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カゴノヒト 第6話 「カゴノヒトの大目標」

■ あらすじ:拘束プレイ愛好者の十和野カゴメは、ある日自縛プレイのミスにより死んでしまう。その寸前、異世界の神によって加護を経て異世界転移を果たした。異世界で冒険しながらも、貰った加護で拘束プレイの追及に余念がないカゴメ。その周りには徐々にその意思に賛同する仲間が集まって行って――ありがちというにはあまりに異質な異世界冒険奇譚。


■ 本編は全体公開で連載していく予定ですが、それ以外で書きたくなった「おまけ」シーンは支援者様向けに公開予定です。そちらも合わせてお楽しみいただければ幸いです。

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 性癖とは無数に細分化され、それぞれの性癖ごとに『拘り』というものがある。

 ある程度のジャンル分けはすることが出来るが、似たような性癖でも厳密には同じではないことの方が多い。

 だからこそカゴメはヤロスラワーの性癖が自分のものとは若干違うものであることを感じたとき、少し残念な気持ちになった。

(この世界で同士に会えるかと思ったのですが……やはりそう上手くはいきませんね)

 もっとも、それはお互いさまの話ではあった。

 裸にナイトガウンのようなものを羽織っただけのヤロスラワーの体がふわりと浮かび、躊躇なくカゴメとの距離を詰めてくる。

 髪も風もないのに重力に逆らって靡き、一種の幻想的な光景を生み出していた。

 その姿は魔法が当たり前に存在するこの異世界でもあまりに現実離れしていて、用心棒としてカゴメの側にいるナギが、ヤロスラワ―がカゴメの膝の上に悠然と腰掛けるのを見つめていることしかできなかった。

『確かに同類、ではあるようですね。しかし……同士ではないのが残念です』

 膝の上にいきなり腰掛けられても、カゴメは全く気にせずに話し始めた。気にしたところで身体が拘束されているカゴメにはどうすることもできないが。

 ヤロスラワ―は指先で口枷の縁をなぞりつつ、カゴメの言葉に深く頷く。

「そうだね。カゴメちゃんの求めているものとボクが求めているものは、似ているようで違うようだ」

『動けなくなる状態に快楽を見出すところは似ていますが、私は箱そのものになりたいわけではありませんからね……』

「箱に詰められたい、ってことだよね。でも、粘土化して箱に収まるのも悪くないよ?」

『軟体的な意味でなら、興味はあるんですけどねぇ。先程のパフォーマンスはかなり唆られましたよ。私には不可能ですが……』

「みたいだねぇ。なにこの加護。ボクの結界内ですらガチガチに固まってて、解せそうにもないや」

『そういう条件で神様に付与していただきましたから』

 同士ではない。求めるモノが違う。

 そう言いながらも、二人はまるで深い信頼関係があるかのように、本来は仲間内にしか話さない機密扱いであることを平然と口に出す。

 それに泡を食ったのは、張本人たちよりむしろ、すぐ傍で二人のやりとりを見ていたナギとワレリアだった。

「カゴメ殿っ、そのことを外で口にしては」

「ヤロスラワー、それは極力内緒にしてって」

 

 パンッ――と、ヤロスラワーが手を打った。


 その音が部屋に響き渡ると同時に、ナギとワレリアのあげかけていた声がぴたりと止む。

『ラワちゃん?』

 困ったような響きで名前を呼んだカゴメに、ヤロスラワーは軽く謝る。

「ごめんごめん。ちょっとうるさかったから静かになってもらっただけ。ナギちゃんやワレリアに危害を加える気はないから安心していいよ」

 ナギとワレリアは、声を上げかけた状態で固まっていた。

 ヤロスラワーが二人の動きを停止させたのだ。

 その固まり方はそれぞれ違っている。

 ナギの方は単純に体が動かなくなったのか、目だけが困惑したように動いている。意識はあるようだが、全く体の自由が効かないようで、戸惑っていた。

 一方のワレリア。

 彼女は完全に固まってしまっていた。それもただ『動かなくなった』という意味での固まり方ではない。

 その体はまるで陶磁器になってしまったかのような、白いものに変わっていたのだ。

 まつ毛や産毛まで再現された、実に精巧な陶磁器の像になってしまっていた。

 ちらりと二人に視線を向けたカゴメは、状態を確認して呟く。

『ナギさんは硬直……ワレリアさんの方は……状態変化、それも磁器化ですか?』

「その通り。……ふうん? その目隠し、意外と細かいところまでわかるの? 大抵の人は陶器化って認識するんだけどな」

『ええ、この目隠しは見た物の状態を細かく教えてくれるんです』

 なお、カゴメがヤロスラワーの行動に戸惑いはしても取り乱しはしなかったのは、目隠しから得た情報があったためである。

 ナギは「状態\硬直」、ワレリアは「状態変化\磁器」という表示がされていて、死体などに出る「死亡」という表示はされていなかったからだ。

「そういうことがわかるってことは、もう大体わかってると思うけど、この部屋の中はボクの結果内なワケ。ボクはここから一歩も出られない代わりに、この部屋の中でだけは大賢者にも匹敵するほどに魔法を使いこなせる。だから――」

 ヤロスラワーが指先を陶磁器になったワレリアに向ける。

 その体が、粉々に砕け散った。流石に息を呑むカゴメの前で、ワレリアだった破片は粘土状に溶けて混ざり合い、綺麗な球形となって床をゴロゴロと転がった。

 ふわりと浮かんだヤロスラワーが、その球の上に降り立つと、球はパチンと弾けて広がった。

 球の中から、仰向けで手足を床につけ、胸とお腹を弓形に逸らした、いわゆるブリッジの姿勢になったワレリアが出現する。

 全裸でそんな体勢を取っているものだから、大きな乳房が盛り上がっているのも見えたし、薄く上品に生えている陰毛の様子もはっきりと見えた。

 あまりにも恥ずかしい姿勢であったが、ワレリアは文句ひとつ言えない。その体は銀色に輝き、ガチガチに固まってしまっていたからだ。

 ヤロスラワーはそんなワレリアのお腹の上に腰掛け、ワレリアの綺麗なお椀状に広がった乳房を愛おしげに撫で擦る。

「こういうことも自由自在ってわけ。すごいでしょ」

『……まるで神様のような自由っぷりですね』

 カゴメがそう思った通りに告げると、ヤロスラワーはけらけらと愉快そうに笑った。

「あくまでこの部屋の中だけの全能性だけどね。一歩外に出れば反動でどうなるかわからないし。兵糧攻めされたら詰みだし……外から部屋を壊された時も、どうなることやら」

 まあ街中だからよっぽどのことがない限りは大丈夫だろうけど、と楽観というよりは達観した様子でヤロスラワ―は笑った。

 彼女が笑いながら腰掛けているワレリアの股間を指先で弄ると、その部分だけが柔らかい人肌に戻る。

 ワレリアの女性器は、ヒクヒク、と小さく痙攣しており、奥から透明な愛液が滲み出し始めていた。

「身体の状態を流体に変化させるとそれだけですごく気持ちよくなれるのさ。体がとろっとろになってね……逆にいま、ワレリアをそうしているように全身を銀像化すると、性的に疼く熱が快感として体の中に籠もって、時間が経てば経つほど、すごく気持ち良くなれるんだよ。そしてこんな風に一部だけ変化を解くと、そこに快感が集中して……」

 割れ目を執拗に刺激し始めるヤロスラワー。

 ワレリアの女性器が「びくびくっ」と痙攣すると、潮を噴いて早くも絶頂してしまったようだった。

「ほんの少しの刺激で、こんな風にすぐさま絶頂しちゃうってわけさ」

『ワレリアさんはこの店の顔役であるとお聞きしましたが、そんな風に扱ってしまっていいんですか?』

 ヤロスラワーにとっては上司に当たる人物なのではないか、とカゴメが不思議に思って問うと、彼女は平然とした調子で頷いた。

「ああ、いいのいいの。この部屋に入ってきたってことはボクに弄ばれたいってことだから。ワレリアも色んな方向に気を回して、ストレスが溜まっているだろうからね。たまには存分に、何も考えずに気持ちよくなってもらわなくちゃ♡」

 指先でワレリアの性器を弄っていたヤロスラワーだが、不意にその手を丸め、拳の形にすると、無理矢理その小さな穴に押しこんでいった。

 普通なら身体が傷ついてしまいかねない暴挙だったが、ワレリアの股間からは大量の愛液が噴き出して、押しこまれていく拳と膣の間から滴り落ち、床に愛液で水たまりを作るほどだった。

 それはそれだけ挿入によって気持ちよくなっているということであり、カゴメは感心してしまう。

『ずいぶんと、乱暴に扱っても大丈夫なんですね。それもやはり状態変化の結果ですか?』

「そうだよ。身体に柔軟性を持たせて傷をつけないようにすることが出来るのさ。……そうだね。カゴメちゃんはこれを利用した拘束なら、楽しめるんじゃないかな?」

 ヤロスラワーが、空いた指先をナギへと向ける。

 ナギの身体がふわりと浮き上がった。身体が硬直しているナギが、目を見開いて驚く。

 まるで軽い風船になってしまったかのように、空中にふわふわと浮かんでくるくる回るナギの姿を、ヤロスラワーはマジマジと眺めた。

「この服、ずいぶんとエッチでいいねぇ。ボクは身体の形や状態そのものを変えてしまうけれど、こういう素材のこういう質感っていうのは、中々そそるものがあるじゃないか」

 ヤロスラワーはそう言うと、自分が腰掛けているワレリアの身体を見やる。

 すると、彼女が腕を突き入れてるワレリアの性器の周りから、徐々に黒く染まっていった。ワレリアの身体がゴムに変貌していているのだ。

 ほどなくしてワレリアは銀像からゴムの像に変わってしまった。

 ヤロスラワーはお尻をワレリアに軽く擦りつけ、そのゴム特有の感覚を堪能する。

「ん……♡ いいじゃん、この感覚♡ 癖になりそう♡」

 ヤロスラワ―が身体を揺らすと、ゴム人形になったワレリアの身体は程よい弾力で彼女の身体を押し返して揺らす。ギシギシ、とゴムが軋む音が部屋に響いた。

 そうやって感触を愉しんでいる間にも、ナギへの働きかけは続いている。

 まず、彼女の身体に取りつけられていた貞操ブラと貞操帯が、空中で取り外された。

 その事実に、カゴメは純粋に驚いてしまう。

『それらの道具にも簡単には外れない制約の代わりに、それなりの加護を付与していたはずなんですが……どうして外せたんですか?』

「単にこの装備に宿っている加護よりも、ボクの振るう力の方が強いってだけだね。カゴメちゃん自身の身体を覆っているものはさすがに無理だけど、ナギちゃんの着てる奴くらいの加護の強さなら、ボクの力の方が強い」

『なるほど……同じ加護でも、そういう違いが生まれるんですね……』

「そこまで気にするほどの違いじゃないけどね。ボクの結界内だからこそ出来ることだし……それこそ一線級の魔王とか勇者とか賢者とかを敵に回すならともかく、普通に冒険する中で出会う相手で、君の与えた加護を突破できる存在はそうそういないと思うよ」

 あくまで特殊な例だとヤロスラワ―は説明した。

 しかしカゴメは、特殊な条件下であれば自分の作り出した装備も外せるのだと知り、ひとつ警戒を深める。

(ラワちゃんは大丈夫でしたけど……他者のテリトリーに入る時には細心の注意が必要というわけですね。今後うちに所属する冒険者の方には、加護を過信し過ぎないように注意しておきませんと……)

 強い装備を得たことで緊張感が薄れ、それが悲劇を生むことになりかねない。

 そのことをカゴメが肝に銘じている間に、ヤロスラワ―によって空中に浮かべられたナギの体勢が変わりつつあった。

 体がゆっくりと反らされていき、弓なりを超えてさらに曲がる。頭頂部がお尻に突きそうなほど曲がったかと思えば、その足も後ろへと折り曲げられ、足が自分の首に引っ掛けられるようにして交差する。自分で自分にプロレス技をかけているかのようだ。

 さらに腕も捻りあげられるようにして後ろに回され、両手の指が背中で絡み合って固定され、なにもなくともピクリとも動かせないだろう体勢にさせられる。

 軟体芸のパフォーマーならばさておき、そこまで体が柔らかいわけではなかったはずのナギが取るにはあまりにも過酷な、歪な肉玉体勢へと変えられていた。

 カゴメはそんなナギの姿を見て、はっと悟る。

『これはもしや……筋肉や関節だけを異様に柔らかくしているということですか?』

「流石にそこまでは見えないか。でもその通り、ご明察だよ♡ 体の柔らかさっていうのは生まれつきなところもあるから、世界のどこかにはこれを普通にできる人もいるだろうけどね。ボクがやったのはそれを彼女にもできるようにしたってだけさ」

 さらに、とヤロスラワーはナギの体を移動させる。


 その先には、先程までヤロスラワー自身が刺さっていた、先端に張り子のついたスタンドがあった。


 ぶるぶる、とナギが自分の意思で唯一自由に動かせる目が震える。

 見開かれた目が、明確な恐怖を滲ませており、その目に大粒の涙が浮かんだ。

 剣士として自らの死すら覚悟しているナギが本気で恐怖している。

 それを見かねて、カゴメがヤロスラワーに抗議する。

『ラワちゃん。慣れている貴女ならともかく、ナギさんにそれは流石に可哀想ですよ』

 そのスタンドと一体化している張り子は、普通に貫かれても体が裂けそうなほどの大きさなのだ。

 オークに犯された経験を持つナギでも、無事では済まないだろう。そもそもこの世界のオークのペニスは豚と同じで太くはない。長さや出す精子の量自体はとんでもないが、女性の膣を割り裂くほどの太さはない。

 体の大きさだけを見れば人の倍はあるオークだが、そのペニスは種族的に大きくはないのである。もっともあまり大きすぎては犯す時に相手を壊してしまい、相手に自分の子を産ませることができなくなるため、ペニス自体がそう大きくないのは合理的であると言える。

 カゴメの抗議を受け、ヤロスラワーは安心させるように言った。

「もちろんそのままで入れたりしないよ。あれは箱になってる時のボク用のサイズだから」

 ヤロスラワーの指が振るわれると、それに呼応してスタンドについている張子の形状が変化し始める。

 先端が二股に分かれ、それぞれの先にペニス状の張子が形作られる。

 その二股の張子をどこに入れるのか、カゴメとナギは即座に予想したが、その予想はあっさり外れることとなった。

 二股に分かれた二本の張子は、それぞれ。


 下は肛門、上は口へと、挿入されていったためだ。





 手前の体が限界を超えて反り返り、手足が複雑に折り曲げられた――そこまでは、まだいい。

(これくらいなら、まだ耐えられる……体が自分の限界を超えて曲がっているのは恐ろしいが、耐えられる……)

 色んな拘束の形を好むカゴメ殿は、窮屈な姿勢で箱などの入れ物に詰める、という拘束も好んでいた。ここまでではなかったが、ものは試しとばかりにそういう拘束を行う道具を作って、手前で試運転を行ったこともあった。

 カゴメ殿に恩義がある手前としては、そういったカゴメ殿の要望にも、なるべく応えてきた。大抵はすぐ解放してくれたし、そういう拘束も最初は面食らうが、されてみると案外気持ちよいことがわかって来たからだ。

 けれど、それは――純粋な異物の挿入は――手前の経験に、あまりないことだった。

 オークやゴブリンに犯されたことはあるので処女ではないが、それ以外に挿入された経験はあまりない。そういう気分の時に、自分の指で体の疼きを慰めたことはあったが、道具は使わなかった。

 そんな手前だから、ヤロスラワー殿が挿入していたような、純粋に太い張子を挿入されることは、腕が斬られることよりも恐怖を覚えることだった。

 思わず涙目になってカゴメ殿に助けを求めてしまう程度には、恐ろしかったのだ。

 幸いヤロスラワー殿もその太さのままで挿入する気はないようだったが、その変化させたあとの形状も十分凶悪だった。二股に別れた細い張り子。

 細くなったことで少し心に余裕は生まれた。これくらいなら大丈夫だと理解出来た。

(膣と肛門に入れるつもりか……肛門への挿入はあまり嬉しくないのだが……)

 オークやゴブリンは繁殖が目的なのでお尻の穴には手を出して来なかったし、カゴメ殿は全身の拘束の方が主で、自分はともかく手前や他のメンバーに挿入する系統の拘束具は自ら薦めなかった。シャーティ殿が一度そういう貞操帯を作って貰っていたが、あくまで要望しなければ身体の中にまで挿し込んでこようとはしなかった。

(全く興味がないのかと問われると嘘になってしまうけれど……まさかこのような形で……?)

 ふと、ゆっくりと迫ってくる張り子の位置がおかしいことに気付いた時には、それは手前の口に――そう、上と下、両方の口に――入ってくるところだった。

(ンぅ……!?)

 てっきり膣と肛門に入れられると思っていたので、不意打ちを食らったような気分だった。

 口の中に張り子の匂いと味が広がる。肛門の方はラバースーツを押し込んで入ってきているのが感覚でわかった。

 結果的にラバースーツがコンドームのような形になっている肛門はともかく、口の中に挿し込まれた張り子の方は直接手前の口内に触れてしまっている。

 さっきまでヤロスラワ―殿の穴に――肛門に――挿し込まれていたものであるため、反射的に汚いという気持ちが湧くが、伝わって来たその感触に少し驚いた。

(これは……ゴム? この辺りではあまり流通していない素材のはず……)

 ラバースーツを初めとして、カゴメ殿は好んでこの材質を再現しているが、このあたりでゴムは採れない。遠くの国で作られたものが交易品として手に入ることはあるが、基本的には珍しいものの類だ。

 元から張り子をそういった素材にしていた可能性もあるが、ワレリア殿をゴム人形に変えてしまったことを考えると、我々がそういう素材を好んでいると認識したヤロスラワ―殿がそういう材質に変えたのかもしれない。

 そんなことを思っている間にも、口に入って来た張り子はどんどん奥へと潜ってくる。

(ん、ぐ、ぅ……! 喉の、奥まで……っ)

 まるで串を通して焼かれる魚になってしまった気分だった。身体を反らされ過ぎて、顔は自分から見てほぼ真上に向いているため、入れやすくはあるのだろうが、喉奥まで押し広げられる感覚は相当苦しい感覚だ。

(うぅ……! で、でも息もできるし、そこまで無体ではない、か……?)

 張り子が二つの穴に根元まで入り込むと、それぞれの入口に当たる部分が傘のように広がり、手前の身体を支える状態へと変わる。その形状は、なんというか。

(燭台に刺さった蝋燭になった気分……)

 そんな気持ちになってしまう。

 現実逃避気味にそう考えていた手前だが、不意にそのその燭台に身体が押し付けられるような感覚が生じた。広がった傘の部分が受ける力を分散してくれていたが、押し広げられた穴が押される奇妙な感覚が手前を襲う。

「ん、ぅ……っ、ぅ? う、ぅっ!?」

 思わず呻いてしまってから、気付く。

 いつのまにか固まってしまっていたはずの身体が、僅かながら動くようになっていると。

 いままでは全身を凍らされてしまったかのようにぴくりとも動けなかったのか、少し自由になっている。手足は荒縄で縛られているかのように動かせなかったが、全体的に震えたり痙攣したりは出来るようになっていた。

 舌もさっきまでは痺れたように動かせなかったのか、動かせるようになっている。動かせるようになったとはいえ、口の中は挿し込まれた張り子でいっぱいになっていたから、実際にはほとんど動かせなかったけれど。

「んぅ、うぅ……う、んぅぅっ!」

 限界以上に身体を反らされた体勢は、じっとしていると苦しく、かといって身体を揺すったりして動かしたりすれば余計に苦しさは増した。

 カゴメ殿にされた時のように、苦しみの中にも悦びというか、僅かな気持ち良さのようなものは感じたけれど。

(特に強烈なのは……背骨と、手足……っ。ここまで曲げられたら、痛いはずなのに……なのに……っ)

 じわじわと快感が生まれている。それが関節を柔らかくされたことによる副作用なのか、それとも手前自身の素質によるものなのか。

 自分では判断できなかった。

 このまま燭台に突き刺された蝋燭のように放置されるのかと思っていたら、ヤロスラワ―殿の目論見はまだ続いていた。

 すでに喉奥まで到達している張り子が、ゆっくりとその長さを伸ばし始めたのだ。





 燭台のようになった張り子付きスタンドに突き刺さったナギが、少し落ち着いた、とカゴメが思った瞬間、ナギの全身が激しく痙攣した。

 カゴメの目に映る情報には特に変化は生じていなかったため、ヤロスラワ―に直接尋ねる。

『ラワちゃん。ナギさんに何かし始めましたか?』

「内側の変化までは見れないか。大丈夫。口の中に入れた張り子を、さらに長く伸ばしているだけだから。いま胃に到達したかな」

 そのヤロスラワ―の言葉に、カゴメがナギのみぞおち付近を注視すると、確かにその辺りが、内側から少し膨らんでいるのがわかった。

「ふふふ、身体の中の中まで拘束する発想はなかった? このまま胃も超えて大腸や小腸まで全部固めちゃうよ。肛門の方は服が覆っていたから入口付近までしか入れてないけど、本来はこっちからも伸ばして、最終的に体の中で一本の棒に統合しちゃうといいと思う」

『……身体の穴に突起を挿し込んで身体をその場に固定するのはいま自分の身体でやっていますが、なるほど……口から肛門までをひとつに繋げてしまう発想はありませんでしたね』

 そうすれば確かに究極の拘束だろう。仮に身体が自由になったとしても、身体を捻ったり曲げたりすることも出来なくなる。

(そうですね……魔法のない、物理的な限界に囚われすぎていたかもしれません。これは相当キツい拘束ではありますから、私の生み出す道具で自分に施すのはまだやめておいた方が無難でしょうけど……いずれは……)

 体内を物理的に拘束することが出来れば、どれほどの快感を得られるのか――そのついでに、究極ともいえる拘束を施せばどれほどの加護が得られるのか――カゴメはひとつの最終目標を得た気持ちだった。

『今日はラワちゃんに会えて本当に良かったと思います』

「どういたしまして。ボクも君に会えてよかったよ。新しいインスピレーションを貰えたから……これからも仲良くしてくれると嬉しいな。ボクはこの部屋から出れないから、文通しよ? そして、たまには会いに来て欲しい」

『もちろんです。こちらこそよろしくお願いいたします』

 朗らかに、和やかに。

 カゴメとヤロスラワ―は友好を深める。すぐ傍でそれぞれの関係者が歪なオブジェになったまま、震えている奇妙な光景ではあったが、二人はとても嬉しそうに言葉を交わしていた。

 不意に、ヤロスラワ―が思い出したように話を変える。

「そうだ。ボクとカゴメちゃんは同士じゃないけど……カゴメちゃんの同士になりそうな人に心当たりはあるよ」

『本当ですか!?』

「うん。でも名前も知らないし、どこにいるかもわからないし、そもそも会ったこともないし、存在するかどうかもわからないけどね」

 勢い込んで詳細を尋ねようとしたカゴメは、ヤロスラワ―が続けた言葉に面食らった。

 それはほとんど知らないと言っているのに等しかったからだ。

 そういう反応をされることは百も承知だったのだろう。ヤロスラワ―は悪戯が成功した子供のように笑う。

「ごめんごめん。と、いうのものさ。ボクが個人として知っているわけじゃなくて、ボクも同士を探して情報を集めているうちに、どこかの伝説のひとつとして聞いた話なんだよ」

『ああ、なるほど。そういうことでしたか』

 得心がいったカゴメは頷く。

(この世界にもあるんですね……いえ、この世界だからこそ、あって当然でしたか)

 カゴメはヤロスラワ―がいう心当たりが何に起因してのことなのか、理解していた。

 そしてその推測の通り、ヤロスラワ―はひとつの伝説を――お伽噺を語り始める。

「これは昔々の物語。自身の自由を代償に、大いなる力を得て民を守った、ひとりの姫君の物語だ――」

 その話の概略は、こうだ。


 とある国に、ひとりの美しいお姫様がいました。

 お姫様の国には悪い魔物が押し寄せ、滅びる寸前でした。

 弱き民を守るため、強い魔力を持っていた姫様は自身を国の一部に縛り付けることで、絶対的な守りの結界を生み出すことに成功しました。

 身動き一つ取れない中で気が狂わないよう、不自由な状態でも気持ちよくなれる術を編み出していた姫様は長い時をそうして過ごし続けることが出来ました。

 しかし長すぎる時が流れてしまい、いつしか国民は彼女のことを忘れてしまいました。

 平和な時代が続いたことで結界を維持する儀式も行われなくなって、彼女はどこかで拘束されたままでいるとされています。

 けれども、彼女がどこにいるのか、もう誰もかもが忘れてしまったのでした。


 一通り語り終えたヤロスラワ―は、肩を竦めた。

「っていう話。酷い話でしょ? ……でも、君にとっては、羨ましい話でもあるでしょ」

 話を聴いていたカゴメは、そんなヤロスラワ―の言葉に、苦笑いを返すしかなかった。

『そうですね……その姫様を探し出し、話をしてみたいと思う程度には』

 お伽噺の中ではオブラートに包まれて語られてはいたが、『不自由な状態でも気持ちよくなれる術』という内容は、つまりそういう内容である可能性が高い。

 神と交わした制約上、いずれ完全に自由を失う定めにあるカゴメとしても、抑えておきたい情報であった。

『ありがとうございますラワちゃん。うちのパーティにはあまり目標らしい目標はなかったのですが……ひとつ、決まりました』

 この日、カゴノヒトの大目標のひとつが定まった。


――ひとつ、『忘れられた拘束姫』を探し出す。



第7話につづく



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