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夜空さくら
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ヒトネコライフの後日談 前編


 ミヤとミサ。

 タイプは違えど、ペットプレイにおけるヒトネコとしてそれぞれ至高の領域にあった二頭の飼育期間が過ぎ、二頭が屋敷を去って、天景院家の屋敷は『普通』を取り戻しつつあった。

 メイド達はあくまでも主である天景院の性的趣向や趣味を許容しているだけであって、そういった素養を持つ者は少ない。

 だが、それでもペットとして一か月間生活を共にしていた存在がいなくなったことに対し、一抹の寂しさを感じていた。

 なんだかんだ、雇用主である天景院本人の人柄もあって、屋敷には人のいい者ばかりが揃っているため、ミヤとミサのことを本当のペットのように大事に感じていたのである。

 そんなミヤとミサが館を去り、普通じゃない存在が消えた館であったが、それはあくまで表向きの話。

 屋敷の地下では――いまだ、普通はあり得ない光景が広がっているのだった。



 ぴちぴちと、音を立てて肌に張り付くラバースーツ。

 首から下の全ての体を覆うそれは体にフィットし、その豊満で性的な肢体を綺麗に浮かび上がらせていた。

 もしその姿を衆目に晒しながら歩けと強制されれば、ほとんどの人間は羞恥のあまり動けなくなってしまうことだろう。

 場所によってはとても恥ずかしい、そんなラバースーツを着た天景院だったがーー自分の屋敷の中であるということもあるもののーー羞恥心を表に出すことなく、堂々と闊歩していた。

 彼女の豊満な体がラバースーツによって強調され、ある意味裸よりも恥ずかしい格好である。

 そんな彼女は普段どおりの日課を行うべく、地下室へと降りて行っているところだった。

 その後には、丹羽友香というメイドが続いている。

 本来彼女は、この夏の間だけの臨時メイドとして雇われたメイドだ。

 しかしヒトネコライフを送るミヤやミサと関係しているうちに、飼い主側ーーSMプレイでいうところのご主人様側の素質を開花させた。

 その結果、天景院に気に入られた彼女は、本来の雇用期間が過ぎても、特殊な立場のメイドとしてそのまま雇い続けられることになったのだ。

 そして天景院の特殊な趣味に付き合うため、日中身につけている普通のメイド服とは全く違う、ラバー素材でできた特殊なラバーメイド服を身につけていた。

 彼女は公的な身分としては大学生である。体の発育自体は年相応というレベルであり、端的にいえば可もなく不可もない。

 現在、そんな彼女の女性らしい胸の膨らみや臀部の丸みは、天景院が身につけているものに近いラバースーツでことさらに強調されていた。

 天景院の身につけているものに比べると装飾が多く、メイド服のような可愛らしいフリルがラバーで表現されている。

 堂々としている天景院に比べ、彼女はぴちぴちと肌に張り付くラバーの感覚に慣れていないのか、顔を赤くして恥じらう様子を見せていた。

 少し歩くたびに体を揺すり、自分の体を覆うラバーメイド服を軽く引っ張って、落ち着かない様子だ。

 そんな彼女を振り返り、天景院はとても楽しそうに笑う。

「ふふふ。当家自慢のラバーメイド服はお気に召していただけたかしら?」

 からかうような口調で問う天景院に対し、友香が応じる。

「……少し歩くたびにズレてしまって、違和感のほうが強い、ですね」

 淡々と、普段の調子と変わらないローテンションの友香だったが、天景院の目は誤魔化せなかった。

 ラバーメイド服がズレて体に擦れる感覚を気持ちよく感じていることを。

 その気持ちよさに翻弄されてしまっていることを、見抜かれていた。

 しかしあまりそのことをからかうと、自尊心の高い友香の機嫌が損なわれることを見抜いている天景院は、彼女がラバーメイド服を気持ちよく感じていることには触れなかった。

「……うふふ。そうね。それは元々他の人のために作ったものを、貴女に合わせて簡単に仕立て直したものだから。友香ちゃんにジャストフィットするものは、今作らせているところだから、もう少し待ってね♡」

 各個人に合わせて作られるメイド服のような特殊形状をしたラバースーツなど、相当な高額になるのだが、それを用意することに何らためらいはないようだった。

 友香にもラバースーツの価値はわかるので、素直にお礼をいう。

「ありがとうございます。……その、他の人というのは、メイド長のことだったりしますか?」

 何気なく問いかけられた言葉に、天景院は驚く。

「どうしてわかったの? 確かにそれの元は彼女がまだ二十代の頃に、彼女のサイズに合わせて作ったものだけど……」

 天景院とメイド長は似たような性癖を持つことで意気投合し、共に様々なプレイに興じていた過去がある。

 とはいえそれは数年は昔の話であり、最近ではメイド長はほとんど天景院の『遊び』に付き合うことはなくなっていた。

 一般メイドの中には彼女たちの関係を知っている者も多いが、彼女たちから話を聞かない限り、友香がそれを知っているはずがないのだ。

 天景院の疑問に、友香はさらりと応える。

「なんとなく、です。お二人の関係は単なる主人とメイド長、という様子ではありませんから」

 友香の観察眼の鋭さに、天景院は感心する。

 確かにそう言った関係にあったという理由以外にも、メイド長を務めてもらうほど長く雇用していることもあって、距離感が他のメイドよりも近かったことはあるかもしれない。

 だが、二人きりの時以外、他のメイド――特に屋敷に来てまだ日が浅い、それこそ友香のような相手――の前ではそこまで露骨に特別な関係であることを示していなかったはずだ。

 わずかな視線や雰囲気からそういった機微を読み取ったのだとすれば、相当優れた観察眼である。

「やっぱり友香ちゃんはとても素敵ね」

「お褒めに預かり光栄です」

 淡々と応える友香に対し、天景院はくすくすと微笑んだ。

 無愛想にも感じる友香の態度であったが、彼女と同様に人間の観察眼に優れた天景院には、友香が照れていることを正確に読み取れていた。

 加えて、あまり人を信用しない友香の態度は、かつての天景院自身にも覚えのある態度であり、不快感を覚えるような態度ではなかったのである。

 取り止めのない話をしながら歩いているうちに、二人は目的の部屋へと辿り着く。

「入るわねー」

 天景院が内側に向けて声をかけながら扉を開くと、中から甘い香りが漂ってきた。無論、食事やお菓子といった類の香りではなくーー発情した女の蜜という意味での甘い香りだ。


 そこでは現在、ふたりの女性が絡み合った状態で拘束されていた。


 部屋を管理しているララ・ルル・ナナの三人のメイド娘が、天景院が来たのを見て、嬉しげに近づいてくる。

 それはまるで主人に懐いた小型犬が飼い主に寄っていくような光景で、側からみるととても微笑ましい光景ではあった。

 娘たちが着ている服が普通ならばーーの話だが。

 三人娘はいずれも、友香の着ているラバーメイド服と似たようなラバーメイド服を着ていたが、彼女たちのそれは友香のそれよりも性的なものだった。

 友香のラバーメイド服はちゃんと要所を隠しているが、彼女たちの着ているそれは乳首の先端や秘部などが露出していたのである。

 さらにその露出した乳首の先にピアスが付いていたり、イヤリングがぶら下げられていたり、クリキャップにも似たもので吸い出されていたり、責め具が取り付けられていた。

 無論それは乳首だけではなく、秘部の方も同様だ。ラバーメイド服として存在するスカート部分が覆い隠してはいるものの、彼女たちが動くたびにチラチラとスカートが翻り、秘部にさまざまな道具が差し込まれているのが確認できる。

 それらの装備の結果、彼女たちが部屋の中を動き回るたびに、自然と気持ちよくなるようになっていた。そのためか、部屋の床には彼女たちが股から溢れさせたと思われる透明な液体が所々に落ちている。

 三人娘は少し発情した様子を見せつつも、与えられた仕事はきちんとこなしており、やってきた天景院に向かってその成果を報告した。

「天景院様、いらっしゃいませですわ♡」

「調教の進行度合いはじゅんちょーです!」

「はじめからおちてるから、ちょーきょーじゃない……」

「ううん、調教されてるのは、心じゃなくて、体の方だよー」

「もうすっかり、ずいぶん太いものにも慣れましてよ♡」

 三人がワイワイと姦しく話すのを、天景院は笑顔で聴きながら、部屋の中央に設置された『もの』に近づく。女の蜜の香りは三人娘からもしていたが、一番の出所はそこからだった。


 それは一見すると、単なる黒い像に見える。


 ちょうど人間ふたり分の質量の粘土を混ぜてこねて中途半端に人の形を作ったような像――というと的確な表現になる。

 実際、その表現が的確でないわけがないのだ。

 なぜならその像は、本当にふたりの人間によって作られているものなのだから。

 その黒い像は、二人の人間が正面から抱きつきあい、その上から黒いラバーでコーティングした姿なのだった。

 SMプレイにはゴムの袋の中に人間を閉じ込め、その袋内の空気を抜くことで人間をゴムでパッキングしてしまうという、バキュームチューブというプレイがある。

 形こそ少し違うが、その像はそのプレイを応用して成り立っているものだった。

 二人の人間を固めて出来た像は、人体の凹凸を見せつつ、かなりデフォルメされた状態になっている。初見ではそれが人間によって形作られているものだとわからないかもしれない。

 しかしそれが確かに生きている人間で出来ていることを示すように、その像は微かに動いていた。

 天景院は、台座の上に設置されたその像を、芸術作品を鑑賞するようにうっとりした表情で見上げる。

「はぁ……♡ とても素敵だわぁ……これ、芸術作品として世に出せたりしないかしら?」

 そう半ば本気で口にする天景院。それに応えたのは三人娘ではなく、彼女について歩いていた友香だった。

「かつて、圧縮袋のようなものに複数の人間を詰め込み、圧縮した姿を見せるというアート作品がありましたし、見せ方によっては可能かもしれません。ただ、責め具に関してはごまかさないと、流石に問題になると思います」

 淡々と思ったことを述べた友香に対し、天景院はそうよねぇ、と残念そうに呟く。

「やるにしても、もう少し工夫が必要そうね。……二人の拘束をいったん解いてあげてくれるかしら?」

「「「りょーかいです!!」」」

 天景院の指示に従い、三人娘が一斉に動く。

 ルルが台座となっている機械を操作すると、二人の体を圧縮してガチガチに固めていたバキュームチューブの圧力が弱まり、ふたりの身体の輪郭を浮かび上がらせていたラバーが弛んで、ただの円筒形の袋が被さった柱のような状態になる。

 その袋を、三人娘が協力して剥ぎ取っていくと、二人の女性が抱き合っている状態で拘束されている様子がはっきり露わになった。



中編につづく



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