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夜空さくら
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箱詰倶楽部の携帯旅行 中編

 携帯旅行なんて言葉を聞いたら、普通の人はどんな旅行を思い浮かべるのだろう。

 少なくとも、何かを携帯する方向で考えると思う。

(まさか、携帯『される』方で考える人なんて……まあそうそういるもんじゃないわよねぇ)

 この場にはそう考える人が数十人単位でいるから勘違いしがちだけど、私たちの感覚は基本的に異常なものだ。

 客観的に見ると、そう考える人がこれだけいるのはそれだけで奇跡のようなものだと思う。

 周りには、裸の女の子たちがたくさんいた。

 皆一様に特別な箱を前にして、楽し気にその箱を弄っている。

 いまの彼女たちの楽しそうな様子を見たら、誰も彼女たちがこれからその目の前にした箱の中に詰められよう、などと考えているとは思わないだろう。仮にそうだと説明を受けても納得する人はそうそういないに違いない。異常なことに悦びを見出す興じんと見られるかもしれない。

 そういう自分も、周りから見ればそういう風に見えているのだろうけれど。

(……おっとと。私も準備しないとおいてかれちゃう)

 つい周囲の観察をしてしまっていた私は、自分の目の前にある箱に目を向ける。

 箱は一見とても大きいように感じるけど、この中に自分が入ろうとしていることを考えるとあまりにも小さかった。

 三角座りで身体を縮こま世て、ようやくギリギリ入れるだろうというサイズ感。

(そういえば身体の大きさは皆それぞれ違うはずだけど、私たちが自由に箱を選んでよかったのかな……?)

 幸いというべきか、私はこの中では平均的な大きさだ。だから入るのに苦労はしないだろう。

 けれど、周りには私よりずっと背の高い人や、この趣味としては羨ましいくらいに小柄な子もいる。

 背の高い人に合わせて作っているとして、小柄な子は空間に余裕が出来て『箱詰め感』が緩んでしまうのではないだろうか。

(……ま、それは私が考えても仕方ないわよね)

 とにかくまずは試してみるのが一番だ。

 私は身体に巻いていたタオルを脱ぎ、素っ裸を晒しつつ、箱を弄り始める。

 最初に説明を受けていた通り、箱は上から十数センチのところを捻れば、蓋が開くようになっていた。

 蓋はずしりと重く、裏返してみると蓋にも何やら機械が仕込まれているのがわかる。

(たぶん空気穴とかそういうのかな?)

 よく見ると蓋の側面には穴のようなものが空いていて、空気を取り入れられそうな構造をしている。

 閉めた状態だと、そもそも蓋が開くということもわからないくらいにはのっぺりとした状態だった。それを考えると相当な精度で作られているのだということがわかる。

(今回のイベント以外でも使えるとは思うけど……お金がかかっているのは間違いないわよね)

 イベントの度に特別な箱を作っていく倶楽部の情熱に、感心するしかない。

 私はそんな倶楽部の恩恵を受けられることに感謝しつつ、準備を進める。

 取り外した蓋は一端脇に置いておいて、箱の中を覗き込む。

 これから入ろうとしている箱の中というものは、覗き込むだけだけでもドキドキする。

 箱の中はとてもシンプルな形をしていた。

 箱の壁は少し厚めに作られているのは、強度を持たせる意味もあるだろうけど、たぶんこの壁には、色々な機能が仕込まれているのだと思う。

(どういう機構があるかは、ある程度事前に説明を受けたけど……)

 聞いている通りの機能がこの壁の中に詰まっているのか、少し疑問に思う。

 箱の壁が分厚いとはいえ、人差し指二本分くらいの厚みしかないのだから、私の疑問はとても自然なことだと思う。

(倶楽部の技術力は信用してるけどね)

 いままでも色々なありえないレベルのギミックを体験してきている。そこは信用出来るというか、信用していなければ箱詰めプレイなんて出来はしない。

 このプレイは生殺与奪を完全に相手に委ねないと成立しないからだ。

 私はまず箱のそこに置かれていたブラジャーのようなものを取り出した。

 もちろん普通のブラジャーじゃない。カップの部分などが金属で出来ている貞操ブラと呼ばれるものだ。ただし、今回に関しては貞操を守ることが目的ではなく、そのブラにギミックが仕込まれている。

(まあこれはいつも使うものだからいまさらって感じね)

 私はそのブラを躊躇いなく身に着けた。着けた直後は少しひんやりしていたけれど、すぐに私の体温が移って冷たくなくなった。

 後ろのホックを調整してある程度サイズを合わせる。すぐにそのブラの本領が発揮された。

 ウィン、とブラのカップ部分から駆動音がして、私の乳房にブラのカップそれ自体が吸い付いてくるような感触が生まれた。

「ん……っ」

 思わず身体を捩るけど、張り付いたブラは全く動かない。刺激によって乳首が硬く尖がっていくのがわかった。それをブラは的確に吸い上げ、私は誰かに乳首を摘ままれているような感覚を常に感じていた。

 幸いまだそれ以上の動きは起こさない。あくまで着用モードということだろう。

(ふぅ……相変わらず、的確に刺激してくるんだから、もう……)

 ドキドキと心臓が高鳴っているのがわかる。このブラは箱に詰められた状態の際、暇にならないようにと性的快感を与えてくれるものだった。

 これまでのプレイで何度もお世話になっているから、気持ちいいことは把握済みだ。

 そのブラが本気を出した時、適性がある人はブラの与える刺激のみで絶頂してしまうほどだった。

(……私もその一人なんだけどね)

 まだ準備は終わっていない。次に私は箱の底と管で繋がっているマスクを取り出した。

 管は呼吸用じゃない。呼吸はあくまで箱詰めされた感覚を味わうために鼻からするようになっている。このマスクは口を塞ぎ、声をあげられないようにすると共に、水分補給も行うためのものだった。

 マスクの内側はにある突起を咥えこみ、後頭部で留め具を嵌めてマスクを固定する。

「フゥ―……フゥ―……」

 プレイへの期待感ゆえか激しくなる呼吸を堪えつつ、私は最後の道具を身体に装着する。

 まず私は、箱の中に足を入れ、箱の中に立った。

 そして身を屈めて手を伸ばし、最後の道具を手にする。

 それは、貞操帯のようなものだった。これにも管が底に繋がっていて、ある程度引き出せるようになっている。

 この貞操帯の内側には突起があり、貞操ブラと同様に箱詰めの際に性的快感を味わうためのものだ。

 さらに排泄物の処理機能まであるらしく、ある程度長期間の箱詰めプレイを想定した仕掛けだった。

(箱詰めされて、人に背負ってもらって移動しながら、浣腸されて排泄物の処理までされちゃうとか……ほんと言葉にすると酷いわよねぇ……)

 それを自らやろうとしている自分が言えたことではないけれど。

 私はそんなことを思いつつ、その貞操帯を身に着けようとする。

 内側に生えている突起は指程度でそう太いものではなかったけれど、さすがに何もしないままでは挿入するのは難しい。私は用意されていたローションの小瓶を手に取り、軽く突起にそれを塗した後、素早く貞操帯を履くようにして固定した。

 ずぶずぶと身体の中に突起が入り込んでくるのが感覚でわかる。

「んぅ……っ、んっ♡」

 思わず甘い声が出そうになるのをなんとか堪え、ゆっくりと箱の底へと腰を降ろしていく。

 箱は人間一人を詰めるにはかなり狭い。本当に入れるのか心配になって来たけれど、信じて箱のそこに腰を降ろす。貞操帯に繋がっている管は私の腰が箱の底に近付くにつれ、徐々に箱の底へと収納されていっていたので、邪魔になる心配はなかった。

 まあちょっと掃除機のコードが収納されていくような、自分が装置の一部となったようで、なんとも形容しがたい気持ちになるけれど。これまでのプレイで使ったことがあるけど、毎回同じ気分になる。

(それもまたプレイの一部かしらね……)

 私はそんなことを考えつつ、箱の中に腰を降ろし切った。

 やはり、狭い。踵をお尻に引っ付くほどに引き付けてなお、爪先が前の壁にぶつかっている。左右の壁も凄く近くて、かなり窮屈に身体を丸めないといけなかった。

「フゥ……フゥ……フゥ……♡」

 普通の人なら不快極まる窮屈さ加減だろうけど、箱詰めプレイをしたくて堪らない私たちにとって、この環境はとても好ましいものだ。

 早く私を完全に箱に詰めて欲しい――そんな思いでいると、私のところに箱詰倶楽部の職員さんがやって来た。

「お待たせしました。それでは箱の蓋を閉じさせていただきますね」

「ウゥー♡」

 私は「よろしくお願いします」という意味を込めて彼女にニコリと笑いかけてから、腕を箱の中に収めて頭を下げた。

 自分の身体と箱の壁しか視界に映らなくなり、心臓のドキドキが増すのがわかる。

「失礼いたします」

 そう職員の人がいうのと同時に、丸めた背中、後頭部のあたりにずしりと重みを感じた。取り外した蓋が覆いかぶせられたのだと察する。

「ん……ぅ……」

 私はなるべく身体を丸め、縮こませる。

 すると背中と頭の上で蓋がくるりと回転するのがわかり、さらに一段階押し込まれる。

「んぎゅ……っ!」

 自分の膝と膝の間に顔が入り込み、全く身体が動かせなくなる。足を抱えるようにした腕の先くらいは動くけれど、その腕も四方に迫った壁のせいでほとんど動かせない。苦しくて身体を起こそうにも、がっちりと嵌ってしまった蓋は私が全力を込めたとしてもびくともせず、完全な密閉空間を作り出している。

 真っ暗な箱の中に、私は閉じ込められていた。

「フゥ―……フゥ―……フゥ―……♡」

 身体を千々込めているからか、心臓の激しい高鳴りがよく伝わってくる。

 私は荒い鼻呼吸が自分の体に当たるのを感じて、さらにぞくぞくしてしまった。

 最初はちょっとした涼しさを感じていたけれど、密閉された箱の中はあっという間に私自身の体温で温められ、それは呼吸する空気も同様だった。涼しさなんてどこにもなく、生暖かい空気がひたすら出たり入ったりを繰り返している。

(ああ……これよこれ……この閉塞感と拘束感……♡)

 箱詰めに求めていた感覚だ。

 そう思って堪能していると、なぜだか急に圧迫感が増した。

 どうやら、箱の壁が微妙に変形して、さらに私の身体を押し込んでいるようだった。

「んぅ……っ!♡」

 箱に詰められるというよりは、型取りでもされているのかと思うほどの圧迫感。自由だった腕先も圧迫されて押し潰され、なけなしの自由も失われた。

(壁は金属っぽかったのに……どういう素材を使えばこんなことが出来るのかしら……っ♡)

 詰め込まれることに快感を覚える私にとっては歓迎出来ることだったけれど。

 そうして完全に自由を奪われた状態で待つこと暫く。

 体の中に入り込んだ突起がゆっくりと動き出した。

「んぁぅ♡」

 まるで身体の中に指を突き入れられて弄られているようだった。

 ぐちゅぐちゅと本当の人間の指先みたいに動く。

「フゥ、んぅぁ♡」

 その指先程度の太さだった突起が急激に膨らんでいく。人差し指から親指に、親指から一般的なバイブサイズに、そしてバイブよりも太い男性器のように。

 身体の中に杭を打ち込まれたような、というお決まりの表現があるけど、まさにそれだった。特にいまの私はその貞操帯から伸びた管が箱の底に連結されているから、余計に身体の中に挿し込まれたものが杭のように感じられた。

 それくらい大きく太くなった突起は、その状態でグネグネと動き出し、私の身体の中をかき混ぜる。

「んぅ……♡ んぁ♡」

 さらに立て続けに貞操ブラに仕込まれた仕掛けの方まで動き始める。

 刺激によって、つんと尖がった乳首をブラの仕掛けが刺激してきていた。ぴりぴりと淡い快感が走り、呼吸が乱される。

「ふ、ぅ……っ♡ んぅっ!♡」

 さらにダメ押しのように、口の中に咥えこんだマスクの突起が、空気を入れられたようにぷくりと膨らんだ。水分補給にも使われる突起だけど、こうして口の中で膨張することによて、完全に声を奪う枷にもなるのだ。

 体の中までしっかり固定されてしまった私。

 全身を周囲から圧迫されていることもあって、私は本当に箱の一部になってしまったかのように感じていた。

(これだけでも十分気持ちいいけど……今回はこれからが本番なんだもんね……♡)

 快感を与えられながら、どれくらい時間が経っただろうか。

 不意に私の身体に浮遊感が生じた。

「んぁっ!?♡」

 箱が持ち上げられたのだろう。

 身体の奥がふわふわする。身体の中に入り込んだ突起のおかげもあって、私は完全に身体が箱と固定されているから、箱が動けばその動きはダイレクトに私に伝わって来た。

(私を運んでくれるのは、いかにもなマッチョさんだったわよね……)

 箱を選ぶときに箱に張られていた人物の写真を思い出す。

 白い歯をむき出しにして笑っている彼は逞しくて優しそうで、とてもナイスガイだった。

 そんな人に裸で箱に詰められた私が背負われる――実に背徳的で、そしてドキドキする行為だった。

 箱の中の暗闇で、私はドキドキしながら運ばれていく。

 けれど、また降ろされたことでまだ人が運んでくれていたわけではないことを察した。どうやら、私たちが箱に詰められた部屋から、別の部屋に移動しただけのようだ。

 それがわかったのは、急に箱の外の声が聞こえて来たからだった。

「皆様、本日は当倶楽部の特別懇親会にご参加いただき、誠にありがとうございます」

 箱詰倶楽部社長の声。


 それ以外にも――多数の男性の声が漏れ聞こえて来ていた。



後編に続く



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