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はじめてのヒトイヌ公園 その2 ~ラバースーツ着用~

 ラバースーツを間近で見るのは、実は初めてだった。

 前々から憧れはあったものの、ラバスーツなんていう特殊なものは普通のお店で見られるようなものじゃないし、そういったものがおいてある特殊な店にひとりで踏み込む勇気もなかった。

 それがまさか、こんな形で、瀬田さんと一緒に見ることになるとは、全く思っていなかった。人生何が起きるわからないものだ。

「……触っても、いいですか?」

 職員さんに許可を求めると、彼女は快く許可を出してくれた。ついでとばかりに、そのラバースーツに関して説明をしてくれる。

「公園内は徹底した清掃と整備が行われていますが、野外であることに変わりはありません。こちらのスーツは、首から下の身体が傷つけないようにするためのものです。相応の強度を持っておりますので、地面に擦った程度では破れたりしません。ご安心ください」

 安心していい材料なのかどうか、微妙に迷う話だった。

 瀬田さんも興味津々な様子で、ラバースーツに触れている。

「瀬田さんも、初めてなんですか?」

 なんとなく反応がわたしのそれと似ている気がして、そう問い掛けると、彼女は素直にこくりと頷いた。

 どうやらこここに連れてきた張本人も、ラバー初心者みたいだ。

(それでよく、わたしを連れてこようと思ったわね……まあいいけど)

 彼女の方が熟練の存在だとすると、仮とは言え飼い主の立場がなくなってしまうから、お互いずぶの素人である方がやりやすい。

 そんな打算的な考えをしながらも、ラバースーツの吟味を始める。

 机の上に広げられた人の皮のようなそれは、首から下を完全に覆う形になっている。

 ラバースーツというものは普通両手両足の先端は別になっていることが多いと思っていた。ダイビングスーツじゃあるまいし、全身を一枚ラバーで覆うのは非情に難しい。

 身体にぴっちり沿わせるためには可動域が多く、複雑な形状になってしまう手先足先の部分は別のラバー手袋や靴下で覆った方が効率がいいとかんがえられるからだ。

 けれど、目の前に置かれたラバースーツは、そんな着づらさを形にしたような、非情に凝った造りをしていた。手の指先や足の指先まで、このラバースーツ一枚で完全に覆えるようになっている。

 ただ、手の先の部分は指が分かれておらず、行き詰まった袋状になっていた。

(そっか、瀬田さんが着る分には、手先の自由は必要ないからか)

 ヒトイヌ拘束が施される予定の瀬田さんには、手を使って何かをする機会がない。

 だから、単純な構造にしても構わないのだろう。

 そんなことを考えながら、今度はそのラバースーツに触れてみる。

 つるつるとした肌触りはラバー特有のもので、ラバーフェチでもあるわたしは思わず感激してしまった。ラバースーツの話題を見る度に、実際に触ってみたいと思っていたのだ。

(……思ったより、ラバーの匂いってしないのね)

 わたしのイメージでは、むせ返るほど強いラバーの匂いがしているものだと思っていたけど、ラバーの質がいいからか、それともそもそもラバースーツというのはそういうものなのか、鼻につくようなゴムの匂いは全くしなかった。

(それに、動画とかで見るラバースーツに比べて、テカリも控えめな気がする……)

 最近はちょっとネットを探せば、女の人がこういう服を着る映像はすぐ出て来る。

 そういう映像では、大抵外国のグラマラスな女の人が、怪しげにテカテカ光るラバースーツを着ていた。それに比べると、目の前にあるラバースーツはなんとなくテカリが足りない気がする。

(質が良いから? まさかとは思うけど、粗悪品だから、とか……レンタルだし、ありえるかも……?)

 そんなことを考えてしまう。

 でもこれだけ巨大な施設を運営している以上、資本力は相当なものがあるはずだった。わざわざこういったものを着せるためだけに、広い空間まで用意していながら、その衣装自体を粗悪なものにするとは考えづらい。レンタルであっても、いいものを用意するだろう。

 それに、素人の感覚ではあったけど、目の前のラバースーツの造り自体は相当しっかりしている。とりあえずラバーで出来ただけの、粗悪なスーツではないと思えた。

「そろそろ、よろしいですか?」

 ラバースーツを眺め、触り、感覚を確かめていると、職員さんが声をかけてきた。

 その手に、何やら怪しい容器を持っている。

「ラバースーツの着用を行います。まずはこちらの液体を、瀬田様の身体に刷り込んで参ります」

 そう言いながら、彼女は瀬田さんを誘導し、部屋の中央に立たせた。

 わたしには深い青色のゴム手袋のようなものが渡される。

「今市様はこちらの手袋を身につけてください」

 渡されたのはゴム手袋だった。一般にも流通しているような汚れ仕事の時に身につける簡易なゴム手袋ではなく、もっと分厚くて丈夫、かつぴっちり肌に張り付いてくるタイプのゴム手袋だ。

(ちゃんと爪の手入れしておいて良かった……)

 もし爪が伸びていたり、ネイルをしていたりしたら、ゴム手袋が破れてしまうところだ。

 そこでふと、瀬田さんは普段流行り物に敏感で、いかにもネイルとかが好きそうな性格なのに、爪は整えるだけでネイルなどは一切していなかったことを思い出す。

(もしかして……そういうこと? いつかこういうことをするつもりだったから、手を出していなかった……?)

 ちらりと瀬田さんの方を窺う。瀬田さんは緊張した面持ちで部屋の中心に立っていた。

 身体の前で両手を握り、落ち着かない様子だ。

 わたしがラバー独特の抵抗に苦労しつつ、慎重に手袋を身につけているうちに、職員さんが彼女に対して指示を出していた。

「両手は左右にあげて、足は肩幅以上に開いてください」

「は、はぃぃ……」

 淡々とした指示だったけれど、全裸の瀬田さんがするにはとても恥ずかしいポーズだ。普通の人なら拒否する指示だろう。

 瀬田さんは顔を真っ赤にして恥じらいながらも、素直に従った。従順なその態度はこれからヒトイヌになろうという者には相応しいものなのかもしれない

 職員さんはそんな瀬田さんの態度に触れることなく、黙々と準備を進める。わたしが身につけたのと同じゴム手袋を手早く身につける。

 足元に蓋を開けた容器を置いた。

 その容器の中には、無色透明の、どろりとした液体が満たされている。

「これは潤滑油の一種です。これを瀬田様の身体に塗り込みますので、今市様もお手伝いください」

 そういって、職員さんは手のひらでその液体をすくい上げる。水飴か何かのようにどろりとしたその液体を、両手で揉むようにして手全体に伸ばしていた。わたしもそれにならい、その潤滑油を手のひらにすくい上げる。

(うわ……すごいどろっとしてる……)

 油断すると垂れ落ちてしまいそうだ。手を洗う時のように、液体が手全体に広がるように左右の手を擦り合わせる。

 潤滑油が手袋に馴染んでくると、青色のゴム手袋がテカテカとした光沢を放ち始める。ラバーフェチにとっては溜まらない光沢だ。思わずうっとりしてしまう。

 それは見ている瀬田さんも変わらないのか、羨望の眼差しをわたしの手に向けていた。ちょっと気恥ずかしい。

「失礼いたします」

 そんな彼女の手を、職員さんがその潤滑油塗れになった手で掴んだ。

「ひゃっ」

 潤滑油で濡れた手に触れられ、瀬田さんが小さく声をあげる。わたしはそんな彼女の反応を好ましく感じつつ、職員さんが触れたのとは逆の手の先を同じように掴んだ。

 触れると、瀬田さんの体温が潤滑油とゴム手袋ごしに伝わってくる。

「ひゃんっ、く、くすぐったいよぅ、ちゃこ……」

 潤んだ目で見られて、思わずドキリとした。いつもの活発で社交的な彼女と違う、少し弱々しい様子が新鮮で、知らない人を相手にしているみたいだった。

 触れたところが熱くなるような、そんな感覚を覚えた。

「が、我慢してください」

 わたしはそう言って瀬田さんの身体に潤滑油を刷り込むのに集中する。手の先から、前腕、肘、二の腕、と手を動かす。柔らかな瀬田さんの身体はとても触り心地がいい。

 特に二の腕あたりは少しひんやりとしていて、触り心地の良さは段違いだ。

「んん……っ、ちゃこ、触り方がえっちだよぅ……」

 声を堪えながら、瀬田さんがそんなことを言い出す。彼女も顔を真っ赤にしていたが、こっちだってそんなことを言われて恥ずかしかった。

「ふ、普通に、塗ってるだけですけどっ」

「そうかなぁ……」

 むぅ、と唸る瀬田さん。むくれる彼女は必要以上に幼く見えた。

 そんなわたしと瀬田さんの様子を見ていた職員さんが、先んじて瀬田さんの胴体部分に達した。

「お背中、失礼します。今市様は前側を塗って差し上げてくださいね」

「へぅ!?」

 肩の近くまで塗り込んでいたわたしは、職員さんにそんなことを言われて思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。

 身体の前側、それはつまり、胸などにも触らなければならないということだ。

 改めてそれを意識してしまい、思わず瀬田さんの表情を窺うと、ばっちり眼が合ってしまった。

 お互いにボッと擬音がつきそうなほど急速に顔を赤くしてしまう。

 視線を逸らしつつ、わたしは愚直に作業を続け、とうとう自分の担当していた側の腕に、潤滑油を肩までしっかり塗り終えてしまった。

「じゃ、じゃあ、続けます、ね……?」

 どくんどくんと緊張で心臓が高鳴る。ごくりと息を呑んだ瀬田さんが、こくりと頷く。

 わたしはまず彼女の肩に手を動かした。手が胸のすぐ側にまで近付いて、瀬田さんが身体を硬くするのがわかる。

 恐る恐る、わたしは潤滑油塗れになった手で、彼女の胴体に触れていった。

 でっぱっている鎖骨の形にそって、手のひらを動かした。

「ひゃんっ」

 びくん、と肩を竦めて瀬田さんがくすぐったがる。

 その動きに伴って瀬田さんのむき出しになっている胸が揺れた。瀬田さんは貧乳ではないけれど、それほど大きな膨らみはしていない。

 全体的にスレンダーな体付きなので、しゅっとした理想的なボディラインをしていた。スポーツ選手とかによく見られる感じだ。

 ある意味、野性的なヒトイヌに相応しい体付きと言えるかもしれない。

 彼女の胸に触れるのは初めてだ。

 当たり前だ。いくら同性同士とはいえ、そこに触れるような機会はそうそう無い。彼女は人との距離が近い方で、寄り掛かってきたり抱きついてきたりは日常茶飯事だったけど、裸で接触することなんてなかった。

 ゴム手袋越しとはいえ、人の胸を揉むなんてこと自体が、そうそう有り得ることではないけども。

「さ、触ります、よ……?」

 思わずそう許可を求めてしまったのは、仕方のないことだろうと思う。

「い、いちいち許可取らなくていいから……っ」

 怒っているような、困っているような、そんな曖昧な顔で瀬田さんが唸る。確認を取ったことで、かえって意識させる結果になってしまっているようだ。

「ご、ごめんなさい」

 慌ててわたしは口では無く手の方を動かす。鎖骨からゆっくりと下へと、小さくとも柔らかな瀬田さんの胸に手のひらを移動させる。

 小さくても乳房は乳房。わたしは指先が乳房の中に沈む込んでいくような、気持ちのいい感触を手のひらに感じた。

 女の子同士、ふざけて胸をもみ合う子達もいるのかもしれないけど、少なくともわたしはそんなことを友達と呼べる相手ともした覚えがない。

 これは潤滑油を塗り込む行為であるということを意識し、わたしは無心で手を動かした。わたしの手の動きに合わせて、ふにふにと瀬田さんの胸の形が変わる。

 潤滑油は無職透明だったけれど、肌に薄く塗布することによって、ぬるっとした質感が目に見えて広がっていく。

 瀬田さんの肌はキメ細かく、ただでさえ綺麗なものだったのが、その視覚の変化も伴ってさらに魅力的になっていた。

 しばらく両手を使って彼女の胸に触れていたら、彼女の乳首が存在を主張し始めていることに気付いた。彼女の乳首は、乳輪も含めてとても綺麗な色をしている。その先端が徐々に硬くなり、大きくなっていた。

 触っていいものかどうか迷ったけど、その迷いがかえって意識してしまっていることを伝えてしまったらしく、瀬田さんはただでさえ赤い顔を耳まで真っ赤にして恥ずかしそうにしていた。

 その羞恥心はこちらにまで伝染し、思わずわたしも顔を逸らしてしまう。

 そんなわたしたちの様子をどう思ったのか、仮面を被った職員さんが声をかけてきた。

「今市様、身体の凹凸に合わせて、しっかり潤滑油を刷り込むようにしてくださいね」

 呆れているというよりは、初々しいわたしたちに微笑ましさを感じているような、優しい声。そんな風に見られているということは、かえって羞恥心を覚えることだった。

「はっ、はいっ」

 そう応えながら、わたしは恥ずかしさを誤魔化すために、いっそ大胆に動いた。

 真正面から、瀬田さんの胸を鷲掴みにするように、両手を彼女のおっぱいに被せたのだ。

「うひゃっ!」

 これには瀬田さんも驚いて悲鳴をあげたけど、じわじわ触れるよりはこっちの方が彼女の羞恥もマシなのか、ほっとしたような気配を醸し出していた。

 わたしはそのまま、彼女の胸に潤滑油を塗り込むために、両手を大きく動かす。揉むつもりはなかったけど、実質それとほとんど変わらないような手の動きになってしまった。

「んんっ……もぅ、ちゃこのえっち……」

 小さく呟かれる瀬田さんの言葉に、わたしは恥ずかしくなりつつ、無言で手を動かし続けた。正直、否定出来なかったからだ。

 おっぱいの下や谷間にも指を這わせてしっかり塗り、お腹の方へと手を動かす。

「あふっ、ちゃ、ちゃこ、あんまりそこは……よわ、いからぁ……っ」

 脇腹に触れると、ある意味では胸よりいい反応をしていた。瀬田さんは結構なくすぐったがりのようだった。

(でも、この状況でもくすぐったがらなくても……いえ、この状況だから、かしら)

 笑ってはいけない場面なのに、笑えてしまうというのはよくある話だ。

 だからといって、裸で人に身体を弄られている状態でさえ笑えてしまうというのは、結構なマイナスポイントになりうるような気がする。

(まあ、いいか……)

 わたしは潤滑油を手のひらに補充しながら、どんどん塗り進めていく。

 腰の辺りまで塗ったところで、思わず手が止まった。

 ここから先はそれこそ普通なら絶対触れあったりしない場所だ。本当に触れていいものか、躊躇が態度に出てしまった。

 瀬田さんがもじもじと膝あたりを擦り合わせる。

「い、いいよ……ちゃこ、さわって……」

 蚊の鳴くような声で、瀬田さんがその場所に触れることを許してくれる。

 わたしは思わずごくりと息を呑んでいた。

 恐らく彼女がまだ誰にも触れることを許していないはずの場所に、わたしが、触れる。

 それはとてつもなく重いことのように思えて、強い緊張を感じてしまう。本当に触れてもいいのか、ためらいがないわけではなかった。

 けれど、立ち往生し続けるわけにもいかない。

(これに付き合うって決めたんだから……しっかりしないと……!)

 意を決したわたしは、瀬田さんの下腹部に触れていた手をゆっくりとずらして――

「申し訳ありません。瀬田様、今市様。股間に関しては後ほど処置をいたしますので、いまは軽く塗る程度でお願いします」

 職員さんに待ったをかけられた。

 危うく秘部の中にまで手を入れようとしていたわたしは、その言葉に動転する。

「え、あ、そ、そう、なんですかっ」

 慌てて挿し込もうとしかけていた指先を伸ばし、指の腹で彼女の股間に触れる。

 一度は奥まで入れることを覚悟してしまっていたからか、表面に触れる程度であればそう大したことではないかと思ってしまっていた。

 だからさほど躊躇無く触れることが出来たのだけど、瀬田さんの股間に触れた瞬間に指先から伝わってきた感触に驚いた。

 潤滑油によってわたしの指先は濡れている。その上でなお、瀬田さんのそこから溢れだしているものがあるということが感じ取れてしまったのだ。

 自分からやりたいと言っているのだから当然なのかもしれない。

 ひとり裸にされて、好きなように身体に触れられ、弄くり回されているという、普通なら屈辱しか感じないであろう、そんな状況で。


 瀬田さんは股間の割れ目からどろりとした愛液を垂らすほどに、感じていたのだ。


 その事実に気付いてしまったわたしは、どくんと心臓が激しく高鳴るのを感じていた。

 瀬田さんの性質を知ってしまい、不思議な高揚感を覚える。

 そのことに戸惑いつつ、わたしは潤滑油を塗る作業に集中した。

 股の間を通り過ぎて、瀬田さんの太ももへと手を滑らせる。そこから先は立ったままだと手が届きにくくてしんどかったので、わたしはその場にしゃがみ込んだ。両膝を揃えて床に突く。

 瀬田さんの股間がすぐ目の前にあるけど、わたしは意識してそこから視線を外し、彼女の足に潤滑油を塗ることに集中した。

(やっぱり瀬田さん、足が綺麗……)

 彼女の脚は、カモシカのように健康的で、すらりとした脚だった。夏場とかは率先して肌をみせるタイプだから、彼女の脚の綺麗さに関してはわたしもよく知っている。

 わたしはどちらかというと肉付きがよくて、ハイソックスなどを履くとむっちりしてしまうタイプなので、すらりとした瀬田さんの脚は純粋に羨ましい。

 よく露出するからか、手入れも入念にされていて、シミ一つない綺麗な脚だった。手触りもすべすべしていてとても心地良い。

(うん……やっぱり、いいなぁ。わたしの脚もこれくらいすらっとしてたら……)

 彼女の脚に潤滑油を塗るという役目を忘れたわけではなかったけど、ついそれ以上に彼女の脚に触れられるのを楽しんでしまった。

「脚の裏は入念に塗らなくていいですよ。軽く馴染ませる程度にしてください」

 職員さんからそう忠告を受け、わたしは頷く。

 足の裏に潤滑油を塗りすぎたら、転倒してしまう危険だってあるだろう。それくらいは子供でもわかる。

 近くにぶつけるような家具の角などはないけど、尻餅をつくだけでも十分痛い。

 瀬田さんの立たされている場所の床はちょっとだけ滑りにくくなっているようだった。

 片脚ずつ上げてもらい、足の裏にも程よく潤滑油を馴染ませて、ようやくラバースーツを着る準備が整った。

 首から下の身体が奇妙にテカっている瀬田さんは、自分の身体を見下ろして、もじもじしていた。自分の身体だとわかってはいても、戸惑っているようにも見えた。

 ラバースーツを着たらいまどころじゃない変化になるのだけど、大丈夫なのだろうか。

 わたしがそんなことを心配している間に、職員さんが机の上に広げられていたラバースーツを改めて手に取る。

「それでは瀬田様、ラバースーツに身体を通していきましょう」

 そう言われた瀬田さんが、ごくりと生唾を飲み込むのが、わたしにもわかった。緊張がわたしにまで伝わってくる。

 ラバースーツの背中側は、中身が出て行ったサナギの如く、ぱっくりと開いていた。分厚いラバーの人型は誘うように空洞をある程度形にしている。

「まずは足からですね。今市様、そちら側を持って、そこにしゃがんでいただけますか?」

 職員さんの指示に従って、ラバースーツの裂け目の右側を持ち、瀬田さんの右斜め前にしゃがむ。左斜め前には職員さんが、ラバースーツの反対側の裂け目を持ってしゃがんだ。

「瀬田様、足を滑らせないようにお気をつけください。私の肩に捕まって頂いて構いませんので……」

 細かく指示を出してくれる職員さん。そのおかげで、緊張していた瀬田さんも特に危ういことはなく、広げられたラバースーツの裂け目に足を下ろしていけた。

 ぴち、ぴち、とラバースーツが音を立てながら、瀬田さんの身体を飲み込んでいく。

 まず片脚がラバースーツに覆われた。足先まで入ったことを確認すると、すかさず職員さんが弛みを伸ばしながらラバースーツを瀬田さんの身体に沿わせていく。

 ラバースーツはオーダーメイドでもないのに、瀬田さんの身体にぴったりフィットしていた。本来の皮膚の上にもう一つラバーの皮膚が出来たかのように、瀬田さんの身体の色が黒に変わっていく。塗った潤滑油のおかげか、ラバーにもかかわらずスムーズに着れているみたいだ。

「ぁ……これ、すご……」

 思わず、といった調子の声を瀬田さんが発する。それは単なる呟きというにはあまりに気持ちよさそうな喘ぎが混じっていた。

(そんなに、気持ちいいのかな)

 ラバーフェチであるわたしはそのことが非常に気になった。本物に触れてはいないけど、着用する動画を見て散々妄想はしていたから、それとどれくらいの差異があるのか、凄く気になる。

 そう思っている間に、瀬田さんはもう片方の足もラバースーツの中へと挿し入れていく。さっきと違って躊躇いは見られなかった。もう片方も早く入れたいとばかりに。

「ちょ、あぶな……っ」

 急ぎすぎたのか、瀬田さんの身体が少し傾いだ。職員さんが支えてくれていたから大丈夫だとは思ったけど、わたしも彼女を支えるべく手を延ばし、脇の下を掴んで身体を安定させる。

「ご、ごめん。ありがと」

 転ばずに済んだ瀬田さんがお礼を言ってくる。わたしは頷いて応えておいて、彼女にラバースーツを着せることに集中した。

 わたしもあとで着ることになるのだから、着る感触とかはそれから考えても遅くない。

 最初の脚と同じように、覆った部分の弛みをきっちり伸ばしながら、着せられていく瀬田さん。彼女の両足がラバースーツに覆われた。

 職員さんと息を合わせて、腰の上まで引き揚げると、ラバースーツが食い込んだのか、瀬田さんが声にならない声をあげてつま先立ちになって痙攣した。

「……っ、は、ぁっ……!」

 苦しそうにさえ聞こえる呻き声に、わたしは大丈夫なのか少し心配になった。

「だ、大丈夫……です、か?」

「う、うん。平気……ちょっとびっくりしただけ……」

「瀬田様、両手をスーツの袖に通していただけますか?」

 職員さんの淡々とした進行に、瀬田さんは頷く。

 お腹の辺りからべろん、と捲れて垂れていたラバースーツの上半身を広げ、袖に瀬田さんの両腕が通される。

「手の形は指をまっすぐに揃えてください。まえにならえ、の時と同じです」

 職員さんは言葉だけでなく、自分の手をその形にしてみせてくれた。瀬田さんもそれで理解し、手をその形にして袖の中を通していく。

 やがて彼女の手はラバースーツの先端に到達した。指の形に分かれてはいないから、瀬田さんはこれで指を使って何かをすることはできなくなった。一応、両手を使えば大きなマグカップを持ったり、片手でもドアノブとかを押し下げたりは出来るかもしれないけど、指先で小さな何かを摘まんだり、細い穴に指を入れることは出来ない。

 まだ拘束らしい拘束はされていない彼女にとって、そのラバースーツが最初の拘束と言えた。

 両手を先端まで通したら、足先でやったのと同じように弛みを解消しながらぴっちりと着付けていく。見てて大体どうやっているのかわかったので、職員さんが右手をやっている間に、わたしは左手の方をきっちり着付けていった。

「今市様、ありがとうございます。助かります」

 大したことはしていないのに、御礼を言ってくれる職員さん。わたしは気恥ずかしくなりつつも、弛みが残らないように丁寧に伸ばしていった。

「ひゃんっ。冷たっ」

 やがて二の腕辺りまでスーツが着つけられると、自然とラバースーツの前面が瀬田さんの身体に触れるようになった。サナギの羽化を逆再生するかのように、白い瀬田さんの裸身が徐々に黒いラバースーツの中に納められていく。

 きっちり肩くらいまでラバースーツを着させると、あとは背中のジッパーをあげるだけだ。

「今市様、背中のジッパーをゆっくりあげていただけますか? 細かい調整をしながらになりますので、非常にゆっくりでお願いします」

 それはきっと事実だったのだろうけど、瀬田さんをラバースーツの中に納めるという意味では、一番象徴的な役割を任されることに変わりは無い。

 自分の手で、瀬田さんをラバースーツの中に閉じ込める、という言い方だって出来るのだ。

「わかり、ました。……瀬田さん、いくよ」

 どくんどくんと心臓が激しく高鳴っているのがわかる。わたしの緊張が少し移ったのか、瀬田さんも神妙な顔をして頷いた。

「うん……お願い」

 わたしは彼女のお尻の上くらいから始まる、ラバースーツの背中の裂け目を閉じるジッパーをゆっくりと引き揚げていった。

 微調整が必要なのは事実だったようで、ジッパーが少しずつあげられていくのと同時に、職員さんが手早く各部の調整を行っていた。

 ぴち、ぴち、ぴち。

 わたしがジッパーを引き揚げる度に、瀬田さんの身体はラバースーツによって締め付けられ、ラバースーツがぴっちり張り付き、どんどんその姿をエッチなものに変えていく。

 瀬田さんはなるべく動かないようにしているみたいだったけど、時折身体がピクン、と跳ねるので、思わずそれでジッパーの金具を手放しそうになった。強く摘まみ、逃さないようにしてゆっくりと引き揚げていく。

 背中の中程まで来たところで、職員さんは両手を後ろから瀬田さんのラバースーツの中に突っ込み、胸の辺りの位置を調整していた。

「ひゃぅっ」

 後ろから胸を鷲掴みにされたようなものだ。

 これには瀬田さんも眼を白黒させて驚いていたけど、職員さんがあくまで事務的な動きしかしなかったからか、それ以上は特になにも言わなかった。

 職員さんが手を抜き、最後まできっちりぴっちり合わせながらジッパーが引き揚げられ――とうとう、ジッパーが瀬田さんのうなじに到達した。

 そして、最後まで引き揚げられると同時に首回りを覆う形になるラバースーツの襟が、きゅっ、と一気に締まる。

「~~~ッ!」

 その瞬間の衝撃は瀬田さんにしかわからないけど、相当強烈な感覚だったようで、彼女は脚をガクガク震わせた後、その場にへたり込んだ。

「せ、瀬田さん……だいじょ……う、ぶ……」

 思わず心配して彼女の顔を覗き込んだわたしは、見た。

 全身をラバースーツに覆われ、わずかに身体を動かすだけでぴちぴちと音を立てる瀬田さんが。

 さっきまで極普通の、わたしと同年代の、普通の女性だったはずの彼女が。


 ラバースーツから与えられる快楽に蕩けた――女の顔をしているところを。



つづく


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