれるよ。親がいない子達の中で育てられるから寂しく感じることもないし、結構な教育を受けられるから、よほどの事が無い限りは将来に困るということもないしね」
「至れり尽くせりねぇ……」
「極たまーに、そこで育った子がこの島にくることもあるみたいだし。いわゆる、蛙の子は蛙って奴だし?」
「不思議だよねぇ。産みの親に育てられたわけでもないのに」
果たして性癖は遺伝するのか。
三人はそんなくだらなくて答えの出ない話を、普通の女子学生がファストフード屋で恋バナを交わすような気楽さで交わしていた。
とてもではないが、凄惨な調教を受けてきた者と、現在進行形で激しい調教を受けている者が言葉を交わすテンションではなかったが、この島ではこれが普通の光景のうちだった。
程よく時間が過ぎ、話の肴になっていた葵の調教映像も一段落する。
「さて……名残惜しいけど、そろそろ明日に備えて寝ようか。特に葵くんはね」
ゆっくりと身体を起こす葵。若いゆえか、回復は早く、話し込んでいる間に全身の筋肉痛は少し和らいでいた。
「いちち……明日、最終日なんだよね……どんなことされるんだろ」
彼女の所有者である吹田は、三日間滞在することになっている。
つまり、明日の調教が終われば、暫く彼女は自由になるわけだ。
それは要するに、所有者不在の間の扱いが明日決められるということでもある。
この場にいる晶、尚美、胡桃のように、地下で暮らすことを余儀なくされるような、とんでもない処置を施されるのか。
それとも、この日を上回る激しい調教をされるだけで、それさえ乗り越えればあとはきままな学生生活を送っても構わないのか。
すべては吹田の胸先三寸で決まる。
最も、ある程度彼の傾向を理解しているらしい三人は、顔を見合わせて苦笑いをしていた。犬の振る舞いを義務づけられている胡桃も、同種の笑みを浮かべている。
「え、なにその顔……何か、あるのを知っているの?」
思わず問い掛けた葵に、三人はそれぞれの反応をする。
「それは、明日のお楽しみだし!」
「ああ。あまりネタばらしをしすぎると、君の演技にも支障がでるかも知れないしね」
「わぅんっ」
しれっと犬の鳴き真似をする胡桃が締め、その会話はそれで終わった。
葵はなんとなく納得のいかないものを感じつつも、あまり突っ込んで聞くのも野暮かと思い、彼女達に尋ねるのは止めるのだった。
三人と分かれ、自分に宛がわれた寝室で眠りに就く。
(明日、どんな処置が待っているのかしら……)
とっくに戻れないところに来ている彼女だったが、さらに深いところに落ちていく実感を受け、思わず葵の身体が震える。
その震えは恐怖に起因するものではなく――期待によるものだ。
彼女もまた、学園島に導かれるほどの、度の過ぎたマゾヒストなのだから。
つづく