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夜空さくら
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触手口内育成練習ベルト


 きっかけは、とても些細なことだったと思う。

 クラスの宮前さんと後藤くんが自分のテンタクルこそクラスで一番立派だ、と言い出したのが始まりだった。

 最初はそれほど激しくなかったのだけど、男女のリーダー気質の二人は自分のテンタクルの方が優れていると一歩も譲らず、徐々にヒートアップしてしまった。

「俺のテンタクルの方が太くて力強いだろ!」

 そういう後藤くんのテンタクルは確かに立派なものだった。

 聳え立つ、というのがぴったりの雄々しさだ。木の幹のように中央にある一番大きくて太い触手が目立つ。指の太さでいうと親指が四本くらい集まったような太さ。確かにクラスの中でも後藤くんのテンタクルの太さは飛び抜けていた。その周囲には小指より細い触手が数本生えていて、中央の触手を盛り上げるように動いている。

 本人の気質を反映しているのか、胸を張るようにその大きくて太い体を沿っている。後藤くん本人も自慢げに胸を張っているので、それを真似しているのかもしれない。

 そんな後藤くんに対し、宮前さんも全く引かなかった。

「あたしのテンタクルの方が数も多くて長いもん!」

 一方の宮前さんのテンタクルは、全体が満遍なく均等に育っている印象だった。テンタクルズスフィアいっぱいに人間の指くらいの太さの触手が生え揃っている。

 特筆すべきはその長さで、とても長い。肘から先くらいの長さがあって、それがそれぞれ個別に動いてゆらめいているから、すごい存在感がある。イソギンチャクの触手のよう、というと宮前さんのテンタクルに失礼だけど、見た目そんな感じだ。

 後藤くんのテンタクルは長さは宮前さんのテンタクルの半分くらいしかない。けれど太さはあるから、インパクトとしては良い勝負だった。

 優れている方向が違うのだからどちらが良いかなんてことは人によって変わるのだけど、宮前さんも後藤くんも一歩も引かない。

 今の時代、一人一体必ず持つテンタクルズに関しては、みんなそれぞれ拘りがあるのだ。

 それぞれ自分にとって唯一無二のパートナーなわけだから、ムキになる気持ちもわからないでもない。

 二人の言い争いに感化されたのか、教室の至る所でテンタクルズ自慢が始まってしまった。

 テンタクルズが普段納められているのは、掌サイズの球・テンタクルズスフィアという。

 球形の下半分がテンタクルズの培養層になっていて、上半分は単なる透明なカバーだ。そのカバーを取り外すと、スフィアの中で大人しく丸まっていたテンタクルがその触手を伸ばし、広げる。

 根本は培養層から離れられないものの、触手を器用に動かしてカタツムリやヤドカリみたいに動くこともできるし、長いものだと人の身長くらいは触手が伸びる。

 みんなが自分のテンタクルに付いて「私のは柔軟性が高い」だの「うちのテンタクルは俊敏なんだ」だの「香りに関しては負けない」だの、自慢できる点を主張している。

 唐突に始まったテンタクルズ自慢大会の中、私はテンタクルズスフィアを専用のポケットの中に入れたまま、なんとも居心地の悪い思いをしていた。

(私のは……小ちゃいし細いし特にこれっていう匂いもしないし……良いところないんだよね……)

 それは正しく私のテンタクルと言えた。

 テンタクルは管理する者によってその性質や気質を変化させる。リーダー気質で元気溌剌とした宮前さんと後藤くんのテンタクルがそうであるように。

 テンタクルの成長には体質が影響すると言われているけれど、どちらかというと性格や気質みたいな者の方が大きな影響を与えているような気がするのだった。

 暗くてネガティブで、我ながら気弱な私は、同級生からも歳下扱いというか、庇護する対象みたいに見られてしまっていた。

 そんな私の性格や気質を正確に反映させたかのように、私のテンタクルはひょろひょろと細くて元気がなく、特段際立った特徴もない。ある意味とても私らしいテンタクルと言える。

 そうなっている理由はなんとなくわかっているのだけど、わかっているからといってそう簡単に改められるものではなく、私のテンタクルは弱々しいままだった。

 だから、こういうテンタクルの自慢大会のような場はとても苦手だった。教室の隅で息を殺し、その時間が過ぎ去るのを待つくらいしかできない。

 幸い誰かに水を向けられることはなく、先生が教室にやって来て場を収めてくれたため、私は自分のテンタクルを出さずに済んだ。

 自分だけのテンタクルに自信を持てない自分に自己嫌悪しながら、その日一日を鬱々とした気持ちで過ごすのだった。



 放課後。

 部活にもサークルにも所属していない私は、特に何の目的もなかったけれど、街をぶらぶらと歩いていた。自慢大会以降、沈んでしまった気持ちを晴らそうと、ウィンドウショッピングをしに来たのだ。うちの学校の校則は特に厳しくないから、学校帰りの寄り道も気兼ねせずできる。

 けれど、私の気持ちはなかなか晴れてくれなかった。

 普段はそれほど気にしないのだけど、いざテンタクルズのことで気持ちが沈むと、街中の至る所にあるテンタクルズ関連の施設や商品がやたらと目に付いてしまう。

 本屋に行けばテンタクルズ特集をしている雑誌が所狭しと平積みされているし、雑貨店に行けばテンタクルズ関連の便利グッズが店先の一番良いところに置いてある。

 街に掲示されている広告のほとんどを、立派なテンタクルズと一緒に写ったモデルさんが占めているし、なんなら服屋のフロントに置いてあるマネキンにすら、テンタクルズの模型が一緒に飾られているくらいだ。

 そもそも学生の間は、テンタクルズはスフィアに収めて持ち歩くのが常識だけど、大人になると肩の上に固定していたり、首に巻いていたり、手首にブレスレットみたいにして巻き付かせていることも多い。

 いくら今は見たくないと思っても、今の時代テンタクルズを全く視界に入れないのは不可能だった。

「はぁ……せめて人並みの大きさだったらなぁ……」

 この劣等感も消えてくれるのだろうか。そんな風に愚痴が出てしまう。

 そんな私に突然声がかけられる。

「あんたくらいの歳にしちゃあ、十分立派なものを持ってると思うけどねぇ」

 明るい声でそんな風に話しかけられて、飛び上がるほど驚いた。

 慌てて声のした方を見ると、見覚えのある人が私の方を見てニヤニヤと笑っていた。ひとまず知り合いだと気づいて安心する。

 けど、その人の視線を追いかけて、胸に視線を向けられていることに気づき、顔が赤くなった。思わず胸を腕で庇う。

「いきなり何言うんですか! 同性でもセクハラですよナナミ姉さん!」

 それは、従姉妹のナナミ姉さんだった。

 気風のいい性格で、子供の頃親戚の集まりで遊んでもらった時は、とんでもない大冒険に連れ回されたものだった。

 ナナミ姉さんはもうとっくに社会人として働いていて、バリバリ好きなことをして生計を立てているという。

 私にとっては太陽のように眩しい人だった。子供の頃からお世話になった人であり、嫌いというわけではないけど、正直苦手な部類の人間だ。

 家が近くなのでたまに家の近くで遭遇することはあったけれど、平日の放課後に街中で遭遇するのは珍しい。

「あっはっは。ごめんごめん。たまたま雪歩ちゃんが歩いているのを見かけたからさ。暗い顔してどしたの?」

「……ナナミ姉さんにはわからないことです」

「あー、勉強のことだと確かにわかんないかも。そういうのは卒業した時、教室に置いて来ちゃった♡」

 軽い調子でいうナナミ姉さん。

 その時、活動的なナナミ姉さんのポニーテールを支えている髪留めが、にゅっと動いた。

 思わずビクッとしてしまったけれど、それがナナミ姉さんのテンタクルだとすぐにわかった。

「……髪留めになってくれてるんですね」

「ふふふ。いい子でしょー。髪留め要らずで助かってるよ。朝のバタバタした時間だと髪を整える間も惜しいけど、髪に関しちゃこの子が全部やってくれるからね」

 ナナミ姉さんが腕をあげて軽く髪留めに触れると、髪留めに擬態していた触手の一部が動いて、ナナミ姉さんの指に絡み付いた。

 すりすり、と優しく擦り寄るその動きから、とても懐いているのが伝わってくる。

 テンタクルとナナミ姉さんの仲睦まじい様子はよく見ていたけど、今は少し劣等感を刺激されてしまった。

 その気配を、ナナミ姉さんは敏感に嗅ぎ取ったようで。

「ははーん。さては雪歩ちゃん、自分のテンタクルちゃんとの関係に悩んでいるのね?」

 正確には違うけど似たようなことではあったので思わずびくりとしてしまった。それを肯定と受け取ったのか、ナナミさんはしみじみとした気配を滲ませる。

「いやー、わかるわ。あたしもあんたくらいの年頃にはテンタクルとの関係に悩んだものよ」

「嘘でしょーーあっ。ちがっ……ご、ごめんなさい」

 思わず口から声が零れてしまい、慌てて謝った。

 いくらナナミさんが悩み知らずに見えたからと言って、何も悩んでいないはずがない。気の知れた仲とはいえ、失礼にも程がある。

 幸いナナミさんは全く気にしている様子もなく、けらけらと笑っていた。

「大丈夫よ、テンタクルズはその人が生まれた時から傍にいる、いわば自分の分身。自分と折り合いがつかない時期っていうのは、誰もが通る思春期の恒例行事のようなものだからねぇ」

 そうかー、あんたももうそんな歳かー、しょっちゅう泣いてたちびすけがねー、などと幼い頃を知る人特有の、なんともむず痒い目線を向けられ、私は本気で恥じ入った。

「ちがっ、そうじゃなくて、ほんとに違いますから! テンタクルとの関係っていうか……テンタクルそのものに関して、悩んでいるというか……」

 人の立派なテンタクルズと比べて情けなく感じている、などと言えず、私はモゴモゴと口籠った。

 ふむ、と顎に手を当てたナナミ姉さんが、私の手を取る。

「よし! 当てもなくぶらぶらしてたってことは暇よね! 今からあたしのうちに来なさい! ナナミお姉さんが相談に乗ってあげる!」

「え、あっ、ちょっ、まっ」

 強引なところは子供の頃から何も変わらず。

 ナナミ姉さんに引きずられるようにして、彼女の家に連れ込まれてしまった。





 そして、その日の夜。

 明日の準備も済ませ、寝る準備を整えて。

 私は自分の部屋に篭っていた。いつもは閉めていない鍵も閉め、激しく高鳴る心臓の鼓動を感じながらベッドの上に上がる。

「さ、さて……と。でておいで」

 肌身離さず持っているスフィアをベッドの上に置き、上半分の透明カバーを取り外す。

 ひょろっとした触手がおずおずという様子で広がった。太さも長さも平均以下。病気とかで衰弱した場合ほどの細さではないため、これが純粋に私のテンタクルの姿だった。

 定期検診でも「少し発育が悪いですが個体差の範疇です。心配ありません」とお医者さんに太鼓判を押されていた。

 だから、この子が小さいのは影響を与えている私のせいなのだ。

「……いつもごめんね。満足にお世話もできなくて……」

 テンタクルズを成長させるためには、宿している人間の体液を与えなければならない。

 それには色んな方法があるけれど、私たち成人していない子供が主に行うのは、x触手を口に含む形式だった。そうして一日一回、ある程度の唾液を与えていれば触手は十分生きていけるし、量次第で成長もできる。

 ただ、そのためにはウネウネと動く触手を口の中に含むという行為をしなければならない。

 テンタクルズと共存共栄している今の世の中、触手を口に含むこと自体に抵抗感がある人はいないけれど、物理的な意味でそれができない人は結構いた。

 何せ自分の意思で動くわけではないものを口に含むのだから、それがどうしても生理的にだめだという人はいる。

 かくいう私もその一人で、頑張って口に含みはするのだけど、触手が口の中で動くということにどうしても慣れることができず、すぐ口から出してしまう。

 結果、与えられる唾液の量も少なくなってしまっていた。さらにこっちが向こうの動きに反応して吐き出してしまうから、だんだん向こうはおっかなびっくり動くようになり、ますます動けなくなっていく。悪循環だった。

 だけど今日は違う。

 私は恐る恐る、カバンの中からそれを取り出す。

 それはちょっと特殊なベルトのようなものだった。両端は別の何かに接続するような構造をしていて、中心にタイマー付きの装置が付いている。

「えーと……確か、これを、こうして……」

 ベルトの両端を、テンタクルズスフィアの溝に接続する。この溝は最初からあったけれど、こんな風に使えるものだとは知らなかった。

 ピピっ、と音が鳴り、タイマーの付いている装置の部分が片方外れた。

 外れた部分を持って、スフィア全体を持ち上げる。


 そうするとーーテンタクルズスフィアは、マスクのような形になっていた。


 マスクの内側でテンタクルがわしゃわしゃと動いている。

 これはテンタクルズスフィアを、マスクのように口に合わせた状態で固定するための道具だったのだ。

 ナナミ姉さんもかつてはテンタクルズの触手を口に入れるのが苦手だったのだという。

 その時、練習のために使ったのがこの道具で、これを使うと設定した時間内は外したくても外れなくなるようにできる。

 だいぶ荒療治だけど、自分の意思で引き剥がすことができなくなるから、私のような人間にとってはとても有用な道具だった。

 テンタクルズは人間の呼吸を阻害しないようにうごしてくれるから、気道を塞がれて窒息する危険もない。

 ナナミ姉さんのセリフが脳裏に蘇る。


「最初のうちはめっちゃ苦しいから、使うなら覚悟はするように! 死にはしなくとも後片付けとか大変だからね!」


 ドクンドクン、と緊張で心臓が早鐘を打っている。

 深呼吸をして気持ちを落ち着け、タイマーを操作する。

(最初は、短い時間で馴らせって言ってたから……五分だけにしよう)

 タイマーの表示が『05‘00』となっていることを確認し、覚悟を決める。

「お、お手柔らかに、ね……?」

 テンタクルズは人間の言葉を理解しない。

 それでも意思というか空気みたいなものは読んでくれる。

 私の願いも通じるはず。

 私はそう信じて、マスク状になったスフィアをゆっくりと口に近づけていく。

 いつものように口を開いてテンタクルの触手を口の中に受け入れつつ、スフィア全体を顔の下半分に被せるようにした。

 早速触手が口の中で動き出す。その動きはゆっくりだったけど、思わず吐き出しそうになるのを堪えた。

 いつもだったら思わずスフィアを遠ざけてしまっている。それをなんとか堪えた。

 ベルトを掴んでスフィアが顔から離れないようにしつつ、髪を巻き込まないように注意して頭の後ろで装置を連結させた。

ーーカキンッ、ピピピッ。ギュゥっ……

 乾いた金属音と電子音が頭の後ろで響いた。自動的にベルトの長さが調節され、痛くもなくゆるくもない絶妙な力加減でスフィアを私の口元に固定する。

「ん、ウ、ォゥ、っ……!」

 口の中で触手が蠢くので、思わず呻いたけれど、私がどんなに力を込めたとしても、もうスフィアは私の口から離れない。ぴったり密着したまま動かなかった。

 一方、口の中のテンタクルは戸惑っているようだった。

 いつもなら口の中に含んでもすぐに引き剥がしてしまっていたから、無理もない。探り探りといった様子で、ゆっくりと口の中で蠢いている。

 私はベッドの上に寝転がり、仰向けになって両手を体の前で組んだ。外からでも下手にスフィアを刺激したらよくないと思ったからだ。足を擦り合わせて悶えてしまうのは仕方ないと割り切り、私は目を瞑って必死に口内の感覚に耐えていた。

(うぅ……やっぱり変な感じ……! でも、これで慣れれば……!)

 無理やりでもこの感覚に慣れることができれば、お世話が普通にできるようになるはずだった。

 私は設定した時間が過ぎ去るのを、口の中でテンタクルが蠢くのを感じながら待つ。


 後頭部のタイマーの表示はーー『04;59』になっていた。





 私のテンタクルが口の中で蠢いている。

 今までの経験上、すぐに引き出されると思っていたのか、最初こそ緩慢な動きだったけれど、その気配がないことを知ると徐々に動きが大胆になってくる。

「んぅ……っ! んぅッ」

 口の中で蠢くテンタクルは、とても奇妙な感覚を私に与えてくる。

 基本的にテンタクルズは無味無臭で、育てる人によって味や感覚が変わってくる。

 私のテンタクルはほとんど育てられていなかったから、当然無味無臭のままだった。ゼリーが口の中で好き勝手動き回っているような、奇妙な感覚だった。

 ちなみにテンタクルズスフィアはマスク状にするためのベルトを接合した段階で、その内部構造を少しだけ変化させていた。

 私の開いた口にちょうどハマるような出っ張りが出現していて、口を閉じようとしてもそれが邪魔して閉じ切れないようにされる。

 これによってうっかりテンタクルを噛み切らないでいられるので、安心ではあったのだけど、口を大きく開いたまま固定されるというのは、想像以上に苦しかった。

(そもそもテンタクルが口の中にいるから、口で呼吸できないし……)

「フー……っ、フー……っ、フー……っ」

 荒い鼻呼吸を繰り返しつつ、私はじっと耐える。

 テンタクルは私が引き剥がす様子がないことを確信したのか、その動きをだんだん大胆なものに変え始めていた。

 細い触手が私の歯を一本一本確かめるように動いていく。ちゃんと歯磨きはしているはずなのだけど、私の気づかない隅の隅まで徹底的に磨いてくれているようだった。

「うぅ……っ、ウッ!?」

 舌にテンタクルの触手が絡み付いてきた。舌を引っ張られて、思わずびくんと体が跳ねる。

「ふぁっ、や、やめ……っ、んああああ!?」

 舌に絡み付いたテンタクルの触手が舌を引き絞ってくる。変な声が出て、体が勝手に身悶えた。暴れたら親に気づかれてしまうかもしれない。

 私はベッドのシーツを握りしめ、膝と膝を擦り合わせてなんとな堪える。

 テンタクルに舌を弄られるたびに、奇妙な感覚が全身に走っていた。

 経験したことのない感覚に、身悶えて痙攣するしかない私。唾液が、涎が口の中に溜まりかけたけど、テンタクルがすぐに吸い込んでしまっているのか、私は喉を鳴らす必要もなかった。

「フーッ、フーッ、フーッ……!」

 まるで全力疾走した後のように、全身が熱くなっていた。

(く、口の中を弄られてるだけなのに……っ、なんでぇ……!?)

 困惑する私に構わず、テンタクルは執拗に私の口の中を弄り続ける。

 細くてひょろひょろだったはずの触手が、どんどん力を増しているような気がした。

「うごっ! おおぅっ!?」

 触手が上顎のアーチを擦り上げるように動く。ゴリゴリゴリ、と擦れる感覚が頭を直接揺らしてくるようだった。変な声をあげ、ベッドの上で悶絶する。

(い、今のは、やばい……っ、頭、おかしくなるぅ……っ)

 今度は下顎の方、舌の裏側にコリコリと擦り付けられる。そっちは頭に響いてくる感覚こそなかったものの、経験したことのない感覚に変わりはなく、足先までピーンと体を伸ばし、その奇妙な感覚に耐えなければならなかった。

 まるで無数の人が口の中に指を突っ込んで弄られているような、そんな感じ。

 もしスフィアに口が閉じられない仕掛けがなくても、こんな力強いものを噛み千切るのは無理そうだった。

 口の中いっぱいにテンタクルが広がり、息苦しくなり始めた。もう十分唾液は与えられたはずだ。

(う、うぅ……も、もうだめ……っ、そ、そろそろ時間のはず……っ)

 私はチラリと壁にかかった時計を見上げる。

 そして、絶望的な事実を知った。


 もうとっくにーー五分は過ぎていた。


「んおぅっ!?」

 目を剥いて再度確認するけど、やはり時間は過ぎている。

 なのにベルトは緩む気配すらない。

「フゥッ、フゥッ、フゥッ……!?」

 心臓が早鐘を打ち、呼吸がさらに荒くなる。

 どうして、と考えるのに精一杯で混乱する私の口の中で、テンタクルは容赦なく動き続けていたーー喉の奥に向かって。

(なんでなんでなんで!? どうして外れないの!?)

「おうぅっ! ウォッ、おぉっっ!」

 パニックを起こした私は、スフィアに手をかけて力任せに引き剥がそうとしたけど、もちろんそれで引き剥がせてしまえてた意味がないわけで。

 テンタクルは私の喉の奥に向けてその触手をさらに伸ばしてきた。

「おぐっ、うぇっ、おぅぅっ……!!」

 体が勝手に跳ね回り、呼吸が阻害される苦しみに身を捩る。

(なん、とか……しな、きゃ……っ)

 私はそう思って打開策を考えようとするけど、何も浮かばない。そんなことを考える余裕がない。

「ヒューっ、ヒューっ、ヒューっ……!」

 喉の奥にテンタクルが進んできているのが、喉を押さえた手にも伝わってきた。

「うっ、うぇっ、オゴッ」

 胃の中のものがひっくり返ったような感覚がして、胃の中のものが食堂を逆流するのがわかった。

 口が塞がれている状態で嘔吐するなんて死に至りかねない危険なことだったけど、私にはそれを抑えることができなかった。

 ただ、触手がその逆流した胃液も何もかも全部吸収してしまったので、窒息死は免れることができた。あるいはそれで気を失っていた方がまだマシだったかもしれない。

 唾液とは比べ物にならない量の、私の体液を吸収したテンタクルは、その大きさ、太さを飛躍的に増したようだった。

「あが……っ、あぐ、グゥ……」

 喉が無理やり広げられているような感覚が走る。幸いというべきか不幸にもというべきか、触手の基本的な性質は変わらないらしく、それだけ喉奥を広げるほど太くなっても、私の呼吸だけは確保してくれていた。

 苦しみのあまり気絶することもできず、酸欠による失神もせず、私はテンタクルが喉の奥まで含めた口内で動き回るのを感じていることしかできなかった。

 もう体を動かす力も無くなって、苦しみもがいていた私。

 その苦しみが不意に和らぎ始めた。

(あ、れ……? なん、だか……ポカポカ、してきた……?)

 体の奥底から熱がじんわりと広がってくる。胃に到達したテンタクルが何かをしているのかもしれない。

 苦しみが和らいで一息つけたのも束の間のこと。

 今度は無性に体が疼き始めた。

「フゥ……っ、フゥ、フゥ……フゥ……んーーあッ♡」

 びくん、と体が仰け反った。喉全体を擦り上げるように触手が動いた瞬間、全身に甘い稲妻が走ったのだ。

 きゅん、と体の奥が熱くなり、甘い痺れが胸の先端ーー言ってしまうと乳首に走った。

(私……感じて、る……?)

 これでも性のことに関して完全な無知というわけじゃない。

 生理直後など、どうしても体が疼いて仕方ない時は、胸やあそこを弄って疼く体を鎮めたこともある。ただ、そういうとき以外はそもそもそういう気分になれなくて、あまり回数自体は多い方ではなかった。

 周期的には普段なら全くなんとも感じないはずなのに、急に体が疼いていた。

(体の中をテンタクルに弄られてる、から……? でも、そんな……のっ!?)

 テンタクルの動きが急に速くなった。

 私の喉奥まで貫いている触手が、激しく前後してその体を喉に擦り付けてくる。

 まるでイラマチオをやらされているようなーー勿論ただの耳年増で実際にはやったことはないから想像だけどーー感覚だった。

「オゥっ、うぐっ、おウッ、う、うっ……!♡」

 喉を押さえた手が、その内側でテンタクルが激しく動いているのがわかる。

 コリコリと喉を擦り上げられ、吐き気も催したけれどそれ以上に私は気持ちよくなってしまっていた。

 口の中から、喉を突き抜けた先まで、一気にテンタクルの先端部が貫いていく。

「うぐっーーウグゥぅ♡ うぐっあうぅぅぅぅ!!!♡♡♡」

 頭の中が真っ白になった。普段のおナニーの時でさえ達することはなかったのに、私はテンタクルに喉を犯されて絶頂してしまった。

 あまりのことに惚けていると、テンタクルはまだまだ足りないとばかりに動きを続ける。

 私はそれに抗う術などなく、ただひたすら、テンタクルに喉を犯され続けたのだった。



 そしてーー五時間後。



 頭の後ろでベルトを固定していた金具が外れ、テンタクルズスフィアが口から離れる。

 スフィアが重みに従って口から離れていくと同時に、私の喉奥まで貫いていた触手がゆっくりと抜けていく。

ーーずる、ずる、ずるる……

 流石に五時間ぶっ続けて私を犯し続ければテンタクルも疲れるのか、離れていくのに従って特に抗うことなく、私の喉から抜けていく。

「ぁ……ぉ……ぅ……」

 抜けていく、ただそれだけの刺激でも私は体を震わせ、痙攣した。

 ずるり、と最後の先端部が口から離れて、スフィアが顔の横に落ちていったけれど、私にはそれを認識する余裕もなかった。

 五時間もの長時間、口内から喉奥を責められ続けた私は、側から見るととても悲惨な状態だった。

 全身から滝のような汗が流れ、ベッドのシーツにまで人型が残るほど全身ずぶ濡れだったし、あそこは漏らしたのかと思うほど濡れていた。大小問わず排泄物を漏らさなかったのは奇跡かもしれない。

 自発的には弄っていなかったのに乳首はパジャマを押し上げるほどにたち、藻がいて暴れているうちに痺れるほど擦れて真っ赤になっていた。

 口はもう開きっぱなしで閉じることができず、喉の奥も太い触手が広げ続けていたせいか、妙に広がっている気がする。

 呼吸して空気が流れるだけで痺れるように気持ちいい感覚が走って、私は力を使い果たした体をまだ痙攣させていた。

 夜通し責められていたことになるのだから当然だけど、体力も気力も何もかも持っていかれて、私は起き上がることもできなかった。

 このままだと朝、親に見つかって大変なことになってしまう。

(そ、それは……ダメェ、うッ……♡)

 体を動かそうとしたけれど、全てを使い切った私は指一本動かすこともできなかった。

 そしてーー夜が開ける。




「それで……どうなったの?」

「なんとかなりましたよ……私のテンタクルが助けてくれました。災害用に準備していたバッグから備蓄用の水を持ってきてくれて」

 テンタクルズはとても賢いとわかっていたけれど、そこまでやってくれるとは思ってなかったので、私はテンタクルズを甘く見ていたのを反省したものだった。

「それを飲んで少し体が回復してから、大急ぎで体を拭いたりシーツを変えたり……本当にひどい目に遭いました」

「おばさんたちは気づいてないの?」

「……どうでしょう。二人とも何も言わないですけど……わかってて何も言わないでいてくれてる気もします」

 あれからしばらく、ご飯を食べる時でも奇妙な感覚を覚えてしまい、変な行動をしていた自覚はある。気づいていて何も言わないでいてくれるかもしれない。

 そんなことを呟くと、ナナミ姉さんはなんとも言い難い顔をしていた。

「ごめんねぇ。あれは秒数表示じゃなくて、分表示だって言っとけばよかったわね……」

「ほんとですよ。とんでもない目に遭いました」

 バッサリと言い切ると、ナナミ姉さんは「うっ」と呻いた。

「ゆ、雪歩ちゃん、なんか雰囲気変わったわね……」

 そう言われて、私は確かにちょっと変わったかもしれないと自分でも思った。

「まあ……一番の悩みが解決しましたからね」

「それはよかった。……テンタクルちゃんはどうなったの? 少しは成長した?」

 探るように尋ねてきたナナミ姉さんの前で、私はテンタクルズスフィアを取り出した。

 そしてそれを開くーーブワッ、と音を立てて私のテンタクルが広がった。

 ナナミ姉さんが思わず引くほどの成長っぷりだった。

「す、すごい成長したわね……これはなかなか、あたしの周りでもいないレベルよ」

 感心したように、少し呆れたように、ナナミ姉さんがそう呟く。

 私のテンタクルはすっかりクラスの中で一番のテンタクルになっていた。

 でも、それはもうあまり気にしていない。

「ナナミ姉さん。今日はナナミ姉さんに相談があってきたんです」

 そういうと、ナナミ姉さんは苦笑しながらも微笑んだ。

 多分ナナミ姉さんにはわかっているんだろう。私が何を聞きたいのかなんて、これだけ成長したテンタクルを見れば明らかだったからだ。

「ここまで成長しちゃうと、流石にもう今までの方法では無理なんです」

 だから。


「このレベルのテンタクルを育てる方法をーー教えてください」



触手口内育成練習ベルト 終わり



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