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夜空さくら
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眠り姫の館 (短編/拘束・睡姦もの)


 その店に何度も訪れている私は、すっかり常連として扱われていた。

 いつものように部屋に通されると、顔なじみの店員さんが扉の外で丁寧に頭を下げる。

「それでは、いつものようにご用意をよろしくお願いいたします」

「はーい」

 私の返答を確認した店員さんが、扉をゆっくりしめていく。

 扉は鉄製で、外から鍵がかけられる仕組みになっている。わざとらしいほどの大きな音を立てて鍵が閉められた。

 明らかに不要な音がしているのは、それが本来の施錠という目的を果たすために立っている音ではなく、雰囲気作り的な意味合いの方が大きなことを示している。

 常連である私にはよくわかっていることだったけど、やはりドキドキしてしまうことであるのは間違いない。

(ふふふ……閉じこめられちゃった♪)

 この部屋に窓はダミーのものしかない。唯一の出入り口が鍵によって閉ざされた今、私は囚われの身になったというわけだ。

 意図通りに感じてしまうのは少し悔しいのだけど、店の目的である雰囲気作りは間違いなく達成されているといえた。

 さっそく『準備』を始めてもよかったけれど、私は少し部屋の中を見て回ることにした。部屋の中は、実に豪華な調度品が揃えられていた。

 壁にかけられている絵画。部屋に置かれた花瓶。タンスや椅子、机など、部屋にあるもののほとんどが相当な価値のあるものであることは言われなくてもわかった。

(何十万……いえ、もしかすると数百万とかするのかなぁ……)

 それも雰囲気作りの一環なのかもしれないけど、あまりにも恐れ多くてなるべく距離を置いて鑑賞する。あいにく審美眼なんてないから、本当に高いものなのかどうかはわからなかった。けれど、おいそれと触れたくないレベルの高貴なオーラは放っていたので、相当な値打ちものであることは間違いないはずだ。

 調度品だけじゃない。部屋に置かれたベッドは天蓋付きで、いかにも異国のお姫様がいておかしくないような部屋を演出していた。扉の無骨さも合わせると、お姫様が軟禁される部屋、というところだろうか。

 その雰囲気が実によく滲んでいる。

 部屋の中央に置かれた机の上には、水差しとコップが置かれていた。

 それは部屋の他の調度品に比べると、あまりにも事務的で、現代的な造りをしていた。いいものではあるのだろうけど、他の調度品に比べるとあまりに実務的と言える。

 そしてそれは間違いではなく、飾られているだけの他のものと違って、実際に使うことを想定しているからだった。

 私は水差しに近付き、その表面を指で撫でる。

(うふふ……早く飲みたいけど……)

 飲むのは他の準備をしてからだ。私は水差しを置いて、部屋に置かれた大きなタンスの前に立つ。扉を開けてみると、中にはキラキラとしたドレスがいくつもかけられていた。

(今日はどれにしようかなぁ……この前は落ち着いた色にしたから……)

 幾着もあるドレスの中から、今日着るものを吟味する。

(これ……やっぱり綺麗よね)

 これまでに来た中で、一番気になっていたものを手に取った。

 それはウェディングドレスを彷彿とさせるような、極めて白に近い薄紅色のドレスだった。タンスの扉の裏に取りつけられている鏡で自分の姿を身ながら、身体にそのドレスを宛がってみる。

「うーん……少し、子供っぽいかなぁ……?」

 ぽつりと呟く。残念ながらというべきか、幸いにもというべきか、少し童顔気味の私にその薄ピンク色のドレスは非常に似合ってしまう。

 もうすでに成人しているのだけど、そういったドレスが違和感なく着れてしまうのは、喜ぶべきなのかどうなのか。

 別にいまさら大人のスーツが似合う顔になりたいわけではない。ないのだけど。

「ここに入っているってことは、私に似合うってことなんだろうけどなぁ……はぁ」

 大きくはないが溜息が出てしまう。複雑な気持ちだ。

 このタンスの中に入っているドレスは、一見無作為に用意されたようでいて、この店専属のスタイリストが私に合うものを選んで納めているということを知っている。

 客が好きなドレスを選んでもいいという建前はあるが、店としては似合わないドレスを着られるのも困るだろうから、そこは暗黙の了解という奴だ。

 別に好みに合わないものばかりが揃えられているわけでもないため、私もそれは受け入れている。

 どのドレスを選ぶか、少し悩んだ末、結局最初に選んだ薄ピンク色のドレスを着ることにする。ドレスに合う下着類もちゃんと揃えられていた。

 それらをタンスから出し、中央の机の上に置く。一度深呼吸をして気持ちを整える。

「さて、と……始めようかな」

 そう呟いて、手早く着替えを始めた。

 ドレスというものは、ものによっては独りで身に付けられない、身に付けづらいものもあるけど、この店で用意されているドレスは、そういった心配は要らないタイプのものばかりだった。独りで身に付けることを前提に考えられている。

(手伝ってくれるのを女性にするなら、着替える時くらい補助役がいてもいいと思うんだけど)

 だけど、この店はそれをしない。徹底している。拘りに感心するべきなのか呆れるべきなのかわからない。

 ともあれ、一端素っ裸になった私は、ドレスに合う下着を身につけ、ガーターベルトも着けて、ドレスを身に纏う。

 服を着替えただけなのに、私はお伽の国のお姫様になれたような気分だった。

 部屋の一角に用意されている大きな姿見の前に立って自分の姿を見ると、ますますその印象は強くなった。ふわふわ甘い砂糖菓子のような、我ながらなんともお姫様らしいお姫様だと思う。まあ本当の年齢的を考えるなら、お姫様という年齢ではないのだけど。

 少し照れくさく感じて、頬が紅潮した。

「こんな機会でもないと、こんなドレスを着ることなんてないよねぇ……」

 小さく呟く。友達に見られたら爆笑必至だ。

 さらに完璧なお姫様を実現するべく、装飾品も身に付けていく。

 胸元を飾るネックレスに、頭に頂くティアラ。耳にかけるイヤリング。

 そのいずれもが貴重な宝石がちりばめられて出来ている。一介のOLでしかない私には、生涯年収をかけても、このうちのひとつを買えるかどうか。正確にはわからなくとも、眼が飛び出るような金額であることは想像に難くない。

 もちろん見た目だけ精巧に似せられた偽物である可能性は高い。高いがそれでも雰囲気作りには十分なものだ。

 『お姫様に扮している偽物』という自分の立場を考えると、むしろそっちの方が相応しいのかもしれない。

 まあ、どちらにせよ私にそれが本物か偽物かを見分ける真贋はないから、本物だと思って丁寧に扱うしかない。

「この場限りのレンタル品とはいえ……ほんと、拘るよねぇ……」

 持ち逃げの心配が一切ないからこその貸し出し品なのだろうけど、店の本気度合いに凄まじいものを感じる。

 他にもレンタル品はあったけど、ほどほどで止めておいた。あまりにもごちゃごちゃしすぎるのはかえって品がなくなりそうでもあったからだ。

 もう一度姿見を観ると、見た目だけならどこかの国のお姫様、といっても許される姿になっていた。

「……やっぱり、ちょっと馴染まないなぁ」

 自分自身であるだけに余計そう思ってしまう。ただ、傍から見れば十二分な雰囲気になっているということを私は自覚していなかった。

 そんな雰囲気を出せる私だからこそ、店側も品質のいいドレスや宝石などを便宜してくれているのだけど、そんな店の忖度は私が知りようもないことだ。

 私は自分が着てきた服や小物を全て纏めて、入り口脇の籠の中に納める。

 そうすれば、豪奢な部屋と姫に扮した私だけが残り、『囚われのお姫様』というシチュエーションがこの上ないほどに整った。

「ふぅ……」

 これで準備は全て完了。

 改めて、中央の机の上に置かれた水差しに眼を向ける。これを飲むときが来た。

 傍らに用意されたコップに、水差しの中身を注いだ。注がれたのは、何の変哲もない水。だけど私はそれが特別な水であることをよく知っている。

 どくん、どくん、と激しく心臓が高鳴っている。緊張というか、これからのことを期待して身体が興奮しているのがわかる。

 私は意を決して、コップに注いだ水を一気に飲み干した。空になったコップは机の上に戻し、私は急いで天蓋付きのベッドに移動した。

 なるべくドレスがシワにならないように注意しつつ、ベッドに寝転がる。

 ふわりとドレスの裾が広がり、少しウェーブのかかった髪の毛がベッドの上に広がる。

「ふー……」

 姿勢を整えて両手を前で祈りの形に組み、如何にも眠り姫という姿勢を作った私は、眼を閉じた。

 暫くそうして規則正しく呼吸していると、いままで全く感じていなかった眠気が急激に沸き上がってくるのを感じた。

 抗いがたい眠気が私の意識を闇へと引きずり込もうとする。それは自然に感じているものではなく、先ほど私が飲んだ水に原因があることは明白だった。

「きょうは、どんなひと、がくるの、か……な……」

 強烈な睡魔によって、呟きも途切れ途切れになってしまう。

 そして私は眠りについた。部屋には、私の規則正しい寝息だけが響く。


 そんな私の姿は――眠り姫そのものに見えただろう。





 麗しき『姫』が眠りについて暫くして、その部屋そのものが動き始めた。

 壁に据え付けてあったドレッサーが、その取りつけてある壁ごと反転し、優雅な調度品に彩られたお姫様の部屋の壁が、無骨な石造りの壁に変わる。ドレッサーが備え付けられていた壁だけで無く、四方の壁全てが反転し、雰囲気を塗り替えていく。

 壁に窓は高いところにひとつしかなく、その上で頑丈そうな鉄格子が嵌まっていた。

 実際は元の開放的なように見えた窓もダミーであって、外に繋がっていないという事実は同じだったが、窓自体が小さくなって鉄格子のはまっている今の方が閉塞感は強い。

 さらに床に敷かれている高級そうな絨毯は、長い毛に隠れていたが実は切れ目が入っており、ひとつひとつが細かくタイル状に分かれていた。それらのタイルは床下のギミックによって反転し、壁と雰囲気を合わせた無機質な石造りの床へと変わってしまう。

 天井も優雅なデザインの照明が天井裏へと引き込まれ、実用性重視の地味なものに変わり、姫の居室に相応しいデザインの天井が、のっぺりとした味気ない天井へと切り替わる。


 まるで姫の居室さながらだった部屋は『姫』の眠っているベッドを除き――犯罪者を捕らえている昔ながらの独房、というような雰囲気に早変わりした。


 反転した壁には美しい衣装の入ったドレッサーの代わりに、これから拷問でも始めようとしているかのような、物々しい鞭や蝋燭などといった怪しげな道具が並べられ、壁に磔にするための金具のようなものも飛びだしていた。

 そんな風に周囲が変わってしまっても、ベッドの上で眠る『姫』は全く起きる気配がない。ただ規則正しく、寝息を立てるばかりだった。

 暫くの間、『姫』が立てる小さな寝息だけが、静かな部屋に響く。

 部屋が変貌して少し時間が経った頃、外から厳重に閉ざされていた扉が、物々しい音を立て、ゆっくりと開かれた。

 そこから現れたのは恰幅のいい、ひげ面の中年男性であった。身分こそ高そうで、身なりも不摂生ではなかったものの、どこか下世話な雰囲気を滲ませている。

 有り体に言えば、とても好き者であると思われた。

 そんな男は、革靴の底が奏でるカツンカツンという足音も高らかに、部屋に悠然と入ってくると、ベッドの上で静かに眠っている『姫』に視線を向ける。その顔がにやりといやらしく歪んだ。

「今日の『姫』はなかなかの上玉だね。とても良い」

 彼をここまで案内してきたメイド服を着た女性が、その言葉を受けて深々と頭を下げた。

「気に入っていただけたのでしたら、幸いです。……あとはご自由にお楽しみください。お時間になりましたらお知らせに参ります」

「ああ、頼むよ」

 その対応を受け、メイド服の女性は音も無く部屋から去って行く。扉は閉められたが、今度は物々しい鍵は特にかけられなかった。

 すやすやと眠る『姫』と部屋に残された男。男はネクタイを緩めながら、その『姫』が眠るベッドに腰を下ろした。

 男の体重を受け、ぎしりとベッドが軋む。普通の眠りならその振動で目覚めてもおかしくなかったが、眠り姫は規則正しい呼吸を繰り返すのみだ。

 その反応に満足した男は、手のひらで眠り姫の頰に触れる。柔らかく瑞々しい肌の感触を受けてか、男は嬉しげに笑った。

「さて、と……思いっきり可愛がってやるからな」

 明らかな性欲の気配を滲ませ、男はそう宣言する。これから眠り姫が陵辱されるのは、だれが見ても明らかだった。

 しかしそれでも――眠り姫は穏やかに眠り続けるのみであった。



 そこは会員制のSM倶楽部の中でも、一風変わった倶楽部であった。

 その名を『眠り姫の館』といい、この館において女性は、最初から最後まで眠ったままなのである。

 会員は対象である眠り姫に対して、後に影響が残るようなこと以外なら何をしても良いとされている。どんな道具を使ってもいいし、どんな拘束を施してもいい。

 対象は時間内に決して目覚めることはなく、どんなことをしてもいいわけだ。

 それは一見、全てを自分でやらなければならないため、面倒なことのように思えるが、嬢とのやりとりを面倒に思う男や媚びへつらわれるのにうんざりした男、そもそも女性と目を合わすことも出来ないタイプの男性などにとって、自由に使っていい肉人形というものは中々に魅力的なものだった。

 また、実質寝ているだけでお金を稼げる女性側にとっても、面倒がなくてそれなりにいい条件であった。

 万が一の事故を危惧する声がないわけではなかったものの、今のところ大きな問題は起きていなかった。

 『眠り姫の館』には、今日も屈折した性愛を持つ者達が集い、すやすやと眠る『姫』を好きな拘束具で彩り、陵辱するのである。



 男はまず今日選んだ『姫』をじっくり観察することにした。

 もちろん部屋に来る前に彼女の顔や全身の写真には目を通しているため、全く知らないで来たわけではなかったが、写真と実物では見え方や感じ方が違うのは当然のことだ。

 普通なら無作法と言われるであろう間近まで顔を寄せ、男はまじまじと眠り姫の姿を確認する。

「ふぅん……わりと写真の印象通りじゃないか。よくいる『名ばかり姫』とは違うねぇ」

 ぼそりと呟く男。いくら『眠り姫の館』が特殊な性癖の集いだからといって――あるいはかえってだからこそ――そこにいる『姫』の容姿はその時店に入っている嬢に左右されてしまう。

 無論顔には興味がない者もいるし、身体が良ければいいという客もいれば、女体であればどんなものでも構わないという業の深い者もいる。

 結局は適材適所のマッチング次第ではあるのだが、男は比較的元々の容姿にも拘るタイプだった。

 無防備に眠り続ける姫の唇に触れ、軽く指でそこを擦る。薄く引かれていた口紅が指先に移った。

「ふむ……化粧も比較的薄いな。これは実にいい当たりだ」

 そう楽しげに呟いた男は、眠り姫の身体からその身を飾る装飾具をひとつひとつ外していく。

 ティアラ、イヤリング、ネックレスに、ブレスレット。アンクレットも外すと、それらの装飾具は丁寧に机の上に並べておいた。

 この店では、個々人の希望によって眠り姫の脱がし方を選べるようになっている。

 例えば無理矢理陵辱する感を重視したい者は、そういった装飾具や衣装を引き千切って脱がすことが出来るように、見た目だけ取り繕った小道具にする。

 一方であくまで本物の姫――高貴な存在を手込めにするというロールプレイを大事にしたい物は、可能な限り本物の装飾具を身につけさせるわけだ。

 そして男の場合は、後者であった。

 ゆえに眠り姫の彼女が身につけている装飾具も、可能な限りの本物が使われていた。

 男は装飾具を片付けると、次にドレスを脱がしにかかる。ドレスはひとりでも着れるように趣向が凝らされているが、それは脱がしやすさにも繋がっていた。

 男がフロントジッパーを引き下げると、ドレスによって抑えられていた女性の乳房がまろびでた。古めかしくも美しい装飾が成された下着に覆われている、たわわに実った果実が揺れる。

 その柔らかそうな弾力を持った物体は、男の欲望を刺激するのに十分なものだった。

 男は彼女の露わになった胸を鷲掴みにし、その柔らかさを堪能する。彼の指の動きに従って乳房は素直に変形し、極めて心地良い感覚を生み出していた。

「ん、ぅ……っ」

 乳房を揉まれた眠り姫が、かすかに呻き声をあげる。薬によって意識は覚醒しないものの、確かに彼女は生きた人間だった。どんなに精巧なダミー人形でも決して味わえない倒錯感を男は感じる。

「ふふ……さて、先にドレスを脱がしてしまわないとな」

 本物嗜好である男は、当然ドレスも限りなく本物に近いものを着せるように指示していた。無論本当の本物とはさすがに格が違うのだが、目の肥えた男が十分に満足出来る程度の擬態は行えている。

 男は破らないように注意しながら、女性からドレスを脱がす。

 あっという間に下着姿になった眠り姫が、改めてベッドの上に寝かされる。

 ドレスを装飾品を置いた机の上にシワにならないように置いた男は、ベッドの脇に立ち、下着姿になった眠り姫を見つめた。

 どういう道具や拘束具を使ってその女体を彩るのか、考えているのである。

「……これだけの容姿を持つ『姫』で、挿入もオーケーというのは珍しいね」

 この店では『姫』はあらかじめどの程度の拘束や道具を受け入れるのか選ぶことが出来る。その中で特に重視されるのは、貞操帯を身につけるかどうかだ。『姫』という設定であるため、貞操帯を身につけていても不思議では無い、という設定との合理性もあり、希望すれば貞操帯を身につけたまま、客の前に出ることが出来るのだ。

 無論、挿入を許可するものと拒否するものとでは支払われる報酬に大きな差が生まれてしまうのだが、中には貞操帯を着けていた方が興奮するという客もいる。

 男は貞操帯を装着している場合でも楽しめないわけではなかったが、それはそれ、これはこれ、でどっちも楽しめるタイプの客であった。

 貞操帯を身につけていないということは、選択肢が広がるということではあるので、男としては楽しめる材料が増え、基本的にはよいことであった。

 男は再びベッドの上にあがり、下着姿になった姫の身体を間近で観察する。下着に覆われた秘部を、下着の上からつんつんと突っつく。

「んふ……っ、んん……っ」

 くすぐったがった姫が、ぴくんと反応する。

 彼女が眠りにつくために飲んだ薬は、ただの睡眠薬ではない。可能な限り自然な眠りに近くなるように造られたものだ。そのため、完全に脱力したり無反応になったりするわけではなく、寝返りも打つし反応も普通程度にはするようになっていた。

 さらに薬の効果はもう一つある。

 男が暫く彼女の股間を下着越しに弄っていると、下着が内側から湿るほどに愛液が分泌され始めた。

「結構、濡れやすい方のようだね。全くいやらしいものだ」

 当然男はそれが薬の影響であるということは知っているが、ロールプレイに従って揶揄するような声をかける。

 そんな小芝居をしているうちに、下着の上から股間をただ弄られた『姫』は、下着を超えて滴るほどに股間を濡らしていた。

 それを確認した男は、いったん眠り姫から手を離す。

 びくびくっ、と余韻に震える眠り姫。その股間の下着はすっかり濡れそぼり、愛液が外まで滴るほどになっていた。

 男はその愛液に塗れた指先を、ブラジャーの内側へと滑り込ませる。

「ひゃふっ」

 冷たい指先の感覚に驚いたのか、眠り姫が小さな悲鳴をあげる。男はそれを気にせず、愛液を潤滑油代わりに、眠り姫の胸を弄ると、目的の小さなぽっちを指先に捕らえた。

 股間への刺激で感じてしまっていたのか、彼女の胸の頂点は硬く聳え立っていた。

 指先で摘まむように刺激を与えると、『姫』は身体を仰け反らせて反応する。

「は、ぅぁっ……! ふぅ……ふぅ……」

 普通に寝ていたなら、とっくに目を覚ましていただろうが、相変わらず眠り姫は目覚めない。相手の反応を気にせず、女体を好きに扱えるということが、この館を利用する客の求めていることであるわけだ。

 男はブラのフロントホックを外し、彼女の乳房を完全に露わにした。

 ぺろん、とブラカップを左右に開くと、眠り姫の乳房が完全に露出する。綺麗な白い肌といやらしく尖ったピンク色の乳首のコントラストがとても艶やかになっている。

「ほう……写真でも感じたが、かなり綺麗な方じゃないか。使い込んだ様子もない」

 男は言いながら乳輪をさするように指先で眠り姫の乳房を弄ぶ。その絶妙な刺激に、触れられている彼女はしきりに身体を震わせて反応することしか出来ない。

 ますます股間の濡れようは高まり、下着が肌に張り付いて割れ目の様子まで見えてしまいそうなほどだった。

 ブラジャーを抜き取って上半身裸にした男は、続けてガーターベルトを取り外す。着けたままにする者も多いが、彼は一端彼女を全裸にするようだった。

 そしてとうとう、彼女の身体を覆う布はショーツ一枚のみになる。男は楽しげに笑いながら、最後の砦に手をかけた。

 するりとお尻に沿うようにさせて脱がしてしまうと、素のままの身体となった眠り姫がそこに横たわっていた。

「うん……やはりいいね。均整の取れた身体……今日は当たりだ」

 男はそう満足げに頷くと、ベッドから降りて石造りの壁際に歩いていく。

 そこにかけられていた無数の道具の中から、彼の好みに合った拘束具や道具を取って行く。

 ボンテージ、ボールギャグ、金属の首輪、アームバインダーに、重そうな足枷、そして両穴を塞ぐ両頭ディルドに、それを抑えるためのベルト。

 普通の女性なら装着を躊躇うほどの大量の道具。

 それらが自分の周りに並べられていく中、眠り姫はただスヤスヤで眠っていた。

 両頭ディルドに、男がローションを刷り込んでいく。

「さて……薬のおかげもあって、だいぶ緩んでいるとは思うが……念のためだ」

 男はそういってローションの瓶を彼女の股間の上で傾けた。どろりとした粘液が眠り姫の股間に垂れ落ち、染みこんでいく。

 指先を使って内側にも塗り込む。ぐちゅりぐちゅりと、いやらしい音がはしたない程大きく響いた。

「うん。これならいいだろう」

 しっかり両穴を解した男は、ディルドの先端を眠り姫の股間に合わせると、容赦なく一気に突き入れた。

 びくん、と眠り姫の腰が跳ね、足がぴんと突っ張って脱力する。

「おやおや……いれただけでイってしまったのかい?」

 男が揶揄するように話しかけるが、もちろん眠り姫は目覚めない。

 根元までディルドを差し込むと、腰に回したベルトで固定する。それで彼女がどんなに暴れてもディルドは抜け落ちなくなった。

 さらに男は彼女の細い足首に思い足枷を装着する。ずっしりと重いそれは、彼女が無意識に足をばたつかせることを防ぐ役割もあった。

 続いて胴体の要所要所を絞り出すボンテージを施し。

 腕を拘束するアームバインダーを丁寧に編み込み。

 首に金属製の太い首輪を巻き付けて首の向きを固定し。

 ボールギャグを噛ませて涎が自然に垂れ落ちるように。

 程よいテンションで鼻フックもひっかけて。


 そこに――男好みの『装飾』を施された、女体が完成した。


 つい先ほどまでベッドの上で安らかに眠っていた時とはまるで違う、女という女の要素を強調した姿。

 ドレス姿だった頃の高貴さはなくなり、ただそこにあるのは哀れな拘束を施されたひとつの女体だった。

 ベッドの脇に立ってそんな落差を実感し、男は満足げに頷く。

「ふふふ……やはりこの落差が溜まらないんだよねぇ……」

 男は眠り姫の髪の毛を掴み、少々乱暴に顔を上げさせる。

「んぐっ……!」

 本当に苦しそうな低い悲鳴を上げ、眠り姫が涎を噴き出す。ボールギャグ越しにだらだらと垂れ落ちた涎は、彼女の身体を絞り上げ、彩るボンテージもろとも彼女の身体を汚していった。

 あまりにも悲惨な状態に、陥っている眠り姫。それでも彼女は目覚めない。

 男は眠り姫が俯せになるようにベッドに寝かせ、顔を横に向けて窒息しないように配慮しつつ、膝を立たせて腰を持ち上げさせた。

 腰を突き出しているような格好になった彼女を後ろから見ながら、男は彼女の両穴に突き刺したディルドの、リモコンを操作する。

 ディルドはただの張り子ではなく、パターンによって振動するバイブの役割も果たすものだったのだ。

 小さく震え始めると、眠り姫の身体も細かく震え始める。


――ブブブ――プシュッ……


 振動が始まって、すぐに、彼女の股間からは透明な液体が噴きだした。ディルドによって穴は塞がれているはずなのに、そのわずかな隙間から噴きだしている。

 潮を吹いているのだと、男はすぐに悟った。

「ふふふ……いいね。反応がとてもいい。さあ、私をもっともっと楽しませておくれ」

 男がリモコンを操作し、さらに振動を強めると、眠り姫は起きているのではないかというくらいに激しく腰を振り、愛液を撒き散らした。

 それは彼女の身体が素直に反応しているからこその、痴態。余計な意志や理性がないからこその、激しい獣の衝動が露わになったものだった。

「ウ、ウゥ~ッ! ウグウウウウウウッ!!!」

 ボールギャグを噛まされ、不明瞭な呻き声をあげながら、閉じた目からも大量の涙、鼻フックで広げられた鼻からは鼻水を垂れ流しながら、眠り姫は悶絶する。


 そんな眠り姫の藻掻き苦しむ様を、男は時間いっぱい楽しんで見ていた。





 私が目を覚ました時、すべては眠りについた時のままだった。

 身体を起こすとお伽の国の世界に紛れ込んだかのような広々とした室内が目に入る。

 少しはしたないとは思いつつも、つい大きな欠伸をしてしまった。

 手を口元にやった際、高価そうなブレスレットが揺れたのがわかった。

(終わった……のよね)

 薬を飲んで寝たあとは全く記憶にない。身体を見下ろしてみたけど、綺麗なドレスを着た状態のままだった。

 特に股間に違和感もなく、胸が痛かったりすることもない。

 ちょっと顎に違和感を感じはしたけど、それは普通に寝ていても有り得る程度のものだ。

 私が暫くベッドの上でぼーっとしていると、物々しい音が響いて部屋の扉が空き、私をこの部屋に案内してくれた職員さんが現れた。

「お疲れさまでした。今回の眠り姫プレイはいかがでしたか?」

「どうも。毎度のことながら、何の記憶もないから、寝てただけって感じですね」

 常連である私は薬の効きが悪くなってくる可能性もあったけど、いまのところその様子はない。まだまだ楽しめそうでなによりだ。

 職員さんもそのことを私の反応から察したのだろう、にこやかな笑みを浮かべてくれた。

「それではお帰りの際にまたお声かけください。身支度の方、宜しくお願いいたします。ごゆっくりどうぞ」

 そう言い残し職員さんは部屋から去って行く。

 私はドレスを踏み付けないように注意しながらベッドから降りる。

 これで今日のプレイはおしまいだ。あとは身支度を調えて帰るだけ。

「次はいつこれるかなぁ。あ、そうだ。忘れずにプレイ中の動画を貰わないと」

 この館では希望すれば、眠っている間の映像を記念に貰うことが出来る。

 どんな風に自分の身体が扱われているのか気になって貰う人もいるし、私みたいに純粋な興味で貰う人もいる。

 私は私の身体をどんな人がどんな風に扱ったのか、見たくて仕方なかった。基本的にこの店に来るような人は紳士的な人が多かったけど、可能な限り乱暴に扱われるのを見るのも、それはそれでおつなものだ。

(今日のオナニーはそれを見ながらに決まりね)

 夜中の楽しみが出来たことを喜びつつ、私はドレスを脱いで、姫から普通の女へと戻っていく。


 まだもうしばらくは、この館に通うことを止められそうになかった。



おわり


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