カゴノヒト 最終話① 「加護の人・トワノカゴメ」
Added 2020-12-21 14:38:42 +0000 UTC■ あらすじ:拘束プレイ愛好者の十和野カゴメは、ある日自縛プレイのミスにより死んでしまう。その寸前、異世界の神によって加護を経て異世界転移を果たした。異世界で冒険しながらも、貰った加護で拘束プレイの追及に余念がないカゴメ。その周りには徐々にその意思に賛同する仲間が集まって行って――ありがちというにはあまりに異質な異世界冒険奇譚。
■ 本編は全体公開で連載していく予定ですが、それ以外で書きたくなった「おまけ」シーンは支援者様向けに公開予定です。そちらも合わせてお楽しみいただければ幸いです。
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火山龍が目覚めたという情報が齎された日、街は蜂の巣を突いたような大騒ぎに包まれた。
火山龍が目覚めることはあらかじめ予測されていたのに、なぜいざ目覚めたら大騒ぎになってしまったのか。
その理由は、火山龍の進行ルートが想定と大きく異なっていたためである。
結果として進行そのものに影響は受けないとされていた地域が、火山龍の脅威に晒されることとなり、それはその街も同様だったのだ。
情報自体は混乱を避けるために街の上層部にしか共有されていなかったが、その上層部が事態に対処するため、情報は伏せたまま身内や配下の者に命じて動き始めた結果、街全体が慌ただしい空気に包まれたというわけだ。
情報が手に入らない一般の町民たちも、『何かが起きた』ことだけはその空気から感じ取り、言いようのない不安に陥っていた。
街が全体的に騒がしくなったその日。
カゴノヒトの拠点にやってきた冒険者ギルドのマスターは、秘書に広げさせた地図を示し、カゴメに向かって直々に状況の説明を行っていた。
内容が極めて重要であることを受け、カゴメはカゴノヒトの重鎮メンバーである、シャーティ・ナギ・マリエッタの三名を同席させている。
カゴメを含んだ四人に対し、ギルドマスターが「これから話すことはまだ一般の町民には秘密だ」と前置きして語ったのが、目覚めた火山龍の進路が予想と違い、その影響をこの街も受ける、というものだった。
豪気な気質で知られるギルドマスターも、未曾有の事態に焦燥感を覚えているようだった。
「つーわけでな。とんでもなくやっかいなことになっちまった」
『やっぱり、そうなりましたか……』
本人が詰められている箱の側面に浮かびあがっているカゴメの顔が、憂いを帯びた様子で溜息を吐く。
なお、ギルドマスターは報告こそ受けていたものの、そのカゴメの姿を直接見るのは初めてだった。最初はぽかんとあっけに取られていた彼だったが、状況もあっていまはすっかりそのカゴメとの対話も普通にこなしている。
彼はカゴメの「そうなると思っていた」と言わんばかりの反応に、訝しむ目を向けた。
「まるでこうなることがわかっていたみたいに言うんだな。……まさか、何か知っていたのか?」
そのギルドマスターの問いに、カゴメは首を横に振る。
『いいえ。知っていたわけではないのですが、いままでこうだったから大丈夫、という経験則が覆されるのはよくあることですから。何百年周期の話ならなおさらです』
カゴメは地震を始めとした災害大国の出身であるため、そういった心構えが出来ていた。普段から災害というものはいつかはわからないが必ず起きるものである。
そして災害とは大抵が「前回はこうだったからこの対処で次も大丈夫だろう」という予測を超えてくるもの、という認識があるのだ。
まして火山龍は災害扱いされるとはいえ、生きているものだ。今までと何かが違うことが起きても不思議ではないと半ば確信していた。
ただ、そういった危険予測はカゴメだけの専売特許ではない。
『ギルドマスターの方こそ、こうなるかもしれない、と思ってはいらっしゃったのでは? 焦ってはいても慌ててはいないように思えます』
「まあ、な。出来ればこうなって欲しくはなかったんだが、可能性としては一応考えてはいたさ」
見込みの甘い奴はマジで慌てふためいていやがったが、とギルドマスターは毒づく。そういった者が慌てて人を動かしてしまったことで、一般の町民にも「何かがあった」と勘づかれて不安が蔓延しているのだから、毒づきたくもなるのである。
元々冒険者は未知の危険に対応することが多い職業だ。
駆け出しの者ならともかく、ギルドマスターになれるほどに経験や知識を蓄えてきた彼が多少の「予想外の出来事」に慌てふためくことはない。ある程度とはいえ、予想出来ていた事ならなおさらだ。
予定とは違う状況になったことで忙しく動き回る必要はあるものの、精神的にそこまで慌てることはないのである。
『それで、具体的には、火山龍はどういった進路を取っているんですか?』
カゴメに促され、ギルドマスターは地図の上に指をまっすぐ走らせた。
その指先は予想されていた進行ルートを大幅に外し、カゴメたちのいる街のかなり近くを通っていく。
「幸い、この町は進行ルートそのものからは外れてる。ただ、噴石や火砕流の影響は避けられない距離だ。壊滅的な被害を被るだろう。火山龍に地形は関係ねえから、急に進行ルートを変更することは考えなくていいはずだ。実際、いまのところは山も川も谷も関係なく、愚直に直進を続けているそうだ」
それでも生物である以上は急に進路変更をする可能性は捨てきれないが、そこまで考えると逃げる範囲が広すぎてどうしようもなくなるため、あえてその可能性は除外されていた。
『……国はどう対処すると?』
「対処も何もない。進行ルートにもろに被ってる町や村の緊急避難が進められてる。火山龍の討伐は現実的にほぼ不可能だ。やるとしたら国の総力をあげた大作戦になるし、ただ歩いているだけでこの危険レベルの相手を、針で突けばどうなるかは考えたくもねえ」
確実に殺せる手段があるのなら話は別だが、火山龍の生命力や耐久力は未知数である。まかり間違って手負いに出来たとして、ただでさえ驚異となる力を怒りと共に周囲に振りまかれれば、冗談抜きで国は滅亡するだろう。
もしも火山龍が人を敵と見なし、手当たり次第に襲いかかるようになれば人類存亡の危機にさえなる。軽々に手を出すことは出来ないというのが、この国だけでなく世界中の国の総意であった。
「まあ、個人レベルの阿呆が勝手に手を出せる規模の相手じゃないというのが幸いだな。国宝レベルの魔法具でもない限り、近づくだけで高温に焼かれ、まともに攻撃を当てることもできないからなぁ」
『火山龍がどこに向かっているかの見当はついているんですか? 大きな火山があるとか逆に湖があるとか……』
「それなんだが、目立った目印みたいなもんはない。だが、この国がそうであるように火山龍の向かおうとしている方向にはむしろ活火山は少ないんだ。これまでの進行ルートでは火山地帯を進んでいたんだがな。……今回のことから、むしろ逆だったんじゃないかという話が出ている」
『……火山があるところに火山龍が向かっていたんじゃなくて、火山龍が歩いたからそこが火山地帯になったと? つまり、火山龍は火山に惹かれるのではなく、むしろ火山龍こそが火山を生み出す要因なのではないか、とそういうことですか?』
「そういうことだ。まあ、まだ仮説だがな。数千年前の移動の時にどうだったのかが分かればもう少し詳しく推測できるのかもしれないが、さすがにそれくらい前の話になると、長命種族の奴らでも中々覚えてないんだ」
いまほど世界の観測が進んでいなかったこともあり、火山龍が火山地帯を歩いていたのか火山龍が歩いた跡に火山地帯が出来たのかハッキリとしないのだ。
火山龍の行動が何に基づいて行われているのか、それが真に判明するのは火山龍が休眠して、次に動き出したときだろう。
そんな未来のことを考えても仕方ないため、カゴメとギルドマスターは話を元に戻す。
『それで、話はわかりましたが、ギルドマスターが私のところに直々に来てくださったのはなぜですか?』
お忙しいでしょうに、とカゴメは嫌味ではなく純粋に疑問を向けた。
カゴノヒトは確かに重要なパーティかもしれないが、他にもやることが山のようにあるであろうギルドマスターが優先して説明に訪れるほどかといえば、そうではないだろうとカゴメは思っていた。
実際は、それをおしてでも優先するべき存在だ、とギルドマスターに認識されているのだが。
「話は簡単だ。この街は壊滅的な被害を受ける。火山龍そのものが直撃しなくとも、噴石や火砕流は普通に到達しうる距離だ。量や頻度によってはすべてが燃えるとまではいかないかもしれないが、いく可能性も十分にある。いずれにせよ街の大半の機能は失われ、ほとんどの住民は移民となって散り散りになるだろう」
懇々と話すギルドマスターが何を言いたいのか、カゴメは悟った。
『……あ。もしかして私たちが移住することを危惧されておられるのですか? ……確かに、これを機に別の国に行くという選択もできますものね』
自ら国を出て行こうという気持ちこそなかったものの、状況の変化によってそうしてもおかしくないとなれば、カゴメがこの国に縛られ続ける理由はない。
ギルドマスターや国は彼女をこの街に留めようと様々な優遇措置を取ってきたが、その基盤となる街そのものがなくなってしまうのであれば、この国にカゴメが縛られる理由はなくなるためだ。
(そこまで薄情者だと思われていたのでしょうか……? ……いえ、違いますか。当初私がギルドマスターに『冒険がしたい』と話したこともありますが……おそらくギルドマスターがそのこと以上に危惧しているのは、他所の国がどさくさに紛れて私に働きかけて来ていないか、ということでしょう)
大まかに予想は出来ても、誰の予定にも無かった非常事態だ。この混乱に乗じて火事場泥棒が如くカゴメに働きかけてくる可能性は高かった。
「ふぅ……俺は駆け引きが苦手だから正直に話すぜ。お前が思っている以上に、いまお前の価値って奴は高くなってる。少し前までは……『木を隠すには森』作戦を実行するまではここまでじゃなかったんだがな。あれで一気にお前の価値は跳ね上がった」
カゴメの生み出す装備を、出来るだけ多くのメンバーが着るようになって、この街の冒険者のレベルは飛躍的に上昇し、殉職者や取り返しの付かない負傷をして引退する者が大幅に減っていた。それどころか、『三日月』を筆頭に多くの冒険者グループが大きな成果をあげるようになり、カゴメの存在は彼女が想像している以上に大きくなっていたのだ。
冒険者が成果をあげるということは、街が潤い、それは突き詰めていけば国の利益にもなる。いわばカゴメは手放しがたいドル箱であり、何を置いてでもまず彼女の確保に動かなければならなかった。
「無論、お前が望むのなら、それを俺たちが制限することは出来ない。それはそれで転移者の取り決めに反するからな。だが、もしも――」
『大丈夫ですよ、ギルドマスター』
カゴメはギルドマスターの言葉を遮った。
『難しい立ち位置にあると思いますが、正直に話してくださってありがとうございます。ご安心ください。私は皆さんと繋がったこの街を去る気なんてありません』
彼女にとって、多くの絆を育んだ街なのだ。時には呆れられたり時には引かれたりされつつも、なんだかんだ最後にはカゴメの特殊な性癖を受け入れてくれたこの街に、彼女は大きな愛着を持っていた。
そのことを改めて知ったギルドマスターは喜び――ふと、その首を不思議そうに傾げた。
「移住する先の街をこの国の中にしてくれればそれで良いんだが……? お前と親交のあった連中はなるべく同じ街に移住させるようにするし」
『それではいけません』
ギルドマスターの言わんとすることは理解しつつも、カゴメは首を――実際には振っておらず映像の中でしかないが――横に振って否定する。
『街とは、人だけが全てではありません。この土地や全ての人があってこその、街です。知人だけ私の都合に合わせて移動しても意味がありません』
実際、強権や特権を使ってカゴメに関わった者たちを別の街に丸ごと移住させることは可能だろう。国がカゴメを手放したくないと考えている以上、それくらいのことは出来る。
だがそうした無理な移住は歪みを生む。移住先の町人との軋轢も生じるだろうし、結局カゴメが大切にしたいものは壊れてしまいかねない。
だからカゴメはそう宣言する。
『この街そのものを、私が護ります』
自身の完全なる拘束を持って、街を覆う規模の最大級の加護を生む。
それが出来ることを――『忘れられた拘束姫』のことを調べていたカゴメは確信していた。
最終話②につづく
Comments
コメントありがとうございます! ……さては未来視の加護持ちですな?ーwーウム
夜空さくら
2020-12-22 14:20:02 +0000 UTC永久封印されると思われるほど強い拘束で人柱になる予感しかしない
はやて
2020-12-21 15:42:57 +0000 UTC