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改変された世界の片隅で ~千本松光樹視点~ その4


 改変された世界でも、駅にはたくさんの人が行き交っていた。

 ここまでの道のりで、ほぼ裸の孫娘を犬娘として散歩させていた爺さんがいた時点でわかっていたが、駅の様子はあまりに非現実的な――エロ漫画の世界になっていた。

(やべえなこれ……と、とりあえずまずは……と)

 俺はひとまず怪しまれないように、一端その場を離れ、駅前のコンビニでエナジードリンクを買った。ちなみに、コンビニ内は普通だった。店員が男性だったためかもしれないが、昨日までとなんら変わりなかったと思う。ついでにトイレも見てみたかったが、最近の風潮によくある話で、そもそも貸し出しをしていなかったので、変化があったかどうかはわからない。

 ともあれ、何事もなくコンビニを出た俺は、買ったドリンクを手に、待ち合わせをしている風を装って、駅の入り口が見える位置に置かれたベンチに腰掛けた。そこからなら、自然と駅周りの光景を眺められる。

 座ったのは立ったままだと、勃起したことがバレて、またさっきみたいなことになりかねなかったからだ。逐一搾り取られていたら体力がいくらあっても足りやしない。

 そしてそんなことを危惧しなければならないほどに、駅に集まっている人たちの姿は、なんとも凄まじいものが多かった。

(……単純に、男女かどうかで扱いが変わっているのかと思ってたけど、意外とそうでもなさそうだな)

 まず見える範囲でいうならば、男はまったく変化がなかった。普通に真面目くさったスーツ姿をした会社員らしき者もいれば、ちょっとラフな服を着た大学生らしき者もいる。特にこれといっていままでと変わった点はない。

 明らかに男友達で構成されたグループ、と思われる学生服の集団の中に、ひとりだけセーラー服を着た女子が混じっていたのは少し気になったが、普通にありうる範疇だ。

 俺にとって重要なのは、やはり女がどう改変されているか、である。

 女なら問答無用でエロいことになっているのかと思っていたが、意外とそういうわけでもないらしい。

(まあ、そうだろうとは思ってたけど。ある程度は年齢で区切られてるみたいな)

 最近は見た目の年齢がいまいちわかりづらくなっているので、確信できるわけじゃないが、ざっとみて四十歳以上のものは男女問わずいままで通り生活しているようだ。

 よぼよぼの婆さんや明らかに歳のいった中年女に性的な奉仕をされても――その人の容姿によって個人差はあるだろうが基本的に――嬉しくないから、それは妥当な区切りだろう。

 意外だったのは、可愛らしい容姿をしている若い女の中にも、普通の姿をした者がいたことだ。改変者にも好みがあるのかもしれないが、少なくとも俺だったら絶対エロい目に合わせる、というような美人の女でも普通の服装で普通に歩いているのを見かけた。

(まあ、表に見えないだけで、服の中にエロい仕掛けがあったりするのかもしれないけれど)

 さすがにそれを確認することはできない。

 観察を続けていればいつかわかることだろうと、ひとまずそれはおいておく。

(見た目明らかな方だけでも、しばらくは十分楽しめそうだしな)

 俺はそう思いつつ、駅に着いた段階で目に入っていたその『見た目明らかな』存在に目を向けた。

「募金お願いしまーす」

「世界の恵まれない子供たちに支援をー」

 駅前によく立っている、募金を呼びかけている学生たち。

 近くの学校からボランティアとして参加しているのだろう。

 学校の制服を身に纏い、道ゆく者たちに支援を呼びかけている。

(このパターンは鉄板だよなぁ)

 エロ漫画じゃよくあることだ。

 普通に募金を呼びかけている男子学生に並んで、その女子はそこに立っていた。

「募金にご協力くださーい」

 呼びかけている言葉は他の学生と変わらなかったが、服装が違う。いや、それを服装といって良いのかどうか、疑問ではあるのだが。

 その女子生徒は、ほぼ全裸だった。

 年頃の学生らしい、艶やかで真っ白な肌が目に眩しい。周りの男子生徒が学生服を身につけているため、余計に目立っていた。

 募金箱をちょうどお腹の前で抱えているため、真正面から見ればおっぱいも股間も丸見えのはずだ。

 その体には腰にベルトだけが巻かれている。何の意味があるのかと思えば、そのベルトには使用済みと思われるコンドームがぶら下げられていた。

 エロ漫画以外で、そんな風な格好をしているのを見られるとは思わなかった。

「お願いしまーす」

 ハキハキとした声で募金を呼び掛ける女の子。普通の格好をしている他の子と並んでいるというのに、自分の格好に違和感を覚えることはない様子だった。そのギャップが中々に素晴らしい。

(おっ……いいところに)

 俺がその子の様子をこっそり観察していると、ちょうど寄付をしようとする若い男性が現れた。他にも募金箱を持っている子もいるのに、彼は迷いなく募金箱を抱えた子に近づき、その募金箱に小銭を入れる。

「ありがとうございまーす! では、あわせてこちらに精液もどうぞ!」

 そう言って笑顔でお礼を言った女の子は、その男性の前でしゃがみ込む。蹲踞と呼ばれる姿勢だ。

(あの姿勢、無防備に股間を晒す形になってエロいんだよなぁ)

 フェラをしやすい位置に顔を持っていったということは、当然そうやって奉仕するのだろうと思ったら、男はその場でチンコを取り出し、自分で扱き始めた。

 それを見た女子は、口をぱかりと開いて待ちの体勢になる。

 周りには普通にたくさんの人が行き交っているというのに、自分のチンコを扱き始める男。それに対し、その目の前で口を開けて静液を受け入れる皿の役割を果たす女子。

 なんとも倒錯的な光景だった。

 程なく、男が早々と射精した。なんて早漏な奴だと一瞬思ったが、考えてみればこいつらにとってこの行為は性行為と言うわけじゃない。静液を恵み恵まれるだけのことだと思えば、我慢する理由もないし、さっさと射精して当然だった。

「ひゃりふぁほーふぉざひふぁしふぁ」

 口の中を性液に塗れさせながら、女子がお礼を言う。女子は最後に男のチンコの先だけを口に含み、出しきれなかった分の精液を吸い取っていた。

 奉仕と言うよりは、後始末と言ったところか。実際それを終えて女子が口を離したら、男はすぐにチンコをズボンの中に戻し、早々と歩き去る。特に余韻も何もない様子だった。

(当たり前の行為だと思ってるから無理もないとはいえ……目の前に現役学生のエロが展開されてるのに気づけないとはな……可哀想に)

 少し同情してしまう。男にとっては夢のような世界だというのに。

 女子の方は立ち上がった後、しばらくモゴモゴとして、口の中の静液を飲み込んでいた。

 隣に立っていた男子学生がその女子に向けてお茶のペットボトルを差し出していた。

 その男子は女子が精液を受け止める様子をずっと見ていたが、そこにエロは感じてないらしく、特に態度に変化は見られなかった。

「お疲れ。これで何人めだっけ?」

「ありがと。んくっ……五人目、かな? 今日は濃い人が多くて喉が乾くよぅ……飲み物忘れた日に限ってこうなんだもんなぁ」

「お茶、もう一本買ってこようか?」

「ううん、大丈夫。忘れたあたしが悪いんだし」

「そ、そっか……頑張って」

 少し残念そうに男子の方が呟く。女子の方は意識していないようだが、男子の方は女子の方を憎からず想っているようだ。なんとも、微笑ましい青春模様である。

 女子の方が全裸でなければ、の話だが。

(なんか、こういうAVあったよなぁ……)

 全裸登校だか全裸生活だったか。『女子は裸であることが自然』という主旨の企画もののAVにこういう光景があった気がする。所詮は作り物の世界で、女優はがんばってはいたがどこか不自然さが滲んでいたのは否めなかった。

 しかし、いま俺の目の前には、まさにその企画ものの世界が広がっている。

(そういや、あのコンドームはなんなんだ? 募金した相手とセックスするってわけじゃなかったな……)

 募金を呼びかけている女子生徒の腰には、使用済みと思われるコンドームがぶら下げられたベルトが巻かれている。てっきり募金の返礼としてセックスするのかと思っていたが、そうではなかった。

(先着何名とか、女子が選んで特殊な奉仕をする相手を選んでるとか……いや、もしかしてあれか。募金額によって行う奉仕が決まってる、とかか)

 そうだとすると、相当凝っている。全てを明らかにするためには、何度も同じことをしないといけないのかもしれない。

 それは相当気の長い、大変な話だった。

(あー、ほんとヤバい。この世界味わいきれないうちに、俺ヤリすぎて死ぬんじゃねぇかな……)

 夢のような世界とはいえ、そんな世界に流されすぎると本当に衰弱死してしまいそうだ。そうなっても悔いはないが、楽しみきれずに死んでしまうのはもったいない。ある程度セーブしながら楽しむ必要があるだろう。

 改変された世界について考える。

(ここまで見た感じ……あからさまに物理法則に反することはさせられない……出来ないみたいだよな)

 さっきの子は地面に膝をついていなかった。駅前の地面はまだ比較的整っているとはいえ、剥き出しの膝を突いたら怪我は避けられないだろう。

 あの犬娘も、怪我をしないように膝や肘を覆う服を身につけていたし、それで間違いはなさそうだ。

(あくまで改変する力は人の精神だけに影響する……って感じなのかな。わかんねぇけど)

 考えても仕方ないことは考えない。

 俺はエロい光景を楽しむことに意識を戻した。駅を行き交う女性の中には、明らかに普通の服とは違うエロ衣装を着た者が混じっていて飽きない。

 季節外れの裾の長いコートを身につけている女が歩いてきたと思ったら、そいつはそのコートと靴以外何も身につけていなかった。コートの前を閉じていないので、足を前に出す度にちらちらと裸体が見え隠れし、中々いい光景だ。ブラも身に付けていないから、おっぱいが歩くのに合わせて大きく揺れている。

(いい形してんなぁ……ずっとブラをしてないって形じゃないが、その辺はどうなってるんだか)

 ずっと裸で生活しているでかい胸の女は重力に負けておっぱいが垂れてしまい、見られたものじゃなくなることもある。もし物理法則まで改変していないのだとすれば、その辺がどうなっているのか気になるところだ。

 裸コートも中々刺激的な格好だが、道行く女の中にはもっと刺激的な格好をしているものもいた。

 ちょうど駅に向かって歩いてきたOLっぽい女がまさにそういう格好だった。

 明らかにSMプレイで身に付けるような、革のベルトで構成されたボンテージ衣装だったのだ。豊満な乳房がボンテージによて絞り出され、その乳首の先端は鈍く輝くピアスが貫いていた。

 ボンテージの女は歩きながら忙しなく携帯を使って、どこかに連絡を取っているようだった。

「はい、いまから電車に乗って其方に伺います。それまではお手を触れないように――」

 何の話なのかはわからないが、真剣な表情で電話先に告げている彼女。

 取引先に出向いているのか何なのかわからないが、その格好でまじめな仕事をしている様を見ると、ギャグのようにしか思えない。

 だが本人は真剣で、冗談の気配は少しもなかった。

 ボンテージの女は俺の横を過ぎ去り、そのまま改札の中に消えていった。

 眼福ものの光景が広がっているのを眺めていると、不意に駅のコンコースに見慣れない車、のようなものが入ってきた。

(……ん? おお、あれってもしかして……)

 それは車というのには、あまりにも原始的だった。特定の行事の時か、特定の観光地でしかみかけないような、古めかしい構造のそれ。

 馬車、あるいは人力車と呼ばれる類のものだった。

(うぉ……初めてみた……)

 なんとなく、もしかしたらありうるかもしれないとは思っていたが。

 その馬車を牽いているのは、実際の馬ではなく。


 ポニーガールと呼ばれる、拘束具を身に着けた女たちだった。


 改変された世界でも物理法則に反することまではできない、というのは確からしく、人一人が乗れる大きさの馬車を、四人もの女が牽いていた。

 もしも物理法則を超えて、人に力を発揮させることなどが出来るなら、馬車はもっと大きなものにして、女一人か精々二人で牽かせるだろう。その方が見栄えがいいかあだ。

 馬になっている彼女たちは、一様に同じポニーガールの衣装を身につけていた。四人が横一列に並び、腰に装着された金具によって、後の馬車を牽いている。

 膝上まである編み込み式のブーツに高いヒール。

 胴体を覆うのは腰を引き締め、綺麗なラインを出すコルセット。

 両腕はアームバインダーで後ろ手に固められていた。

 お尻には栓のようなものが刺さっているらしく、馬の尻尾飾りが垂れている。

 それだけでも十分ポニーガールっぽい見た目になっているが、彼女たちを一番ポニーガールたらしめているのは、頭部の拘束だった。

 まず、あえてなのか、頭を完全に覆うマスクを全員が身に着けており、顔だちや髪型などの個性を消していた。背格好も似ているから、ほとんど区別はつかない。

 全頭マスクは肉便器が身に付けていたものとは違って、マスクの上部に馬の耳のような飾りがあり、ポニーガールらしさを強く演出している。

 そして、なによりもポニーガールらしい装備は、その口に噛まされているヘッドハーネスだろう。

 馬が身に着ける轡のように、横向きの棒を噛み締めるタイプの口枷だ。

 それだけでもいかにも馬っぽいのだが、その棒の左右からは手綱が繋げられており、馬車に座っている者の手元まで伸びている。それを用いて、ポニーガールたちに指示を出すようだ。

 ポニーガールたちの顔の左右には、視界を制限するプレートのようなものが備え付けられていた。それは彼女たちの視界を著しく狭め、まっすぐにしか景色を見せなくさせている。

 そんなポニーガールたちが、息の合った様子で馬車を牽いている。

 一歩歩くごとに膝を腰の高さまで上げ、ザッザッザッ、と小気味良い音を立てている。

(すげえなぁ……改変される前の世界じゃ、こんな光景外国に行っても中々見れないだろ)

 ポニーガールという趣向自体はあっても、こんな風に日常の光景の中に入ってくることはない。

 馬車に乗ってきた男は、駅のコンコースに入ると、馬車から降りた。そして、そのまま馬車をどうこうすることなく、駅の中へと入っていってしまう。

 乗り手がいなくなったポニーガールの馬車が、ぽつんとその場に取り残された。

(ええ……? あれどうなるんだ?)

 車よりは場所を取らないとはいえ、邪魔なものは邪魔だろう。

 俺がどうなるのか暫く見守っていると、駅から出てきた別の男が自然な調子でその馬車に乗り込み、手綱を振るって移動を始めた。

(あ-、なるほど、個人所有って扱いじゃなくて、公共の乗り物扱いなのか!)

 乗り捨てOKのレンタサイクルがあるが、それと似たようなものなのかもしれない。

 空いていたら使ってもいい、的な扱いなのだろう。使われない間ずっと放置されるポニーガールたちは少々可哀想だが、まさに改変されたこの世界ならでは、の乗り物ではある。

 まだまだ楽しませてもらえそうだ。

(……さて、電車に乗って移動してみるか。改変がこの街だけなのか、もっと大きな範囲なのか、この目でしっかり確認してみないとな)

 無論、もっと大きな街であれば、もっとおおがかりなエロい光景が見られるのではないかという期待がある。

 俺は意気揚々と駅の中に入り、もっと大きな街へ移動を始めるのだった。



千本松光樹編 その5 につづく


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