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夜空さくら
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改変された世界の片隅で ~赤土政夫視点~ 最終話


 うちに送られてきた牛娘はミツキ、と名乗った。

 なんとなく、どこかで聞き覚えがある名前のような気がしたが、どこで聞いたのかが思い出せない。

(うーん……なんだかさっきから妙な感じなんだよなぁ……)

 どこか違和感が拭い去れない。何かを忘れているような感覚がつきまとっている。

 知らず知らずのうちに改変されているのではないか、という考えがちらりと覗いたが、私はそれを一端忘れることにした。

(まずはミツキをどうするかを決めないと……部屋は一部屋余ってるから、そこを使って貰うとして……?)

 そういえばなんで私はワンルームではなく、二部屋もある部屋を借りたのだったか。

 片方を物置にしてしまっているほどに持て余すのなら、最初からワンルームでいいはずだ。

(たまたま、この部屋しかいい条件で空いていなかった……?)

 理屈は通るが、果たしてそんなことが有り得るのだろうか。

 私はミツキに家の中を案内しつつ、考えを巡らせるが、答えはでなかった。

 それどころか、さらに不思議なことに気づいてしまった。

 肉便器が設置されていたはずのトイレが、普通のトイレに戻っていたことだ。幸いミツキに肉便器のことを説明する前にドアを開けたため、極普通のトイレであることに気づけたが、明らかにおかしい。

(確かに肉便器がここにいたよな……?)

 世界が改変されたことに気付いたきっかけだったのだから、気のせいということはないはずだ。

 だが冷静に考えてみれば、肉便器というのは男性が二人以上住んでいる家庭に配置されるもので、独り暮らしの私のところに設置されるわけがない。

 どうにも不思議な感覚だった。夢でも見ていたのだろうか。

(ダメだ、考えが纏まらん)

 世界が改変されていることに気付く、というとんでもないことがあって、混乱しているのかもしれない。

 私はそう結論をだし、ミツキに家事を任せて休もうと考えた。

 しかし。

「性欲処理はどのくらいの頻度で行いましょうか」

 ミツキがそう言い出したことで、それに対応しなければならなくなった。

 なんとなく予感はしていたが、この世界ではペットを性欲処理に使うのが当たり前のようだ。

 少なくともミツキはそれを「当然するべきこと」と認識しているようだ。

 出来ればこれ以上体力を消耗するようなことは避けたいが、当たり前のことをしないというのはミツキに不信感を抱かせてしまうだろう。そういう組織や決まりがあるのかわからないが、性交しないことが逆に虐待として扱われる可能性もゼロではない。

「……千本松のおじさんはどうしてた?」

「あの方には伴侶がいらっしゃいますから、わたしを使う必要がありません。わたし自身の性欲処理のために、道具は使っていただいておりましたが」

「そ、そうか……」

 ペットの性欲処理も飼い主の務めであるのだとすれば、やはりしないという選択肢はなかった。

「ちなみに、一般的にはどれくらいの頻度でやるのが普通だと思う?」

「毎日でもおかしくはないかと」

 間髪入れない即答に、私は正直困り果てた。

 私は身体能力的に極普通の人間だ。絶倫というほど自惚れてはいない。

 毎日するのが自然とはいえ、毎日ではとても私の身体が保たないだろう。

「……もうひとつ質問いいかな」

「なんなりと」

「その、性欲処理の内容だけど……性交だけ、なのかな? 例えば……そう、SMプレイだとか、露出プレイとかで発散する……というのはありかい?」

 だいぶギリギリの質問だ。ペットという立場であるミツキは答えてはくれるが、内心は不信感が募っていることだろう。なんでそんな当たり前のことを聞くのかと。

 だが聞かずには居られない私にとって、彼女の存在はありがたかった。

(預かっている関係ではあるが、命令には基本的に従順みたいだし……誰にも言わないように口止めをすれば、大丈夫だろう……)

 打算もありつつ、そう聞いた私の質問に対し、ミツキは端的に答えてくれた。

「問題ありません。わたしの性欲は道具でのみ発散していただいておりました」

 そういえば千本松のおじさんの話をしていたのだった。そこから予測してしかるべきだっただろう。うかつだった。

 幸い、ミツキはそのことよりも別のことを気にしていた。

「ただ……その、ペットの身で図々しいお願いではあるのですが……道具だけ、よりは普通の性交もしていただけると……その……」

 もじもじ、と豊満な身体を小さくして言い淀むミツキ。その姿はとても可愛らしく、有り体にいって、性的にそそられるものであった。

 股間に熱が集中するのを自覚する。

(……うん、ありがたい存在ではあるし……ペットを満足させてあげるのも飼い主の勤めか)

 出来る限りミツキを満足させておいてやれば、今後変な言動をしても誤魔化しが聞くかもしれない。

 打算ばかりでミツキには申し訳ないが、最大限ミツキを活用させてもらうことにした。

「わかった。ただ、私の性癖は少々特殊でね……耐えられないことがあれば、無理せず言うように。これは臨時飼い主としての命令だから。くれぐれも無理をしないように」

 不自然に思われても、ここは念押ししておかねばならなかった。なにせ改変された世界の住民なら自然と引き際を理解出来るものの、私にはそれが出来ない。

 うっかりやり過ぎてしまうのは最も避けなければならないことだった。

 私のその保身交じりの言葉は、彼女にとっても別に不自然なことではなかったらしく、こくりと頷く。

 そうと決まれば、早速やってみたいことがあった。

「じゃあ早速だけど今日の夜、やってみようか」

 まずは私の持つ様々な性癖の中でも、一番無難かつやりたかったことを行う。


 縄を使った――SMプレイだ。





 結論から言って、ミツキの存在は私にとってとてもありがたいものとなった。


 初めてミツキと結ばれた日に感じたのだが、私とミツキの身体の相性はとても良かった。

 初日にミツキの全身を縛り上げ、性交にも及んだのだが、あまりにミツキの中が気持ちよすぎて――長年の憧れだったSMプレイにおける縛りが出来たということもあるが――絶倫ではない私が、休憩を挟みつつも数度射精に到れたほどった。

 私は初日以降も毎日ミツキとプレイに興じ、その度に何度もミツキの体内に精液をぶちまけていた。

 ミツキは家事も得意で、精の付く料理を作ってくれたことも大きかった。

 毎日ミツキと性交し、彼女を縛り上げ、吊り下げ、持ち上げ、と様々なことをしているうちに、私の身体はすっかり逞しくなってしまった。

 充実した毎日を送っているからか、私はすっかり様々な面で成長し、世界が改変される前とは雲泥の差になってしまっていた。

(さて、と……)

 その日、私はミツキの首輪にリードを着け、外に散歩しに出かけていた。

 ミツキの身体には、牛娘の正装として初めから身につけていた牛柄のビキニ以外に、すっかり技術が鍛えられてしまった縄化粧を施してあった。

 両手両足が自由である代わりに、胴体は厳しく緊縛してある。歩く度にミツキの股間に縄が食い込んで責め立てるようになっている。

 まだそれほど長い距離を歩いたわけではないのに、ミツキの足取りはふらふらとしており、いまにもその場に崩れ落ちてしまいそうだ。股縄がじっとりと湿り、変色さえしている。

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」

 ミツキは息を荒くしながら、歩き続けている。犬のような息づかいが響き、意図せず涎が糸を引いてミツキの身体を濡らしていた。

 彼女の存在には様々な面で救われていた。この改変された世界の常識の大部分を、私は彼女から学ぶことが出来た。ネットで調べるのにもやはり限度があって、彼女の助言がなければ私は早い段階で異常者としてマークされていたことだろう。

 幸い彼女は私のいうことを黙って聞いてくれたし、私が他の人に話さないように頼めば、誰にも言わないと約束してくれた。

 本来の飼い主である彼女の両親に聞かれればその限りでは無いらしいが、よほどのことが無い限りはそんなことをわざわざ確認してこないとのことだったので、ひとまず安心しても良さそうだ。というか、おじさんたちは長期旅行に出かけたのだから、大丈夫だろう。

 私は安心して、彼女の導きに感謝しつつ、この改変された世界で過ごしていた。

「……さて、とりあえずこの辺でいいかな」

 今日は野外での緊縛吊りを試す予定だった。家の近くの公園の一角、普通なら子供が遊ぶ遊具があるべき場所に、その奇妙な置物はあった。

 端的に言えば、ブランコからブランコ本体を取り除いた柱のみの存在。

 ブランコとはとても言えないが、ブランコと言うしかない、そんな奇妙な存在。

 それは、いわゆる大人の遊び場のひとつだった。

「ミツキ、こっちに立って」

 私が本来ならブランコの乗る板がぶら下がっているであろう位置を指し示すと、ミツキはふらふらとした足取りでそこに立つ。明らかに目が情欲に輝いており、いまからされることを期待しているのがわかった。

 あえて何も告げずに、私は淡々と準備を進める。持ってきた縄の束を解き、柱に引っかけるように放り投げる。落ちてきた縄の末端を掴み、柱にロープをかけた。

「両手を後ろに」

 命令に素直に従うミツキの腕を捻り、うなじに迫るほど上方で交差させた手首に縄をかけた。

「んぎっ」

 ミツキは身体が柔らかい方だが、さすがにこの高手小手縛りは厳しいようだ。かなり苦しそうな声をあげた。

 だが、遠慮はしない。縄を彼女の身体にかけておいた縄に連結し、両方の良いところを活かして彼女の身体を縛り上げていく。

「片脚を上げて」

 ある程度上半身を吊すことが済んだ時点で、そう命じた。ミツキは片脚をふらふらしながらも持ち上げる。よろめいても、上半身を縛る縄が吊しているため、倒れることを揺るさない。

 ミツキが上げた足の足首を掴み、そこに縄をかけていく。この数週間の生活で、すっかり縄の扱いにも熟練してしまった。

 瞬く間に――と表現してもいいだろう――ミツキはI字バランスのような形で、身体を柱から吊されている体勢になっていた。

「うぅ……」

「恥ずかしいのか? ミツキ」

 答えはわかっていたが、あえてそう問い掛ける。案の定ミツキは、顔を赤くしながらこくりと頷いた。

「外でこんなことをするのは……初めてですから……」

「だろうな」

 千本松のおじさんは飼い主の義務としてしか彼女を性的に扱っていなかったようだし、こうして外で縛られ、吊されることはなかったはずだ。

 いつもほとんど裸のような格好をしているミツキだが、不思議と羞恥心はあるようで、外に出る時はいつも恥ずかしそうにするのだ。

(考えてみれば、それは少し奇妙なことのような気がするが……)

 飼い主としてしかおじさんが接していなかったとしても、ペットであるミツキを散歩に連れて行くことはあったはずだ。ましてや家事の一部を任せていたとすれば、当然買い出しなどで外に出ることはあっただろう。

 なのにミツキは牛娘としての格好で外に出ることを恥ずかしく感じている。よくよく考えれば矛盾しているような気もした。

(まあ、私としてはこういう反応の方が見ていて楽しいし、問題はないみたいだからいいんだが……)

 この改変された世界でも羞恥心を感じるように教育することはあるらしい。

 大抵の学校は、生徒を肉便器として派遣する学校があるように、性的なことにためらいなく興じるような教育がされているのだが、一部の学校ではそれまでの世界とほとんど変わらない教育を施される場合があるのだ。

 無論、世界全体の常識は教えられるが、服装や行動はいままでの世界準拠のものを教えられるため、裸になったり奉仕したりといった事に疎くなり、結果羞恥心が生まれるというものだ。

 ミツキはそういう学校出身なのかもしれなかった。

 千本松のおじさんたちの元で飼われるようになった経緯はわからないが、まだ慣れるほど外に連れ出されていないのかもしれない。

 ともあれ、私にとって重要なのは、彼女が私を満足させるのに十分魅力的な存在だということだ。

(さて……ここからが大事なところだ)

 私はひとつ息を吐き、集中し直す。縄による吊りは対象の身体にかかる負担が大きなものだ。下手な吊りをしたら重篤な障害が残ることも考えられる。

 ミツキ曰く、基本的にペットとして扱われている存在を、飼い主の立場にあるものが傷つけたり、最悪死なせてしまったりしても、罪に問われることはないらしい。

 だがモラルが著しく向上しているこの世界ではよほどの事が無い限り事故や事件は起こらず、私がもし誤ってミツキを殺してしまったりしたら、相当厳しい目が向けられるのは避けられない。

 そもそも、ミツキを死なせるわけにはいかない。

 重要な情報源だということももちろんあるが、それ以上にこの数週間、毎日のように繋がってきた相手なのだから。

 相応に情も湧いてしまっているのだ。彼女を乱雑に扱うなど、出来るはずもない。

「いくぞ、ミツキ」

「はい……政夫様」

 健気に応じてくれるミツキに応えるべく、最後の足にも慎重に縄をかけていく。

 そして、最後に一際強く縄を引けば。

 最後に地面に残っていたミツキの足が持ち上がり、海老反りの形で彼女の身体が浮かび上がっていく。

「んぎっ、んぐうう……っ!」

 ミシミシ、とミツキの全身から悲鳴があがった。さすがにこの吊りのキツさには、ミツキも声をあげずには居られないようだ。

 吊された揺り篭のように、ミツキの身体がゆらゆらと揺れる。牛娘特有の大きな乳房が、まさにたわわに実った果実のように揺れていた。もいで食べれるとしたら、実に美味しそうに実っている。

 私はさらにロープを引っぱり、ミツキの身体をさらに持ち上げる。もしここでロープが切れて落下でもしようものなら、地面に叩きつけられるミツキは大怪我をするだろう。

 しかし彼女はそんな恐怖を感じているとは思えないほど、艶めかしく身体を捻り、揺らし、呻いていた。私を信じ切っているのだ。落下するようなことなどないと。

 そんなミツキがとても愛おしく感じる。

 私はズボンの中で膨張して硬くなっているペニスを取り出し、顔がちょうど腰の高さになっているミツキの前に差し出した。

「舐めてくれ」

 身体が吊されているという壮絶な状態にありながらも、ミツキは懸命に奉仕を初めてくれた。かなり苦しい体勢でありながらも、身体を揺らし、少しでもこちらが気持ちよくなれるように励んでくれている。

 そんなミツキのことが、私は愛おしくて仕方がなかった。

 改変された世界に、独り放り出された時は、どうしたものかと途方に暮れたものだが、彼女の存在があるおかげで、切り抜けていくことが出来ると感じていた。

(人間がペットとして扱われる期間は、個体にもよるが、おおよそ三十歳前半まで……ミツキが人間に戻った際には……)

 私は彼女を人生の伴侶に選ぶつもりでいた。

 それまでは彼女に支えて貰いながら、この改変された世界を乗り切っていけばいい。


 改変された世界の片隅で。

 改変されていない私は、愛するミツキと共に生きていくのだ。



赤土政夫視点 最終話 おわり


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