はじめてのヒトイヌ公園 その3 ~ヒトイヌへと変わっていく体と心~
Added 2020-04-18 14:16:02 +0000 UTC肌にぴっちりと張り付くラバースーツは、着ている者の身体のラインをはっきりと浮き上がらせる。
瀬田さんの、スレンダーながらも女性らしい、やや丸みを帯びた身体のラインが強調され、凄く端的に言って、エッチとしか言い様のない見た目になっていた。
着せていた時はそこまで薄いようには思えなかったけど、ちゃんと着込むとぴっちり肌に張り付いていることで、かなり薄いラバースーツのように見える。
ラバースーツによって明確になっているのは、胸の膨らみ、腰の括れ、お尻の張り――といった、目立って当然な身体のラインだけじゃない。
鎖骨、おへそ、脚や腕の付け根、脇、膝、肘といったわずかな凹凸もばっちり浮き上がらせていた。
ラバースーツによって強調されているためか、裸よりも身体の細部の情報が目で見ただけで伝わってくる。
そのラバースーツは股間に裂け目が走っていた。正確には裂け目では無くてジッパーなのだけど、閉めた状態だとジッパーが走っているとわからないよう、ラバーが巧妙に織り込まれていた。そのため、ぱっと見では裂け目があることがわからないようになっていた。それは着せる時に用いた背中側のジッパーも同様で、よくみれば背骨に沿って線が走っていることがわかるけど、ぱっと見は全くそこにジッパーが通っているなんてことはわからない。
そういった巧妙な作りによって、彼女の肌そのものの材質が、ラバーに変わってしまったようにさえ見える。ラバー独特の光沢のある表面が、妖しくテカっていた。
(オーダーメイドでもないのに……すごい……)
ここまでぴっちりと瀬田さんの身体に合うものを確保出来る、公園の用意周到さに感心してしまう。
瀬田さんは契約書にサインしていたけど、細かい身体のサイズとかその辺は書いてなかったように思う。いや、仮にサイズを申告していたとしても、スリーサイズだけじゃここまでぴったりのラバースーツを用意することはできないはずだ。
サイズの計測もしていないはずなのに、どうしてこれほどぴったりのラバースーツが用意出来たのか、不思議だった。
このときのわたしにはわからなかったけど、後々その仕組みを聞くことが出来た。ヒトイヌ公園では、受付のある建物に入った時点でデータが計測されていたのだ。いわゆる3Dスキャンという技術だ。
一般的に知られている限りでは、まだまだ精密なデータが取れる技術ではないはずなのだけど、なぜだかヒトイヌ公園では実用レベルになっている。
一体どことどう繋がればそんな技術の導入が可能になるのかは教えてもらえなかったけれど。
ともあれ、そういった技術を駆使して、瀬田さんは最高のラバースーツ姿になれているわけだった。
わたしがそんな瀬田さんの姿に見入っていると、瀬田さんは恥ずかしそうに自らの手で胸や股間を隠そうとする。
「そ、そんなにじっと見つめないでよ、ちゃこ」
指摘を受けて、わたしは彼女の身体をじっと見つめていたことを自覚してしまう。
わたしの頬にも熱が集中するのがわかった。
「ご、ごめんなさい」
慌てて視線を逸らす。これから見ないわけにはいかないのだけど、いまはとりあえず視線を外しておくことにした。
わたしと瀬田さんがお互いになんとなく気まずい気持ちでいると、職員さんがまた新しい道具を手に、声をかけてきた。
「次は四肢の拘束です。まずはこちらをご着用ください」
そういって職員さんが持ってきたのは、手足に被せる袋のような拘束具だった。
それは手足を折り曲げた状態にして、膝や肘を覆う形で装着するようだった。これもラバースーツと同じラバー製だったけど、ラバースーツより明らかに分厚く作られている。
肘や膝に当たる部分、袋でいう底の部分にクッションがあるみたいで、そこに肘や膝を嵌め込むことが出来るみたいだった。
袋の縦の大きさは瀬田さんの手足のちょうど半分ほどの長さで、口側と中間辺りにベルトのような引き絞ることが出来る仕組みがある。それで固定出来るのだろう。
「瀬田様、四つん這いになってください」
いよいよ、本格的にヒトイヌ拘束が始まろうとしていた。
瀬田さんは緊張した面持ちで、けれどそれ以上に期待に満ちた眼で、その場に膝を突く。
四つん這いになって視点が低くなった瀬田さん。ラバースーツという不思議な光沢を放つ衣装も相成って、早くも瀬田さんが人間以外の何かになってしまったように思えた。
「失礼いたします」
職員さんは、まず瀬田さんの左足からその拘束具の装着に取りかかった。
足を曲げさせ、かかとがお尻にぴったりくっつくまで曲げさせると、膝の上から足用の袋を被せるようにして、拘束具を取りつけていく。
袋はラバースーツほどぴったりサイズではなかったけれど、かといって足を動かせるほどの余裕があるわけではなく、程よいテンションで彼女の左足を覆っていっていた。
――ミチッ、ギチ……
「ん……っ」
ラバーとラバーが擦れる音が響く。袋の方にあらかじめ潤滑油が塗られていたのか、思ったよりスムーズに袋は瀬田さんの左脚を覆ってしまった。
職員さんが袋の口側のベルトをゆっくり締めていくと、足の付け根と足首とが密着し、瀬田さんの左脚は曲げたまま伸ばすことが出来なくなった。
――ギシッ、ギシシッ……
瀬田さんが思わず足を伸ばそうと力を込めたのか、ベルトが軋む音が響いた。
けど、当然彼女の力でどうにか出来るような強度をしていない。軋む音が響いただけで、彼女の足を覆っている拘束具は全くびくともしなかった。
「ふーっ……ふーっ……ふーっ……」
興奮してしまっているのか、瀬田さんの呼吸音がやけに大きく響く。
そんな彼女の様子に構わず、職員さんは足の付け根と膝の中間辺りにあった補助のベルトも適度に締めてしまう。
あっという間に、左脚が拘束されてしまった。
「過度に痛いところ、苦しいところはございませんか?」
「……ない……っ、ですぅ」
絞り出した声は、瀬田さんのものとは思えないほどか細く小さなものだった。いつも必要以上に声が大きめな彼女とは全く違う。
そんな彼女の切なげな声を聞いて、わたしまでなんだか妙な気分になってしまった。
一方、慣れているのだろう。淡々とした職員さんは、拘束をどんどん進めていった。
右足、左手、右手。
順番に、丁寧に、しかし迅速に。
気付けば瀬田さんの手足はしっかり拘束され、普通に立つことが出来なくなっていた。
――キュッ。ギシィッ……
「はぅ……っ! んぁっ、ああっ」
最後のベルトが引き絞られると、瀬田さんはこれまでで一番大きな声で喘いだ。
びくん、と腰が動く。背中を丸め、真っ赤な顔を隠すように俯いていた。
髪の隙間から見える耳が、真っ赤になっているのが見えていたので、全然隠せてはいなかったけれど。
両手両足が半分の長さになってしまった瀬田さんは、背中を丸めて俯いていることもあって、とても小さな存在になっていた。
身長差から、わたしは瀬田さんを小さいなと感じることは、これまでにもあったけど、彼女のその社交的な態度ゆえに、存在感は決して小さくはなかった。
しかし、今。
物理的にも精神的にも小さくなった彼女は、とてもちっぽけで、弱々しく。
そして何より――愛らしい。
そう感じたことに、自分で驚く。
彼女に対してこんな気持ちを抱くなんて、想像すらしていなかった。
四つん這いになって四肢を拘束された彼女。手の先が指の形に分かれていないラバーで覆われているため、元々自力では拘束を解くことは出来なかったのだけど、四肢を折り畳んだ状態で拘束されたことにより、その脱出不可能な状態はより強固なものになった。
もう彼女は走って逃げることも出来ない。
仮にわたしや職員さんが彼女を裏切って解放しないことにしても、彼女にはもうどうすることも出来ない。ただ蹂躙されるのを待つばかりの『弱い』存在に成り果てていた。
今の状態でも十分何も出来ないはずの彼女に、まだまだ拘束を施すというのだから、ヒトイヌ拘束というものは本当に激しく厳しい拘束なのだと思う。
「こちらも装着しますね」
職員さんが次に持ってきたのは、先端に南京錠のツルのような金具がついた、太いベルトのようなものだった。
どこに繋げるものなのかと思っていたら、職員さんはいましがた取りつけたばかりの、手足の拘束具の縁に取りつけた。
背中に×印を作るように、それぞれの拘束具をそのベルトで繋げる。
どうやら袋状の拘束具がずり下がらないようにするためのもののようだ。
――カチンッ、カチンッ……
ベルトの端についている金具は、拘束具側の金具に引っかけた状態で、南京錠のツルと同じように外せない形に固定することが出来るようだった。
南京錠の鍵がかかるときのような、小気味のいい金属音が響く。
(ベルトと南京錠とが一体になっているのかしら……)
鍵がないと、外すことは出来ないようになっているみたいだ。公園内の散策を終えて鍵を渡してもらうまで、彼女は四つん這いで居続けないといけないわけだ。徹底している。
ベルト自体が何か彼女の行動を妨げているわけじゃないけど、がら空きだった背中に太いベルトが這っていることで、見た目の拘束感は増していた。
(視覚効果も侮れないかもしれないわね……)
そんな風に感心しながら見ていると、職員さんが次の処置に移る。
「四肢の拘束はこれで終わりですね。続いて、股間の処置に参りましょう」
わざわざ浣腸を施していたことからも、そこにも何らかの処置はするだろうと思っていたけど、そこに手を着けるのは最後だと思っていたので、少し意外だった。
職員さんはまずわたしの膝下くらいの高さの台を用意した。跳び箱の一番上に置く部分のように、表面は若干の丸みを帯びている。
わたしや職員さんが腰かけるには少し低い。何のための台だろうか。
「瀬田様、この上に身体を乗せてください」
そう職員さんが瀬田さんに声をかけたことで、人が腰かけるための台ではなく、ヒトイヌ拘束をされた者が四肢を休ませるためのものだということを知った。
考えてみれば、いくら肘と膝にクッションがあるとはいえ、その四点だけでずっと身体を支えるのは厳しいことだろう。
瀬田さんは割と活動的で、体力もある方だとは思うけど、厳しい体勢に違いは無い。
まだ拘束に慣れていないこともあるし、適度に四肢を休めるようにするのは大事だ。
瀬田さんもそれを理解しているのか、差し出された台に、跳び箱に跨がるような形で胴体を預けた。
――ギュム、ギュ、ギュギュッ……
その際、瀬田さんは身体の前面を台に擦りつけてしまい、ラバーと台が擦れ合う音が響いた。音だけではなく、直接触れている瀬田さんには結構強い刺激になってしまったようだ。
「んぅ……っ」
悩ましげな声をあげつつ、台を抱くような形で、下腹部辺りまで瀬田さんが台の上に乗る。その彼女の背中を、職員さんが抑えてそれ以上進めなくした。
「そこまでで大丈夫です。台を高くしますが、驚かないでくださいね」
そう告げつつ、職員さんが台の横にあったスイッチを押す。すると瀬田さんが身体を預けている台がほんの少し高くなり、台に抱きついたような形のまま、瀬田さんの四肢が地面から離れた。
身体が浮き、一瞬身を固くしていた瀬田さんは、すぐにその緊張を弛緩させた。
「あ……これ、楽かも……」
肘と膝で突っ張っていた四肢が自由になり、ぶらぶらと揺れている。それは確かに楽そうな状態だった。
けれども、あくまでその状態はさらなる拘束を行うための、一時的な状態にすぎないということを、瀬田さんは忘れているようだった。
呑気に手足をぶらつかせている瀬田さん。彼女がずり落ちないようにか、職員さんは台の左右から引き出したベルトで、彼女の胴体を台に縛り付ける。食い込むほどの強さではなかったし、元々大きなベルトが背中側にあることもあって、瀬田さんはまだ何をされているのか自覚していないようだった。
――ギュっ、ギュムッ……
職員さんが、ある程度テンションがかかる程度にベルトを締めると、瀬田さんは台の上から逃げることが出来なくなっていた。
準備を完了させた職員さんが、瀬田さんの股間の側へと移動する。
台の上から少しはみ出す形になっている股間は、両足が台を跨ぐ形になって開いていることと、ラバースーツがぴっちり覆っていることなどが相成って、後ろからみるととても恥ずかしい見た目になっていた。
職員さんはわたしの視線を塞がないように、絶妙に立ち回っている。おかげで瀬田さんがどんな処理をされようとしているのか、はっきりと見ていることができた。
職員さんが手を伸ばし、瀬田さんのお尻辺り、尾てい骨のあるあたりに触れる。そこにはジッパーの端があり、職員さんは指先で割れ目を掻き分けるようにしながら、そのジッパーの金具を指先で摘まんだ。
――ジジッ、ジィー……
そして、そのままゆっくりと引き下げていった。それに伴って徐々にラバースーツが開き、ラバースーツに覆われていた瀬田さんの身体の肌色が露わになっていく。
真っ黒になっていた身体から肌色が現れると、いままでより遙かに性的な印象を受けた。
思わずごくりと生唾を飲み込む。わたしが見入っている間も、職員さんの手は止まらず動き続けていた。
気付けば瀬田さんの股間が、はっきりと見えるようになっていた。
ラバースーツの材質ゆえにか、左右に開くような形でラバースーツの裂け目が広がっていて、その割れ目の間から瀬田さんの小さく窄まった肛門が露出していた。
外気が当たる感触で自分の股間の状態に気付いたのか、台に固定された瀬田さんが身体を捩って恥じらった。
「あ……っ。やっ、み、みないで……っ」
そう言われたものの、その場所に視線は吸い寄せられてしまう。
――ヒクッ、ヒクッ……
瀬田さんが意識してしまったためか、彼女の肛門が痙攣するように収縮するところまで、はっきりと見てしまった。
保健体育の座学ですら、ここまではっきりと肛門の様子を見ることはない。わたしは彼女に悪いとは思いつつも、目が離せなかった。
そうしている間に、職員さんは準備を完了させていた。その手に持っていたのは、ふさふさとした犬の尻尾飾りだった。ただし、普通の尻尾飾りと違って、固定する方法がテープとかベルトじゃなく、肛門に挿し込むプラグというのが、この公園がどういう公園なのかを示している。プラグはそんなに太いものではなかったけれど、細長い先端から少し膨らんだ中腹、そしてまら細くなった後端と、一度挿し込んでしまえば中々抜けそうにない形状をしていた。
プラグの部分には、薄くローションのようなものが塗られているらしく、妖しげに光っている。
「瀬田様、身体の力を抜いてください」
職員さんの指示を聞いて、わたしは台にしがみつくような体勢を取らせたもう一つの理由を悟った。いくら瀬田さんが意識して身体の力を抜こうとしても、慣れない四つん這いの体勢じゃ上手く力は抜けなかっただろう。
けれども台に身体を預けている状態ならなら、単純に全身から力を抜くことが出来る。そうすれば自然と、肛門からも力が抜けるだろう。
「は、い……ふー……」
瀬田さんはその意図に気付いているのかいないのか、職員さんに言われるまま、深呼吸をして、短くなった手足をだらんとさせ、脱力する。
その脱力に連動して、緊張していた肛門が微かに緩んだのがわかった。職員さんがその肛門に、尻尾飾り付きのプラグの先端をぴたりと合わせる。
「んひっ」
変な声をあげて瀬田さんが身体を硬くする。そんな彼女の背中を、職員さんは優しく手で擦ってあげていた。
「大丈夫、力を抜いて……力を抜けば、痛くないですからね。ゆっくりいきますから……」
その優しい手つきと、落ち着いた声の効果か、瀬田さんの身体から再び力が抜けていくのがわかった。
それに合わせて力が緩んだ肛門に、プラグがゆっくりと挿し込まれていく。
「ふ、ぅ……っ、んんんっ……」
肛門から物を挿し込まれる、という普通なら有り得ない感覚に、彼女は身悶えていた。
悩ましげな喘ぎ声はどこか性的で、聞いているこっちまでなんだか妙な気分にさせてくれる。
思わずこちらまでもじもじしてしまっているうちに、とうとうプラグの太い部分が、括約筋を乗り越えたみたいだった。
――ヌプッ。ズ、ズズ……
「ふ、にっぃ!」
ぬぷりと肛門にプラグが入った瞬間、瀬田さんは奇声をあげて背中を仰け反らせた。その際、肛門に力が入ったのをみたけれど、一番太いところが入ってしまった以上、肛門に力を入れれば、かえって奥へとプラグを飲み込むことになるのは必然だった。
プラグが瀬田さんのお尻の中に一気に吸いこまれて――突如、それに繋がっている尻尾飾りがピン、と持ち上がった。その尻尾飾りの動きは、繋がっているプラグを通して、瀬田さんも味わうことになった。
「ん、ひゃっあ!? な、なに? なんなの?」
声をあげて悶える瀬田さんは混乱の極みにあるようだった。そんな彼女を落ち着かせるように、職員さんが静かに声をかける。
「挿し込んだプラグですが、肛門の締め付けに連動して尻尾飾りが動くようになっているのです。動かし方はご自身の感覚で学んでいただくことになりますが、慣れれば尻尾の動きでご自身の感情を表すことが可能となります」
犬として振る舞うのに、相応しい装備品というわけだ。つくづく色々なことを考えるものだと感心してしまう。
瀬田さんは異様な感覚に戦きながらも、尻尾を動かしてみていた。ひょこひょこ、と上下左右に揺れる尻尾の動きは、確かに見ようによっては犬が嬉しくて尻尾を振っているように見えなくもない。
(本当に、凝ってるなぁ……)
まだまだ動きはぎこちないけれど、慣れればもっとスムーズに、尻尾を振るように飾りを動かせるようになるのだろう。
尻尾の作りにそこまで拘られているのには、理由がある。
普通なら尻尾を使わなくても言葉というものがあるが、公園ではヒトイヌとして扱われる者は、出来る限り喋らないようにしなければならないのだ。
そして瀬田さんのように、初めてヒトイヌ拘束を受ける者には、思わず喋ってしまうことを防ぐために、口枷が施されることになっているのだった。
職員さんが用意してきた口枷は、変わった形状をしていた。普通、口枷といえばボールギャグとか猿轡みたいなものだけど、その口枷は見た目からしてそれらとは全く違った。
それの第一印象は、『犬の口』だった。犬でいうところのマズルから先の、細長い口の形状が再現されている。
人の下あごから鼻に被せるように装着するマスクともいえる。
そのマスクの内側には、ちょうど人の口にあたりそうなところに細長い棒が横向きに設置されていた。
「こちらの棒を咥えていただいた上で、マスク全体で顔の下半分を覆うように装着していただきます。こちらのマスクには特別なギミックがありまして、このように……」
職員さんがわたしと瀬田さんに見える位置でそのギミックを動かしてみてくれる。もちろん口に咥えてではなく、手を口に見立てる形でだ。
職員さんが手で口枷の内側にある細長い棒を摘まむと、犬の口の形をしたマスクが開いていた状態から閉じた状態になった。摘まんでいた手の力を緩めると、また犬の口が開く。
「内側の棒を噛み締めることでマスクが閉じ、緩めることでマスクが開きます。ボール遊びの際などにはこのギミックをご活用ください」
また、と職員さんはわたしの方を見ながら続ける。
「水分補給の際には、細長いストロー状の器具をこの棒にある穴に挿し込んで、ゆっくり注いで差し上げてください。勢いよく注ぐと咽てしまい、瀬田様を苦しめることになりますのでお気をつけて」
「は、はい」
「なお、このマスクの噛む力はそう強いものではありませんし、牙はゴムで出来たダミーですので、万が一操作を誤って手を噛まれることがあっても怪我をする心配はありません。慌てず、冷静に対処をお願いします」
危険がないことを示すように、職員さんがマスクの牙に当たる部分を指の腹で突っ突く。確かに全然痛くなさそうだった。むしろ牙の方がくにっと曲がったくらいだ。
「さて、それでは瀬田様、これより、この口枷兼マスクを身に着けていただくわけですが……今のうちに言葉にしておきたいことはございますか?」
職員さんの言葉に、わたしの方が思わずドキリとする。確かに、ここまではまだ瀬田さんはいままで通り喋れたけど、その口枷兼マスクをつけてしまえば、人間らしい自己主張はできなくなる。それこそ、尻尾飾りを揺らすことくらいしかできなくなる。
そのことを改めて彼女も自覚したのだろう。瀬田さんの目が熱に浮かされた時のように、少し潤んでいた。
瀬田さんの眼が、わたしを見上げる。彼女の上目遣いは見慣れているはずなのに、どうしてだか全然違うように見えた。
「あの、さ……ちゃこ……ううん。――ご主人、様」
いつも我儘をいうときのトーンとは全く違う声で。
いつもとは呼び方まで変えて。
「今日一日、あたしの――雌犬の世話を、よろしくお願いします」
殊勝な声で、言うのだった。
自分から自分を雌犬と言ってしまうあたり、彼女はやっぱり本質的に、本格的なマゾヒストらしい。
瀬田さんが視線を職員さんの方に向けると、職員さんはその意を汲んで、その口に枷とマスクを被せてあげていた。
「ン……ッ、あむ――ンゥ……ッ」
顔の下半分がマスクに覆われた上、彼女が口枷を噛み締めたから、犬の形を模したマスクの口が閉じ、彼女の声はその中に籠って外には聞こえ辛くなった。
職員さんが手早くマスクをしっかり固定してしまうと、瀬田さんは人間が人間たる所以のひとつ――言葉による意思の主張が全く出来なくなった。
見た目も、そして精神的にも。
彼女はどんどん一頭の犬に――否、ヒトイヌに近付いていた。
つづく