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カゴノヒト 第4話 「加護というものの柔軟性」

■ あらすじ:拘束プレイ愛好者の十和野カゴメは、ある日自縛プレイのミスにより死んでしまう。その寸前、異世界の神によって加護を経て異世界転移を果たした。異世界で冒険しながらも、貰った加護で拘束プレイの追及に余念がないカゴメ。その周りには徐々にその意思に賛同する仲間が集まって行って――ありがちというにはあまりに異質な異世界冒険奇譚。


■ 本編は全体公開で連載していく予定ですが、それ以外で書きたくなった「おまけ」シーンは支援者様向けに公開予定です。そちらも合わせてお楽しみいただければ幸いです。


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 冒険者パーティ・カゴノヒトは色んな意味で『目立つ』冒険者パーティだった。

 その理由は単純明快。

 加護が付与された装備を生み出す、という破格の加護をその身に宿すパーティリーダー・カゴメ。彼女の手で創り出される装備の類が、あまりに特殊で特徴的で、そして――蠱惑的であったためだ。

 カゴノヒトのメンバーは女性に限られ、その全員がなにかしらそういった装備の類いを身につけているのだから、目立つのは当然であった。

 カゴメが転移者であるという噂を筆頭に、その一風変わった装備が強い加護を持つ者であるという話も人々の間に浸透していっていた。

 カゴノヒトに入れば、その破格の装備が配給されるという噂も、同様に広まっていっていた。



――フシュー……フシュー……フシュー……

 特徴的な呼吸音が響く。

 カゴメは創り出したばかりの装備を身につけたナギに向かって、尋ねた。

『どうですか? うまくいくかどうか不安でしたが……おおよそ、ナギさんの要望通りのものができたと思うのですが』

 なお、彼女自身は相変わらずの姿だ。

 拠点内での彼女は、車椅子に拘束され、目隠しで目を覆い、口元を開口マスクで塞ぎ、常に股間の二つの穴を座面から伸びる突起物によって貫かれて責められるーーという状態でいる。

 時折体が反応して跳ねてしまっている以外は、特に大きな動きは見せず、淡々と穏やかに振る舞っていた。

 カゴノヒトのメンバーは彼女のそんな姿にも慣れっこであるため、何事もないかのように接している。

「ン……っ」

 カゴノヒトの用心棒・ナギは、カゴメの質問に対してコクリと頷いた。

 指で丸を作り、その装備の性能に満足していることを示している。

 現在、ナギの鼻まで含んだ顔の下半分は、いわゆるガスマスクに覆われていた。

 顔の左右に円板状のフィルターが突き出しているタイプだ。

 それを通してしか、呼吸出来ないようになっている。

――フシュー……フシュー……フシュー……

 ガスマスクを通して空気が抜ける、特徴的jな音が響いた。

「ん……ンゥ……」

 ちゃんと呼吸は出来ているはずだったが、ナギはかなり苦しげな様子だった。

 ただ呼吸をするだけで異様に心拍数が上がり、執拗に呼吸を繰り返すが、苦しみは楽にならない。

 それもそのはずだ。

 そのガスマスクは鍛錬用にカゴメが作ったものなのだから。

『かなり苦しいでしょうけど、ちゃんと必要な分の空気は通すようになっています。そのガスマスクをつけたまま鍛錬をすれば、通常の倍は高い効率で行うことができるはずです』

 言うなれば低酸素トレーニングを行っているようなものだ。

 カゴメの創り出した装備の場合は、呼吸が思うようにできない苦しみを代償に身体能力の強化というリターンを得ているため、厳密には低酸素トレーニングとは違うのだが、効果としては同じようなものである。

 そのガスマスクを付けた状態で鍛錬を行えば、外した時のパフォーマンスは飛躍的に向上するというわけだ。

「うちのパーティで基礎能力向上って、そんなに意味あるのかしら?」

 パーティ拠点の受付に収まり、ちびちびと酒を啜りながらその様子を見ていたシャーティがそう呟く。

 元々は情報屋だった彼女はカゴメのことを聞きつけ、その加護の恩恵を得るため、カゴノヒトに取り入って来ていた。

 そしてカゴメの人間性を確認した結果、信用できると判断した彼女は、正式にカゴノヒトのメンバーに加わっている。

 マリエッタと同じく非戦闘員として、基本的には街中での情報収集や、拠点を訪ねてきた相手の見定めがシャーティの主な仕事である。

 メンバーになったことで、彼女はカゴノヒトの制服となる予定のラバースーツを身につけていた。

 彼女の体つきはカゴメに近く、豊満な胸の膨らみがラバースーツによって強調されていた。情報屋であった時には女の色香を活用して聞き込みを行っていたこともあり、彼女は自分の体をきっちり磨き上げている。

 そのため、ラバースーツはその魅力をより引き出し、身に纏う雰囲気からしても、パーティの中でラバースーツがとてもよく似合っていた。

 ラバースーツには強力な加護が宿っているため、それを着ない選択肢はシャーティにはなかった。

 彼女としては、装備に宿る加護の強力さを知っているため、わざわざ鍛錬用の装備を作る必要があるのか疑問だった。

 なにせカゴメが初めてこの世界に来た時に実現したように、カゴメの加護さえあれば戦闘訓練を一切積んでいない村娘たちが、ゴブリンの集団を殲滅できてしまうのだから。

 そんな彼女の率直な指摘に、カゴメは応える。

『基礎能力はあって困るものではありません。それにうちのパーティには目立った戦闘能力を持たない子が入ることも考えないといけませんし』

「まあ、それはそうねぇ」

 現にカゴノヒト初期メンバーであるマリエッタは、ただの一般人だ。

 経験者であろうとも駆け出しであろうとも、人間性に問題がなく特殊な装備を受け入れられるのであれば、カゴノヒトでは受け入れることを決めている。

 それは戦闘技術や経験の乏しい、駆け出しの者が多く集うであろうことを示していた。

『このガスマスクの良い点は、ただつけているだけでも効果があるところです。つけた上で鍛錬をすればより効果はあがりますが……マリエッタさんやシャーティさんの日常生活の範疇でも効果が生まれるんです。パーティの制服の一部にしてもいいくらいですね』

 そう考えていたカゴメだが、それには意外なところから待ったの声がかかった。

「……それは、やめた、方が、いい……これ……かなり……辛い……」

 いままさにガスマスクを身に着けてみたナギだ。

 元々彼女自身がそういった装備は作れないかとカゴメに提案したのだが、その提案者の彼女ですら、ガスマスクによって与えられる苦しみは耐えがたいものだったようだ。

 普段は無口で、ほとんど喋らない彼女がハッキリ声に出すくらいのだから、よほど苦しいのだろうと周りの者は察する。 

『そんなに、ですか?』

「……いまでさえ気が遠くなってる……ずっと首を絞められてるみたいで、正直怖いくらい」

 これは装備に宿った加護が、ナギの限界ギリギリを正確に突いているためだ。

 普通の低酸素トレーニングなら、いくら限界を責めようとしても危険を犯すわけにはいかないため、多少の余裕が生まれる。その点、加護はその力によって『必要な空気の量ギリギリ』を攻めることが出来るため、まさに気絶一歩手前で止まっているのだ。

 いくらカゴメや加護を信じていようと、その絶妙な苦しみが延々と続くのは相当な精神的負荷がかかる。ナギは納得済みで行っているし、元々自分を追い込む鍛錬をしてきた関係上、苦しみに関する耐性もついている。

 ゆえに耐えられるが、一般人に近い立場のものでは耐えられないだろうというのが、ナギの見立てだった。

『そう、ですか……呼吸制御プレイをしながら強くなれるなんて、一石二鳥の装備だと思ったんですが』

「それをお得に感じられるのは貴女だけよ」

 シャーティにツッコミを入れられ、ナギも頷くことで同意を示し、カゴメはしゅん、と肩を落とす。

 しかし、すぐに復活した。

『落ち込んでいても仕方ありません。一般の方には使えないというのなら、一般の方でも使えるように調整してみましょう』

「そこまで細かい調整ができるの?」

『ええ。出来ないことではないはずです。効果とのバランスになるとは思いますが……そうだ。それとは少し逸れてしまいますが、もうひとつ鍛錬用の装備……いえ、設備ですかね。それを作ってあるので、ナギさんに使ってみていただきたいのですけど』

 意気揚々とそう告げるカゴメ。

 ひとつ目論見が潰えても、全く落ち込むことなく、どこまでもポジティブにその道を邁進する。

 そんな自分たちのパーティリーダーの姿に、ナギとシャーティはやれやれと優しい溜息を吐くのであった。





 命を救われた身で、こう称するのもなんだが――うちのパーティリーダーは、変人だ。

 そう本人が自称しているのだから、手前が彼女をそう称しては失礼にはあたらないだろう。

 自覚的な分、まだ性質は良いというべきか、だからこそ性質が悪いというべきか。

 ともあれ、自他ともに認める性質として、カゴメ殿は変わった性癖を有している。

 オークナイトに破れ、剣士の命とも言える右腕も奪われ、おなごとしての生き地獄を味わって。

 カゴメ殿に命を救われた手前は、一生彼女についていくことを決めていた。

 元々手前が流離の旅をしていたのも、使えるべき主君を探してのことだった。その道半ばでオークナイトに破れ、本来ならそこで手前の道は終わっていた。あのまま血と汚物に塗れて死の底に沈んでしまっても全くおかしくなかった。

 そこから救いあげていただいたのだから、カゴメ殿を主君と見上げるのに何ら瑕疵はない。

 性癖については、まあ、おいておくとしても、人格的なものは全く問題のあるものではなく、むしろ弱き者にも躊躇なく手を差し伸べる――差し伸べ方に性癖が混ざるのはともかく――良き心根をお持ちだ。

 現に、手前の事情を伝え、今後一生カゴメ殿を主君として仰ぐことを提案したが「ラバースーツが必要ないまはどちらにせよ離れられませんから、傷が癒えてラバースーツが脱げるようになったときに、改めてご判断ください。それまではパーティの用心棒ということでいかがでしょう?」と気を利かしてくださった。

 確かに、一度主君として契約してしまえば、手前はカゴメ殿から離れられなくなる。気が変わろうと何をしようと、一度決めた主君に使え続けるのが、手前の故郷の掟であった。それを破れば同じ里出身の者たちに命を狙われることとなる。

 手前の実力は一般的に見れば高い方であると自負しているが、里の中では下から数えた方が早いくらいでしかない。里を敵に回して生きていけるとはとても思えない。

 主従契約は互いに納得して行うものでもあるため、手前はひとまず用心棒の座に甘んじつつ、カゴメ殿を暫定主人として、命令には服従していた。

 カゴメ殿への感謝は心からしているし、その己が道を邁進する姿勢は敬服に値する。


 とはいえ、しかし、カゴメ殿の作ったその『設備』を見て、手前はなんと言えばいいのかわからなくなってしまった。


 カゴメ殿に案内されて向かったのは、とれーにんぐるーむ、という部屋であった。

 いわゆる鍛錬室になるらしい。ただ、広い屋敷とはいえ、室内で鍛錬が出来るほどの部屋があったのかと不思議である。

 案の定、部屋の広さ自体は手前も宛がわれている一室と同じくらいの広さしかなく、とても組み手や技の合わせは出来そうにない狭さであった。

『ここはあくまでも基礎体力の向上を目的とした鍛錬を行う場所です。だからそんなに広さは要らないんです』

 そういってカゴメ殿が示したのは、本来ベッドがおかれているであろう位置におかれた、不思議な動く床と、その手すりのようなものからぶら下がる鎖付きの首輪が合わさった装備――ではなく設備であった。

『ルームランナー付きの首輪、という考えで作ったら作れてしまいました』

「……なるほど?」

 どう見ても設備なのだが、これでも一応首輪であると。

 動く床――ルームランナーが首輪の付属品、という扱いのようだった。

「……いや、無理がある」

 思わず本音が零れてしまった。確かにカゴメ殿の得た加護は「加護付きの装備品」を生み出す加護であるから、装備品――拘束具であればなんでも作れるということにはなるが。

 これはどうみても首輪ではなく設備の方が主である。

 幸いカゴメ殿も無理がある解釈だと自覚しているのか、手前の指摘にも特に気分を害する様子はなかった。

『そうですよねぇ……私も無理がありすぎると思ったんですが。意外と神様のくださった加護は柔軟に対応してくださるようです』

 さすがに家は作れませんでしたけど、とさらりと呟いていた。試したらしい。

『一度入ったら規定時間出られない、という条件を課したら拘束具扱いでいけないかなと思ったんですが……いえ、もう少しやりようによってはいけそうな気もするんですよね……いつかそういう拘束ハウスも作り出してみたいですが……』

 向上心があること自体はとてもよいことだとは思う。

『とりあえず今回はこのルームランナーを試してみていただきたいんです』

「……これは、要するにどういうもの?」

『首輪を嵌めていただき、指定した時間走り続けるためのものですね。ただし、体力のギリギリを攻めてくるので、相当辛いと思います』

 自分でも試してみたのですが、とカゴメ殿はいう。

『設定した時間に合わせて、走る速度をちゃんと走ればギリギリ達成できるちょうどいいものにしてくれるんです』

 トレーニングの効果は保証できます、とカゴメ殿は言った。

 しかし現状、手前はガスマスクを着けている状態だ。こちらのガスマスクも規定の時間経つまでは外せない。

 ふしゅー、とガスマスク越しに息を吐く。

「……これと組み合わせて走っても大丈夫?」

『はい。それも実験済みです。より効果的な結果が出ます。ただ……その分大変ですけど』

 実験したということは、少なくともカゴメ殿は完遂出来たというわけだ。

 カゴメ殿を侮るつもりはないが、彼女に出来たことを手前が出来なくてどうする、という思いもある。

「……やってみる」

 そう告げて、動く床の――ルームランナーの上へと昇った。

 首輪を身に着けようとしたら、首輪の方から勝手に動いて、手前の首に巻突いてくる。

「っ……!」

 じゃらり、と鎖が鳴って首輪が絶妙な絞め具合で止まった。

 逃げる気などなかったが、鎖の長さ的にルームランナーの上から逃げられなくなる。

『時間を設定してください』

 ルームランナー自体がそう喋った。少し驚いたけど、意思のある喋る剣だって存在するのだ。決められた言葉を発する程度ならそう驚くことでもない。

「……五分で」

 どれくらいが基準かわからなかったので、とりあえずそう告げる。

『五分でお間違いないですか?』

 念押ししてくれる辺り、有情だった。手前がいつもの癖で頷くと、それを承諾の意思だとちゃんと認識したのか、動く床がゆっくりと動き出す。

 手前はそれに合わせて足を動かしながら、よくできているものだと感心していた。

 これならば確かに狭い空間でも、走って体力をつけることが出来る。拠点から出る必要がないというのは、とても楽だろう。パーティに所属する者は基本的に煽情的なラバースーツを身に着けることになるし、無暗に外をうろつかずに力をつけられるのは大きい。

 最初は足を動かしながらそんなことを考えていた余裕があった手前だが、だんだんと動く床の速度が早まるにつれ、その余裕はなくなっていった。

「フシューッ、フシューっ、フシューっ、フシューっ……!」

(こ、これは……っ、キツ、い……っ!)

 ほとんど全力疾走と変わらない速度を要求されている気がする。

 実際は呼吸が困難なことも計算に入れた上での、本来の手前の全力疾走からすれば遅すぎる速度だったのだが、走らされている手前がそのことに気づく余裕はなかった。

 ただひたすら限界の一歩手前で走らされる。

「フシューっ! フシューっ! フシューっ!」

 せめてガスマスクがなければ、新鮮な空気を取り込めるのだけど、ガスマスクによって絶妙な呼吸制限が課せられ、頭の中が真っ白になる。

 ちゃんと足を動かせているのか、自信がなくなってきた。

(も、もうだ、め……っ――ぐぅっ!?)

 走る速度を緩めそうになったとき、首輪がぐいと前方に向けて牽かれた。

 まるで馬車に繋がられた奴隷が延々と歩かされるように、抵抗しようのない強さで無理やり引き立てられる。

「フシッ、フ、ヒッ、フシューっ!」

 まるで本当に奴隷になった気分だった。無慈悲に床は動き続け、わずかにでも速度を緩めれば容赦なく首輪が牽かれる。

 手前は外聞も何もなく、ただ必死になって足を動かし、息をし、走り続けた。





 額から玉のような汗を流しながら、ナギさんが必死に走り続けていました。

 もはや周囲のことなんて考える余裕もないといった様子で、ガスマスク越しにも必死な顔をしているのが見て取れます。

 鍛えているナギさんだからでしょう、動く床の速度はとんでもなく早くて、私が試しに乗ってみたときの数倍の速さは出ているようでした。

(……各個人の限界ギリギリを攻められるのだから、鍛錬道具として悪くはないですけれど……使用上の注意はしっかり掲示しとかないとダメですね)

 ナギさんにはちゃんと納得済みで乗ってもらいましたが、今後軽い気持ちで乗る人が出ないとも限りません。体力の限界ではなく心の問題で走るのをやめてしまったとき、それがどういう結果をもたらすかはわかりませんでした。

(単に目標達成出来るまで繰り返される……というだけでも地獄でしょうからね。せっかくできた仲間がそれで減ったら哀しいですし。……それにしても)

 私はナギさんが躍動する様子を見て、思わず感嘆の息を吐いてしまいました。

 ナギさんはマリエッタさんやシャーティさんと違って、スレンダーな体つきをされている方です。

 なので、ラバースーツで抑えられていることもあって、いわゆる『乳揺れ』は目立つほどではありませんでした。しかし激しい運動をすれば目立たなくとも、その膨らみが走るのに合わせて上下しているのがわかります。

 カモシカのように引き締まった脚も、すらりと伸びた長い腕も、その流麗な雰囲気を増幅させています。

 額から滴る汗が髪の毛を額に張り付かせ、少しドキリとする色気を滲ませていました。

 本人はそれどころではないでしょうけど。

 ナギさんが限界に近い速度で走らせ続けること数分。

 ようやくルームランナーが止まり、ナギさんはようやく立ち止まることが出来ました。

 その首から首輪が自動的に外れ、ナギさんを解放します。

 ナギさんは必死に呼吸していましたが、ほとんど白目を剥いており、意識があるのかないのか、微妙なところでした。 

「ふ、しゅー、フ、シューっ……シュー……」

 がくがくと震えるナギさんの足が崩れ、その場で潰れてしまいます。

 上半身を投げ出し、お尻を突き出すようにして倒れてしまったナギさん。

 ラバースーツでぴちぴちになったお尻が、ぴくぴくと震えながらテカっていて、なんだかとてもエッチな光景でした。

『ナギさん、大丈夫……じゃないですね。人を呼びますね』

 私は誰かに押してもらわないと動けない状態なので、その場で人を呼びます。

 念話のいいところは、普通の声と違い、届く範疇に相手がいさえすれば、遮蔽物などは無視して声が届くところです。

『マリエッタさん、すみませんが鍛錬室に来ていただけますか?』

 いまは外出する用事はないはずなので、マリエッタさんを呼びました。

 シャーティさんは自分の判断で拠点の外に出ていくこともあるためです。

 ほどなくして、鍛錬室の扉をあけてマリエッタさんが来てくださいました。

「あらあら? ナギちゃん、大丈夫?」

『すみません。新しい道具を試してもらっていたんですが……少々激しすぎた様子で』

「まあ……だめよカゴメちゃん。万が一の時のことを考えて、最低もうひとりは一緒にいないと」

 マリエッタさんに優しく叱られてしまいました。

 なんだかその怒り方が本当の母親のようで、思わず懐かしく――少し嬉しくなってしまいます。

『そうですね……すみません』

 マリエッタさんがナギさんを抱き抱えるようにして、部屋の椅子に座らせ、ちょうど時間が来たのか、緩んでいたガスマスクを外してあげていました。

「はぁ……っ、はぁ……っ、はぁ……っ」

 必死に息をするナギさん。相当苦しかったと見え、その呼吸自体はとても荒いものでしたが、私はそこに少しだけ気持ちよさを感じているような気配を感じます。

(ふふふ……ナギさんもだいぶこちらの気持ちをわかっていただけるようになっているのでしょうか)

 ナギさんがこんな風になってしまうルームランナーを、私が普通に完走できたのは、私と彼女では違いがあるためです。

 その中でも、拘束状態を楽しめる、という点は大きな違いでしょう。

 私は目隠しもしたままでしたし、走る際にはあえて視界が真っ暗な状態で走っていました。手も後ろ手に枷で拘束した状態でした。

 その上でルームランナー自体はナギさんの時と同じく、私の体力限界ギリギリまで攻めてくれていたはずです。

 なのに私は倒れず、ナギさんは一時的にとはいえ倒れてしまいました。

 その違いは、やはり心持の違いなのでしょう。

(ナギさんは必要に駆られて拘束されている面が大きいですもんね……付き合ってくださるのは嬉しいですけど)

 新しい境地を切り開いてもらうのも、私としては嬉しいけれど。

 最初から私と同じ趣味嗜好――極端に言えば、同じ性癖である人にもメンバーにいて欲しいと思うのは我儘でしょうか。

 そんな風に考えていた私は、まだ理解していませんでした。


 どんな世界においても――上には上がいるという、そんな当たり前の事実を。



第5話につづく



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