ヒトネコライフの裏話 前編
Added 2020-08-03 14:38:47 +0000 UTC現在支援者様限定で公開している「ヒトネコライフ!(https://yozorasakura.fanbox.cc/posts/1142925)」の裏話・前編です。
(……といいつつ、次の更新で本編にも出る予定ですが)
後編は8月5日(水)に更新予定です。
<あらすじ>
とある資産家・天景院志樹久。
彼女の屋敷に雇われることになった、ごくごく普通の一般女子大生・大河原留衣は、その屋敷で行われる異様なプレイに好奇心が擽られ、そしてついに――。
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全身が、分厚い黒いラバースーツと全頭マスクに包まれていた。
柔軟性より頑丈さに主眼が置かれたそのスーツは、一部も隙もなくあたしの肌を覆っていて、空気の動きすら感じられない。
まだ視界が自由なうちに見た限りでは、体のラインはある程度出るけど、ラインを綺麗に出すという目的ではなく、身体をラバーで覆う、ということが目的のスーツだった。
手足は半分に折り畳んだ状態で拘束されている。全くぴくりとも動かせない。
それはある意味当然で、その手足の拘束具も分厚いラバーで出来ているからだ。ハサミがあったところでそもそもそれを手に取れないから意味ないけど、仮に誰かがあたしを助けようとしてハサミを使ったとしても、ラバースーツや拘束具には文字通り歯が立たないはずだ。
要所要所を締めあげている革のベルトも金属できっちり補強されているので、それを緩めることすらできないに違いない。
ほんのわずかに体を動かしただけで全身が軋み、常に締め付けてきていることがわかる。
ハサミがあっても意味がない、といったのは手の先も完全に覆われているからだ。これまた硬い革のグローブが手首のあたりから手を覆っていて一切の余裕がないので、手首を曲げることも出来ない。指は分かれておらず、そもそもグーの形に固定されているので多少動かせたところでどうにもならないのだが。
首には分厚い金属製の首輪が嵌っていて、正直重い。ラバースーツに密着して多少軽減されているとはいえ、それでもなお重量は感じるし、動くたびに重心が振り回されるのはまだある程度自由があったときに感じていた。
あたしは四つん這いの姿勢を取らされていたけど、折りたたまれているので、地面に接しているのは肘と膝の四点だけだ。その唯一地面に接している四点も、それぞれが地面に埋め込まれるように固定されているので肘と膝を起点に歩くこともできない。
四つん這いになっている結果、重力で垂れさがってしまっている乳房には、ブラジャーのような金属製の拘束具が取り付けられていた。
その上で丸い輪っか状のピアスのようなものが、乳首を挟み込んでいた。これを取り付けられた当初はめちゃくちゃ痛くて泣いてしまった。いまはだいぶ慣れたのかじんじんとする疼きを発するだけになっているけど。
ピアスにはそれなりの重さの重りがつけられていたけど、金属のブラジャーがそれを支えているので、乳首や乳房が引っ張られて伸びてしまうということはなさそうだった。
股間は金属の貞操帯で覆われていた。貞操帯には恐ろしいことに浣腸をし、中身を吸い出す機能の他に、あたしの性器を刺激して性的快楽を味合わせてくれる装置までついていた。機械制御でスイッチひとつでいいようにされてしまうというのだから、なんともひどい話だ。
そして頭部。
全体が全頭マスクに覆われている他にも、様々な道具が装着されていた。
鼻には胃に届くほど長い管を突っ込まれたし、口は口枷で開いた状態で固定されてしまった。
声をあげるどころか呼吸すら満足にできない。
目も光を感じることも出来ないほど分厚い目隠しで覆われてしまって、何も見えない。
耳も同じように分厚い耳当てが固定され、何も聞こえなかった。
感じるのは自分の鼓動と、身じろぎした際に生じる微かな感覚。
そして明らかに感じて喘いでいる自分自身の呼吸。
すべてを奪われたあたしは、わずかな感覚の中、ただ耐えるしかなかった。
もうどれくらいこうしているのかもわからない。
(どうしてこうなったんだっけ……?)
あたしは自由もなく、夢か現かも判然としない中、漠然と思考を巡らせていた。
あたしは――ただメイドとして働いていただけだったのに。
あたしの名前は大河原留衣。ごく普通の女子大生だ。
大学生活にも慣れ、就職活動はまだ少し先の話。
そんな一番気楽な年の夏休み。
あたしはとある資産家の邸宅で、住み込みのメイドになることになった。
夏休みの間に思いっきり稼ごうと思ってバイトを探していたら、たまたま偶然募集されているのを発見し、めちゃくちゃ給料が良かったから申し込んだ。
正直これだけお給料が良かったら競争率も高いだろうし、特に何の資格も持っていないから受からないだろうなと思ってたから、受かった時はむしろ怪しんだものだった。
だから雇い主である天景院様との面談があった時、つい口に出して聞いてしまった。
疑問に思ったことはすぐ解決しないと気が済まない性質なのだ。
「なんで私を選んでくださったんですか? 他にもっと優秀な人はいっぱいいたと思うんですが」
「可愛いからよ? 屋敷を維持するための専門家はすでにいるし、貴女にやって欲しいのは主に雑用だから。普通程度にまともで真面目なら、選ぶ基準は私の好みだけ」
ストレートすぎる理由に一瞬鼻白みかけたけど、むしろ変な理由をでっちあげられるより、納得できる理由だと考え直したからだ。
(お金持ちの道楽みたいなもんだろうし、あたしはお金が貰えればそれで良いんだから)
ただ、聞いておきたいことはある。
「なんであた……いえ、私が普通程度には真面目だと思ったんですか? 正直、そんなに真面目な方ではないつもりなんですけど」
本当に真面目かどうかなんて、書類審査じゃわからないはずだ。
あたしの問いに天景院様はニッコリ笑うだけで答えてくれなかった。
それは要するに普通ではない方法であたしのことは調査済み、という意味だろう。
講義の出席率とか課題の内容を見たとか。あるいは過去のバイト先に聞き込んで調査したとか。
お金持ちが本気になればいくらでもやりようはあるのだと思う。
絶対に睨まれたくはないなと思いつつ、契約を交わし、あたしが部屋から退出しようとしたところで、天景院様は思い出したように付け加えた。
「貴女を選んだ理由は、もう一つあるのだけど、それは働き始めたらきっとすぐにわかると思うわ」
意味深なことを言われ、首を傾げつつもその場は終わったのだけど、本当に勤務初日にその理由はすぐ分かった。
同じようにメイドとして、同じ大学に通う丹羽友香ちゃんが雇われていたからだ。
契約期間中の自室として当てがわれた部屋。
そこで支給されたメイド服に着替え、最初のミーティングが行われるという大広間に行こうと部屋を出たところで、隣の部屋から彼女が出てきたものだから本当にびっくりした。
普段は表情の変化に乏しい友香ちゃんも、さすがに驚いて目を見開いていた。
「えー! 友香ちゃんもここに来てたの!?」
「……ええ。驚きました。しかし……」
考え込む友香ちゃん。あたしはなんで彼女がそこまで考え込んでいるのかわからなかった。
わからないことはすぐに訊いてしまうのがあたしだ。
「どうしたの? 何か変? あ、もしかしてメイド服似合ってない!? 友香ちゃんはよく似合ってるよ!」
友香ちゃんは落ち着いた雰囲気がある子だから、いかにも正統派メイドって感じでよく似合っている。
一方、自分で言うのもなんだけど、あたしはどっちかというとその辺の街角で呼び込みしてるメイド喫茶とかによくいる、パチモンメイドさんみたいな外見だから、正直清楚な感じがするメイド服は似合っているとは言い難い。
そのことを気にしているのかと思ったけど、友香ちゃんは首を横に振った。
「友香に似合っているのは知っています。あなたも別に似合っていないわけではないですよ。見ていて不快でない程度ではあるかと」
「さりげにひどくない?」
友香ちゃんは自己肯定力が高い。そして他人にあまり興味がない。
ただ、それは確固たる客観的な視点を持っていると言うことである。
個人的にはあけすけにものを言う彼女のことは嫌いではなかった。
「友香が疑問に感じたのは、あなたがいるから選ばれたと言うのは、理由として弱いと思ったからです。あなたと友香は特別仲がいいと言うわけでもないですし」
「あー、それは、そうだね」
お互い名前も顔も知ってる仲ではあるけど、特別一緒にいてつるんでいるわけじゃない。実際、大学以外ではほとんど会いもしないような間柄だ。
「うーん、でもさ。向こうからしたらそんなのわからないし、とりあえず同じ大学の子だから選んでみた、とかじゃない?」
「……あの方の気まぐれの範疇であると。確かにあの方の性格や動向を見る限りその可能性も十分あり得ます。あなたにしては鋭い指摘です。友香は感心しました」
「だから、何気にひどくない?」
本当にあけすけに物を言う子だ。
そういう子だと分かっているから、別に怒りはしないけれど。
天景院様の言っていた理由はきっと友香ちゃんのことなんだろうな、と思って納得し、あたしは友香ちゃんと一緒に大広間に向ったのだった。
メイドとしての仕事は本当に単純な雑用で、この仕事内容であのお給料を貰えるのはありがたい話だ。
掃除のついでに中庭に置かれていた銅像を拭くとかいう、こういうのは専門の清掃業者に任せた方がいいんじゃないかという謎のお仕事もあったけれど、先輩メイドさんたちもみんないい人たちばかりで職場環境もよく、雇い主の天景院様も偉ぶることもなく親しみやすい方だったから全く不満はなかった。
しかし、働き始めて数日が経った頃――とんでもないことが起きた。
天景院様がペットとして、屋敷で『ヒトネコ』を飼い始めたのだ。
一応、事前に話は聞かされていた。
猫に扮した人間の女性、いわゆる『ヒトネコ』を飼うと。
ヒトネコは人間だけど、基本的に裸で、猫耳と猫の尻尾飾りを身につけただけの格好で、特殊な機械によって四つん這いでしか動けず、声は猫の鳴き声だけしか発せず、こちらの言葉も理解できないようにしてある、そんな存在。
SMプレイでいうところのヒトイヌから拘束を取っ払ったみたいなものだった。
正直、そんな特殊性癖のプレイを、周りから見られる心配はない山奥の大きな屋敷の中とはいえ、白昼堂々とやろうということにはドン引きしたのだけど、人には色々あるものだし、とんでもない資産を持つ天景院様の趣味――というか性癖――として考えたら、かえってそれくらいぶっ飛んでいるものなのかもしれないと、納得出来てしまった。
仕事の内容にしては妙に高い給料も、このことに対する守秘義務も含まれていると思えば納得できて、別にいいやと思えただろう。
そのヒトネコに成っている二人の女性が――あたしの友人じゃなければ。
片方の藤原宮子さんは友香ちゃんと同じで、あまり話したことがない人だったけれど。
もう一人の方、天城美里の方はよくつるんでよく遊ぶレベルのーー親友と言ってもいい間柄だった。
まあ、その美里に関しては元々人懐っこいというか、猫っぽいところがある子だ。なんとなくそういう振る舞いをしても許される感じのキャラだから、そこまで意外には思わなかった。
もう一人の方は正直意外というか驚きだった。大学で見かけた時の印象では、真面目でお堅さそうとしか思っていなかった。
そんな二人が、裸に猫耳と尻尾飾り、そしてチョーカーのような首輪だけを身につけた、ぶっちゃけ変態のような格好で、檻みたいなケージに入れられて運ばれて来たわけだ。
目を剥いて驚きもするというものである。
美里とは親友同然の間柄ではあったけど、裸まで見るような機会はほとんどなかったし、藤原さんの方は講義室で見かけるくらいの間柄だったのだから、そんな人たちの破廉恥な姿は刺激的にすぎた。
こっちの方が恥ずかしくなってしまったくらいだ。
(まさかとは思うけど……強制されてるんじゃないわよね……?)
美里に関してはどこからどう見てもリラックスして、ケージの中で眠り込んでいたくらいなので、誘拐とか監禁とかではないだろうと思えたけど、藤原さんの方は本気で恥ずかしがって体を隠そうとしているように見えた。
もしも強制的にそういうことをさせられている被害者だったら、大変なことだ。見て見ぬふりはできない。
そう思ったあたしは、のちに自分の部屋の近くでたまたま藤原さんに遭遇したした際、彼女を部屋に招き入れ、その真意を筆談で訊いてみた。
彼女は筆談で直接断言はしてくれなかったけれど、仕事のようなものとしてヒトネコに扮していると身振りで示してくれた。
別に手を拘束されているわけじゃないし、ペンとメモは目の前にあったのだから、それに書いてくれれば良かったのだけど。
それを忘れるほど、彼女はヒトネコに徹していた。
その様子を見る限り、昨日今日いきなりヒトネコになるように言われた人の徹し方ではなかった。
(ある程度は自分の意思というかじ、趣味でもありそうよねぇ……あの真面目な感じの藤原さんがねぇ……)
大学での藤原さんのイメージは、本当にただ真面目な優等生という感じだった。
そういえば最近やたらと美里が絡みにいっているなとは思ったけど、こういう繋がりがあったとは。
人は見た目ではわからないものである。
驚けばいいのか感心すればいいのか呆れればいいのか。
ともあれ、天景院様に選ばれた本当の理由は、彼女たちと知り合いだということが要因だったのだ。
ヒトネコの姿を友人に見られてしまうという、いわゆる一種の羞恥プレイのというわけだ。
あたしとしては、理由にむしろ納得できて安心できた。
ただでさえ恥ずかしいヒトネコに扮した上、知り合いに見られる彼女たちは恥ずかしくて大変だろうけれど。
それもありえる仕事として受けたのだろうから、あたしがどうこうする必要はないと思えた。
(あたしも一応大人だからね。見て見ぬふりもしないとね)
後日講義室で顔を合わせるときはちょっと気まずいけど。
美里の方には、二人きりになった時にからかう程度はしようと思う。
ただ、友香ちゃんはあたしとは違うことを感じていたようで。
美里と藤原さんがヒトネコとしてやって来た日の夜、彼女はあたしの部屋にやってきたのだ。
「少しお時間よろしいでしょうか」
今日の仕事も終わって、あとは寝るだけ、という時間帯に友香ちゃんがドアをノックしてきた。
この屋敷には消灯時間というものはないけど、一定の時間以降の外出や徘徊は、必要な時以外は避けるように言われていた。
今までもやろうと思えばお互いの部屋に遊びに行くことはできたのだけど、特に必要がなかったので交流はほとんど取ってなかった。
だからその日友香ちゃんが部屋を訪ねにきたことには素直に驚いた。
「いいけど……あの二人の話?」
とりあえず部屋に入れながらあたしは友香ちゃんに聞く。
友香ちゃんはこくりと頷きつつ、あたしが勧めた部屋の椅子に腰掛けた。あたしもベッドの上に腰掛けて話をする態勢になる。
それにしても。
「友香ちゃん、そういう服着るんだね」
本題に入る前に、なんとはなしにそう口にした。
普段の友香ちゃんの私服からして、寝る時も実用一辺倒の寝巻きとかそういうものを着てそうなイメージだった。
けれど今こうして部屋にやってきた友香ちゃんは、ひらひらと装飾としてフリルの付いた、色気よりも可愛さに重きをおいたネグリジェみたいな格好をしていたのだ。
あたしの指摘に、友香ちゃんは少し顔を赤くしつつ、顔はしれっとした表情を保って応える。
「友香に似合うものを着ているだけです。そもそも本来寝巻きというものは人に見せるものではありませんし、ここではメイド服が普段着として支給されるので私服は持って来なくてもいいかと考えるのは合理的かつ自然でしょう?」
早い早い。いつも隙のない様子の彼女の思わぬ『可愛さ』に、あたしは思わず笑ってしまった。
友香ちゃんはこほん、と誤魔化すように咳払いをして話を進める。
「本題に入りますよ。単刀直入に聞きます。あなたはどう思いましたか?」
どう思ったか、というのはあの二人に関してだろう。
「あー、まあびっくりしたよね。でも藤原さんと話……筆談する機会があってさ。本人の気持ちを聞いてみたけど、仕事みたいなものらしいよ?」
自分の持っている情報を教えてあげるつもりでそう言ったのだけど、友香ちゃんはなんだか微妙な顔をしていた。
「……単なる仕事であると? その言葉を信じたのですか?」
なんだか引っかかる言い方だった。あたしは首を傾げる。
「そう言ってたし、そうなのかなって思ったけど……友香ちゃんはそうじゃないって思うの? 天景院様の説明でもそう言って……なかったか」
天景院様の説明ではあくまで「合意の元でヒトネコを飼うことになった」で、仕事かどうかは言及していなかった。
ふむ、と友香ちゃんは顎に手を当てて考え込む。チラチラあたしの顔を見ているあたり、「こいつに話して大丈夫だろうか」と思われているような気がする。
「……あくまで友香の感覚ですが。あの二人は望んでああしているのではないかと思うのです」
「仕事じゃなくて、自分の意思でってこと?」
言いつつ、あたしは美里の猫っぽいところを思い出して、あるかもしれない、とも思っていた。
(そういう願望っていうか、性癖があってもおかしくはないよねぇ。仲がいいとはいえ、そういうことまではあんまり話してなかったしなぁ)
あたしも美里も、恋愛関係の方向にはあまり興味がないタイプだったし、そういう性的なことを話すことはほとんどなかったのだ。
友香ちゃんはあの二人が望んでああなっていると確信しているようだ。
「普段の天城さんの言動を考えれば十分ありえることです。藤原さんの方はよくわかりませんが、タイプの違う天城さんが一緒にああなることを選ぶということは、つまりそういうことではないかと」
「……よくわかんないよ?」
あたしはそんなに頭のいい方ではないのだ。友香ちゃんは言葉を端折りすぎたと反省してか、丁寧に付け加えてくれた。
「つまり、ああいう『猫として扱われたい』という共通した特殊性癖を持っていたからこそ、タイプの違う二人が仲良く成った。セットとして天景院さんに飼われる程度に、ということです」
そう友香ちゃんは断言するのだった。
あの二人が仕事でヒトネコをやっているのか、趣味でヒトネコになっているのか。
その真実はわからないままだったけど、あたしたちはそれからも普通に天景院様の屋敷で過ごしていた。
結局二人が仕事でヒトネコになっていようと、趣味でヒトネコになっていようと、どちらでもあたしたちには関係ないのだ。
屋敷での仕事をしている最中、時々ヒトネコになっている二人が視界に入り、気にはなったけど、それはそれとして仕事はある。
美里は彼女らしく元気いっぱいに走り回っていたし、藤原さんは恥ずかしそうにしながらもヒトネコ生活を楽しんでいるように見えた。
そんな二人の生活を当たり前のように眺めていると、ふと興味が湧いてくる。
(あんな風に……ヒトネコになるってどんな気持ちなのかな……まあ、流石にあんな風にはなれないけど)
裸同然の姿でうろつき回るなんて冗談じゃない。
想像するだけで、恥ずかしくなってしまう。
ただ、好奇心が疼いてしまうのは仕方のないことだったと思う。
そしてその気持ちは、日を追うごとに強くなっていったのだ。
そんなある日。
あたしは広い屋敷の中で迷子になってしまった。
(しまったなぁ……過信せずにメイド長と一緒に動けば良かった)
だいぶこの屋敷の構造も頭に入ってきたし、いけると思ったのだけど。
あたしは運ぶように頼まれた何かの資料の束を抱え直し、目的の部屋を探す。
最悪は引き返してどこかで先輩メイドさんに頼んで案内してもらうしかない。
そんな風に考えていたあたしは、ヒトネコ用の扉が付いている部屋の前を通りかかった。
(あれ……? こんなところにもあの二人が入っていい部屋が……?)
基本的にあの二人が入っていい部屋は、一階に固まっている。階段の上り下りが大変だからという配慮だと思うのだけど、その部屋はなぜか二階に会った。
好奇心が刺激され、あの二人のことをつい目で追うことが増えていたから、二人が自分から入っていく部屋のことも意識していたのだ。
(基本的にあの二人が入れる部屋はメイドも入って大丈夫みたいだったし……)
あたしは好奇心の発露に負け、その部屋のドアに手をかけた。
この偶然がなければ、あたしは何事もなくメイドを務めて終わっていたかもしれない。
ドアを開くと、薄暗い部屋が広がっていた。
基本的に広い部屋ばかりのこの屋敷だけど、この部屋は何かと物が置いてあるせいか、少し狭く感じた。
部屋の中央には人が寝れるほど大きな作業台があり、そこに照明が集中してあたるようになっていた。イメージ的には手術室みたいな感じだ。
そしてその部屋の中には、先客がいた。
まず小柄な人影が三つ。何やら忙しなく歩き回り、何かの作業をしているようだ。
そしてもうひとり――というべきかひとつ、というべきか――、作業台の上に、寝かされた人がいたのだ。
大の字に開いた体は、まるでこれから改造手術でも受けるかのよう。
その体にはすでに様々な機器が取り付けられていた。それは明らかに医療器具ではなく、搾乳機とかバイブとか浣腸機とか、それらを固定する金属の貞操帯とか。
顔も目と口の部分に穴が開いた全頭マスクを被っていて、顔立ちもほとんどわからない。これから挿入するであろうやたらと大きなバイブのついた口枷のようなものが置かれていた。
その人は、急に部屋に入ってきたあたしの方を見て、目を見開く。
「おい、まじか……ルイじゃねえか」
そう呼びかけられたことにより、あたしも目を見開いて驚くことになった。
その声には、聞き覚えがあったからだ。
「な、なんであなたがここにいるの? 瑞紀……!」
彼女もまたあたしの大学の友人――久米瑞紀だった。
そんな彼女が、すごい格好で作業台に磔になっている。
いったいこの屋敷は、というか天景院様はあたしの友達を何人集めているのか。
そう思ったあたしの肩を、後ろから優しく叩く者がいた。
「うふふ……? ついに見ちゃったわね、留衣ちゃん?」
そう囁く館の主人――天景院様の声は、とても楽しそうだった。
思わず立ち尽くすあたしの肩をそのまま押して、部屋の中へとあたしを導く。
天景院様の背後で、部屋のドアが静かに閉まったのだった。
後編に続く