改変された世界の片隅で ~千本松光樹視点~ その10
Added 2020-03-09 14:48:05 +0000 UTC俺は暗闇の中で、ふと目を覚ました。
寝起きのぼんやりとした頭で、自分がいまどういう状況にあるのかを考える。
(ん……? 俺、いつ家に帰った?)
俺は自分の記憶を手繰ってみる。
(確か、政夫の奴に起こされて、トイレに肉便器がいるとかわけわからんことになってて、世界が改変されたなんとかとか……)
退屈な日常に突然降って湧いた非日常。それを楽しむべく、街にでかけ、散歩中の犬娘に精液を搾り取られたり、ポニーガールが牽く馬車を見かけたり、駅の構内に壁尻が設置されているのを見たり。
改変された世界を楽しんでいたはずだ。
そして、そのまま駅前の大きなデパートに入り、様々なエロい光景を目の当たりにしたものだった。
ペットショップでふとした何気ない呟きから、店員をペットとして買うかどうかという話になり、その店員の具合をバックヤードで確かめさせてもらった――ことまでは覚えている。
しかしその後、ペットを家まで輸送する手続きをしようとした段階で、俺の記憶は途切れていた。
(そういや、なんか変な奴と出くわしたような……だめだ、頭が回らねえ)
とりあえず起き上がろうと体に力を込める。
しかし、動かそうとした意思に反して、俺の体はぴくりとも動かなかった。
徐々にハッキリしてくる身体の感覚を頼りにすると、俺はどうやら仰向けで寝かされているようだ。
首の後ろや背中に、程よい反発力のクッションのようなものが触れている感触がある。
座布団とかの柔らかい奴じゃなくて、皮張りのソファとか、体操で使うマットみたいな弾力だ。普段寝ている安物のベッドとは根本的に材質が異なる。
(俺の布団じゃないのか……?)
自分がどこに寝かされているかもわからない。
周りの状況を確認しようと、目を開けようとしたが、目蓋を何かが覆っているような感覚があって、目を開けることが出来なかった。アイマスクをされている感覚に近い。
(アイマスクなんて持ってないぞ……)
俺がアイマスクを使うのは、夜間の高速バスを使った旅行の時くらいだ。普段使いはしていない。そもそも家にあっただろうか。
何か嫌な予感を覚えつつ、首を動かそうとして、その首も動かせないことを知った。何かが俺の体の動きをことごとく遮って来ている。
(な、なんだ……? 俺はどうなっているんだ?)
体の感覚もなんだかおかしい。普通に寝かされているのではなく、変な姿勢を取らされているような。
そう思っていた俺の予想は正しかった。
不意に体の前面に風の当たる感覚がして、急に体の感覚が鋭くなる。
「ンムゥ……ッ!?」
思わず声をあげかけたが、口に何か詰め物がされていて声は出せなかった。
その体が伝えてくる感覚は、俺にとって信じがたいものだった。
まず、裸だ。むき出しの肌に空気が触れる感覚があるから間違いない。
そして、体勢は仰向けでM字開脚をしていた。両腕は後ろに回し、コの字型になるように組んでいる。
クッションが腕の形に凹んでいて、体重はかかっていなかったが、動かせない。
裸でM字開脚で腕を後ろを縛られている――この時点でもはや何がなんだかわからないが、俺を一番困惑させたのは、それらの感覚ではなかった。
俺を一番困惑させたのは。
胸が「ある」感覚と――股間に何も「ない」感覚だった。
俺はそのふたつの異常な感覚に戸惑うしかなかった。
(なんだよ……これ……どうなって、るんだ!?)
足を閉じたり、腕を動かしたりしようとしたが、どうにも動かない。体の至るところに装着された何かが俺の動きのことごとくを遮っている。
夢とは思えないリアルな感覚に俺は混乱するしかなかった。
その時だ。
『あ、目が覚めたみたいだね?』
いきなり頭の中で声がして、俺は死ぬほど驚いた。
(だ、誰だ!? なんだよ、どうなってんだよ!?)
焦る俺に対し、謎の声は苛立つほどに冷静だった。
『まあまあ落ち着いて。どうせもう裁定は下されたんだから、なにしたって変わらないよ』
(これが落ち着いていられるかよ! とにかく、これを外しやがれ!)
『乱暴だねぇ……君はもう可愛い可愛いペットなんだから、あんまり乱暴な言葉遣いはしちゃだめだよ?』
そもそもできないだろうけど、と不穏なことを呟いていたが、それはおいておいて。
(……待て、お前いまなんて言った?)
俺は声を出しておらず、頭で考えているだけなのに意思疎通ができていることも不思議ではあったが、それ以上に聞き捨てならないことがあった。
『ん? 乱暴な言葉遣いは――』
(違う、その前だ)
『ああ、そうか。君はまだ自分の姿を見てないもんね。サービスで見せてあげよう』
パチン、と指が鳴るような音が響いたかと思うと、目の前に映像が浮かびあがった。
拘束され、箱に詰められた――ひとりの女の姿だ。
裸に剥かれたその女は、体の大きさぎりぎりの箱に詰められていた。
仰向けでM字開脚をした状態で寝かされ、両手は後ろに回しているのか見えない。
目は分厚い目隠しで覆われていて、耳にはヘッドホン。
口にはやたらと大きな円筒状の口枷が噛まされ、首に金色のベルのついた首輪が巻かれている。
さらに、体の肘や膝といった可動部には分厚い皮のベルトが巻かれていて、体の形にくりぬかれたクッションに縛り付けて固定していた。自力では全く動けそうにない。
そして何より目立つのはその顔ほどもあろうかという巨大な乳房だった。
ペットショップで見かけた牛娘や店員のサユリほどもある。
胸と股間には牛柄のビキニのようなものがつけられていて、その女が牛女であることは想像に難くない。
そしてその姿は――俺の体の感覚と一致していた。
体が固まり、嫌な汗が滲む。それは目の前の女も同じようだった。
やはり、これは。
(まさか……いや、まさか……)
頭の片隅では理解していることを、俺は必死に否定する。
それを、謎の声が台無しにしtけいた。
『うん。目の前に映っているその牛娘が、いまの君の姿だよ。可愛いでしょ?』
可愛いかと聞かれたら、おそらく可愛いのだろう。目隠しなどで見えづらいが、その顔だちが整っているのはそれでもわかったし、なにより体つきがエロい。店員のサユリもエロかったが、目の前の女は姿だけで言えば俺の理想形ではあった。
それがいまの俺の姿でなければ、の話だが。
(ふざけ……んじゃねえ! どういうことだよ! わけがわからねえ! 説明しろ!)
思わず俺はそう叫んでいた。もちろん口枷のせいで声は出せない。
心の中の絶叫を受けてなのか、見えている映像の隣に光の粒子が集まった。
そしてその光の粒子が形作ったのは――全身が真っ白な、天使のような女だった。
(そうだ……ペットショップでお前が現れて……)
『うん、思い出した? まあそのあとすぐ洗脳状態にしちゃったからそれ以後は覚えてないよね』
拘束された姿の女を隣にするには場違いな、ニコニコとした笑顔でその白い女が話し始める。
『ボクはこの世界の天使。改変者の命令に従って、世界を見張る役目を与えられた存在さ』
こいつは改変者自身ではないようだ。いうなれば下働きのようなものだろうか。改変者が人間だとして、独りの視野で世界全体を見渡せるわけがないから、そういう存在がいても不思議ではない。
『ご明察。改変者は色々と忙しくてね。世界をくまなく見て回ることはできない。だから代わりにボクたち天使が世界を見回って、管理しているってわけ』
(なるほどな……俺みたいに改変から外れた奴を見つけるためか)
世界を改変できる力を持っている割に、ずいぶん警戒心が強いものだと思ったが、天使は首を横に振った。
『どうせすぐ忘れることになるから言っちゃうけど、別にそういうわけじゃないよ? 君はたまたま改変をすり抜けたとか、自分は改変されない選ばれた人間だ――とか思ってたのかもしれないけど、君たちふたりを改変から外したのは、そういう風に決まっていたからなんだ』
(なん……だと……?)
どういうことだという疑問を込めてみると、天使と名乗る女は素直に応えてくれる。
『改変者は君みたいなエロ魔人でさ。色々エロいことを設定して楽しんでいるわけだけど、やっぱり一人の発想力じゃ限界があるんだ。だから、たまに君たちのようにわざと改変から外した人間を作って、その人たちがどう行動するかを僕たち天使に監視させるわけ。実はずっと君の後ろからついて回ってたんだよ?』
天使の姿を認識できないようにされていたということらしい。
(……だったら、なんで俺はこんなことになってるんだ?)
認めたくはないが、俺はいま、目の前の牛娘の姿にされていることになる。
いまの説明との乖離に疑問を抱くと、天使は溜息を吐いた。
『ただ楽しむだけなら何の問題もないんだけどね。君、買ったペットを死亡前提の実験台にするつもりだったでしょ』
ぎくりとした。確かにそういうことは考えたがまさかそれを逐一把握されていたとは。
『改変者はこの世界を改変するにあたって、三つのルールを定めててね。ひとつはみんなが幸せになること。ふたつは物理的な改変は最小限にとどめる。そしてみっつ目が命を奪うことはしない、ってルール。……まあ、ひとつめは洗脳でそう感じさせてるってことだからどうかと思うけど、改変者的には譲れない一線らしいよ?』
ある程度はそんな感じの温い雰囲気を感じていたが、まさかそこまでとは。
俺はなんといっていいかわからなかった。それに関しては天使も同意らしい。
『ボクは改変者によって生み出された存在だから、何とも言い難いんだけどねぇ。まあ、それはいいとしてつまり人を殺そうとした君は、改変した世界のルールに照らし合わせると重罪なわけ』
(だから、牛娘にしたってのか……)
『目には目を、っていうよね?』
因果応報とはいうが、めちゃくちゃ理論にもほどがある。
『ほんとにね。ただ、君は罪を犯したけど、同時にこの世界に貢献もした。ペットショップの店員をペットとして選ぶ、って発想は改変者にはなかったからね。意外とそういう盲点って多いんだよ。エロを突き詰めていくのが改変者の方針でもあって、君たちみたいな存在を作るのはそういう発想を得るのが目的なわけだし』
(……ならよ、ここまでする必要あるのかよ?)
貢献もしたなら、それと相殺にしてくれてもいいのではないか。
そう思ったのだが、実は割と大きく相殺はされているようだった。
『本来ならペットの人間を殺す前提で物色し始めた時点で、君は終わってたよ。ただ、ボクの権限でしばらく様子を見てたら、たまたま貢献ポイントを稼いだから、即死がなくなっただけだから』
(おい……本来は即死だったのかよ)
殺しはしないというルールを定めておいて、改変から外した人間が他の人間を殺そうとした段階で殺すというのは、なんという身勝手の極みなのか。
だが天使は悪びれもせず、言い放った。
『心が読めるんだから本気か冗談の区別くらい簡単だよ。殺意こそ低めではあったけど、君は買ったペットが実験の結果死にかけても、助けようとはしなかっただろう?』
確かに、天使の言う通りだろう。
そもそもそういうつもりでペットを飼おうとしていたわけだし。
出来レースでハメられたような不快感はあるが、強く否定することはできない。
(……減刑された結果、どうなったんだ? この姿で一生生きろってか?)
『いいや。ペットの立場ってある意味快適だからさ。それだと罰にならないんだよね』
果たしてそうだろうか、と俺は思ったが、改変されたことによって人々のモラルが著しく向上しているこの世界なら、確かに快適かもしれない。
ペットとして飼われている間は殺されることも虐げられることもないだろう。女のペットとして扱われるのを堪えさえすれば、衣食住に困ることもないだろう。
ならばどういう罰を与えるつもりなのか。
『君にはね……』
そして天使は恐ろしい罰を口にした。
『君の幼馴染・赤土政夫くんのペットとして、暮らしてもらうよ』
千本松光樹視点 最終話 につづく