カゴノヒト 第10話① 「火山龍の目覚め」
Added 2020-12-11 15:00:45 +0000 UTC■ あらすじ:拘束プレイ愛好者の十和野カゴメは、ある日自縛プレイのミスにより死んでしまう。その寸前、異世界の神によって加護を経て異世界転移を果たした。異世界で冒険しながらも、貰った加護で拘束プレイの追及に余念がないカゴメ。その周りには徐々にその意思に賛同する仲間が集まって行って――ありがちというにはあまりに異質な異世界冒険奇譚。
■ 本編は全体公開で連載していく予定ですが、それ以外で書きたくなった「おまけ」シーンは支援者様向けに公開予定です。そちらも合わせてお楽しみいただければ幸いです。
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その日、その街の主だった冒険者パーティとグループのリーダーがギルドに集められた。
当然カゴノヒトのリーダーであるカゴメもそこにやって来たが、彼女は車椅子に拘束されている状態だったため、あまり馴染みのない者たちからすると異様な姿であった。
遠巻きにされている彼女たちに話しかけるのは、すでに交友があって彼女のことをよく知っている者たちに限られた。
「やあ、カゴメさん久しぶりだね。相変わらずようで安心したよ」
カゴメがこちらの世界に来て最初に出会った、冒険者グループ『銀翼』のリーダーワジムがそう声をかける。
彼はギルドマスターからカゴメとの繋ぎを頼まれている関係もあり、車椅子に拘束された状態の彼女も知っていた。なので特に気にする様子はなく、普通に知り合いに声をかける調子で話しかけていた。
『お久しぶりです、ワジムさん。おかげさまで』
拠点内では窮屈な箱詰め完全拘束状態になっているのだが、外に出るときはまだ車椅子に拘束される状態で留まっている。そのため、変わりがないかといえば、順調に拘束度は増しているのだが、わざわざそれを口にすることはしなかった。
彼女の口には相変わらず開口具が嵌っているため、肉声ではなく念話でワジムに応えていた。なお、他の者の目もあるためか、ぽっかり空いた口内を晒したままにはせず、顔の下半分を覆う、暖簾のようなマスクを身に着けていた。ただその材質もラバー素材で出来ているため、吐いた息がそれにぶつかって水滴を作り、口から溢れる涎と同様に少しずつ垂れて落ちている。背後に控えるナギは定期的にタオルでそれらの水分を拭っていた。
そのためか、カゴメの着ているラバースーツは必要以上にテカっており、怪しげな見目が強調されている。
もっとも、ワジムはさすがに慣れたのかそれに関しても特に気にしていないようだった。
「急にギルマスから収集されるなんて驚いたよね……緊急、って割にはのんびりしてるし、何があるんだろう」
『ワジムさんもわからないのですか?』
「俺もまだそんなに長いこと冒険者やってるわけじゃないからねぇ。少なくとも俺の経験上ではほぼ全員集められたのは初めてかな」
そう話している二人の元に、また別のリーダーがやって来た。
「よう、カゴメ嬢。なんつーか、またえらくすごい格好してんなぁ」
「……どういう格好なんだい、それは……」
呆れ気味に声をかけてきたのは、冒険者グループ『三日月』のリーダー・リオルと、そのグループの魔法使いサマンサだった。
『リオルさん。サマンサさん。ご無沙汰しています。……今日はクルナエルさんは御一緒ではないんですね』
彼らのグループメンバーである斥候のクルナエルは姿が見えなかった。カゴメがそのことを尋ねると、リオルはうむ、と頷く。
「あいつは出かけててな。『三日月』は開店休業状態だ」
「私は魔法薬作ったりしてるけどね。あんたもたまには休んでたらいいのに、荷運びの仕事なんて受けてさ……」
「いや、だって身体動かしてないと不安になるし……」
気心の知れた者同士の仲の良いやりとりを聴き、カゴメは少し笑う。
『ふふっ……相変わらずの仲の良さで安心しました。あ、そうだサマンサさん。魔法使いのローブのデザインを取り入れて作ったラバーローブが――』
カゴメはかつてラバースーツをサマンサに着せようとして断れたことがある。
そのため、カゴメはラバースーツのデザインを凝って、様々な職種の者に着てもらえるような、特別なデザインのスーツをいくつか試作していた。
カゴメは勢い込んで話そうとしたが、タイミング悪くギルマスが現れて、注目を集めるために手を叩いた。そのため、真面目な日本人気質であるカゴメは沈黙せざるをえない。
サマンサがこっそり胸を撫で下ろしたのは、幸い誰にも気付かれなかった。
ギルマスはなぜか僅かに恨めしい視線を感じつつも、話を始める。
「来れる奴は全員揃ったみたいだから話を始めるぞ。急な招集に応じてくれて感謝する。皆忙しいから単刀直入にいうぞ」
普段豪快で適当なギルドマスターらしからぬ迅速な話の進めように、これは何かあると感じた冒険者のリーダーたちが居住まいを正す。
そしてギルマスの告げた言葉は、実際にそれに見合うだけのインパクトのある内容だった。
「近いうちに火山龍が目覚める、という報せがあった」
その言葉に、集まった冒険者のリーダーたちが一斉にざわめく。
一方、カゴメとワジムは思わず首を傾げた。
『火山龍……ですか?』
「俺も聞いたことないな……」
二人に対し、『三日月』のリオルとサマンサはそのことを知っているのか、苦い顔を浮かべていた。
「マジかぁ……あー、でも確かに周期的にはそうか」
「魔術師の間でもそろそろじゃないかとは言われてたけどねぇ……」
その二人の反応を見て、カゴメはナギに尋ねる。
『ナギさんは御存じでしたか?』
「存在自体は、有名です」
「え、そうなの?」
ワジムが驚き、さらに詳しい話を訊こうとしたが、それより先にギルドマスターが軽く手を打ってざわめく冒険者たちを鎮めた。
「火山龍のことを知っている奴も知らん奴もいるだろうから、一から説明するぞ。――あとは任せた」
説明するといいつつ、ギルマスはそういって傍に控えていたギルドの受付嬢に――ワジムの幼馴染でもあるエカテリーナに説明を丸投げする。
エカテリーナは溜息を吐きつつ、ギルマスの無茶ぶりには慣れているのか、説明を始めた。
「では説明させていただきます。疑問があればあとで質問に応じますから、とりあえず一通り説明が終わるまでは静かに願いますね」
冒険者たちが黙り込むのを待ってから、彼女は説明を始めた。
「まず大前提の話ですが……龍と呼ばれる存在はこの世界に数体しか確認されていません。魔物の一種とされることもありますが、基本的には災害や天災といった自然現象のひとつに数えられる存在です。そのうちの一体が、いま名前の出た火山龍です」
ちなみにワイバーンはワイバーンであり、この世界では龍とは呼ばない。
ワイバーンの分類は亜竜とされ、これは完全に魔物の一種だ。
「火山龍は過去の記録によると体長二千メートルを超える超巨大な存在です。その背にある火山のような突起からは火砕流が絶えず流れ出し、移動の際には経路の周辺を数十キロに渡って焼き尽くしてしまうとされています」
火山龍のことを良く知らなかった冒険者たちが大きくざわめく。
想像以上の災害っぷりに驚愕せざるを得なかったのだ。
「火山龍は一時的な活動期と、数百年単位の休眠期を繰り返す存在です。ここ数年のうちに目覚めるのではないかと言われていましたが、近日目覚めの兆候が確認されたということで、情報がこの街にも共有されました」
言いながら、エカテリーナはギルドの壁に張られている世界地図を示した。大雑把な国の区切りと大きな街の場所しか書き込まれていない地図だが、説明には十分だ。
「火山龍は恐ろしく強大な存在ではありますが、過去の記録上、移動する際には決まったルートしか通らないとされています。まず現在火山龍がいる場所ですが――」
エカテリーナは細い指示棒を出して来て、地図上の一点を指し示す。
そこには地図上でも「×」印が書かれていた。
「ここです。ちなみに次の進行ルートはこちらとされています」
指示棒の先端を北へと動かすエカテリーナ。
冒険者たちが火山龍の位置と進行ルートを確認し、小さくざわめく。ワジムが思わず質問しようとしたが、それを彼女は手で制した。
「皆さんの言いたいことはわかります。どちらも、この街からはかなり離れているように見えるでしょう」
実際彼女が示した火山龍の位置も、その予想される進行ルートも、この街からはかなり離れたところを示していた。その距離は地図上でもかなりのもので、火山龍が広範囲に影響を及ぼすとしても、とてもこの街に影響を及ぼすとは思えない。
「火山龍が直接向かってくるんなら、いまこうしてのんびりしてられねえよ。街を捨てなくちゃならなくなるからな」
「ですね。火山龍は天災そのものですから。とても討伐出来る存在ではありませんし、進路を変えることさえ難しいでしょう。ですが、いつか火山龍が目覚めて、移動を始めるというのは、昔から言われていることですから、基本的にその進行ルート上に街は作られません」
「まああまりにも休眠期が長いせいで、火山龍のことを知らないまま生きてる奴も多い。この中にも結構いただろ? カゴメは知らなくて当然だけどな」
カゴメは確かに、と内心思いつつ、元の世界でいつか起きるとされている大地震のようなものかと理解した。
(あちらでは情報網が進化していましたから、普段意識はしていなくても存在自体を知らない人というのは少ないでしょうけど……この世界では存在自体を知らない人がいてもおかしくないでしょうね)
狭い世界の範囲で生きていれば、知る機会もあまりないだろう。
村人出身のワジムが知らなくても無理はないことだった。
「話を戻そう。火山龍がいつか目覚めることはわかっていても、火山龍が生み出すエネルギーって奴はすげえ有用でな。それを当てにした奴らが火山龍の周りには住んでいる。実際いま火山龍が寝てる国は地熱を利用した温泉とか鍛冶仕事なんかが主な産業だしな」
『温泉……この世界にもあったんですねそういうの』
思わずカゴメはそう呟いていた。彼女はそういった温泉が至る所にある国で生まれ育ったため、自然とそれに馴染んでいる。
この世界には魔法があってお湯を被らずとも清潔さを維持出来るため、風呂の文化はさほど広まっていないのだ。
カゴメの呟きは加護によって響くため、彼女が意図せずともギルマスまで聞こえてしまっていた。うっかり『世界』と大きな括りをカゴメが口にしてしまっていたのを、誤魔化すようにその呟きに乗る。
「あー、この国にはそういうのあんまりないからなぁ。南の方にはあったか?」
「いえ、火山はいくつかありますが、いずれも休火山ですからね……温泉という存在はあまりないかと。温泉に入りたいなら、隣国に行くしかないかと思います」
「あっ、バカっ」
ギルドマスターが少し慌てたのは、もしもカゴメが温泉に拘りがあってそれに入りたいと言った時、隣国に流れてしまう可能性があったためだ。
ギルマスの立場からするとカゴメにはこの街にいてもらわなければならず、安易に他の国に行くことを薦めるようなことは御法度なのである。いくら基本的に転移者の意向が最優先だとしても、わざわざ行かせるようなことは避けるべきなのだ。
そのことを指摘され、青くなったエカテリーナ。
そんな微妙な空気を察し、カゴメはフォローを入れておくことにした。
『そこまで温泉に思い入れはないので大丈夫です。そもそも私はラバースーツは脱げないので、温泉に入っても気持ちよくはなれないですし』
安心させるためにそう言ったものの、旅行程度になら行きたい気もするカゴメであった。
「そ、そうですか。それなら安心……と、話を戻しましょうか。ともかく、火山龍の恩恵を受けて生活している方々も、火山龍が動くとなれば逃げ出さざるを得ません。火山龍が去っても影響は残りますから、そういう意味では離れなくてもいいのですが、火山龍が動く時の影響自体は危険ですからね」
「そういう奴らは、蜘蛛の子を散らすように逃げ出すことになる。そいつらもいつか火山龍が動き出すことをわかってそこに住んでいるわけだから、逃げ遅れるってことはない。ないんだが……」
一斉に多くの人間が動き出すというのは、それだけで大きな影響を生み出してしまう。
(なるほど……つまり、難民問題が発生すると言いたいんですね)
火山龍自体が影響を及ぼす範囲は、数十キロに及ぶ。
その影響を受けて動き出す人々の数は相当なものになるだろう。
地図上では火山龍から十分離れているこの街にも、平等に降りかかってくる問題であった。
「この街にも恐らく多くの流民がやってくる。そのうちの一部は移住を考えるかもな。どちらにせよ、いままでよりも多くの問題が起きることは間違いない」
そういってギルマスは本題へと話を進めた。
「そういうわけで、お前たちには色々とやってもらうことが増えるだろう。その認識共有のための招集だ。あとはもうひとつ……」
ギルマスの目は、カゴメの方を向いていた。
「カゴノヒトの扱いについても、改めて話し合っておきたくてな」
特殊な装備を扱うカゴノヒトは、最近は街に受け入れられつつある。しかし、まだ完全に溶け込めているわけではない。
新しい住民や流民が増えれば、混乱を生むことは必然だろう。
ギルドマスターの立場としては、下手な制限をかけ、カゴメが街を離れてしまうことは避けなければならないが、街の代表の一角として、混乱が生まれるのをただ見過ごすわけにもいかない。
彼はいい落としどころを見出せないか、考えていたのだ。
そんな彼の微妙な立場や考えを正確に理解したカゴメは、ここぞとばかりにいい笑みを含んだ声を響かせた。
『そういうことでしたら、私に妙案があります。私の故郷の言葉に、木を隠すのなら森の中、というものがありまして。それは要するに隠したいもの、誤魔化したいものがあるのであれば、似たようなもので周りを固めてしまうのがいい、という意味のことわざなのですが……』
その場にいたのは、ギルドマスターも含め、集団のリーダーやその補佐として、一定以上の思考力や判断力を持つ者ばかりだった。
だからこそ、カゴメがなにを言わんとしているのかを早々に悟り、頷いて感心したり、苦笑いを浮かべたり――サマンサは特に苦い顔をしていた――した。
そしてカゴメは大方のリーダーたちの予想通りの妙案を――奇策ともいう――口にする。
『ラバー素材の装備を多く配って、出来る限り多くの人に身に着けてもらうのがいいかと思います』
そう口にした彼女の声は、顔は見えないのに満面の笑みだということがよくわかる弾んだ声音をしていたという。
第10話②につづく