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カゴノヒト 最終話② 「加護の人・トワノカゴメ」

■ あらすじ:拘束プレイ愛好者の十和野カゴメは、ある日自縛プレイのミスにより死んでしまう。その寸前、異世界の神によって加護を経て異世界転移を果たした。異世界で冒険しながらも、貰った加護で拘束プレイの追及に余念がないカゴメ。その周りには徐々にその意思に賛同する仲間が集まって行って――ありがちというにはあまりに異質な異世界冒険奇譚。


■ 本編は全体公開で連載していく予定ですが、それ以外で書きたくなった「おまけ」シーンは支援者様向けに公開予定です。そちらも合わせてお楽しみいただければ幸いです。

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 火山龍の目覚めから数日。

 その進撃はいかなる地形に差し掛かろうが全く変化することなく、ありとあらゆる障害を無視して、淡々と一定の速度で続いていた。

 一足踏み出すごとに大地が揺れて地割れが広がり、周囲にを無差別に破壊していく。

 巨大である、ということはそれだけで驚異となる。踏みしめた大地から粉塵が巻き上がり、数十メートルはある大木がまるで木の葉のように舞い上がった。

 さらに火山龍はその名の通り炎を帯びているため、その身体に触れたものは発火し、煙を上げて燃え上がっていた。川に差し掛かるとその身体に触れた水が一瞬で蒸発し、水蒸気爆発を引き起こして白い煙を立ち昇らせるほどだ。

 火山龍が歩く道のりに沿って、大火災が発生する。

 それだけでも甚大な被害ではあるのだが、幸いというべきか、火山龍によって齎される火災はそれ以上に延焼することはなく、すぐに鎮火していた。

 物理的に燃えているのではなく、魔法的な影響によるもののためだ。もしその炎が普通の火災と同じように燃え広がっていたら、その被害を齎す範囲は途方もなく広がっていただろう。

 ずんずんと進撃していた火山龍が、不意に地鳴りのような咆哮を行う。

 するとその背中から突き出している火山のような突起から、大量の溶岩のようなものが噴出する。それは火山龍の周囲に広がり、触れたものを発火させて被害を拡大させていった。

 溶岩を噴き出した突起物は、噴石のような固形物も同時に噴き出していた。溶岩のようなものを纏って空高くに舞い上がったそれは、周囲へと落下していく。

 固形物は落ちたところで爆散し、より広範囲に多大な破壊を齎していた。

 その絶対的な破壊の力は自然も人工物も何も関係なく、ただ蹂躙して通り過ぎていく。


 火山龍が進撃する様は、抗いようもない自然現象が正しく具現化したかのようで、その光景は地獄の釜の蓋が開いたかのような、恐ろしいものだった。





 遠目からでも十分にわかる被害の大きさに、思わず溜息が出てしまいました。

 こうして遠目に見る分には雄大で、感動すら覚える姿ではあるのですが、その結果齎されているであろう周囲の被害を考えると少し顔を顰めてしまいます。

「あれが火山龍、ですか。なんともすさまじいですね……四つ脚での歩行といい、背中に飛び出した突起上の火山といい……あの有名な怪獣よりは、ステゴサウルス、みたいな形が近いでしょうか。力強さは遙かに上ですが……」

 噴煙が巻きあがるのが見えてしばらくしてから、地響きのような音が私がいる場所にも届きました。

(確かにあれに抗おうというのは無謀ですね。対処するより逃げる方向で考えるのは妥当な判断といえるでしょう。進路からはこんなにも離れているのに、熱気が……)

 これまでにもファンタジー世界らしい生き物を見たことはありました。

 しかしああまで規格外の存在を目の当たりにすると、改めて違う世界に転移してきたのだなという実感が湧いてきます。

 いまさら、と思われるかもしれませんが。

(まあ我ながらほとんどの時間、感覚を封じていましたからね……さもありなん、というところですが……)

 しみじみと考えていると、すぐ近くに立っていた用心棒のナギさんが、心配そうな顔で車椅子に座っている私の顔を覗き込んで来ました。

 基本的にナギさんは口数少なく、表情も乏しい方なのですが、さすがに数か月一緒に行動していれば纏う気配でなんとなく言いたいことがあるのはわかります。

 これから私のすることに対し、心配してくださっているのです。

 そのナギさんはラバースーツ……というか、ライダースーツに近い形状のスーツを身に着けています。純粋なライダースーツに比べると、少々身体のラインが強調され過ぎの、私の趣味が幾分か入ったデザインになっていますが。

 普段ナギさんが街で身に着けているぴっちり型のスーツに比べると、全体的に厚みがあって丈夫そうな印象を生み出していました。

 それは、激しい戦闘が予想される時のための、ナギさん専用の戦闘装備なのです。

 拠点で発揮される私の加護の影響で、ナギさんの手はほとんど再生していましたが、まだ完全に再生してはいないため、それを補うための加護を宿してあります。

 私の傍らにナギさんが控えてくださっているのは、火山龍に棲み処を追われて逃げている魔物たちへの対処のためですが、馴染みの深い彼女の存在は私の緊張も楽にしてくれていました。

 自分で言い出して決めたことではありますが、少々緊張はしていたのでナギさんの存在はとてもありがたいものでした。

 ナギさん以外にも、たくさんの冒険者の皆さんが、私の周囲に集まって陣を敷いてくださっています。

 私が現在いるところは、街から少し離れた小高い丘の上です。

 その方向に火山龍の進行ルートがあり、放っておけばそちらから飛んでくる噴石や流れてくる溶岩によって、街の大部分が焼失してしまうでしょう。

 私はこの丘を起点に、加護の壁を生み出して火山龍の影響を街に与えないようにするつもりでした。

 街の中心を起点にドーム状に加護を発生させることも検討はしたのですが、街の周囲の田園地帯が焼かれてしまっては、街そのものが助かっても再興は難しいだろうとのことでした。

 かといって田園地帯まで全てを覆うほどの加護はさすがに私一人の代償では難しいので、範囲を絞る必要があります。もしかすると、幾人も『人柱』を建てれば全てを覆った加護を発動させることも可能かもしれませんが――そのことは私の胸の内に秘めておくことにしています。

 私一人の代償で可能と考えられたのが、一枚の大きな壁を立てるように加護を発生させ、火山龍から受ける影響を最小限に抑える方法です。火山龍は不定期に溶岩や噴石を噴き出すので、どの程度の影響を受けるかは運によるのですが。

(とはいえ、楽観して護り切れないなんてことになっては意味がありませんから……もとより、最悪を想定するべきですよね)

 この作戦には、ナギさん以外にもたくさんの冒険者の皆さんが関わってくださっています。逃げてくる魔物の中には強力な魔物も想定されていて、相当な危険が予想されているのですが、志願者はかなり多かったようです。

 街を捨てなければならなかったところ、そうしなくても済む可能性があるのならと、皆さんおっしゃってくださいました。

 最悪を想定して、他の街の人たちには出来る限り避難してもらっていますが、中には街に残って私たちの後方支援を行ってくださっている方もいるそうです。

 誰しも、慣れ親しんだ街を失いたくはないでしょう。火山龍の進行ルートに直撃してしまった街はともかく、進行ルートからある程度離れている街では危険を承知で残ることも多いと聞きました。

(移住出来る人も、自分だけ逃げられても意味はないでしょうしね……)

 比較的フットワークの軽い冒険者の方々とて、街が危機だからといってそう簡単に街を捨てられるわけではないのですから。

 街を構成しているのは冒険者の方々だけではありません。冒険者の身内の方や懇意にしている方々も多いはずです。そしてそういう方々は、街から逃げるのであれば流民となるしかありません。

 今までの生活の全てを失い、また別の街で一から始めなければならないのです。

 今回に関しては火山龍という天災によるものですし、国も色々と動きはするでしょうけど、すべての人がいままで通りの生活を送れることはまずありえないでしょう。

 かつて私がいた世界でさえ、そういったことはままあることでした。制度的にも風土的にも、近代的とはいえないこの世界ではなおさらです。

 そんな立場的に弱い人たちの暮らしを、日常を護れるのならば。

 ここに集った冒険者の皆さんは、そういう想いで戦うことを選んでくださったのだと思います。そんな皆さんの存在に胸が熱くなりますが、それと同時に責任の重さも感じます。

「……責任、重大ですね」

 これまで、私は自分がやりたいように、欲望のままに突き進んできた自覚があります。

 カゴノヒトの仲間たちのことはともかく、いまのように多くの人の命運を背負うことになるとは、正直思ってはいませんでした。

(あるいは、そういう事態に身を置くことになるのが、転移者の宿命ということかもしれませんね……あの神様がそういう風に仕組んでいるとまでは思いませんが……)

 深呼吸をして緊張を落ち着けていると、ナギさんが私のすぐそばにしゃがみ、そっと私の手を握ってくださいました。ラバー越しでは体温も感触もほとんどわからないのですが、私は確かにナギさんの暖かさを感じました。

 口下手なナギさんなりに、気遣ってくださっているのです。その想いが何よりもありがたく感じます。

「ありがとうございます、ナギさん」

「……ん」

 黙って頷くナギさん。ナギさんのおかげで、少し気が楽になりました。

 そうしているうちに、冒険者の皆さんの指揮を取っていらっしゃったギルドマスターが、私の傍にやってきました。

「カゴメ、陣は敷き終わった。いつでも始めてくれて大丈夫だ」

「お疲れ様です。ありがとうございます」

 私がそう言って頭を下げると、ギルドマスターは何とも言い難い表情で、私の顔をまじまじと見つめてきました。

「……拠点に行った時に、映像で顔は見てたが……素で見ると、また印象が違うな」

 現在、私の首から上には何も拘束具がついていません。

 目隠しも、全頭マスクも、口枷も。全て外れていました。

 本来、神様から頂いた加護の制約上、私は拘束具を外すことが出来ません。

 一方で、私が作った加護の品を身に着けた方々は、条件を満たせば外すことが出来ます。

 例えばマリエッタさんのラバースーツは、外せない時間を過ぎれば普通のラバースーツと同じように自分で脱ぐことが出来ますし、シャーティさんが身に着けている首輪も自分では外せませんが条件さえ満たせば外せるようになっています。

 私の場合は、同じ装備を身に着けても、『より強固に拘束される別の装備品』に付け替える形でしか取り外すことが出来ないのです。

 ならばなぜいま首から上だけとはいえ、拘束具が完全に外せているのかというと、いまはすでに『より強固な拘束具に付け替えるための準備期間』であるためです。

 いわば制約の穴を突いた、裏技のようなものです。

 あまりこういうやり方は好きではないのですが、完全拘束状態に成ってしまう前に、その原因となる火山龍の姿を生で見ておきたかったのです。

 今回だけは、その裏技を使うことを自分に許していました。

 結果として、いままで散々一緒に時を過ごしてきたカゴノヒトのメンバーや、『銀翼』や『三日月』の皆さん、お世話になった街の皆さんとも、最後に直接顔を合わせて挨拶することが出来たのですから、良しとします。

 ギルドマスターもそのうちのひとりではあるのですが、男性にまじまじと顔を見られ、私は少し恥ずかしくなってしまいました。

「そう注目されると、さすがに恥ずかしいのですが……」

 顔が赤くなっているであろうことを誤魔化すために、苦笑しながらそういうと、ギルドマスターは目線を泳がせてしまわれました。

「おっと……すまん。不躾だったな」

 頭を掻きながら申し訳なさそうに謝ってくださいました。

 気を取り直して、私はギルドマスターに伝えます。

「それでは、始めていきたいと思います。ギルドマスター、事前にお願いしたことは、くれぐれもよろしくお願いしますね」

 そう告げると、ギルドマスターは真剣な表情になって頷きます。

「もちろんだ。ギルドマスターの名誉にかけて、カゴノヒトと交わした盟約は未来永劫守ると約束する。今後もし冒険者ギルドの体制が変化することがあっても、お前との盟約は引き継がれ、守られていくだろう」

 大きな声でギルドマスターは改めて宣言してくださいました。

 ちゃんとした書面でも契約は交わしていますが、周りに人がいる状況でそう宣言することで、より強固にその制約を守るという意思を示してくださったのです。

 色々と豪快な采配で有名な方ではありますが、そういう細やかな心遣いも出来るのだと安心することが出来ました。

 私はギルドマスターに御礼を言ったあと、ナギさんに声をかけます。

「それではナギさん。後のことはよろしくお願いしますね」

「……お任せください」

 なにか言いたげな様子もありましたが、結局ナギさんは何も言いませんでした。

 これまでずっと、彼女を振り回してしまっていました。傷が癒えれば自由になってもらうつもりでいたのですが、結局ナギさんは今後もカゴノヒトに所属し、動けなくなる私の代わりにカゴノヒトを護ってくださることになっていました。

 元々傷が癒えたあともずっと所属するつもりだった、とは言ってくださいましたが、急な決断を迫ることになってしまい、少々申し訳ない想いもあります。

 シャーティさんやマリエッタさんもいらっしゃいますし、そう負担になるばかりではないと信じたいですが。

 私はそんな想いを抱きつつ、自分に宿った加護の力を解放し、一時的に待機状態にしていた『完全拘束具』の装着を再開します。

 指先ひとつに至るまで。感覚の全ても。

 ありとあらゆる自由を放棄する、完全拘束へと至るように。


「それでは、拘束を開始します――」


 私は自分の加護を全力で自分に向かって使用しました。

 車いすに縛り付けられていた私の身体が、すべての拘束具から解き放たれます。

 一時的にラバースーツもなくなり、私は生まれたままの姿を衆目に晒してしまうことになりました。基本的に皆さんは前方を警戒してくださっていましたが、戦闘が始まっていないところにいる方などはこちらを見ることも出来ます。

 拘束具を身に着けた姿を晒すのは全く恥ずかしくなかったのですが、素っ裸を晒すのは全く別の感覚です。さすがに恥ずかしくて仕方ありません。

 しかし私は直立不動の状態から両腕を左右にまっすぐ伸ばした姿勢で動けなくなっていました。不思議な力が、私をその体勢で空中に縛り付けているのです。

 ちょうど十字架に磔にされているような感じでした。

(あとで変な伝説にならないといいのですけど……)

 元の世界で一番有名な聖人であろうあの人のように、この世界で自分がそう扱われはしないかと少し不安になってしまいました。それこそ『忘れられた拘束姫』みたいに語り継がれるとしたら。

 聖人として何かのレリーフに使われたり、銅像みたいなものを建てられたりすることのないように祈ります。

(そうなったら、恥ずかしくて仕方ありませんからね……)

 一応、そういうことはしないようにとギルドマスターにはお願いしてありますが、人の口に戸は立てられないように、勝手に逸話として広がってしまうのは止められません。

 そんなことを私が思っている間に、加護による拘束は始まりました。

 手足の先から黒いものが身体を覆い始めます。ラバースーツのような形で両手足の色が代わり、覆われたところが締め付けられているのを感じます。

 スーツの指先は分かれておらず、指先までまっすぐ伸ばした状態で全く動かなくなっていました。指を開くのはもちろん、曲げることも難しくなっていきます。

 ラバースーツは私の身体を覆い、ひとまず首でその止まりました。薄いラバースーツとはいえ、透けはしませんでしたが、ぴっちりと身体に張り付き、私の身体の凹凸をはっきりと浮かび上がらせています。

 乳首もばっちり浮かび上がってしまっていることでしょう。私は拘束に慣れていますから、乳首が立っていることは間違いありません。

「……っ、んっ!」

 まっすぐ横に伸ばしていた両腕が、急に後ろに引っ張られます。腕は軽く捻りながら折りたたまれ、両手の掌同士を背中側で合わせる、いわゆる合掌縛りの形になります。

 手の先から肘に至るまで、ラバースーツ同士が癒着して、ぴったり合わせた状態で動かせなくなりました。それだけでも十分な拘束感だというのに、両腕の手首と二の腕を合わせた形で金属の枷が止めてしまいます。

――バチンっ。バチンっ。ミシミシッ……

「く、ぅ……!」

 両腕を固めた枷は、さらにその枷から連なるように枷を展開し、私の胴体を、乳房の上下を絞り出すように横断して来ました。

 孫悟空の頭を締め付ける金冠のように、私の身体がその金属の枷によって引き絞られ、息苦しいほどの拘束感を与えて来ました。

「は、ぅ……っ!」

 まだ腕と上半身だけしか拘束されていないというのに、私は思わず呻き声をあげていました。腕は指先に至るまで、数ミリたりとも動かせない状態になっていました。

 普通の人であれば、身体がひしゃげるほどの締め付けられる感覚に身悶え、悲鳴をあげ、悶え苦しむことでしょう。

 ですが、私はもちろん、そこに苦痛を感じるばかりではなく。

(ああ……まだまだ、これからが本番……ですのに……♡)

 むしろずっと拘束状態にあったことで、薄れかけていた拘束の実感が一度解き放たれることで復活し――改めて、激しい快感を覚えてしまっているのでした。



最終話③につづく



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