改変された世界の片隅で ~赤土政夫視点~ その1
Added 2020-02-05 13:16:30 +0000 UTC※今シリーズは「赤土政夫視点」と「千本松光樹視点」で進行します。
※「赤土政夫視点」は全体公開、「千本松光樹視点」は支援者様限定です。
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いつも通りの朝を迎えたつもりが、目覚めた世界は何かおかしかった。
どこがどうおかしかったのかと言われると、言語化するのは難しいのだが、あとから考えると違和感があって当然だった。
自分の部屋とリビングではなんとなく違和感を覚える、程度のレベルだったのだが、用を足そうとトイレのドアを開けた瞬間、明確すぎる異常が露わになった。
そこには、見知らぬ女性が、徹底的な拘束を施され、放置されていた。
全身を覆うラバースーツの黒を基本の色として。
全頭マスク、目隠し、鼻フック、耳当てに、開口マスクに、分厚い金属の首輪。
胴体は縦横無尽に走るベルトで引き絞られ、腕はアームバインダーで背後で固定され、脚は膝と足首に嵌められた枷に接続した鎖で左右に開かされている。
突き出した乳房の先端は、ラバースーツに穴が開いていて乳首が跳びだしている。その乳首には金属のピアスが通されていた。わずかな身体の動きにすら刺激を感じているのか、乳首は常に勃起した状態のままだった。
蓋がない便座に座っている彼女の下腹部は、これもまた分厚い金属の貞操帯のような物が覆っていた。その貞操帯に取りつけられた円筒形のものは、彼女の体内まで貫いていることが明らかだ。その筒は微かな駆動音を響かせており、彼女にどういう刺激を与えているのか想像するのは容易い。
完全拘束、とはこのような形をいうのだろう。
彼女には自由という自由が一切なく、ただその場で悶えることしか出来なくさせられていた。
そんな彼女の姿を前にして私は――赤土政夫は、困惑することしかできなかった。
思考が止まり、数分にわたって動けなかったのは我ながら硬直しすぎだが、無理はないと思う。
様々な可能性が頭を過り、整理するのに時間がかかってしまったのだ。
テレビがたまに行うような質の悪いドッキリ企画なのかと思ったが、私はそういったドッキリを仕掛けられるような有名人ではない。
そもそも女性の格好はあまりにも性的かつ特殊性癖に寄り過ぎていて、とてもテレビがやれる企画ではなかった。
と、なると残る可能性はふたつ。
ひとつは、同居人である千本松光樹がこのドッキリの仕掛け人であることだ。
少し前に、光樹は付き合っていた彼女と別れたと言っていた。新しく付き合い始めた彼女がこういう性癖の持ち主で、私が寝ている間に仕込んだ、という可能性はあった。
しかし、私は同時に、その可能性がほとんどないとも思っていた。
確かに光樹は、昔から悪ノリが過ぎるところがある。女性との付き合いは、その時の相手に対しては誠実ではあっても、どこか刹那的だった。別れたら次の相手をすぐ見つけ、とっかえひっかえヤリまくるような、性欲旺盛な男である。
それでも最低限の節度はちゃんと守っている男だった。
少なくともこんな形で私を自分たちのSMプレイに巻きこむことはしないはずだった。それくらいの信頼はある。
信頼はあったが念のため、私は光樹を起こしに行き、この状況を光樹が仕掛けてきた可能性を完全に潰した。
案の定、光樹もこのことは知らなかったようで、拘束された女性のことを見て呆然としていた。演技のようには思えない。
(光樹も把握していないとなると……いよいよ荒唐無稽な話になってくるな……)
光樹が知らないなら、可能性はただひとつ。
どうすればそうなるのか、検討もつかないが。
自宅のトイレに拘束された女性――所謂『肉便器』がいるのが、当たり前の世界に変わった、という可能性だ。
私は頭が痛くなって額を手で押さえた。
自分で出した結論ではあるが、自分の頭がおかしくなったとしか思えない。全ては夢の中の出来事と言う方がまだ納得出来る。
だがいまは夢である可能性を考える必要はないだろう。夢ならいずれ覚めるのだから。
(これが現実だと仮定すると……光樹も知らないなら、この女性の存在はいよいよ普通じゃない、と考えざるを得ないな……)
呆然としている光樹の様子を視界の隅で捉えつつ、私は考えを纏める。
この女性が度の超えた変態で、私たちが寝ている間に家に侵入し、自らこの形に収まった、という可能性もないわけではないが無理がある。
鍵をどうしたのかというそもそもの話もあるし、彼女が腰かけている便器が明らかに改造されていること、彼女の身体が鎖で繋げられている壁に、昨日まではなかった金具があることが決定的だった。
本人の身体に施されている拘束はともかく、便器や壁をどうこうしようと思えば、音や振動が全く立たないなんていうことはありえない。壁に付けられている金具は相当頑丈なビスで壁に固定されていて、これをこっそり音も立てないように取りつけるなんてことはまず不可能だ。寝ていたとはいえ、そんな物音がすればさすがに気付くし、そこまでする理由がない。
シンプルに超常的な力が働いている、と考えるのが妥当だろう。
(だが……もし神のような力を持つ存在がいたとして……私たちの家にこんなものを寄越す理由がわからない……いや、待てよ、私たちが『選ばれた』というよりは、もっと広い範囲に影響を及ぼそうとした結果、どういうわけか私たちだけがその影響から取り残された……と見るべきか?)
私は漫画やアニメをそこそこ見ている方なので、主人公がそういった常識の異なる異世界、ないし現代社会の一面が誇張された改変世界に迷い込んでしまう、という系統の作品もよく読む。
状況などから推測するに、自分たちがそういった作品の主人公のような状態になっている、と思うのは自然なことだった。
ただ、そういった作品が好きだからこそ、自分が決して『選ばれし者』にはならないであろうこともよく知っている。
(大体、ああいう話でも平々凡々な主人公が巻きこまれた、などと言う割りに、どいつもこいつも主人公力がありすぎるんだ)
そんな凡人がいるか、といつも思っていた。まあ主人公が本当にただの凡人では物語にならないから仕方ないし、面白いのだからそれで文句をいうつもりはないのだが。
(まあ、それはおいといて)
いま考えるべきはそれではない。
とにかく、本当にただの凡人である自分が、物語の中心になることなど、天地がひっくり返っても有り得ない。人はみな自分自身の物語の主人公だ、なんて言葉もあるがそういう問題ではなく。
自分たちがそういう世界に来てしまったのではなく、大きな世界の変化に自分たちが乗り損ねたという方が恐らく正しい認識だろう。
世界には何十億と人がいるわけで、その中でひとりふたりくらいは偶々偶然影響を受けなかったということはあり得る。
(……だがそう考えると、不思議なのは光樹が同時に取り残されてるってことか)
何十億分の一の確立で変化に巻きこまれなかった者がいるとして、それが偶々同じ部屋に住む二人の人間になる確率は、もはや有り得ない。
人ではなく場所が関係しているという可能性も考えられたが、それなら影響を受けた彼女がトイレにいるのはおかしいということになる。
(とにかく、もっと情報が必要だな……これが普通な世界に変わってるとして、どこまで何がどう変わっているのか、を……?)
思考を巡らせていた私は、衝撃から回復したらしい光樹が、興味深そうに拘束された女性に近付いているのに遅れて気付いた。
「……おい、光樹?」
「おお……なんだこれ……どういう構造になってるんだ?」
私の呼びかけにも応じず、光樹は女性の頭部を至近距離からまじまじと見つめていた。女性の方は静かに呼吸するばかりで反応する様子がない。視覚も聴覚も奪われているのだから無理もないが。
光樹は躊躇なく、女性の口枷に触れる。さすがに触れられることはわかるようで、女性が初めて反応した。
「ンッ、フゥッ」
とはいえ、拘束された身体ではほとんと動けない。分厚い首輪が耳当てや目隠しと一体となって彼女の頭部を固めているため、鼻を通してしている呼吸がわずかに荒くなったことくらいしか、目に見えてわかる反応はなかった。
「これ、栓だよな……? 引っぱったら抜けるのか?」
光樹は女性の口を塞いでいる円筒形のものの蓋に指をかけた。排水溝の栓のような形をしているそれは、光樹が指で引くと、素直に抜け始める。
ところがその栓は、外からでは想像出来ないほど、凶悪な代物だった。
最初は、普通の栓のように見えていたのだが抜けていくに従って、それが恐ろしく長い代物であったということが判明したのだ。
黒いゴム製の栓が、涎に塗れてテラテラと光っている様は、艶めかしくも恐ろしい。
顎が外れかねないほどギリギリまで開いた彼女の口の口径と、ほぼ同じくらいの太さで長い栓がずるずると抜けていく。その長さは明らかに口の中だけに収まらず、喉の奥まで貫いているものだった。
私は胃カメラを飲んだことがあるが、細い管のようなものでも喉の奥まで貫かれるのは相当苦しかった。ましてやこの太さ。女性が先ほどまで静かに受け入れていたのが信じられない太さだ。
その全貌がついに明らかになる。長々と続いていた栓がようやく抜けきったのだ。それはまるでゴムで出来た黒いバナナに見えた。かなりの弾力があり、光樹が動かすのに合わせて上下左右に跳ね回る。その動きに合わせて、表面に付着した彼女の涎が飛んだ。
「うわっ、きたねっ」
慌てて手を離す光樹。その栓は細い鎖で彼女の顎と繋がっているため、地面までは落ちず、彼女の胸元でぶらぶらと揺れていた。
いままで栓で塞がれていた彼女の口内が見えるようになる。
ぽっかり空いた彼女の口内は、まるで全てを飲み込む穴のように真っ暗だった。
「うへぇ……見てみろよ政夫。口の中まで覆われてるぜ」
光樹がそう言った通り、口枷は彼女の口の中までしっかり覆っていた。
この手の開口具は噛めなくしてフェラチオを強制するのが目的であることがあるのだが、この開口具はそれが目的ではないようだった。彼女の口をただの『穴』にすることが目的のようで、舌を含めた口内の全てが噛まされた口枷によって覆われている。
(確か舌が動かないと液体を嚥下することも出来ないはずだが……この人は本当に生きた人間なのか……?)
実はよく出来た女体型便器なのではないかという疑いが少し湧いた。いつからこのトイレに拘束されているのかわからないが、今後もずっとここに繋げられているとすれば、飲まず食わずで何日も置かれるということになる。
口枷が外せないのではまともな食事を取らせることは出来ないだろう。
身体が固定されたままでは肉体もダメージを受けるだろうし、下手すれば死ぬ。
この世界での常識がどういうものかわからない者しかここにはいない。
(どうにかして、この世界の常識を得る必要があるな……でなければ最悪彼女を殺すことになりかねない……)
まともな人権意識が機能しているとは思えないが、許されていようがなんだろうが、出来れば人を殺したくなどない。
そんな風に私が真剣に考えている間に、光樹は壁に設置されていた便器のリモコンを見て、そのボタンを押していた。下手に動かすなと制止する暇も無い。
光樹がボタンを押すと、女性が座っている便器の高さが変わった。ゆっくりと下へと、上に乗った彼女ごと下がっていく。
それに伴い、両足を左右に拡げていた彼女の脚はM字開脚の形になっていく。
ちょうど彼女の頭が私たちの腰くらいになる位置で便座の下降は止まった。
「おー、やっぱ調節利くんだな」
「おい光樹。下手に動かすなよ」
「いや、『下降』って書いてあったからたぶんこうなるとは思ってたぜ?」
言われて見てみれば、確かにボタンには『下降』と記されていた。
だからといって躊躇なく押すのは真似出来ないが。
「思った通り、ちょうど良い高さになったな!」
何がだ、と思うほど私も初心な男ではない。
トイレに拘束された女性。固定されたちょうど良さそうな首の角度。そしてその位置の調節が出来るとなれば、導き出される答えはひとつしかない。
「んじゃ、使ってみるか!」
トイレ代わりに使うように設置されているとしか、思えないのである。
そして光樹は躊躇なく使用するつもりでいるのだ。
「光樹……お前……正気か……?」
右も左もわからない状況だというのに、それに便乗出来る神経がわからない。
どう考えても私の方がまともな考え方なのだが、光樹は不満なようだった。
「えー、いいじゃんか。よくわかんねえけど、トイレに設置されてるってことはそういうことだろ? 別に俺たちが無理矢理やらせてるわけじゃないし……郷に入っては郷に従えって奴だよ」
「……むぅ」
光樹の言い分もまったくわからないわけでもないが、納得はし難い。
「それにさっきから漏れそうなんだよ。しないわけにもいかないだろ」
生理現象はどうしようもならないのは確かだった。
「……わかった。好きにしろ。私はもう少し調べて見る」
便器代わりに女性が設置される世界なのだとしても、いや、だからこそ『取扱説明書』のようなものはあってしかるべきだ。
私は光樹をトイレに残し、リビングの棚を見てみることにした。
光樹は嬉々としてトイレの扉を閉め、トイレにいた彼女を『使い』始めたようだ。
私はなるべくそちらを意識しないようにしながら、自宅を捜索するというよくわからないことを始めたのだった。
(確か、家電の説明書とかは、一カ所に纏めていたはず……)
それに準じているのであれば、その場所に説明書のようなものがあるはずだった。
そしてその予想は当たり、冷蔵庫や洗濯機の説明書と一緒に、見覚えのない手引き書が仕舞われていた。
タイトルには「派遣肉便器の取り扱い方法」とあった。
赤土政夫視点 その2 につづく