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夜空さくら
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ヒトネコライフ!15


 ふと目を覚ましたらーーあたしは部屋に独りだった。

「みゃぁ……?」

 くわりとあくびをして、体を起こす。ぐぐっ、と力を込めて猫みたいに体を伸ばし、少し凝り固まった筋肉を解した。

 猫の手にした右手で顔を擦り、眠気を払う。

(この格好で寝るのも、だいぶ慣れたなぁ)

 元々あたしは家では裸族なので、あまり気にしていなかったけど、だからこそ耳当てや尻尾飾りだけがついている状態で寝れるかどうかは正直不安だった。ヒトネコトリップの時はラバースーツを着てたし。

 家で寝る練習をしてみたりもしていたけど、蓋を開けてみれば初日からほとんど抵抗なく寝ることができてしまい、拍子抜けしてしまったくらいだ。

(そういうところはミヤの方がよっぽど平然としてたよねぇ)

 いまだにヒトネコになることに対して恥ずかしがっているミヤだけど、ヒトネコの素質自体はあたしよりよっぽど高いんじゃないかと思う。

 そのミヤはいま部屋にいない。多分あたしが寝ている間に、屋敷に飾られている調度品を見に行ったのだろう。

 あたしも別に物の価値がわからないわけではないけれど、わざわざ見て回るほどの魅力は感じていなかったので、それを気にして独りになれる時を見計らっていたようだ。

(別にミヤが行きたいっていうなら、ついていくのにねぇ)

 とはいえ、そうしたらそうしたらで、途中で飽きてミヤにじゃれつき始め、鑑賞の邪魔をしてしまう自分がありありと想像できるので、ミヤの判断はとても正しい。

(迷子になってたりしないかな?)

 仮に迷子になったとしても、ご飯の時間になっても戻って来なければ天景院さんが探してくれるはずだ。

 屋敷には至る所に監視カメラがあって、あたしたちの動向は完全に把握されているはずだから、心配する必要もない。

 遊びに出てもいいけれど、戻ってきたミヤとすれ違う可能性もある。

(あんまり寝るとまた夜に目が覚めちゃうだろうしなぁ……)

 そうなっても別に構わないといえば構わない。自由なヒトネコライフはいつ寝ていつ起きるかも割と自由だ。

 ただ、こっそり台所に行って、当直の警備員さんに夜食のおこぼれをもらうのは、そこそこにしておいた方がいいだろうということもわかっていた。

 いくら普段から動き回ってカロリー消費に努めているとは言っても、不規則な生活では限度がある。

 夜の警備員さんは昼と違ってみんな男の人だけど、天景院さんが不埒なことをする人を雇うわけもなく、普通にヒトネコとして可愛がってもらっていた。

(お口で奉仕するくらいならしてもいいけど……あんまりそういうのしない方がいいよねぇ)

 わざわざ藪を突いて蛇を出すこともない。

 あたしはそんな取り止めもないことを考えて時間を潰していた。

 ただ、うっかりリラックスしすぎて、あられもない格好で床に寝そべってしまっていた。ミヤもいないことで完全に油断していた。

「んにゃ~」

 元々だらだらするのは好きだから、つい気を抜いてしまう。

 だから部屋の扉が不意に開かれ、部屋に入って来た人たちとその状態で目が合ってしまった。

 いくら慣れて来たとはいっても、仰向けで大股開き、かつ両腕も開いて身体全面を大開帳、という格好は恥ずかしすぎた。

「にゃにゃっ!」

 さすがに恥ずかしくて慌てて体を起こし、その人たちに向き直る。

 苦笑を浮かべているのは、天景院さん。そして、なぜかその背後にあたしの大学の友達――丹羽友香。あたしはユーカと呼んでいる――がいた。

 ユーカはいつも通りクールで感情の読めない顔をしていたけれど、あたしのあられもない格好を――つまりは胸とか性器とかを――みて、少し顔が赤くなっていた。その程度で済んでいるとも言える。

(ユーカ、相変わらずポーカーフェイスだなぁ……)

 大学で話す時も、ほとんど表情が変わらない彼女。

 最初この館で会った時はよくわからなかったけれど、しばらく観察していたらユーカなりの興味津々の顔であることに気付いてしまった。

(だからてっきり、ユーカもヒトネコになりたいのかなって思ったんだけどなぁ)

 あたしはユーカの表情を読み取れる方だとは思うけど、さすがに性的嗜好までは読み取れない。

 ミヤは勘違いしているみたいだけど、ミヤを最初イベントに誘ったのは、ミヤの性癖を見抜いたからではない。あたしが誘える交友関係の中で、一番あれきりにしても影響が残らなさそうで、あのバイトのことを秘密にしてくれそうな人だったからだ。

 結果として、ミヤは類稀なる素質を開花させ、あたしも今ではすっかりミヤを親友と思っているけど、実のところそうなることを見抜いていたわけではない。

 人を見抜く目にはそこそこ自信はあるけど、秘められた性癖まで見抜ける千里眼は持ち合わせていない。

 果たして今回ユーカはどういうつもりでここにきたのか――あたしは見極めなければならなかった。

 天景院さんがあたしを見ながらその場に蹲み込んで、楽しげに名前を呼んでくれる。

「ミサ〜。ーーー、ミサ。ーーー〜」

 言葉は耳当ての機能で分からなくなっていても、身振りでわかってしまった。天景院さんは『おいで』と言っている。

 あたしは少し考えてから、まあいいかと天景院さんに近づいていった。

 天景院さんは近づいてきたあたしの頭を撫でてくれる。

 一方、ユーカの方は天景院さんから少し距離を取って、床に直接正座した。メイド服のスカートが一瞬ふわりと広がったけど、綺麗に収まる。

 そしてじっとあたしの方を見つめてくる。

 天景院さんの何を手伝うわけでもなく、ただこちらを見ている。

(ん……? もしかして、これって……?)

 あたしはなんとなく意図が掴めたような気がして、思わず天景院さんの方を見た。

 天景院さんは相変わらずニコニコとした笑顔を浮かべている。

 やはりそうだ。天景院さんが何もさせようとしないのに、ユーカをこの部屋に連れてきた理由は一つ。

(なるほどね……こっちの見極め待ちをするってことは……つまり、ユーカは『そっち側』ってことか)

 天景院さんはそれを見抜いてユーカを雇ったのだろうか。

 ユーカほど読み取りにくい子はいないと思うけど、天景院さんのことだからそれくらい見抜けてもおかしいことはない。


 ユーカがヒトネコ側ではなく――ご主人様側に立ちたい性質の子なのだと。


 この部屋に来て、じっとしているのは、初めて猫に会う人が、猫の方から触れてもいいと許可を得るまで動かないのと同じだ。

 もちろん実際には初対面ではないし、この屋敷に来てからも何度か見かけてはいるけれど。

 飼い主に近い存在として振る舞うのならば、『猫側が人間を見極める』という、一種の通過儀礼が必要、ということなのだろう。

「んにゃ」

 あたしはいったん天景院さんから離れて、ユーカの周りをくるくると回る。

 ユーカは相変わらずの平静さを保っているけど、その端々に緊張が見え隠れしていた。

(さて……どうしようかな)

 ユーカのことはよく知っているし、すぐ受け入れて問題ないんだけど、しかしせっかくのこの機会、普通に触って終わるだけではもったいない。

 どうせならその鉄壁のポーカーフェイスが崩れるところが見たくもある。

(かと言っていきなり性的なことをするのは、あたしも恥ずかしいしな……そうだ!)

 あたしは思いついたことがあり、じりじりとユーカとの距離を詰める――と見せかけて少し離れ、またその周囲をぐるぐる回って、再び近付く――と見せかけて離れる。

 ユーカはこちらが近づこうとする度に身を硬くしていたけれど、一向にあたしが一定以上の距離から近づかないのを見て、困惑し始めた。

 常にあたしを追っていた視線が逸れがちになる。

 そして、ついに。

 背後に回り込んだあたしから、ユーカが視線を外した。あたしの意図がわからないため、とりあえず好きにさせようとしたのだろう。

(チャンス!)

 隙だらけの背中に向け、あたしは一気に距離を詰める。


 そしてーー彼女の胴体に抱きついて、思いっきり両手でユーカのおっぱいを揉んでやった。


 指先まで使うのはヒトネコの主旨に反する気がしたので、あくまで掌でユーカのおっぱいを押し潰すような形だ。ユーカはどちらかというとスレンダー寄りの、あたしに近いタイプの体形の子だけど、貧乳というわけではないので、掌に柔らかなおっぱいの感触が確かにしていた。

「へぅ……?」

 ユーカは何をされているのか把握し損ねたようで、硬直した。

 しかしあたしが再度両手でユーカの乳房を揉み揉みしてあげると、何をされているのか気付いて、その澄ました無表情が驚きに崩れる。

「ひゃわっ!?」

 ユーカにしては変な声をあげ、びくんと身体を跳ねさせる。

 あたしはくすくすと笑いながら、そのその背中に頭や頬を擦りつけてやった。

 大学生になってからはあまりしていないけれど、中学校や高校の頃には同性かつ仲の良い友達にこれくらいの勢いでじゃれつくことはある。

 けれど、思った通りいつもクールでいるユーカはこういうスキンシップにも慣れていなかった。

(ふふ、ふ。驚いてる驚いてる)

「にゃはっ♡」

 あたしはそのまま身体も寄せて、ユーカの背中におっぱいを押し付ける。ミヤほどの巨乳だったらもっとわかりやすかったのだろうけど、あたしの大きさでも十分『胸を押し付けられている』ことくらいはわかるはず。

 案の定、ユーカはその顔を真っ赤にして、恥じらっていた。

 普段すまし顔のユーカのそういう顔を見れて、あたしは満足したのだけど。

 ちょっと調子に乗りすぎて、彼女のスイッチを押してしまったようだ。

「……っ、ミ、ミサ、とぉ……っ」

 ユーカがあたしの名前を呼び、身体を捻って、あたしの首にぐるりと腕を巻き付ける。あまりに鮮やかな動きに、抵抗する暇もなかった。

(そういえばユーカって、何かの古武術を習ってるとか、ストーカーを真正面から撃退したとかそんな噂があったような――)

 そう思った時には、あたしはユーカの腕の中に抱きかかえられて収まっていた。

 巧みな重心移動であたしを胸元に引き込んだのだと遅れて気づく。見事な制圧術だった。

「にゃ……む、うっ!?」

 そしてそのまま唇を重ねられた。熱い感触が唇に走る。

 片腕であたしの頭を固定し、空いた片手であたしの身体を弄ってくる。

 思った以上にユーカの愛撫は巧みだった。

「ひゃ、んっ、んにゃ……っ♡」

 喘いだその隙を狙って舌が口の中まで入ってくる。さらに立て続けに股間を弄られ、思わず両膝を閉じてしまう。しかしその時にはユーカの手はお腹から胸の方へと滑らかに移動していた。移動する際にも触れるか触れないかの絶妙な刺激を与えて来て、思わず身体を仰け反らせて感じてしまう。

「んにゃ、あ……♡ んにゃぁ♡」

 巧みな刺激に、きゅんとあそこが反応するのがわかった。長く続くキスもあたしの気持ちを高めるのに一役買ってくれて、あたしはすっかりとろんとした眼でユーカの成すがままになっていた。

 ユーカはそんな風にあたしを圧倒して満足したのか、一端あたしから口を離してくれた。優しく口元を拭われる。どうやら力が抜けて涎が垂れていたみたいだ。

 でもユーカの責めはそれで終わったわけではなかった。

 いまのキスと愛撫で、あたしの股間はずいぶん湿り気を帯びていた。濡れているというほどまで愛液が溢れてはいなかったけれど、ユーカの指先の侵入を受け入れてしまう程度には濡れていた。

 ユーカの宛がった中指の先端を、あっさりと奥へと受け入れてしまう。

 くちゅくちゅと、あそこの中がかき混ぜられる。

「……ふにゃ……ぁ……♡」

 ユーカの指が動くたびに、変な声が口から出てしまった。

 彼女の指の動きに合わせて音を奏でる楽器のように。あたしは喘ぎ、声をあげ、身体を震わせて――絶頂した。

 それほど奥まで指を挿し込んでいたわけではなかったのに、巧みな刺激でいかされてしまった。

(ゆ、ユーカが、こんなに、テクニシャンだったなんて……っ)

 こんな特技があったなんて、知らなかった。

 ユーカはぺろりと舌なめずりをして、さらにあたしを責めようとして――ぱっと顔をあげた。その顔がみるみる赤く染まっていく。

 その反応を見て、あたしも思い出した。

(……そーいえば、天景院さんがすぐ傍で見てたんだった)

 ちらりと視線を向けると、そこでは物凄く優しい笑顔を浮かべた天景院さんが、あたしとユーカの絡みを見て満足そうにしていた。

 そこに揶揄する意図は見えず、ただあたしたちが積極的に絡むのを見て喜んでくれているみたいだったけれど、だからこそ、ユーカには恥ずかしすぎることだったみたいで。

 うっかりあたしに乗せられて思いっきり絡んでしまったユーカは、慌ててあたしを解放し、そそくさと距離を取って正座し直す。

(もう遅いと思うよ……)

 あたしはため息を吐きつつ、素早く体を反転させて起き上がると、ユーカの側にいく。ユーカは体を固くしていたけれど、あたしは構わずユーカに頭や体を擦り付けた。

「ん……っ、ふっ……」

 くすぐったいのか、笑いを堪えるような声をユーカが出した。そして、仕方ないなという風に頭を撫でてくれる。


 あたしがそうしてユーカと友人としてではなく、ヒトネコと人としてのんびりと交流をしている時ーーミヤはとある部屋で大変なことになっていた。



つづく



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