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夜空さくら
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カゴノヒト 第8話 「拠点のレベルアップ」

■ あらすじ:拘束プレイ愛好者の十和野カゴメは、ある日自縛プレイのミスにより死んでしまう。その寸前、異世界の神によって加護を経て異世界転移を果たした。異世界で冒険しながらも、貰った加護で拘束プレイの追及に余念がないカゴメ。その周りには徐々にその意思に賛同する仲間が集まって行って――ありがちというにはあまりに異質な異世界冒険奇譚。


■ 本編は全体公開で連載していく予定ですが、それ以外で書きたくなった「おまけ」シーンは支援者様向けに公開予定です。そちらも合わせてお楽しみいただければ幸いです。

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――少し時間は遡り、ルナールが街に戻る少し前のこと。


 十全の検討を踏まえ、カゴメは自分に施す次なる拘束を決定した。

 そしてその拘束を自身に施す時、カゴメがもっとも信頼するカゴノヒトのメンバーがその場に集められていた。

「……これがその、拘束具?」

 装着の際の同席を頼まれたナギは、示された道具を見てそう呟いた。

『はい。とはいえ、あくまでもカゴノヒトの拠点内ではこの拘束にする、というだけで外に出る際は、ひとまずいままでと同じ装備にする予定です。今後この拘束をする場面を拡張するかもしれませんが……』

「あらあら……見た感じは、ただの箱ね?」

 拠点内でカゴメの世話をすることの多いマリエッタもまた、その場に同席していた。

 その彼女の言うとおり、カゴメが示した道具の見た目はただの箱であり、拘束具というにはあまりにも単純過ぎ流者だった。

「その箱の中に拘束具が入っている……って感じでもないわねぇ?」

 カゴノヒト初期メンバーと言える最後の一人、シャーティもそう指摘した。

 彼女もカゴメの信頼するメンバーのひとりであり、こういった重要なことを行う際には必ず同席するようになっていた。

 彼女は基本的に拠点内で活動している、という事情もある。

『はい。こちらの箱はこれ自体が拘束具となるように設定しています。拘束はすべて全自動で行われますので、皆さんは見ていてください』

 カゴメは三人が了承して頷くのを確認する。

『では、始めます。――拘束開始』

 箱に向けて彼女がそう呼びかけると、箱の上部が開いた。

 蓋となっていた上面が丸ごと持ちあがり、空中に浮き上がる。箱の中は空洞で、何も入っていなかった。

 それを三人が認識すると同時に、カゴメの体を拘束していた車椅子が、カゴメの身体を解放する。

『ん、ぁ……ん、ぅっ……!』

 カゴメの身体がふわりと浮かび、彼女の体内に挿し込まれていた二つの張り子が引き抜かれていく。

 彼女のふたつの穴は、二つの太い張り子をずるずるとひり出し、先端まで抜けてしまうと、ぽっかりと穴が開いた状態のままになった。

 ラバースーツが覆っているため、生々しい匂いや湿気は感じなかったが、それが逆に無機質な穴を強調していて、奇妙な光景だった。

 そんな光景に、見守る三人が息を呑んでいると、箱から光が溢れ出し、筋となってカゴメへと伸びる。

 その様は、祝福の光が当てられるというよりは、どちらかというと軟体生物の触手が、捕食対象を掴まえようとその手を伸ばしているかのようだった。

 一瞬の間だけ、四肢を含めた身体の自由を取り戻していたカゴメだが、その光の触手が彼女の身体に絡み付き、その自由を奪う。


 そのカゴメの身体を、光の触手は容赦なく折り畳み始めた。


 ミシミシ、と音を立ててカゴメの身体が悲鳴をあげる。

『んぎっ……ぃ!』

 窮屈な拘束や、乱暴に突かれる痛みには慣れているはずのカゴメが、思わずうめき声をあげていた。

 もっとも、それも無理はない。

 彼女の腕は背中側に回され、手首がうなじに着くほどに捻りあげられていたからだ。関節の可動域を軽く超えている角度になっていた。

 それも片腕ではなく、両腕が共にその形にされている。

 軟体芸を得意とする者なら難なく取れるかもしれない姿勢だったが、普通程度の柔軟性しか持たないカゴメが取るには、あまりにも厳しい体勢だ。

 縛りでいうところの合掌縛りに近いものだったが、その手の形は自分で自分の頭を掴むような形にされていた。

 限界まで上を向いた頭を、手で掴んで固定する形だ。

 その手を覆うラバースーツが溶けて彼女の頭を覆う。まるで全頭マスクを被せられたような状態になり、頭部の拘束と指の先の拘束を同時に成していた。

 カゴメの手は、彼女の意思に関係なく、自分の頭を固定した状態で固まっていた。

 腕と頭の拘束だけでも、普通の人間が取らされる姿勢としては恐ろしく苦しく、辛いものだった。

 しかし、箱の拘束はまだ始まったばかりだった。

 カゴメの身体が、前向きではなく、後ろ向きに丸められていく。

 ダンゴムシを逆向きに丸めるような、人間が取るにしても相当無茶な後屈姿勢だ。

『んぎ……っ、い、ぎ、ぃ……っ……!』

 胸を逸らし、腹を張って、腰を突き出し、綺麗な丸を描いていく。

 極端に背中を後ろに沿った、いわば前屈の反対の、後屈の極地ともいうべきポーズだ。

 床にうつ伏せになった頭の上に、自身の股間が来ている。

 普通は両足の裏は地面と水平になる程度だが、カゴメが取らされている姿勢は、さらに足を曲げ、頭を膝で挟み込むようになっていた。

 体を折り畳む、とはよくいう言葉だが、いまのカゴメが取らされているポーズは、身体を織り潰すとでも言えるほどに圧縮してしまっていた。

「……!」

「まぁ……」

「うひゃぁ……」

 見守る三人も流石に言葉を失う中、カゴメの身体はその体勢のまま、箱の中へと収められていった。

 箱の大きさはカゴメがそのポーズを取ったときに綺麗に収まる大きさだったのだ。

 一部の隙間もなく、箱に収まったカゴメ。

 そんなカゴメの上から、蓋の箱が再び閉じていく。

 蓋は内側が少し盛り上がった形になっており、蓋を閉めるとカゴメの身体は上からさらに圧縮されてしまう。

――ギュム、ミシ、ミチミチミチ、ミシミシ……

 カゴメの身体が不穏な音を立てて軋んでいた。

『んぎゅ、うううううううううううううううっっッ!!!!』

 断末魔としか思えないカゴメの悲鳴が響いた後、蓋が箱に完全に密着し、静かになる。

 これにはさすがの三人も心配になり、マリエッタが恐る恐る声をかけた。

「か、カゴメちゃん……? 大丈夫……?」

 そう彼女が呼びかけると同時に、箱の側面にカゴメの顔が浮かび上がった。

 拘束具を何も取り付けていない、カゴメの素顔が映し出されていた。

 肩から上の、正面写真のようなアングルの映像だった。

『はぁ……はぁ……だいじょうぶ、です……思ったより、苦しい、ですけど……』

「苦しくないわけがないでしょうに……」

 いつも泰然とした態度を取っているシャーティが、呆れを隠すのも忘れてそう呟く。

 普通の人間が取らされたら、苦しいでは済まない体勢であり、状態だ。終わらない痛みと苦しみに泣き叫び、精神が崩壊して人格が壊れてしまってもおかしくない。

 それを「思ったより苦しい」で済ませているカゴメは、やはり普通の人間の感覚とは一線を画していた。

 カゴメの感想に呆れる三人であったが、気を取り直して話を続ける。

「ええと、カゴメちゃん、なのよね……? 可愛いというか……想像より幼かったのね」

 この異世界では東洋人の顔だちは珍しい部類に入る。

 似たような顔だちの者が全くいないわけではないが、この地域ではあまり馴染みがなく、それもあってマリエッタたちには、カゴメがイメージ以上に幼く見えていた。

「カゴメ殿の素顔は、初めて見る」

「こっちに転移してきた時にはすでに目隠しはしてたって話だものねぇ。もう半年以上一緒にいるのに、なんだか不思議な話だわ」

『ああ、そういえばそうでしたね……口枷のおかげで念話は出来るので、この機能はなくてもいいかとは思ったのですが……やはり顔が全く見えないのも、問題かなと思いまして』

「いいと思うわよ。今後うちに所属することになった子たちも、顔も見えないリーダーに従うことになると、戸惑うでしょうし……」

 シャーティはそう言いつつ、カゴメの素顔をまじまじと見つめていた。

 半年以上一緒に行動して来て、初めてまともに顔を見ることになり、新鮮な気持ちになったからだ。

 それはマリエッタやナギも同様らしく、じっとカゴメの顔を見つめている。

 すると、映像の中のカゴメの頬が少し赤くなった。

『あの……そう、まじまじと見られると、さすがに恥ずかしいのですが……』

 年齢相応に恥じらう彼女の様子に、シャーティたちは何とも言えない顔を見合わせた。

 三人に共通する思いはひとつ。「そこで恥ずかしがるんだ……」というものだ。

 なにせ顔こそ初めてみたものの、三人はカゴメの身体を、それこそ穴の奥まで見ている。性的なやり取りも一度や二度ではなく、ラバースーツ同士で絡み合ったことも数知れない。

 そう考えれば、今更、素顔程度で恥じらうのもおかしな話なのである。

 もっとも、三人は賢明な女性だったため、あえてそれを指摘するような愚は犯さなかった。

「こっちからカゴメさんの顔は見えるようになったけど、そっちから外の様子は見えているの?」

 シャーティが話を変えると、カゴメは渡りに船とばかりに乗って来た。

『ええ。目隠しに宿っている加護は健在ですから。皆さんが私に注目しているのがわかる程度には、なんとなくの把握はできています』

「元々壁の向こうも結構見えてたものね」

『魔力が込められた壁は透視出来ませんけどね』

 もしそれが可能であったならば、カゴメはダンジョン攻略マスターになっていただろう。入り口から全てをマッピングできれば、自分で潜る必要すらなくなる。

 だが大抵の迷宮と呼ばれるものは、魔法によって作られているため、カゴメの目隠しの加護でも全てを把握はできなかった。

 とはいえ、日常生活を送るのに支障がなければ、カゴメとしては十分だ。

 カゴメが綺麗に収まってしまった箱をまじまじと見ていたナギは、ふと疑問に思ったことを尋ねる。

「……カゴメ殿。食事や排泄はどうされる?」

 箱は表面上何の仕掛けもない、ただの箱でしかない。

 例えばチューブが露出していたり、穴が開いていたりすればそこからどうにかするのだろうと予想できるが、見た目は完全にただの箱だ。ナギの疑問はもっともだった。

 ちなみに制約上ラバースーツが脱げない状態になっているナギとマリエッタだが、彼女たちのラバースーツには排泄時に自動的に穴が空くようになっており、脱ぐ必要はなかったりする。二人とも最初は戸惑ったものの、いまではすっかりそのやり方にも馴染んでいた。

『排泄に関しては、張り子に付与した加護で行います。催していないうちに、装着してしまいましょうか』

 カゴメがそういうのと同時に、車椅子の座面に聳え立っていた二本の張り子が、光の粒子となって消えた。

 元々車椅子の座面についている張り子は、車椅子に座っている間、恒常的に性的刺激を与えるという代償によるものだった。その代償を支払うことで、車椅子はどんな悪路も走破出来る加護を得ていたのだ。

 カゴメはそれに加え、体内を拘束するという解釈で、張り子に排泄を不要にする加護を付与することに成功していた。その張り子が身体の中に挿し込まれている間は、排泄が不要になるというものだ。それによってカゴメは排泄に煩わされることなく、拘束状態をずっと楽しめていたのだった。

 光の粒子となって一端消えた張り子は、カゴメが詰められている箱に吸い込まれていく。それと同時に、カゴメは悲鳴を揚げた。

『ひゃ、うっ!♡』

 画面上のカゴメの顔が苦痛と快楽に歪んだ。箱の中に吸い込まれた光の粒子が、再び形を成してカゴメの両穴を塞いだのだ。

『ふー……っ、ふー……っ。この、体勢で挿入される、のは……結構、来ます……ね……! ふー……』

 喘ぐカゴメの顔は本心が包み隠さず表に出ているためか妙に煽情的で、それを見ていた三人も思わず頬を朱に染めてしまう。

「……表情が見えるようになったのは、良くもあり悪くもあるわねぇ」

「手前ども相手ならばともかく……」

「外の人と会う時は、挨拶だけしたら映像は消していいんじゃないかしら?」

『一応切り替えることは出来ますが……失礼にあたりませんか?』

「映像が表示出来る時間に制限がある、とでも言っておきましょ」

 カゴメも誰彼なしに自分の喘ぐ姿を晒したいわけではなかったので、三人の進言をありがたく受け入れることにした。

 そもそも礼儀云々を気にするのであれば、拘束具を身に着けた珍妙な格好で会うこと自体が問題なのだが、残念ながらそのことに気付ける一般的な感性を維持した者はその場にいなかった。

 なんだかんだ言って、ナギたち三人もカゴメの影響を受け、感覚が狂いまくっているのである。

『次に食事ですが……口枷の新しいパターンを作っておきました』

 いままでは、タイミングがあえば食事のときに口枷を外していた。口枷には内側が長い張り子状態になった蓋があるのだが、それを着け続けた時間の長さによって、様々な恩恵を受けることが出来る。

 その中に『一時的に口枷を外すことが出来る』恩恵もあるのである。

 加護の誓約上、カゴメ本人の拘束は基本的に外すことが出来ず、より拘束度が増す形でしか装備の恒久的な変更はできないが、一定時間だけならば外すことも出来なくはないのだ。

 いままではその一時的な開放状態の時に誰かに食べさせてもらうか、あるいは流動食のようなものを流し込むことで食事を取っていた。

『箱の蓋の、私の口の上あたりを良く触ってみてください』

 カゴメの指示に従ってナギが箱の上部をよく擦ってみると、微かに手ごたえを感じる部分があった。その部分を指先で押すと、円形の穴が現れた。

 その穴からは生暖かい風が――息が流れ出した。

『食事はその穴に流し込んでください。口枷と繋がっていて、胃まで直接流れ込むようになっています。あ。固形の物でも大丈夫ですよ。流し込まれている間は息が出来ませんから、一度に流し込む量は考えていただく必要がありますが……』

「便利、といえば便利なのかしらね?」

「あらあら……そんな食べ方で、味気なくない?」

 カゴノヒトのメンバーが拠点にいる間、特別に拘りがある者以外は全員マリエッタの料理に食事を頼っている。

 マリエッタは様々な料理を習得しており、元々料理好きであることもあって、様々な種族もいるカゴノヒトメンバーの食事を作るのを楽しんでいた。

 そんな彼女ゆえに、カゴメが流動食のような食べ方しか出来なくなる、というのは少し寂しいものを感じてしまうのだろう。

 マリエッタの寂しそうな様子に対し、カゴメは少し申し訳なさそうに応える。

『拠点内ではそういう形になりますが……外に出たときはいままで通りと変わりません。その時はじっくり味合わせていただきますね』

 そんな風に二人が話している間、ナギは箱の上部に開いた穴に指を入れてみたりして、どういうものが入りそうかを確かめていた。

「カゴメ殿、固形のものは大丈夫として……万が一、食べ物ではないものが落ちてしまった場合は?」

 それこそ食事を入れようとした際に、料理を掬った匙が落ちる、というようなことは普通に考えられる。

『あ……それは想定していませんでした。ええと……』

 そうカゴメが呟き、少しの間沈黙する。

 目隠しの加護を用いて、口枷の加護の内容を確認しているのだと察した三人は、カゴメが確認するのを待つ。

『……加護の効果として、入れられた物はなんでも人間が消化可能な状態にしてしまう、ようですので、異物や毒物……汚物などを放り込まれても、死にはしないみたいです』

「使いようによっては本当に便利だけど、非人道的な使い方も出来てしまいそうね……」

 カゴメ本人のため以外では作り出さない方がいいだろう、と満場一致で意見が揃ったのだった。

 こうしてカゴメは拠点内にいる間、小さな箱に身体を押し込まれることになった。

 本人が拘束感を味わうためという目的はもちろんあるのだが。


 全身を箱詰めにするという、ある種究極の拘束の制約を受けたことで得られる加護も、相当強力なものとなったのだ。





「それで、どんな加護が得られたの?」

 カゴメが箱詰めになった経緯を聞いたルナールは、興味津々な様子で尋ねる。

 シャーティの戯れによって鎖で身体を縛られたままであったが、話に集中している間に、そんなことは忘れてしまったようだった。

 彼女は頻繁に街を離れるため、カゴメの、ひいてはカゴノヒトの奇想天外な行動に、まだそれほど慣れてはいないはずなのだが。

 彼女自身の素養があるのだろう。

 そんな彼女に対し、カゴメは笑顔を浮かべて答えた。

『この拘束を施した私は、カゴノヒトの拠点そのものを強化する加護を発生させています』

「拠点を強化……? って、どういうこと?」

『まず拠点の中で眠るだけで、傷や疲れの回復速度が通常の倍以上になります』

 さすがに一晩寝るだけで全快とはいきませんけども、とカゴメは可笑しそうに付け足す。

 それは某有名RPGの話だったのだが、残念ながら異世界人はカゴメしかこの場には居らず、ネタは通じなかった。

「……倍以上、というのはそれだけで強力ね」

「それだけじゃないわよ。なんと普通なら治らない傷や病まで回復するの。時間はかかるけどね」

『ナギさんの右手も手首くらいまで再生しました』

 さらりと付け加えられた情報に、ルナールは目を瞬かせる。

「え、ちょっと待ってなにそれ。完全な欠損も治るってこと!?」

 用心棒としてカゴノヒトに所属しているナギのことは当然ルナールも知っている。

 彼女はかつてオークナイトに負けた際、右手を切り落とされてしまって、隻腕になってしまっていた。

 魔法のあるこの世界では、資金さえあれば高性能な義手を比較的簡単に入手することが出来るため、ナギの戦闘力はあまり落ちてはいなかったが、生身が再生すれば義手よりも楽なのは確かだ。

 回復魔法はあっても、欠損まで完治させる魔法は中々ない。あらゆる傷や欠損を直す万能薬は存在しても、カゴノヒトの伝手や能力を持ってしてもそれを得られるようになるまでにはまだまだかかると考えられていた。

 それが拠点の中で眠るだけで回復しつつあるという。

 破格の拠点能力であるといえる。

「不治の病、と言われているものも回復出来るから、最近は部外者を拠点で預かることもあるのよねぇ」

『公言しているわけではないんですが、どこからともなく噂を聞きつけたらしく、いまも病弱な御令嬢をお預かりしてるんですよ』

 シャーティやカゴメの話を聴き、ルナールは頭を抱える。

「……一応身内である私がいうのもなんだけど……よくここに預ける気になったわね。大丈夫? 御令嬢ってことはそれなりの身分のお嬢さんなんでしょうし、あとあと文句言われたりしない?」

 ラバースーツだけならまだしも、基本的にカゴノヒトメンバーの装備は全て拘束具に類するものばかりだ。

 はっきり言えば若い娘の情操教育にいいとは言えないし、もしそれに影響されてそういう性癖に染まってしまったら、生来の病は治っても別の意味での病に囚われてしまうことになる。

『大丈夫だと思いますよ。最初は面食らっていらっしゃいましたが、いまではすっかり馴染まれて、ラバースーツを着てみたいとか、拘束具を身に着けてみたいとか、好奇心旺盛に楽しんでいらっしゃいます』

 純粋に拘束を楽しむ同士が増えるのが嬉しいのだろう。

 カゴメは本当に嬉しそうな笑顔で――実際嬉しいのだ――そう言った。

 ルナールの頭に、時すでに遅し、という言葉が過った。

「……まあ、病で苦しみ続けるよりはそっちの方がいいのだろうけど……まあいいわ」

 ルナールは考えても仕方ないことを考えるのを止めた。いまさらの話でもあった。

「そう部外者をぽんぽん入れるのは感心しないわよ。それに、欠損や病に悩まされているのは女性だけでもないでしょう。男に自分も癒せと求められたらどうするの?」

 本来そういう部外者が入り込むことを防ぐのは、シャーティの役目である。

 パーティに入る前は情報屋として活動していた彼女は、そういう確かな目利きの腕も買われて、パーティの受付という名の折衝を任されていたはずなのだ。

 そんな彼女がいながら、部外者を考えなしに入れるとは何事か、とルナールは思って彼女を睨み付けた。

 一方のシャーティは涼しい顏だ。

「ふふっ、貴女に言われるまでもないわ。受け入れるかどうかはちゃんと見極めているし……男性に関しても問題ないわ。貴女、うちのリーダーの力を忘れてしまったの?」

 シャーティに指摘され、ルナールは言葉に詰まる。シャーティの言わんとすることを彼女も察したからだ。

 そう。カゴノヒトのパーティリーダー・カゴメの能力とは。


 加護を付与した『拘束具』を作り出す力なのだ。


「男性の場合は、全身拘束するものを作って身につけさせ、回復するまで適当な部屋に放り込んでおけばいいってことね……」

『はい。心苦しいですが男性の方に関してはそうさせていただいています。全身の拘束具の加護も組み合わせれば回復も早まりますから、一応、理にも適ってるんですよ?』

 カゴメの補足に、ルナールは納得もしつつ、この街の性癖が盛大に歪まないか、少々不安にも感じ始めていた。

(まあ、ラバースーツでうろついても問題なくなってる時点で、今更ではあるわねぇ……)

 そう思ったルナールは、この話について続けるのを止める。

「問題ないなら、私があれこれいうことでもないわね……わかったわ。ありがとう」

 拠点での休息や療養に大幅なバフを与える。

 それだけで十分過ぎる加護であるし、カゴメの箱拘束はそういうものだと理解したルナールは、受けた説明に対してそう礼を述べた。

 しかし、カゴメが箱拘束によって得た加護はそれだけではなかったのである。

『こうなって出来るようになったことは、実は他にもあるんですよ。カゴノヒトの正式メンバーにしか利かない力ですけど……外部協力者であるルナールさんに利くかどうか、試してみてもいいですか?』

 そう問われたルナールは、すでに多くの説明を受けていたこともあり、精神的に疲れていた。

 だから何気なく応じてしまった。

「試すのは構わないけど。どういう、ちか――っ!?」

 ルナールの言葉に被せるように、すでにカゴメの力は発動されていた。

『あ。出来ましたね。ルナールさんも正式メンバー扱い……ということでしょうか』

「カゴメちゃんの気持ちが問題なんじゃないかしら? ほら、以前うちに遊びに来た『三日月』のサマンサさんには出来なかったじゃない」

「仲の良さであれば、サマンサさんとルナールにそんなに差があるとは思えないし……やっぱりカゴノヒトのメンバーかどうかが鍵なのかしらね?」

 のほほん、と会話を交わす三人。

 一方、その力を使われたルナールは何かを主張する目をしながらも、三人の会話に入っていけなかった。

「んーっ! むーっ! んむーっ!」

 それもそのはず。

 彼女の着ていた服が、カゴメの力によって、ラバードレスともいうべきものに変質してしまっていた。

 全体的な見た目は、フリルをふんだんに使ったお姫様のようなドレスだった。

 だがその本来は軽くてふわふわしているであろうフリル部分は、全てテカテカしたラバー素材で出来ており、何段にも重なったスカート部分などは、ラバー素材であることも合い成って、その重量だけでも相当なものになっているだろう。

 襟元はルナールの口元までを覆い、分厚い層を形勢することで、首を動かすことも不可能にすると同時に、彼女が喋ることを封じていた。

 腕は行儀正しく膝の上で揃える形になっているが、よく見れば掌や袖に当たる部分が身体を覆っている部分と癒着して結合しており、指先ひとつ動かせない状態になっていることが見て取れる。

 靴は動きやすそうな旅装としてのブーツから、膝上までを丹念に覆ってしまっているロングブーツに変更されており、その踵も高く、普通に歩くことも難しいようなものになっていた。

 彼女が着ていた普通の服はいつの間にかテーブルの上に置かれており、そこには下着も含まれている。

 つまりルナールは全裸の上からそのラバードレスを身に着けているということになり、実際彼女の身体は、ラバードレスの感触を余すことなく感じ取っていた。

 藻掻いた拍子に身体が微かに動くと、ぎちぎちに身体に張り付いているラバーが、彼女の全身を撫でまわすように擦れてくる。

 それは彼女の全身に存在する性感帯も同時に刺激しており、それによってルナールは奇妙な気分になってしまっていた。

 その感覚から逃れようと身体を暴れさせても、そのラバードレスからは逃れられない。

 むしろ暴れれば暴れるほど、彼女は自ら身体をラバーと擦れ合わせることになってしまい、余計に妙な気分にさせられてしまう。


 ラバードレスは拘束具として――ルナールの自由を奪っていたのである。



題9話につづく


Comments

コメントありがとうございます!^w^ 読んでみました。確かにお姫様のイメージがすごく近いお話しでしたね!「忘れられた拘束姫」に関しても似たような状態になっている可能性は否めませんーw-ウム 誰もが精巧なただの像だと思っていたものが実は……という展開はありそうです。

夜空さくら

『忘れられた拘束姫』と言うからなろうの『覆われたプリンセス』が思い出します。 これはもしかして ...


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