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夜空さくら
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ヒトネコライフ!16


 徹底的に拘束された大河原さんは、目の前にいるわたしのことも見えていないのか、「フス―、フスー」と、妙に細い呼吸音を、変わらないペースで続けていた。

(作業台に乗せられた時の振動くらいは感じてもおかしくないけれど……)

 その様子もないということは、意識が深く沈んでいるとかで単純に気づいていないか、もしくはその振動を誤魔化してしまう何かが動いているか、だ。

 そしてこの大河原さんの場合、それが後者の理由だと教えられなくても理解できた。

 触れるほどの距離に近付いたことで、「ブブブ……」とどこからともなく何かが動いている音がしていたからだ。

 時折身体が痙攣しているのを見る限り、恐らくは太いバイブかそれに相当するものが身体に仕込まれているのだろう。大河原さんがどういう人なのかは知らないから中にまで入っているのかどうかはわからなかったけれど、恐らくは中にも入ってそうだ。

「フス―……フシュっ、フシュ―……フッ……!」

 相当苦しそうな様子で、鼻から伸びた管で呼吸する大河原さん。

 彼女に施されている内容は、どう考えても性奴隷に対するものだった。

 数日前まで普通のメイドとして働いていたはずの彼女が、なんでこんなことになっているのか。

 問いかけたくても問いかけられないわたしは、一縷の期待を込めて奈津樹さんを振り返る。

(これはどういうことですか奈津樹さ……あれ? いない……)

 振り返った先に奈津樹さんがいなかったので、視線を巡らせてみる。体の大きな奈津樹さんはすぐに見つかった。

 奈津樹さんは少し離れた場所に移動して、何かを探しているようだった。ほどなくして、目的のものを見つけたのか、またわたしのところに戻ってくる。

 奈津貴さんの歩幅は大きいため、普通に歩いていても一瞬で距離がゼロになる。

 いまのわたしは作業台の上に乗っていて、視点が高くなっていたからまだ感覚としてはマシだったけど、普段ヒトネコとして四つん這いになっている状態では、元々の大きさも合い成って近付かれるだけで恐怖だ。

 いまだに美里が奈津樹さんを苦手としているのは、そういう根本的な恐怖があるからなのだろう。

(美里はただでさえ野性的なところがあるからなぁ……)

 そんな風にしみじみと考えているわたしのところに戻って来た奈津樹さんは、その手にもっていたメモを、わたしの目の前に置き、そして何かを書き始めた。

『なんで留依ちゃんがここで拘束されてるのか気になる?』

 気になるに決まっている。

 わたしは大慌てで何度も頷いた。

 奈津貴さんは片手でメモを契り、新しいページで説明を始めた。

『彼女自身の意思だから安心してほしい。元から興味があったみたいでさ』

 そんな馬鹿な。そう言いたかった。

(そんな……同じ大学の同じ講義を受けている百名にも満たない人数の中で、三人もこんな特殊なことを受け入れるなんて……おかしいでしょ)

 あの講義はそこまで特殊な内容でもないし、偶然集まった百人以下の中に特殊性癖持ちが何人もいるわけがない。そんな調子だと世の中は特殊性癖持ちだらけになってしまう。

 自分を特殊性癖持ちと認めるのは正直嫌だったけれど、普通の女の子は裸ッ同然の格好で猫として飼育されることを受け入れはしないだろうこともわかっていたので、そこは目を瞑った。

(信じられませんよ……)

 実力行使かそれともわたしたちに魅せたような報酬を餌にしたのかはわからないけど、そういう手段を取ったとしか思えない。

 うろんげな顔をして奈津樹さんを見上げると、奈津貴さんは困ったように頭を掻いた。どう説明すればわたしを納得させられるのか、考えているのだろう。

 しばらく考えていた奈津樹さんは、唐突に「いいことを思いついた!」とばかりに手を打った。

 わたしを再び抱き上げて床に降ろし、他の三人のメイドたちに向けて支持を出す。

 それを見守っていると、三人のメイドのうちのひとり、ララさん――年下っぽいからララちゃんだろうか――が、わたしの肩をぽんぽんと叩いて、手招きしてくれる。

 壁際に向かって歩いていく彼女についていくと、そこにはいくつかの画面があった。色んな映像があったけど、その内のひとつをララちゃんが指し示す。

 その画面には、作業台の上の大河原さんの顔が大写しになっていた。目隠しと口枷と耳当てと全頭マスクで彼女自身の肌や髪は一切見えなかったけれど。

(それを見ろってこと? でもこれを見て一体何が……)

 不思議に思ってとりあえずその画面に注目していると、奈津樹さんがその画面に映り込んできた。

 何をするのかと思えば、大河原さんの後頭部で何かを弄り、口枷のベルトを取り外し始めた。

(口を自由にして、本人に話をさせようってこと……? でも、いまのわたしには人の言葉はわからないんだけど……) 

 確かに本人に話を聴くのが一番手っ取り早いだろう。

 仮に何らかの形で脅されていたとしても、声から得られる情報は多い。いくら自分からやっていることだと言わされていたとしても、声の感じから演技か本心かはわかるだろう。

 意味はわからなくても、声の響きなどからそれを感じ取れということなのだろうか。それはかなり無理に近いことなのではないかと思う。

 わたしが見守る中、口枷が取り外され――その口枷の内側に仕込まれていた細長い管のようなものが外に出て来た。

 最初は普通に思っていたけれど、徐々に出てくる長さがとんでもないことに気づかされ、驚愕することになった。

(な、ながっ……!? さらに太いし……おまけに、あの形って、もしかしなくても……っ)

 露わになったその管は、物凄く長く太かった。そして先端部分が奇妙に膨らんだその独特の形状。色こそ真っ黒だったけど、明らかにその形は『男性器』をイメージしたものだった。

 その長さは明らかに大河原さんの口の中で収まるものではなく、喉を貫いて鎖骨あたりまで達しているであろう長さだった。

 恐ろしい長さと太さだ。

 そんな凶悪な長さのものを咥えこんでいた大河原さんは、激しく咳き込み、口の中とかに溜まっていたらしい大量の唾液を作業台の上にぶちまける。

 とても苦しそうだった。当たり前だ。苦しくないはずがない。

 そんな苦しいことを自分からやっているなんて信じられなかった。

(やっぱり無理やりやらされてるんじゃ……)

 そう思ってしまったわたしの前で、奈津樹さんが続けて大河原さんの目隠しを取り外す。口枷と目隠しが外れたことで、ずいぶん顔の様子が見えるようになった。全頭マスクは被されたままだから、全部が見えるようになったわけじゃないけど、かなり表情がわかりやすくなった。


 そしてわたしは――大河原さんがとても気持ちの良さそうな顔をしていることに、気付いてしまった。


 思わず食い入るように見つめてしまう。

 確かにさっき、口枷を外していた時は苦しんでいたはずだ。

 しかし、目隠しが外されて目が見えるようになると、その顔には確かに快楽に浸っていた様子が見える。

 涙は動かんでいるけど、気持ちよさのあまりに浮かんでしまったものだということが良く分かる。

 そして何より。

 口と目が自由になった大河原さんは、奈津樹さんがすぐ傍に立っているのに気付くと、不思議そうな顔をして、奈津樹さんに何かを訊いているみたいだった。

 そこには怯えも怒りも見えない。ただ純粋に「なんで外したの?」という疑問があるだけだった。

(もし無理やりやらされているのなら……確かにあんな顔はしないわよねぇ)

 そう思っていると、奈津樹さんが何やら大河原さんに囁いたのが見えた。

 すると大河原さんは驚いた様子で、ぱっとあらぬ方向を見る。

 その方向とは。

(あ……わたしの方を見てるんだ、これ)

 恐る恐る大河原さんのいる作業台の方を見やると、ばっちり目が合ってしまった。

 彼女はふるふると拘束された体を震わせ、その眦に大粒の涙を浮かべ、そして全頭マスクを被っていてもなお、顔全体が赤くなるのがわかった。

 その反応は自分にも覚えのある反応だったので、わたしは彼女が本当に自分からそうしているんだろうな、ということがわかってしまった。


 その反応は、わたしが彼女たちにいまの姿を見られた時の反応と、全く同じだったから。





 ひとまず、大河原さんが拘束されているのが、本人の意思であることがわかって安心したわたしは、奈津樹さんに抱えられて自分の部屋に戻った。

 別に奈津樹さんに連れて来てもらう必要はなかったのだけど、どうやら奈津樹さん側に用があったみたいで、大人しく運ばれて欲しいと筆談で頼まれてしまったのだ。

 別に奈津樹さんに抱きかかえられなくても、後ろをついていけばいいだけのような気もしたけど、奈津樹さんの歩くスピードは尋常じゃなく速いので、抱きかかえてもらった方がいいという結論に達した。

 そうして部屋に戻って来たわたしは、大学の知り合いである丹波さんが部屋にいて、彼女の膝の上で美里がゴロゴロしているところを目撃してしまった。

(……どういうこと?)

 わたしがそうはてなマークを浮かべると、奈津樹さんはにっこりと笑みを浮かべて、人差し指を口の前に当てた。基本的には静かに、というジェスチャーだけど、この場合は『騒がないで』とかそういう意味だろうか。

 さっきの大河原さんの時のようにこれから説明してくれるのだろうと納得し、成すがままに任せた。

 しかしそう考えた結果、床に座り込んだ奈津樹さんにそのまま抱え込まれ、なんとも恥ずかしい体勢にさせられてしまった。身体に回された奈津貴さんの手が、思いっきりわたしの乳房を掴んでいる。

「ん、にゃあ……っ」

 思わず抵抗するわたしを、絶妙に抑え込む奈津樹さん。

(まあ、いっか……)

 わたしはすぐに抵抗を諦め、素直に奈津樹さんに身体を預けることにした。

 身体を弄られるのは恥ずかしいけど、我慢できないほどじゃない。

 わたしはされるがまま、とりあえず状況を説明されるのを待つ。

 そんなことを考えていたら、また部屋のドアが開いた。

 完全に拘束された大河原さんが、三人のメイドさんの手によって、作業台ごと部屋に運ばれて来た。

 作業台はキャスターで移動できるようになっていたみたいだ。

 突如妙な存在が部屋に入って来たことを知り、寛ぎモードだった美里が跳び起きる。

 丹波さんはいつも通りクールな様子だったけど、さすがにちょっと驚いているようにも見えた。

 可哀想なのは、破廉恥な全身拘束状態で運ばれてきた大河原さんだろう。

 美里や丹波さんのことを見て、恥じらうあまり、再びゆでだこのようになっている。


 ヒトネコのわたしと美里。

 その飼い主の天景院さん。

 その妹の奈津樹さん。

 そのふたりに仕えるメイドの丹波さん。

 完全拘束された大河原さん。

 天景院さんのお気に入りと思われる三人のメイドさん。


 考えれば考えるほど奇妙な取り合わせで、どうしてこんな面子が集まっているかわからない。

 そのうち四人は同じ大学に通っている、知り合いもしくは友達というのも、考えてみればすごい話だ。

 そんなことを考えていたら、さらに続けて部屋に入ってくる人がいた。千客万来とはこういうことを言うんだろうか。

 どことなく奈津貴さんを思わせる粗野な足取りで歩いて来たその人は、メイド服を着ていた。

 けれど、態度が全くメイドらしくない。

 わたしたちの傍に近付いてくると、天景院さんに何かを放って渡す。

 その人が投げたものは、小さなマイクのような機械だった。見覚えのあるそれは、わたしたちに人間の言葉をそのまま届けるためのマイクだ。

 それを持って来て欲しいと頼まれたのだろうけど、投げるという乱暴な渡し方をしてよかったのだろうか。

 彼女を雇っている天景院さんは特に気にしていないようだけど。

 ふと、わたしは美里と丹波さんが驚いた様子で彼女を見ていることに気が付いた。

 どうしたのだろうかと想い、わたしもその人の顔をまじまじと見てみると、何か思い出しそうな気がする。

(ん……? どこかで見たような……? でも待ってよ……美里と丹波さんが驚いているということは……)

 思考が応えに辿り付きそうになった時、久しぶりに意味がわかる人の声が聞こえて来た。

『あー、あー……こほん。まずは皆、良く集まってくれたわね。いまここにいる子たちは、一週間後に開催されるヒトネコパーティに参加してもらう予定の子たちなの。パーティの前に、顔合わせをしておこうと思ってね。当日いきなり会ったら驚いてしまうでしょうから』

 ちなみに、と天景院さんが続ける。

『ミヤちゃん、ミサちゃん、友香ちゃん、留依ちゃん、瑞紀ちゃんは同じ大学に通うお友達同士なのよねぇ。この場にこんなに集まるなんて不思議ね~』

 のほほんと、天景院さんは笑ったが、もちろんそんな言葉を信用する者はこの場に一人もいない。

(絶対狙って集めたでしょ……)

 そう思っているのはわたしだけではないらしく、美里も丹波さんも大河原さんも天景院さんを見る目が疑っていた。唯一、

 瑞紀ちゃんと呼ばれた子だけは、仕方ないなぁ、という呆れ顔だったけれど。

 それにしても。

(やっぱり同じ大学の子だったんだ……グループが全然違うからわからなかったわね)

 決してわたしがぼっちだからではない。うん。そうではないはずだ。

 実のところ誰とでもすぐ仲良くなっている美里の方がむしろおかしいのであって。

 そんな風に誰に対するかもわからない言い訳をしていると、天景院さんが話を先に進める。

『ここにいる皆は、パーティの目玉になってもらうわ。うふふ……皆が嫌がるようなことを無理やりさせることはしないから、安心してね♡』

 そんな期待されても困るのだけど。

 一体わたしたちにパーティで何をさせるつもりなのか。


 その後、天景院さんによるパーティの説明は長時間に及んだ。

 パーティを開くということ自体は、契約前からちゃんと説明を受けていたので問題ないのだけど。


 わたしはパーティの日に、恥ずか死ぬかもしれないと思ったのだった。



つづく


Comments

感想・誤字報告ありがとうございます! 裏話から本編までの間の話は、まとめ直す時にでも追記しようかどうしようかと思っています。やっぱり拘束する瞬間の描写も欲しいですし。 丹波さんがふたりに増えてましたねーwー; ありがとうございます。直しておきました。

夜空さくら

完全拘束の大河原さんいいですね。是非とも裏話から本編までの間に何が起こったのか見てみたいものです。 あと誤字だと思いますが、後半の全員集合の場面で丹波さんが連続していますね。 “そのふたりに仕えるメイドの丹波さん。  完全拘束された丹波さん。”

万事急須


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