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夜空さくら
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学園島 その9


『さあ、自分でスーツを身につけるんだ』

 吹田さんがそう指示を出してくる。

 洗浄された貞操帯スーツが、学長秘書さんから手渡された。

 改めて近くで見てみると、異様なスーツだった。

 レオタード、あるいはスク水の方が近いかもしれないけど、胴体だけを覆う形の、分厚い布地。その内側に、短い針が何本も立っていた。

 ほとんどの針の長さはそれほどでもないとはいえ、皮膚くらいは簡単に貫く長さ。仮にそれが無痛針だったとしてもぞっとしないのに、まず間違いなく痛みを軽減するような加工はされていないだろう。

 そんな地獄の仕打ちを行うスーツを、自ら身につけろという。

(ぜ、絶対……痛いわよね……)

 短くても細くても針は針。

 こんなものを身につければ、どれほどの痛みに襲われるか。どんな風に扱われても文句は言えないし、言うつもりもなかったけれど、自分で自分に痛みを与えるのは、また別の怖さがある。

 ずっしりと重いそれに尻込みしていると、吹田さんから声がかけられた。

『さっさとしたまえ。それとも、無理矢理着せられたいのか?』

 いっそ、その方が気分としては楽かもしれない。

 そう思ったが、無理矢理着せられるのもそれはそれで怖い。

(ううぅ……こわい……)

 私は意を決し、そのスーツの背中側を開いた。

 ぱっくりと開いた背中の切れ目。

 そこから足を差しいれて、足に対応する穴から外に出す。

 スーツの内側の針に触れないよう、恐る恐る通していき、膝くらいまで通したら、今度はもう片方の足をあげて背中の裂け目から穴へと通す。

「ふぃ、ぃ、っ……」

 私は思わず噛まされた口枷を強く噛みしめる。いまにも針が体に触れてしまいそうで、ヒヤヒヤして、手が震える。手が震えると針が体に触れそうになり、心臓がひゅっとしてしまう。

 足はとりあえず通したから、そこからゆっくり引き揚げていく。

 一瞬太ももに針が振れ、ちくっとした痛みを発した。

「ふ、ひぃっ」

 痛み自体は、鞭打ちに比べれば大したことはない。

 けれど、鞭で叩かれるのを我慢すればいいのと、自分から痛みが生じる行動をするのとでは、こっちの感じ方が全く違う。

 がに股気味に足を開き、針が体に触れないようにしながら、慎重にスーツを引き揚げていく。

 やがて、とうとう股間にスーツの股間部分が触れてきた。チクチクした鋭い痛みが連続で襲って来る。

「フーッ、フーッ、フーッ……!」

 呼吸が自然と荒くなってしまう。

 本当はしっかり最後まであげなければならないのだろうけど、さすがにこれ以上は踏ん切りがつかなかった。

 私は先に腕を通すことにした。同じようにスーツの背中の裂け目から腕を入れ、腕用の穴に腕を通す。

 ちくちく、と腕を通したあとの肩に痛みを感じた。スーツの肩に当たる部分が肩に触れて、痛みを発しているのだ。

 いよいよ痛みを避けられない――そう思った私は、不思議なことに気付く。

(……あれ?)

 体を丸め、なるべく針が体に食い込まないようにしよう、と思っていたのだけど、やけに余裕がある気がする。

 恐る恐る体を起こしてみると、相変わらず股間や肩にちくちくした痛みはあるものの、針が皮膚を突き破るほどの圧迫感は感じなかった。

(あれ、れ……? す、スーツが、大きい、のかな?)

 まさかそんなミスを学園島の人たちがするだろうか。

 私は疑問に思いつつ、もう片方の腕もスーツに通した。

 やっぱりスーツの大きさに少し余裕がある。針は私の肌にチクチクした痛みを与えてきているだけで、突き刺さるところまでいかない。

 両腕を通したことで、体の前面にも針が当たるようになってはいたけど、それもかなり余裕があるので、刺さるまではいかなかった。

 不思議に思っていると、いつの間にか背後に学長秘書さんが立っていた。耳に吹田さんの指示が響く。

『いまからジッパーをあげていくから、動くなよ』

 その言葉に、私は本番はいまからなのだと思った。ジッパーを引き揚げると同時に、スーツが体にフィットし、針が突き刺さってくるのだろう。

(学長秘書さんがやってくれるなら、むしろありがたいかも……!)

 こちらは耐えることに集中すればいいからだ。

 私は息を詰め、ジッパーが引き揚げられるのを待つ――までもなく、実に滑らかにジッパーが引き揚げられていった。

「ふぇ、へ?」

 拍子抜け、とはこのことだろう。

 ジッパーがあげられたことによって、体に針が押しつけられる力は多少増したが、まだ刺さるまではいかない。

 背中のジッパーが完全に引き揚げられ、うなじに到達しても、針は私の肌をまだ貫いていなかった。

(ど、どういうこと……? やっぱり、サイズを間違えて……?)

 そう思った私。

 その考えは、あまりに学園島の技術を舐めすぎていた。

 人体改造も容易く行う学園島の技術力は、私の想像を遙かに超えたものだったのだ。

『しっかり立っていろよ。まあ、倒れることなど出来ないと思うが――な!』

 吹田さんがそう言いながら、何かのスイッチを入れた瞬間。


 全身から焼けるような激痛が走り、私の体は私の意志など関係なく硬直した。


 スーツが収縮して、全身に針を突きたてた痛み、だけじゃない。

「ングッ!? ン、ィッ、ギギギギギギッ!!」

 指の先までピン、と伸ばしきった状態で、ぴくりとも動かせない。直立不動のまま、私は全身を針が浸食してくる痛みの渦に放り込まれた。

 スーツが縮むのと同時に、針を全身に突き立ててくる。その痛みと来たら、もう言葉ではとても言い表せないものだった。

 神経がひとつひとつ引っかき回されているような、そんな凄まじい痛み。

 痛みのあまり、目がぐるぐると勝手に動き、口枷を軋まんばかりに噛みしめる。

 涙に鼻水、涎、尿など、垂れ流せるものは全部垂れ流している感じがした。

 そんな私の無様な様子を眺めながら、吹田さんが楽しげに声をかけてくる。

『ふふふ……そういえば言ってなかったが、スーツの内側に生えている針は微量な電気信号を発することが出来てな。リモコンひとつで……ほら』

 吹田さんの合図と共に、私の右手が勝手に真横に伸ばされた。今度は左手。足ががに股になり、あられもない姿で動けなくなった。

「ンギィ、イィィッ、アグゥ!?」

 私がいくら腕を降ろそうとしても、足を元に戻そうとしても、私の身体は私の思うように動いてくれなかった。

『動かそうとしても無駄だ。お前が動かそうとしても、その上から信号を出して塗りつぶしてしまうからな。こんなことも出来る』

 そう吹田さんが言うと同時に、私は股間に生暖かい感触を覚えた。尿を漏らしてしまったのかと思ったけど、違う。尿はとっくに噴き出してしまっていたはずだ。

 首から上だけは自由に動かせたので、出来る限り下を向いてみると、股間から溢れた愛液が下へと垂れ落ち、床に広がった尿の水たまりの中に混ざっていくのが見えた。

 全身から感じているのは気持ちいい感覚ではなく激痛なのに、その愛液の量はあまりにおかしかった。

(わ、私の身体……勝手に動かされてる……!)

 首から上は自由なのに首から下の自由が全くない。

 私は首を左右に振って、全身を針が浸食してくる激痛に耐えるしかなかった。

 皮膚を貫き、針が食い込んでくるのが、わかる。

 ぷちぷちと皮膚を針が貫く音が耳に聞こえてくるかのようだった。

 さらにスーツが収縮し、私の身体をギチギチに締め上げていく。

「ンギッ、ンギイイイイイイイッ!」

 スーツが体を締め付けるということは、それだけ針が深く突き刺さるということだ。

 私は動かせない体の中、首から上だけを振り回し、少しでも気を紛らわそうと必死だった。涙がボロボロ零れ、涎が振りまかれる。

 それでも、どれほど首から上を暴れさせても、私の首から下の体はびくともしなかった。

「フギィイイッ、グギイイイイイッ!」

 口枷を噛まされていてもなお、激しく藻掻き、呻く。

 それが気に入らなかったのだろうか。

『少し五月蠅いな……ほれ』

 吹田さんの言い捨てる声が響くと同時に、さらに恐ろしいことが起きた。

「フ――ッ、ゥ、ッ!?」

 私の呼吸が強制的に止められた。息を吸おうとしても、まるで肺まで石になってしまったかのように、ぴくりとも動かない。

「――ッ、――ゥ、――!」

 当然、声などあげられない。

 呻くことすらできなくなった私は、首を振って藻掻き苦しむことしか出来なかった。

 きっと目は血走って口枷を噛みしめ、凄まじい表情になっていただろう。

 そんな風に私が苦しむのを、吹田さんは楽しげに見守っていた。

『ふふ……苦しいか? だが、この機能はある意味優しいものでもある。なぜかはわかるか?』

 全身を嬲られながら尋ねられても、応えられるわけがない。

 吹田さんも別に応えを期待してはいなかったのか、続けて口を開いた。

『今後お前はこのスーツに加え、様々な責め具を身につけたまま日常に戻ることになるわけだが……それらはお前の状況を判断しつつも、無作為に起動するように設定してある。当然、周りに人がいる状況でも、だ』

 道を歩いている時でも、授業中でも、寝ている時にすら――私に安息はなくなる。

『だが周りに気付かれるのはこちらとしてもよろしくない。そこで、この機能だ』

 例えば教室にいる時、急に性器に装着された責め具が動きだしたとしたら。

 私はどこまで耐えられるだろうか。普通でもわからないのに、体を開発をされていくことも考えると、確かに不安で仕方ない。

 だがこの強制的に体の動きを止める機能があれば。

 周りに知られる危険性は減るかもしれない。より正確に言えば、周りが知らない振りをしやすい。のたうちまわられたらさすがに知らない振りが出来ないが、動きが止まっているだけなら、知らない振りもしやすい。

(そういえば……授業中、寝てる様子でもないのに、急に動かなくなる子がいたような……)

 よほど上手く眠っているのか、あるいは単にぼーっとしているだけかと思っていたけど、これで謎は解けた。顔までは見えていなかったけど、もしかすると凄い顔になっていたのかもしれない。

 どうやらこの島では私の思っている以上に、色々されている人が多いみたいだ。いままでもそういうのに気付いて、気付かないふりをすることはあったけど、私が気付いた以上に、気付いていないところにこそ、色々あったのだろう。


 今後は私も、その周囲に気付かれないうちに色々とされてしまうひとりになる。


 そのことを改めて認識した私は、絶望し――それ以上に、激しく興奮した。

 自分の身体が、もう自分の好きにならないという事実。

 装置が動き出す条件がどういうものかはわからないけれど、寝てる時も起きている時も関係なく、装置が条件を満たすまで、好きなだけ責められ続ける。それを可能にするスーツを着せられた。

 それがどうしようもなく、マゾで破滅的な願望を持つ私を興奮させる。

『ちなみに』

 吹田さんの言葉はまだ続いていた。

 これ以上、何を付け加えることがあるというのだろうか。

『周囲に気付かれた場合、この島では緊急入院という体でこの地下へと収容することになる。そうなればもはやお前が日常を送ることはなくなり、次に地下を出る時は死ぬときだ』

 残酷な島の設定を告げられる。

 それだけで、体が勝手に愛液を垂れ流す。

 どうしようもない変態でしかないのだと思う。

 真の地獄は、まだこれからだというのに。

『さあ、さっさと器具の装着を済ませてしまうとしよう』

 スーツによって動けない私の前に用意される、責め具の数々。

 股間を覆う貞操帯と、乳房を覆う金属のブラ。

 そして絶対にスーツを脱げないようにするための、首輪。

 それら全てを着けて、私はこれからの生活を送らなければならない。


 どうしようもなく、惨めで、哀れで、無残な――性奴隷となるのだ。


エピローグにつづく



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