はじめてのヒトイヌ公園 ~遊技場での「あそび」~
Added 2020-05-01 14:24:36 +0000 UTC『遊技場』の中には、ヒトイヌと遊ぶための設備が整っていた。
床にはヒトイヌを効率的に歩かせるためのトラックが描かれている。何メートルかごとに目印があり、何周で何メートル歩かせるかを簡単に管理出来るようになっていた。
さらに壁には細かく分けられた棚があり、そこにはヒトイヌと遊ぶための『おもちゃ』が並べられていた。
(……ちゃんと個包装にして消毒もしてあるみたいね)
衛生観念もしっかりしているようで安心出来る。
用意されている道具は、普通に遊ぶためのものであるゴムボールや、犬の玩具でよくある柔らかな素材で作られた骨を模した棒のようなものもあれば、『そういう遊び』のために使うと思われる大人のおもちゃもたくさん並べられていた。
そのことに気付き、思わず顔が熱くなる。
(ま、まあ、本来はそういう目的で来る人がほとんどでしょうから、それは、まあ、そうなんだろうけど……)
ここに辿り着くまでの公園が、あまりにも真っ当な公園らしいものだったため、なんだかまだ本来はそういったプレイを楽しむための公園だという認識が出来ていなかった。
わたしたちの格好自体、性的なものではあるのだけれど。
この格好で行動するのが精一杯で、そういう意図を持って愉しむことがまだ出来ていないのだった。
(もう少し慣れてきたら、そういう気分にもなれるのかしら……?)
まだそういった想像は出来ない。
わたしは『遊技場』内の様子を見回るふりをしつつ、それとなく周囲に視線を向ける。
建物に入った時に案内があった観覧席と思われる二階席は、ガラスが覆っていてどんな風になっているのかわからないようになっていた。恐らくはマジックミラーのようなもので、向こうからは見えるけどこちらからは見えないようになっているのだろう。
いまも誰かがいるのか、それとも誰もいないのか。全くわからない。
視線を感じるような気はするけど、カメラはここにも当然のように設置されているので、その視線と勘違いしている可能性もある。
わざわざマジックミラーで区切って見られているかどうかわからなくしているのは、こっちが気兼ねせずに楽しむための配慮だろう。
(カメラ越しならまだしも、直接見られているのかと思うと、ちょっと気になるわね……)
いまのところわたしが会った施設側の人は、皆女の人だったけど、カメラの向こうで見ている人は男の人かもしれない。
それにもし観覧席に人がいるとしたら、そこにいるのは十中八九男の人だろう。こんな公園にわざわざ見学しにくるのだから。
(うぅ……男の人にこんな姿を見られているかと思うと……急に恥ずかしくなってくるわね……)
ほぼ身体が覆われている以上、滅多なことで身バレはしないだろうから、そういう点では安心だけども。
わたしと違って、頭を全部覆っているわけではないあかりの方は、知り合いに見られるとバレてしまうかもしれない。こんなところに知り合いがいるとは思えないこともあってか、あかり自身はあまり気にしていないようだった。
彼女だってこの公園に来るのは初めてのはずなのに、この羞恥心を感じる差はなんなんだろうか。単なる性格の違いといえばそれまでだけど。
「ウー……」
あかりは遊技場の中を興味深そうに歩き、棚に用意された道具を眺めていた。
トラックの邪魔にならない程度に置かれたクッションを手で――いまは前足というべきだろうか――転がし、硬さを確かめるような素振りを見せる。
わたしはリードであかりの首を絞めてしまわないよう、あかりについて動いていた。
ラバースーツに包まれたあかりのお尻が目の前でフリフリと揺れる。自分から望んでそういう姿になっているだけあって、楽しげな様子だった。
腰の動きに合わせて、肛門に突き刺さっているプラグに装着されている尻尾飾りも揺れている。
尻尾には肛門を締めることで左右や上下に振ることが出来るギミックがあるそうだけど、いまのところあかりがそれを活用している様子はない。あくまで自分の身体の動きに合わせて動いている、という感じだ。
(それにしても、肛門にプラグが刺さっている感覚って、気持ち悪くないのかしら……?)
男性との性交経験がなく、自慰においても身体の中を弄ったことのないわたしにとって、身体の中に何かが差し込まれるという感覚は全く未知のものだ。
もちろんあかりは経験豊富で、身体の中に何かが差し込まれるという、その手の感覚に慣れているという可能性はあるのだけれど。
そんなことを考えていたら、あかりは棚の中にあったボールに興味を示していた。
「あかり、それで遊びたいの?」
「わふっ!」
いささか大げさに頷くあかり。
わたしは棚から拳大くらいはあるゴムボールを手に取った。
「……えーと、ちょっと待ってね」
わたしは座布団サイズのクッションを引っぱって来て、慎重に床に腰を下ろす。ロングブーツとコルセットのせいでかなり座りづらかったけど、クッションのおかげもあって、お尻を軟着陸させることに成功した。
一息ついたわたしの足に、あかりが頭を擦りつけてくる。ラバー越しに柔らかい髪の毛の感触がして、くすぐったかった。
「ふふっ、もう……ほら、あかり」
消毒済み、と書かれた袋の中からゴムボールを取り出し、あかりの前に差し出す。あかりはそれを見て、犬マスクの口の部分を大きく開いた。サイズ的には余裕を持って咥えられそうだ。
あかりが顔を寄せてくるのをかわし、わたしはゴムボールをゆっくりと転がした。
(普通の犬相手なら思いっきり投げてもいいだろうけど……)
ヒトイヌ相手に同じことをしたらすぐに体力が尽きてしまう。
ボールはころころと数メートル先まで転がっていく。あかりがそれを四つんばいでおいかけていった。
その走って行く姿をみながら、この遊技場の床が程よく柔らかい絨毯のようなもので出来ていることに気付いた。
(体育館みたいに硬いフローリングだと、手足にかかる負担も大きそうだものね……)
児童預かり所みたいなところで床に敷いているような絨毯だ。定期的に洗いやすくするために、数十センチ四方のパーツに分けられるようになっている。
どの程度の頻度で洗っているまでかはわからないけど、清潔を保てる頻度で洗浄しているのだろう。少なくとも目で見た範囲で汚れなどは見当たらなかった。
いたるところに細かい配慮が成されているのだと、改めてヒトイヌ公園という施設の本気度を感じる。
そうこうしているうちに、あかりが転がったボールをマスクの機能を使って咥え、戻ってきた。
「わふっ、わふふっ」
楽しげに目元を緩ませながら近付いてくるあかり。その無邪気な様子は、とても微笑ましく感じた。
(……可愛い、のよねぇ。いつもは鬱陶しいところもあるけど)
いつもの瀬田さんは姦しいという言葉が非常に似合う人だ。それは人懐っこさにも繋がる彼女のいいところではあるのだけど、どちらかというと静寂を好むタイプのわたしには五月蠅く感じる時もあった。
それがいまは人としての行動が制限されているために、わたしにとってはちょうど良い塩梅のじゃれつきようになっている。
わたしは近くまで戻ってきたあかりからゴムボールを受けとる。
「ん。偉い偉い」
よしよし、と犬を褒める様に彼女の頭を撫でてあげる。わたしがやられたら不機嫌になってしまう行為だけど、彼女にとっては正しくご褒美になる。
むしろ、自分から頭を擦りつけるようにしてきていた。
そんな彼女の行動に思わず和んでしまいつつ、わたしはもう一度ゴムボールを彼女にみせ、加減して転がす。
とてとてとて、とボールを追いかけ、器用にマスクで咥えて、戻ってくるあかり。繰り返すうちにこっちの興も乗ってきた。
「ふふ……よしよし、良い子ね。あかり」
見た目はとても普通ではなかったけれど、徐々に犬と飼い主としての空気が出来上がりつつあった。
そのことは、そういった関係に憧れていたであろうあかりにとっては、悦びに直結することだったようで。
――はっ、はっ、はっ……
荒い呼吸をしながら歩くあかりの口元から、涎がぽたりと零れ落ちた。
目がとろんとして、熱に浮かされたように茫洋とし始めている。苦しいというよりは、ライナーズハイの方が近いかもしれない。
少なくとも呼吸の質は気持ちよさそうなものだった。
(……とはいえ、ちょっと休ませた方がいいわね)
いくら本人が望んでやっていることで、それによって気持ちよくなれているのだとしても、人間の身体は四つんばいで歩くようには出来ていない。身体的にも体力的にも、かなり負担がかかっているはずなのだ。
そう判断したわたしは、ゴムボールを持ってきたあかりからそれを受けとると、一端それを脇に置き、正座を崩したような体勢になっている膝を示す。
「あかり、休憩しましょう。さっきみたいに寝転べる?」
「わぅ……」
あかりはほんの少し不満そうだったけど、体力の限界には彼女自身も気付いていたようで、大人しくわたしの傍で身体をごろりと横たえて寝転がる。その際、彼女の頭がわたしの膝の上に来て、自然と膝枕をしているような状態になった。
「……気持ちいい?」
あかりの頭を撫でながら問うと、あかりは見える範囲でも十分わかるくらいに、にこりと笑みを浮かべた。顔だけ見ると無邪気なものだけど、手足が拘束されている関係上、思いっきり身体を開いた状態になってしまっているので、とてもあられもない格好であった。
あかりはその状態でわたしの膝に頭を擦りつけてくる。その際にも身体をくねくねと動かしているものだから、見ようによっては非常にいやらしい動きだった。本人はいまの自分に出来るように動いているだけなので、無意識のようだったけれど。
(見られてるとか、撮られてるとか、そういうことは考えないのかしら……)
無防備なあかりに少し呆れてしまう。
とはいえ、この非日常を愉しむのだとすれば、あかりのように何も気にせず振る舞うのが正しいのかもしれない。
わたしはそんなことを思いながら、あかりの頭を撫で、無意識にもう片方の手であかりの胸に――正確にはお腹を撫でようとしたのだけど――触れていた。
あかりのことを普通の犬と同じように感じてしまい、お腹をみせてくる犬を撫でる時のように、自然と身体が動いていた。
「んひゅっ」
思わず犬にするのと同様のことをしてしまったことに、あかりが上げた奇妙な鳴き声で気付いた。
慌ててあかりの胸から手を放す。
「うわっ、と、ご、ごめんなさ――」
謝ろうとしたわたしに対し、あかりの答えはシンプルだった。
「くぅん……」
切なげに啼いてみせたのだ。「止めないで」と言外に訴えている。
その訴えかけてくる、うるうるとした目の破壊力は、なかなかのものだった。胸の奥がきゅんと締め付けられる。
(……ほんと、瀬田さんはずるいなぁ)
わたしは内心そう思った。ヒトイヌになっても甘え上手というか、甘え上手だからこそヒトイヌになりたがる素質を持っているというべきなのか。
答えはわからないけど、ひとつ言えるのは仮とはいえご主人様であるわたしが飼い犬の健気な懇願を無視出来るはずもなく。
わたしは離していた手を、再びあかりの胸に戻した。
さっきは事故のようなもので一瞬だったから感じていなかったけど、仰向けになっていてもあかりの胸はちゃんと柔らかかった。
ラバースーツに包まれたあかりの胸は程よく弾力を有していて、レザーグローブ越しでも直接触れたらさぞ気持ちがいいのだろうなという感触が実感出来る。
「んぅ……ふぁ……っ、くぅん……っ」
胸に触れられたあかりは、一層身体を捻って身悶える。
無邪気な犬のようだった彼女の姿は、瞬く間にその印象をラバーに捕らわれた人間の女性に変わり、同じ女性のわたしでも思わずドキドキさせられるような、扇情的なものになっていた。
(あかりは……どうすることも、出来ないんだよね)
いまさらながら、ヒトイヌ拘束の徹底ぶりはそういうことだ。
手足は固められて走って逃げることも出来ず、口も塞がれ助けを求めることもできない。そもそもひっくり返っている体勢ではろくに動くことも出来ないだろう。
仮に、わたしがこの場に用意されたおもちゃを用いて、徹底的に責め始めたとしても――あかりがそれに抗う術はない。
そのことに気付いてしまったわたしは、心臓がどくんと大きく跳ねるのを感じた。
胸の上においた手で、あかりの胴体全体を擦っていく。
「んひゅ、んんっ、くぅ、んぁ……っ」
触る度にあかりの身体が小さく痙攣する。ラバースーツは決して薄いといえるものではないはずなのだけど、その反応はとても良かった。
(……ラバースーツが汗で張り付いて、余計に敏感になってる……とか?)
実際、元々ぴちぴちだったラバースーツは、いまはより肌と一体化しているようにも見える。自分もそうなのだけど、擦れる感覚も強くなって、身体を動かす度に強烈な感覚が生じていた。
わたしでさえそうなのだから、四つんばいで動かなくてはならず、ラバースーツの中は汗だくになっているであろうあかりは、それをより強く感じていることだあろう。
革のグローブ越しに触っているから、こっちはあまり触っているものの感覚は感じられないんだけど。
すりすり、とあかりの胸の回りを手のひらで擦る。
「むひゅっ、はひゅっ」
相当くすぐったいらしく、身体を捩って悶えるあかり。
その呼吸が瞬く間に熱を伴って荒くなり、ラバースーツによって浮かび上がった腹筋がぴくぴくと痙攣している。
一度手を止めると、あかりは脱力して呼吸を整えるのに専念し始めた。
「ふーっ……ふーっ……」
目を瞑って、無防備に身体を曝け出すあかり。
あかりが息を吸って胸を膨らませた瞬間、わたしはあかりの胸の頂点を狙い――指先で摘まんだ。
「ふ――ぎっ!?」
あかりの身体が、まるで電撃を与えられたかのように激しく波打ち、短くなった四肢を張って、身体全体をぴんと仰け反らせた。
わたしが指を離しても暫くあかりは身体を仰け反らせていたけど、やがて力尽きたように崩れ落ちる。膝の上にあかりの頭が落ちてくるのを受けとめた。
「はひゅっ、はひゅぅ……っ」
息も絶え絶え、という言葉が相応しい様子で、あかりが呼吸を繰り返す。
(やりすぎた、かしら)
つい弄ってしまったけれど、いきなりやりすぎだったかもしれない。わたしは謝罪の意味も込め、膝の上のあかりの頭を優しく撫でてあげる。
「ごめんね、あかり。やりすぎた……?」
そう恐る恐る呼び掛ける。
息を整えるのに夢中になっていたあかりは、少し目を開き、じとっとした目で抗議してきた。不満、という様子ではなく、いきなり刺激を与えすぎたのに抗議しているみたいだ。
わたしは申し訳ない気持ちであかりの頭を撫でる。
幸いあかりは怒ったわけではないようで、ぐりぐりとわたしの膝に頭を擦りつけ――器用に身体を回転させながら、わたしにのし掛かってきた。
「え、あ、ちょ――」
突然のことに抵抗することが出来ず、わたしはあかりに押し倒されてしまう。
瞬く間にマウントポジションを取られたわたし。
久しぶりにわたしを見下ろす格好になったあかり。
そんなあかりの顔には――いたずらを思いついた笑みが浮かんでいた。
つづく