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夜空さくら
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改変された世界の片隅で ~千本松光樹視点~ その2


「派遣肉便器ぃ? なんだそりゃ」

 政夫が持ってきた紙の束の一番上には、『派遣肉便器の取り使い方法』と書かれていた。

 いわゆる家電とかのマニュアルのノリで、トイレに設置された女のことが書かれているらしい。

「私も正直全ては把握しきれていないんだが……要は、この世界では肉便器が一般にも流通するほど存在しているのではなく、男性が多く住んでいる家屋が選ばれて、肉便器が派遣されるということらしい」

「よくわからん」

「簡単に言えば、男に都合のよい世界だということだ」

 世界だのなんだの、よくわからないことをいう。

「……つまり、どういうことだってばよ?」

「要するに、お前みたいな下半身直結思考な人間が、世界をそういう風に作り替えた可能性があるってことだ」

 えらい言われようである。

 だがまあ、大きく間違ってるわけでもないので、気にしない。

「つまり……こういうことか」

 よくわからないが元の世界が俺みたいな考えの奴に都合のいいように作り替えられた可能性がある、ということは。

「色んなところで、めっちゃエロいことが起こってるかもしれないってことだな!」

 俺ならそうする。

 政夫はなぜか頭を抑えて頭痛を堪えるようなポーズをしていたが、それに構ってはいられない。

「俺ちょっと外出掛けてくるわ!」

「待て、頼むから待て」

 嬉々として外に出ようとした俺の肩を掴んで、政夫が止めてくる。

「なんだよ」

「いいか? 私たちの認識は元の世界のままなんだ。前の世界の通りに感じて動いたらどうなるかはお前でもわかるだろう」

「……わからん。わかりやすく言ってくれ」

「前の世界で握手をするのは別に普通のことだな? だが変わってしまった世界では『今から私はあなたと殺し合いをします』という合図だったとしてみろ。前の世界の認識で握手した瞬間、相手がいきなり殺しにかかってくるぞ」

 なるほど。政夫が危惧する理由はわかった。

 しかし問題ない。

「でぇじょうぶだ」

「……何でも願いごとを叶えてくれるドラゴンは恐らくいないぞ?」

「それはもちろんわかってるさ。俺が言いたいのは、エロに関係することで、男が不利になるようなことはないだろうってこと」

 確信を持ってそう言える。

「……なんでそう言いきれる?」

「お前が言ったんじゃん。この世界を変えたのは俺みたいな奴だって。だったら、男が損するような世界なわけないじゃん」

 俺ならそうする。そんなことをしても面白くもなんともないからだ。女がエロいことになる方向に注力して、男なんてそもそもあんまり気にしていないに違いない。

 俺の自信満々な言葉に、政夫は完全に返す言葉を失ったようだった。

 政夫が思考停止している間に、俺は政夫の手を逃れ、まずは自分の部屋へと向かう。政夫はまだ何か言おうとしていたが、俺は聞かずに声を張り上げた。

「俺は楽しんでくるからよ! 万が一俺が捕まったりなんかした場合にはお前は気をつけて行動しろよ! 言われなくてもすると思うけど!」

 言いたいことだけ言って、俺は適当な服を身につけた後、最低限の財布とスマホだけ持って家の外へ飛び出した。

 政夫が追いかけてくる様子はない。俺は行く当てもなくぶらぶらと街を歩きだした。

「まったく……政夫の奴。考えすぎなんだよなぁ」

 理屈っぽいのはあいつの良いところではあるが、もっと気の向くまま風の向くまま行動した方がいいと思うのだ。特にこんな世界ではなおさらだ。

 童貞のあいつなら、家に設置されている肉便器だけで満足出来てしまうかもしれないが。

(ギチギチに拘束されてるのも悪くないけど、やっぱ顔とか反応とかが見えないとなぁ。やりがいがないぜ)

 肉便器は全てああいう形なのか、それとも場所などによって違いがあるのか。

 そういったことを考えるだけでも楽しい。

(まずはどこにいこうか……大学にいくか……それとも駅か……)

 家のトイレに繋がれていた女は、全身ラバースーツに覆われていたとはいえ、年増な気配はしなかった。 どちらかというとありえないくらい若いように感じた。

 あの女の存在自体が急に生えてきたのでなければ、元々存在していた女子がそういう役目を割り振られているのかもしれない。

 となると、大学の女子がどうなっているのか気になる。

(もしかすると顔見知りを便器扱いできるかもしれないし)

 大学のミスコン女子とか、構内で見かけた理系才女とか、どうなっているか確かめてみたい気がする。

 とはいえ、まずは駅に向かうことにした。

 理由はたくさんの色々な立場の人間が集まってくる場所だからだ。駅に居る老若男女の様子を見れば、世界がどんな風に変わったのか、わかりやすいと思った。

 そういった考えの元、駅に向かった俺は、道の向こうから老人が歩いてくるのに――正確には、その老人が手に持っているリードの先に繋がっている『モノ』に、視線が吸い寄せられた。

 リードを持っている老人は明らかに枯れ果てた感じのする爺さんで、とても性欲に溢れているようには見えない。言い方は悪いが、枯れ木のようだ。

 しかし、そのリードの先に繋げられた者は、とても性的で蠱惑的な魅力に満ち溢れた存在だった。


 それは、四つんばいで移動する、裸の女子だった。


 見た感じ、中学生ほどの幼さも残る高校生くらいの年齢。

 あどけない顔立ちの上、表情も幼い子供のようにストレートに喜びを表現している笑顔であるために余計幼く見える。

 健康的に日に焼けた肌は、子供らしい快活さを湿しているが、同時にどことなく色気も感じる。

 胸の膨らみはそう大きな方ではなかったが、年齢にしては十二分にある方だと思っていいだろう。今後の成長が楽しみな感じだ。

 短く切りそろえたショートカットが、歩くのに合わせてさらさらと揺れていた。

 日焼けした胴体にはほとんど何も身に付けていなかったが、四つん這いで移動する関係上か、両足と両手の肘と膝より先は、動物の毛皮のようなもので覆っていた。手先と足先は動物の手足のような形になっている。着ぐるみほど露骨じゃないが、手先や足先を使った動作は何も出来ないだろう。

 頭には三角形にピンと立った、犬の耳飾りがあった。よくパーティーグッズとかで見られるような、ちゃちな造りの犬耳じゃない。一見本物かと見間違うくらい、精巧な耳だった。本来の耳はショートカットの髪の毛に隠れてみえない。

 細い首には老人が持っているリードが繋がった、赤い首輪が巻かれている。大型犬に付けるような首輪そのもので、ファッションなどで身につけているのではなく、リードをつけて引っぱるという実用性重視のものだと見て取れた。

 そして、お尻からは犬の尻尾のようなものが垂れていた。ふさふさとした尻尾飾りというべきだろうか。その根元がどうなっているのか、真正面からではわからないが、恐らくは肛門に突き刺さったプラグに接続されているのだろう。


 その存在は、端的に言い表すなら『犬娘』だった。


 人間の女子が、犬に扮するための、必要最低限の装備だけを身につけた姿で、老人にリードを牽かれて歩いている。その表情に嫌がっているような雰囲気はなく、老人と一緒に散歩出来るのが嬉しい、という、まさに犬のような表情を浮かべていた。

 仮に互いに了承した上でやっている行為だとしても、そんなほとんど裸に近い格好で街中を出歩くなど、許されることではない。

 いままでの世界なら、企画モノのAVくらいでしか見られなかった光景が、極々普通の街の道端で展開されている。

 家に肉便器が設置されているという時点で十分有り得なかったが、この犬娘の存在はオープンにされているため、余計にありえない感が強く感じられた。

(う~わぁ……すっげえなぁ……どういう関係なんだろ……)

 俺はふとそんなことが気になった。

 政夫曰く、あの肉便器は男の居住者が多いところに派遣されるものだという。

 要は、女が男にエロく扱われることを期待してのことだろう。だが目の前の犬娘と老人の組み合わせは、老人の方が明らかに枯れ果てた状態なのでエロい展開にはなりそうもない。

(まさか……爺さんにとっての孫娘とか……一緒に暮らしてるから、爺さんが朝の散歩ついでに犬娘になってる孫娘の散歩を、とか? ……ありえそうだなぁ)

 なんとも倒錯的な話だが、実際ありえそうな話だ。

 というか、俺ならそういう設定にするかもしれない。

(に、しても、なんというか……女のレベルたけーな、おい……)

 老人が連れている犬娘は、AVで人気の女優くらい可愛らしい顔立ちをしていた。

 普通にアイドルと言われても信じるかもしれない。実際にテレビで見るような、バチクソ優れた容姿のアイドルと比べると、さすがに少し見劣りはするが、少し劣る程度は十分に許容範囲だ。ぶっちゃけ興奮出来る容姿だった。

(常識だけじゃなく、容姿とかも変えられたりすんのかな……)

 どうすればそんなことが出来るのか全くわからないが、世界の常識を変えてしまうくらいの力なら、女の容姿の水準を引き揚げることくらいは訳がないだろう。

 デブやブスの醜い裸など見たくないだろうし、それくらいの調整をして女のレベルを引き上げている方が自然のように思えてくる。

(だとすれば、天国だよなぁ……)

 女が全体的にいい容姿になっているのなら、肉便器みたいな女の中身にも期待が持てるし、今後会うことになるエロいことになっている女たちも、いい容姿をしているということになる。

 俺は老人が連れている女を、バレないようにしながらチラチラと盗み見た。

 朝っぱらから平然と街中を歩いているくらいだ、じろじろと視線を向けたら、不自然に思われるかもしれない。

(しっかし、エロいな……あの尻尾とか、根元どうなってるんだ?)

 控えめな大きさのおっぱいが、その女子が脚を前に進める度に、ふるふると揺れている。柔らかそうで、掌に収まるだろうサイズのそれを触って見たくなる。

 外気に触れているからか、それともあるいは性的に感じているのか、女の乳首はぴんと立っていて、実にエロい。思いっきりクリクリと指先でこねくり回したいものだ。

 四つん這いで両手両足を必死に動かしているから、お尻がふりふりと揺れ、尻尾飾りも左右に揺れている。少し動きがおおげさなようにも見えるが、尻尾を左右に振るという行為で嬉しいとか楽しいとかいう感情を表しているのかもしれない。

(やっぱ肛門に刺さってるよなぁ。バイブだったりして……ありえそうだなぁ……)

 前の穴はどうなっているのだろうか。

 その犬娘の姿を見、想像を膨らましてムラムラしていたら、さっき家で肉便器の女に向かって射精したばかりだというのに、ムクムクとチンコが膨らむのを感じた。

(おっと……いかんいかん。女は良くても、男も同じようにしていい、とは限らないからな……)

 目の前の犬娘のように、明らかに性的な格好をしていても問題にならないのは女だけ、という可能性がある。

 最悪、男の露出とか振る舞いに関する扱いは元の世界のままで、勃起していることが相手に伝わってしまったら、見せつけていると見なされて最悪痴漢だと通報されるかもしれない。

 俺の勘ではそういうことにはならない気がするのだが、そんな騒ぎになるのはごめんだ。

 とりあえずこの場はスルーして、もっとこの世界のことを知るべきだ。

 そう思った俺は、その二人に対して何かアプローチをしかけることはせず、当初の予定通り駅に向かうことにした。

 だが、その二人と擦れ違おうとした瞬間――

「わぉん!」

 犬娘が嬉々として俺の脚に飛びついてきた。スルーすることを決めたあとも、つい視線は向けてしまっていたので、その犬娘が俺の方を見て眼を輝かせる瞬間は捉えていた。

 だから、いきなり飛びつかれてもそう驚きはしなかったのだが、まさかいきなり飛びつかれるとは思っていなかった。

「うおっ、ととっ!」

 危うくその子の頭を蹴っ飛ばしそうになり、つんのめって立ち止まる。

 立ち止まった俺の身体の周りを、犬娘はふんふんと鼻を鳴らしながらぐるぐると回り始める。

「ちょ、待て待て! リードが絡まってるって!」

 俺の脚にリードが絡まってしまって身動きが取れない。この二人はスルーするつもりだったが、こうなってはさすがに無視することも出来ない。

「おぉ? すみませんなぁ、うちの孫娘が。これっ、やめんか!」

 老人にとっても意外なことだったのか、慌てて犬娘を止めにかかった。

(いま孫娘って言ったな……やっぱり、爺さんとこいつはそういう関係か……)

 老人が犬娘を叱りつけるが、犬娘は老人のことなど意に介さず、俺の脚に身体を擦り付けている。ズボン越しにも滑らかな犬娘の肌の感触が伝わってきて、正直興奮した。

(や、やべ……チンコが……!)

 勃起が収まらない。ズボンを押しあげてあからさまなテントを張ってしまう。

 それを見た犬娘は、ますますその目を輝かせた。

「くぅーん、くぅーん」

 物欲しそうな声で啼く犬娘。それを見て、老人の方も得心がいったような顔になった。

 そして、とんでもないことを言い出す。

「なんだ、そういうことだったのかぁ……すみませんなぁ、お前さん。申し訳ないんだが……うちの子に精液を恵んではくださらんか?」

 申し訳なさそうにはしていたが、『荷物を持って欲しい』とか『道を譲って欲しい』とかいうような、到って普通の範疇のお願いをするように。


 老人は自分の孫娘に、俺の精液を飲ませて欲しいと懇願してきたのだった。



千本松光樹視点 その3 につづく


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