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夜空さくら
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はじめてのヒトイヌ公園 ~ヒトイヌ小屋にて 1~

 台車の上にヒトイヌとなったあかりを乗せ、わたしは公園内を進んでいた。

 高性能な台車のおかげで、あかりを載せてても押すのに力を入れなくて済む。

 さらにしっかりとした造りの台車は、それを押すわたし自身にとっても、歩行補助器みたいな役割を果たしてくれて、あかりと二人で歩いていた時に比べてかなり楽だった。

 さっきまでは歩くのに意識の大半を持って行かれていたけど、それがなくなったため、景色を楽しむ余裕が増えていた。

(ほんと……信じられないくらい、広いわよね……)

 ヒトイヌプレイという、限定的で倒錯的なプレイをするためにある公園だとは、とても思えない。

 わたしあちの身体を彩る厳重な拘束具に反して、とにかく広くて開放的な公園だった。

 一体どこまで広がっているのか、木や茂みなどが程よく配置されているため、ぱっと見ではわからないのも、計算されているのだろう。

 東屋の近くなどで見た園内の案内図を見る限りでは、わたしたちが歩いてきた範囲はまだ全体の四分の一くらいでしかない。

 ヒトイヌ拘束と、拘束オプションが施されている状態なのだから、思ったより移動出来ないのは仕方ないとはいえ、それを差し引いても広い。もし、仮にすべての施設を巡ろうと思ったら、何度来ないといけないのだろうか。

 遊技場で出会った公園の先輩に教えて貰った場所へと向かいつつ、わたしはとりとめもないことを考える。

(あかりは、次からはどうするのかしら……)

 今回限りという話で、わたしは彼女に付き合っている。

 元々SMプレイに興味があったわたしにとって、こうしてラバースーツや出来る限りの拘束具を身につけられたこと自体は、とても貴重で有意義な体験だった。

 おかげで自分がラバースーツや拘束具を身につけても特に抵抗がないこともわかったし、次はもっと厳重な拘束具を着てみたいという気分にもなっている。

 しかし、次もまたこの公園に来ようと思うかというと、正直非常に悩ましい。

 別にこの公園そのものに不満があるわけじゃない。

 わたしが悩む理由は、この公園がヒトイヌプレイというあまりにも突出したひとつの性癖に特化した場所であり施設だからだ。

 SMプレイには興味があっても、ヒトイヌプレイに興味があるかといえばそうじゃない。

 人に言わせれば、SMもヒトイヌも似たようなものだと言われるかもしれないけど、わたしの中ではそのふたつは違うもので、残念ながらわたしの「やりたいこと」の中にヒトイヌプレイは含まれていなかった。見るだけなら抵抗はない。ヒトイヌとなっているあかりについては可愛いとも思うし。

 けれど、今後もこの公園に来るのなら、わたしは拘束オプションを選び続けるだろう。

 それは果たして、この公園の主旨に沿った楽しみ方といえるのだろうか。

 SMプレイならそれこそ普通のSMバーとか、そういったところに行った方が純粋に楽しめるはずだ。その方がいいに決まっている。

(そもそも、入場料の減額を目的にSMプレイをするって、何か違う気もするのよね)

 今回は初めてだからということと、あかりに半ば騙されるような形でここまで連れてこられたという経緯がある。だから、ある程度は自分の趣味や興味を優先させてもいいかという気分になっていた。

 けれど、今後はもうここがそういう公園だと知ってしまっている。

 その上で「SMプレイを楽しむためにヒトイヌ公園を利用する」というのは、不誠実では無いか、と思ってしまうのだ。

 こういうところは、あかりに言わせれば「ちゃこは超が付く生真面目だから」ということになるのだろう。実際わたしもくそ真面目に考えすぎだとは思う。

 そういうことを考えてしまう性格なのだから仕方ないことではあった。オプションを用意して提案して来ているのは公園側なのだし、引け目に感じることも本当はないのかもしれないけど、中々そう出来ないのがわたしだった。

 そして、もうひとつ。

 躊躇っている理由のひとつは、さっきの先輩が話してくれた内容にあった。

 先輩曰く、ヒトイヌのパートナーとして入場する側は、拘束オプションをせずにいた方が次ごうがいい、というものだ。

 ヒトイヌ拘束自体が相当キツいものだから、そのサポートをするパートナーは自由に動ける状態であった方がいいのは自明のことだった。

 これは結構大きな要素だと思う。

 プレイを実践したことはあまりないけれど、わたしもSMプレイの愛好家として知識はある。プレイにおいてSの立場に立ったとき、その行動や思考はM側を最優先すべきものでなければならない。M側は不自由で危険な状態になることが多く、万が一のことを考えるとSは常にMの状態に気を配り、的確な行動が取れるように心がけているべきだ。

 そうでなければ、SMプレイは危険なものなのだから。

(……そういう意味では今回のプレイは失敗よね)

 互いが互いの興味を優先してしまっていて、万が一何かあったときのための対処法もろくに考えていない。例えばあかりの着けている拘束具が何らかの不具合で鬱血するほどに歪んでしまった時、それをすぐに外すことがわたしには出来ない。

 ここが施設である以上は、ある程度はその施設の目が入っているし――というかなんとなくだけどずっと見られている気がする――何かあれば施設の職員がすぐに飛んでくるようにもなっているらしいから、ある程度安全が担保されてはいる。

 されてはいるけれど、本来はS側であるわたしがちゃんと対応出来るように備えておかなければならない。

(今日はいいとしても、ずっとこの状態は不安だし……)

 あかりにとっても、中途半端な立ち位置と気持ちでいるわたしより、ちゃんとあかりのご主人様をしてくれる人と一緒の方がいいに決まっていた。

 今回、わたしが一緒に来て体験したことで、ひとまずこの公園の空気には慣れただろうし、今後はひとりで来るつもりなのかもしれない。

(そういう制度とかがあるのかは知らないけど、あかりなら飼い主になりたいって言う人も多そうだし、案外すぐにちゃんとしたご主人様が見つかりそう……)

 身内贔屓でもなんでもなく、あかりは魅力的な存在だと思う。

 アイドルみたいに頭抜けて優れた容姿。

 コミュ力が高くて人懐っこくて友好的な性格。

 ヒトイヌ拘束にもあっという間に適応した対応力の高さ。

 あかりが人の陰口や悪口を口にしていた覚えもないし、人に好かれる要素しかない。

 まあ、わたしみたいにくそ真面目で根暗な陰キャにとっては、馴れ馴れしすぎてちょっと鬱陶しく感じなかったわけじゃないけど。それはわたしのジメジメした気質が合わなかっただけで、一般的に言えば良い陽キャの極みみたいなあかりは、魅力に溢れている存在であるといえるだろう。

 きっとわたし以外をご主人様にしたとしても、すぐに順応するはずだ。現に普段の友達付き合いだって、わたし以外に親しい友達がたくさんいるわけだし。

(あかりは別に――わたしじゃなくてもいいのよね)

 そう考えた時、わたしはふと胸に痛みを感じた。

 一度立ち止まって、ガスマスク越しに何度も深呼吸をする。

(酸欠……かしら? いけないいけない。台車のおかげで歩くのが楽になったからって、着ているラバースーツやつけてるガスマスクに違いはないんだから……)

 自然と足取りが速くなって、息が上がっていたのかもしれない。

 そう考えたわたしは、意識してゆっくりと歩みを再開した。

 そうして移動すること数分。とうとうわたしは先輩から教えてもらった「周りに気兼ねせず、ヒトイヌと性的な触れ合いが出来る場所」に辿り着いた。

 台車が勝手に移動しないように車輪にロックをかけ、わたしはあかりに呼び掛ける。

「あかり、起きて。あかり」

 最初はうたた寝程度だったと思うのだけど、いつのまにか本気で寝入っていたらしいあかりが、目を覚ます。

「うー……? わふ……」

 少し寝ぼけているのか、呻きながら顔を起こしたあかり。

 その口元から――正確には犬の形を真似たマスクから――ボタボタ、と涎が零れ落ちた。

 どうやら脱力して口が開きっぱなしになっていたらしく、溢れた涎がマスクの中に溜まっていたようだ。慌てて上を向いていたけど、ポタポタと涎が垂れていた。

「ちょっと気持ち悪いかもだけど、涎を零さないようにマスクを閉じておいて。この後すぐ、拭くから」

 そう求めると、あかりは素直に口を閉じる。

「ウッ……ムー……」

 あかりは少し不愉快そうに眉を顰めた。

 溢れてマスクの内側に溜まっている涎が、マスクを閉じたことで唇に触れてしまったのだろう。気持ちが悪いに違いない。

(早く拭いてあげないとね……)

 あかりに台から降りるように言い、少し手を添えて降りるのを助ける。

 そこであかりはようやく、目の前にさっきとはまた別の建物があることに気付いたようだった。


 それは一言で言うなら、巨大な犬小屋――ヒトイヌ小屋だった。


 見た目は良く見かける庭に置かれている犬小屋、という感じだけど、大きさが違う。人間が入るのを想定して造られた小屋だった。

 小屋はカプセルホテルよりは大きいくらいの規模で、入り口にはちゃんと扉まである。

 規模感でいえば、キャンプで家族向けテントの方が近いかも知れない。デザインは完璧に犬小屋だったけれど。

 そのヒトイヌ小屋の中には、ひとりで寝るには大きなサイズのベッドが、綺麗に収まっている。

 あかりが興味津々な様子でヒトイヌ小屋を見ていたので、わたしは説明してあげた。

「ここは休憩所……も兼ねた、個室らしいわ。用意されてるものは自由に使っていいらしいから、入ってみましょう」

 先輩曰く、休憩所は休憩所でも、いわゆるラブホテルみたいな休憩を意味するらいいけれど。それを口にするのは恥ずかしかったので、言わずにおいた。

 ヒトイヌ小屋はキャンプ場のキャンプサイトみたいに、そこそこの距離に程よい感覚を開けて複数建てられている。見た感じ、現在他にヒトイヌ小屋を利用している人はいないみたいだ。

 目の前のヒトイヌ小屋の中を覗いてみると、奥の空間はベッドが占領していて、手前の空間には壁一杯に棚が設置されていた。

 わたしはあかりにヒトイヌ小屋の入り口付近の上がり口に立つように言うと、その棚の中に用意されていたタオルを使って、あかりがマスクの中に零した涎を拭き取った。マスクの上から拭ける限りの汚れも拭き取っておく。

 何度かタオルを変えてあかりの全身を拭いているうちに、ふと、その棚の中にこのヒトイヌ小屋の説明書きのようなものがあることに気付いた。

 そこにはいくつかある説明書きの中に『ヒトイヌ小屋は個室ですが、記録のための装置は設置されています。あらかじめご了承ください』と書かれていた。

 せっかくの個室なのに見られていると思うと少し落ち着かないものも感じるけど、さっきの話も含めて考えると、万が一の時のために見られている方が安心できる。

(まあ、記録を取られるのくらいは仕方ないわよね……)

 わたしの足裏も綺麗に拭いてから、わたしたちはヒトイヌ小屋の中に入り、ドアを閉める。閉めると同時に、小さな機械音がした。

 ヒトイヌ小屋の中はちゃんと空調が効くようになっていて、熱が篭もらないようになっているようだった。屋外にあって空間も狭いし、暑くなるのではないかと心配していたので、思わぬ快適な空調にほっとする。

「ふわ……」

 あかりも同じ想いだったのか、気持ちよさそうな声をあげつつ、ベッドの上に昇っていった。ベッドの手前にはヒトイヌがベッドの上にあがりやすいように、ちゃんと程よい高さの階段が造られていたので、あかりをひとりで抱え上げる必要がなかったのは、わたしにとってもありがたいことだ。

 あかりとは体格差が結構ある方だけど、さすがに軽々と持ち上げられるわけではない。

 あかりは呑気に程よい硬さのベッドの上に寝転がり、身体を休める体勢に入っていた。

 そんなリラックスしているあかりを前にして、わたしはベッドに腰かけつつ、そっと時間を確認する。

 ずいぶんあるように感じていた入場時間も、そろそろ終わりが見えてきていた。

(入り口まで戻る時間を考えると……そんなにゆっくりはしてられないかしら)

 とにかく早く初めよう。

 わたしは棚の中に用意されていた道具に手を伸ばす。


 最初に手に取ったのは、小さなピンクローターだった。


 どくんどくんと大きく心臓が鳴っている。

 性的経験が豊富な方では決してないわたしだけど、ピンクローターは自分でも使ったことがあった。気持ちよくなるためには一番基本的な道具だと思う。

 いきなり本格的なものを使うとあかりを驚かせてしまうかもしれないし、まずはこのあたりから反応を探っていこうと思う。

 ちらりとあかりの様子を確認すると、彼女はわたしに背中を向け、ベッドの上で俯せになったまま、脱力している。

 そのお尻の穴に刺さった尻尾飾りが、時折ぴくんと動き、彼女のラバースーツに覆われた股間を露わにしたり、しなかったりしていた。

 それはまるで誘われているかのようで、思わずどきりとしてしまう。

(……そんなつもりは、あかりにはないんだろうけど)

 そんな風に誘われたら、応えないわけにはいかないじゃないか。

 わたしはピンクローターを落とさないようにしっかりと握り、無防備な背中と股間を晒すあかりにひっそりと躙り寄った。


 ぴくん、とあかりの尻尾が持ち上がり、ラバースーツでぴちぴちになった股間を露わにする。


つづく


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