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夜空さくら
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羽桜ちゃん、不良少女にお仕置きする 後編

■ 異世界から転生してきた元魔王にして覇王である『万江刃羽桜』は前世の力をほぼそのまま振るえます。それを用いて彼女がしているのは――周囲の変態的な願い事を叶えること。人間の性的多様性と限りない欲望を、時にドン引きしながらも叶えてあげているお話しです。

■ 半分くらいエロくはありませんが、書きたかった部分を書くことが出来ました^w^ お付き合いくださりありがとうございました!


■ コメントなどで「羽桜ちゃんにシテ欲しいこと」を書き残していただけると、場合によっては羽桜ちゃんが叶えます。緩いリクエスト受付みたいなものですが、必ずしも採用されるわけではないので、そこはご了承ください。羽桜ちゃんに関してはツイッターでも色々呟いていますのでそちらもどうぞ→https://twitter.com/yozorasakura

■ このシリーズは支援者様のみになったり、全体向けに公開したり、その時の内容によって変えようと思っていますので、あらかじめご了承くださいーw-ペコリ

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 体を動かす度に、ミシミシ、ピチピチ、と音が響く。

 それがとても恥ずかしくて仕方ないのに、あたしはいつものように学校に向かっていた。足取りも重く、いつもより時間をかけながら通学路を歩いていく。

「おっはよー!」

 途中、仲のいい友達が、いつもみたいにあたしの背中を叩いて挨拶をしてくる。

 いつもなら単なる悪ふざけで済むけれど、いまのあたしにその刺激は強すぎた。

「ングゥッっ!」

 全身に伝播した衝撃に、呻きながらしゃがみ込んでしまった。

「はわっ!? だ、大丈夫!?」

 いきなりあたしが蹲るとは思っていなかった友達は、慌ててあたしの側に膝を突いて心配してくれる。

 認識阻害の魔法によって、どんな態度を取っても自然なこととして認識される。

 とはいえ、それはあくまで態度とか呻き声とかに関してのことなので、蹲るなどの体勢が大きく変われば、それは認識されてしまう。

 そしていくら気分が悪いのかと心配されても、彼女にあたしの状態は決して伝わらないから、あたしは無理を押して立ち上がった。

「んぅ、んうぅ……」(だい、大丈夫……)

「そう? ……いきなりしゃがみ込んだらびっくりするでしょー」

「んぅう、んぅう」(ごめん、ごめん)

「学校だるいよねぇ-。今日は小テストもあるしさー」

 何事もなかったように、何事もないかのように、話し始める友達。

 あたしはそれに頷きを返しつつ、やっぱり気付いてもらえないことに諦めにも似た空しい気持ちを抱いた。

(うぅ……助けてもらうことも出来ない……)

 あたしは身体を揺すって、身体を締め付けてきているそれらの存在を改めて実感した。

 もう何度暴れてみたかわからないけれど、あたしの身体を戒めている拘束具は、何一つ緩んではくれなかった。


 あたしはいま――肌が見えている場所なんてひとつもないくらいに厳重に、拘束されていた。


 頭部は目隠し、耳栓、口枷、鼻フック、首輪、そして全頭マスクと、目に見えるだけでも酷く厳重に拘束されている。

 その上、口枷には中央に中途半端に穴の空いた、胃まで到達する張り子が嵌め込まれていて、あたしに常に窒息寸前の苦しみと吐き出したくなる嘔吐感を味わいさせ続けていた。

 嘔吐感に関しては一晩苦しみ藻掻いた結果少しは慣れて来たけれど、ちょっとした動きが辛いことに変わりはない。

 首に巻かれた首輪は太くて硬く、ただでさえ張り子のせいで苦しいのに、外からも常に首に手をかけられているような苦しみを生じさせていた。

 肌も、髪型も、目すらも見えないから、あたしがあたしだということもわからないだろう。ただの黒い人の頭部があることがわかるだけだ。

 それでもいまさっき友達が後ろから声をかけてきてくれたことからもわかるように、あたしだということは不思議と皆わかっている。

 これらの拘束はあたしが見たり聴いたり嗅いだりすることを邪魔しないように、周りからの認識も邪魔しないのだ。

 あたしは目も見えるし、耳も聞こえるし、匂いも嗅ぐことができるし、口の穴を使えば食事すら取れる。

 それと同じように、あたしがあたしであるという要素をなにひとつ認識できなくても、周りの人間はあたしだとわかるのだ。

 一体どんな原理なのかはわからないけど、魔法があるくらいなんだから何でもありなんだろう。

 あたしはこの超常現象に、すっかり諦めの境地で接するようになっていた。

 というか、抗っても仕方ないし。

(でも……頭だけでもキツいのに、体までこんな風にすることないじゃん……)

 徹底した拘束は頭だけじゃなく、身体の方まで及んでいた。頭部に負けず劣らず、徹底的な拘束を施されていた。

 まず腕。

 腕は後ろに回してコの字型になるように太いベルトのような拘束具で拘束されている。手の先は指がわかれていないグローブのようなものを被せられ、掌が自分の肘に沿うように固定されている。あたしは指先を使うことも出来ず、身体から腕を離すこともほぼできなかった。

 腕はまともに使えないのだけど、日々の生活はまともに送れるようになっていた。

 不思議な力で、物を持とうと思うと意識するだけでそれが浮かびあがって思い通りに動かせるのだ。腕を動かしているつもりでイメージすれば、普通なら届かない位置にあるものも動かせるし、本来のあたしだと重くて持てないようなものも持つことが出来た。

 思考で動かす高性能な義手を動かしているイメージだ。

 正直これに関しては便利な面もある。イメージ次第では普通の腕じゃ出来ないことも出来るからだ。もっともそれぞれ別の動きをさせると頭がこんがらがって、わけがわからなくなるので、単純作業くらいしかできなかったけれど。

 拘束具の話に戻ろう。胸にも拘束具は取り付けられていた。

 それは、一言でいえば金属製のブラジャーのようなものだ。

 その中にあたしの乳房は完全に閉じ込められていて、腕の代わりに作用する不思議な力もその中までは影響を及ぼさなかった。

 なのに、なぜか底からは常に揉まれているような感覚が生じていた。

 ちょっとじっとしていると、細かく小さく胸が揉まれているのがわかる。そしてその刺激によって硬く尖がったあたしの乳首には、摘ままれているような感覚が生じていた。

「ぅう……っ」

 ぴりぴり、と行くほどではないけれど無視できない刺激が常に胸を襲い続けている。

 上半身はそんな感じで、ほとんど自由がない。

 腰には昔の海外の女の人がつけていたような、コルセットが巻かれていて、腰を折らんばかりに締め付けてきていた。

 常に内臓が締め付けられているような、緩い苦しみが生じている。

 腕が固定されていることと、そのコルセットがあるせいであたしは身体をほとんど曲げることが出来ず、背筋をぴんと伸ばした状態で居続けなければならなかった。普段そんなに姿勢が良くなかったあたしにとって、これは地味に辛いことだった。

 そして――股間。

 頭部や胸などの胴体が色々されているのに、そこは何もされていないとか、そんなことがあるわけもなく。

 あたしの股間は分厚い金属の貞操帯で覆われていた。

 金属で出来たおむつを履いているようで、まず見た目が凄く恥ずかしい。そして内側が何もなっていないわけもなく、その内側からは太い突起が伸びていて、あたしの身体の穴を貫いている。

 それも三つも。あそこと、肛門と、それから尿道。

 三つの穴にそれぞれの太さに合わせたぎりぎりのものが挿し込まれていて、常に穴が開いている異様な感覚を与えてきていた。

 そして挿し込まれている突起物は、普通ならありえないことに、自分の意思を持っているかのように、あたしの体の中でうねうねと蠢いていた。

 あたしの反応を楽しむように、動く時と動かない時があって、こっちはいつそれが動き出すのかと、常に怯えておかなければならなかった。

 ちなみにおしっこやうんちは全部その突起物が吸収しているのか、この姿にさせられてから一度もトイレに行っていないけど、催すことは無かった。

 トイレに煩わされることがなくて便利だと思うかもしれないけど、処理の度に身体の中をぐちゃぐちゃにかき混ぜられる身になってみて欲しい。そんな便利な感覚なんて一瞬で吹き飛ぶから。

 それに排泄する自由すらないのは地味にストレスだった。

 そして、足には膝上まであるロングブーツを履かされていた。

 踵は平たいけど微妙に高く、歩けはするけど走るのは難しい。そもそも膝の辺りで左右のブーツ同士が鎖で繋がっているから、足を一定以上開くことは出来ず、歩くことしか出来なかった。

 階段を昇ったり下がったりする時には微妙に伸びているみたいで、普通に暮らす分には邪魔にならないというのが、徹底的に管理されているようで逆に落ち着かない。

 そして最後。あたしの全身は頭がそうであるように、ラバーのような素材で覆われていた。肌の露出は限りなくゼロだ。そのスーツはデザイン的にはセーラー服を思わせる作りをしていて、ラバー素材のスカートが貞操帯の上から腰から股間の間を広がっている。

 唯一鼻フックをかけられて歪んだ鼻の穴が見えているくらいで、他は口も含めて一切外に露出していない。

 密閉されて蒸れるかと思いきや、全身を覆っているラバー素材のそれは、内側に極小の触手がびっしり生えているみたいで、それによって常に適切かつドロドロの状態を保ち続けていた。説明曰く、老廃物などはすべてその極小の触手が処理してくれるので、お風呂に入る必要もないとかなんとか。

 ある意味では至れり尽くせりだけど、何をする必要もないというのは、禁じられているのと同じことだ。自分で自分の身体を洗う快感も、お風呂に入ってゆったりする時間もなく、あたしはただ、身体の中まで含めた全身を覆う拘束具の責めを受け続ける。

 それでいて、普段通りの生活を送らされるのだから、頭がおかしくなりそうだ。

 一緒に通学路を歩く友達は、すぐ傍であたしが歩きながら全身を責められていることにも気付かない。

 昨日見たドラマやバラエティの話をしながらも、あたしが性的に昂って絶頂しているのに気付けない。

 教室について、授業が始まっても、あたしは全身を弄られて悶えていた。

 康かな教室の中で、ぐちゃぐちゅと明らかに異質な音がしているのに、先生も含めて誰もそのことに気付かない。

「ん、ぅ……♡ んぅう……♡」

 堪え切れずにそんな声をあげてしまう。それでも誰も触れて来ない。

 いや、先生から見ると背筋をピンと伸ばして座るあたしの姿は、『普段不真面目な態度で携帯を弄りながら授業を聞いているような生徒が真面目に授業を聴いている』ように見えるらしく、茶化してきた。

「おー、なんだ今日はサボり魔がえらくやる気あるじゃないか。先生は嬉しいぞ」

 わざとらしく涙を拭う仕草までやってみせる。クラスの皆がどっと笑い、あたしに視線が集中する。本気でやめてほしかった。

「んぐっ……! うぅっ♡」

 注目を浴びると、まるでそれを感知したように、全身を覆う責め具が動き始めるからだ。

 喉奥まで貫いている突起物があたしの喉を抉るように動き、あたしに呻き声をあげさせる。あそこや肛門を貫いている突起もそれに合わせて動き、あたしは上の刺激と下の刺激、両方に翻弄されてしまう。

 皆が見ている前で、犯されているかのようだ。

 すでに十分身体の感覚が研ぎ澄まされているあたしが、その刺激に耐えることなど出来るわけもなく、激しく体を震わせて絶頂してしまう。

 どう考えても不自然な姿だったと思うのに、教室にいる誰もあたしの状態に気づくことはなかった。

 気付かれないとしても、みんなの視線を浴びながら逝ってしまうのは恥ずかしすぎる。

(うぅ……早く、終って……ぇ♡)

 あたしはハードなSMプレイでもそうないような、激しい拘束をされた状態で、最低でも一週間は日常生活を送るように言われていた。

 いまのあたしには永遠にも思える時間で――それが過ぎた時、自分がどうなっているのか、全く分からなかった。





 そして、瞬く間に一週間が過ぎ、あたしは呼び出された。

 指定されたお店に行くと、相手はすでに店の中で待っていた。

「ん。来たか」

 一週間前に出会った偉そうなチビ女――万江刃羽桜。

 極普通の制服を着ているのに、態度のせいか、あるいはその身が放つオーラというものの影響か、とにかく異質な雰囲気を醸し出している。

 それがマックの店内の座席に普通に座っているのだから、なんだか違和感ばかりが強烈だった。

 まあ、違和感というならあたしの方がよっぽどなんだけど。

 周りの人には異常がわからないとはいえ、ハードSMプレイもここまでではないだろうという格好でいるのだから、人のことをいえた立場ではない。

 ただ、あたしは彼女がどう見られているかとか、自分のことがどう見られているかとかに構ってはいられなかった。

 ふらふらと危うい足取りで彼女に近付き、そのまま崩れるようにして膝を突いて額を地面に擦りつける。

「んぅうぅ、むぅ……っ」(早く、外してくださいっ。もう、耐えられない……っ)

 傍から見れば小柄な女子高生に、ヤンキーのような女子高生が土下座している奇妙な光景だっただろう。大騒ぎになりかねなかったけれど、そこは彼女が何かしていたのか、全く問題視はされなかった。

「ふむ。少しお灸を利かせ過ぎたか? まあいい」

 彼女が手を持ち上げる。そして。


――パン、と。


 彼女が手をひとつ鳴らすと、あたしは彼女の目の前の席に座っていた。

 小さな口でハンバーガーに被り付いている彼女。あたしはもう一度彼女に懇願しようとして、普通に体が動くことに気付いた。

「あ、あえ……?」

 思わず手を目の前に持って来てじっと見つめる。身体を見下ろすと、いつもの制服に包まれた、いつもの私の身体があった。

 ポテトを端からちまちまと食べながら、彼女が告げてくる。

「十分反省したようだからな。お仕置きはこれくらいにしておいてやる」

 そう言いつつ、彼女はあたしにポテトとシェイクを薦めて来た。

 久しぶりに普通に食べられて、咀嚼や嚥下が普通に出来ることに感動して泣いてしまった。

 拘束具を取り付けられている間は、咀嚼することも出来ず、ただ口の中の筒を食べ物が通っていく際に、味だけはするという何とも奇妙な状態だったからだ。

 周りへの認識阻害もなくなっていたらしく、泣きながらポテトを食べる女子高生として変な目で見られてしまったけれど、そんなことは気にならないくらいに美味しかった。

 食べ終わると、彼女は店から出て、あたしについてくるように言う。

「……あの、万江刃さ、様。これからどこに行くんです、か?」

 びくびくしながらそう問いかける。怒らせたらまたあれをされるかと思うと、彼女に対する反発心なんてものは欠片も出せなかった。

「羽桜ちゃんでいいぞ。敬語も不要だ。お仕置きはもう済んだし、余は余自身に対する不敬や無礼は気にしない」

 そう言われても、と内心思ったけれど、大人しく従うしか方法はなかった。

 どんな人外魔境に連れていかれるのか、戦々恐々としていたあたしを、彼女――羽桜ちゃんは、容赦なく連れまわした。

 ただ、その先はゲームセンターとかカラオケとか、あたしがいつも行くような場所で、あたしがいつもやっていることを求められた。

 特に喜ばれたのはあたしが特に拘ってやっている爪の装飾。ネイルに関することだった。

「いま余の配下となっているものは、元々大人しい者が多かったからな。この手の技術は目にする機会がなかった。中々よいではないか」

 あたしが塗ってあげた爪を光に透かし、羽桜ちゃんは満足げに頷く。

「そ、それはどうも……?」

 元々は反発心の表れというか、『校則を破っている』という世間に対するあてつけのようなものでやり始めたことだけど、持つ技術を褒められて悪い気はしない。

 それからも、あたしは羽桜ちゃんとまるで普通の友達みたいに街で遊んだ。

 何が目的なのか疑問には感じつつも、あたしもだんだん普通に楽しくなってきちゃって、普通に楽しんだ。

 そうしているうちに日が落ちて暗くなって来て、そろそろ解散かな、と思っていたら、羽桜ちゃんは思いがけないことを言い出した。

「良し。そろそろ頃合いだな。余の家に行くぞ」

「え? ……独り暮らしなの?」

「いいや、別宅もあるが、今日は余の親がいる家に帰る。貴様もついてこい」

 どういうわけかわからないうちに、羽桜ちゃんの家にお呼ばれしてしまった。

 彼女の両親は、こういってはなんだけど羽桜ちゃんの親にしては異質なほど、ザ・普通って感じで、暖かな両親だった。

 二人して揃いのエプロンを着け、一緒に夕食を作っていたようだ。

「あらあら。羽桜ちゃんがおうちに友達を連れてくるのは久しぶりね。ゆっくりしていってね」

「羽桜と仲良くしてくれてありがとう。僕はともかく彼女が作る料理は絶品だからね。楽しみにしてて」

「あら。貴方の料理だって絶品じゃない」

 甘々なやりとりをしながら、急に現れた我ながらいかにもヤンキーちっくな娘の友達を見ても、全くと言っていいほど訝し気な視線が飛んでこない。普通はもっと違う反応があるのではないだろうか。

 ふと、母親の方が羽桜ちゃんの爪のことに気付いた。

「あら? 羽桜ちゃんそれってネイルってやつ?」

「うん、そうだよ。この子にやってもらったの。綺麗でしょ」

 誰あんた。

 事前に「余は両親の前では外見相応に振る舞っているので驚くなよ」と聴いてはいたけれど。変わりすぎだった。気配まで変わって、のほほんとした少女っぽくなってるし。

 彼女の母親くらいの年代であれば、今以上にネイルとかそういう派手な装飾は不良の証みたいなものだと思うのに、その母親はニコニコと笑顔だった。

「ほんと綺麗ね~。今度私もやってもらおうかしら♡」

「これからご飯だけど、衛生的には大丈夫なのかい?」

「ちゃんと手洗いすれば大丈夫だと思うけど……どうなの?」

 ちらりと目を向けられる。羽桜ちゃんならそれこそ魔法でどうにもなりそうな気がしたけど、たぶんそういう問題ではないのだろう。

「えっと……普通に、ちゃんと手洗いするのと、こういうネイルブラシも併用して、爪の隙間もきちんと洗えばいいわ」

 ネイルが好きだからこそ、手を清潔を保つにはどうしたらいいかとか、そういうことは気になるものだ。

 だから普段からしている対策を教えたのだけど、羽桜ちゃんの両親は感心してくれた。

「へえ、こういうものがあるのね! 知らなかったわ!」

「ほんとだねぇ。教えてくれてありがとう」

 そんな風に御礼まで言ってくれる。あたしはなんともむず痒い気持ちを抱かざるを得なかった。そして二人が「ネイルをすること」自体に対しては全く何も問題にも思っていないことに気付いた。

 気にしたのは衛生面の話だけど、無意味な装飾をするなんてとか、学生のくせに色気づいてとか、あたしが良く言われてきた否定の言葉をひとつも言われなかった。

 普通の娘として振る舞う羽桜ちゃんも合わせて、暖かな家庭がそこには存在していた。


 その事実が、あたしの胸を締め付ける。


 後悔はある。優しく受け入れてくれたふたりを、よく知りもせず侮辱する言葉を吐いたことを申し訳なく思う気持ちは、ある。

 けれど同時に、恵まれた家庭環境を見せつけられているようで、あたしは羽桜ちゃんに対して妬ましいというか、苛立ちにも似た感情を抱いてしまっていた。

 絶品の暖かな手料理が並ぶ食卓にお呼ばれして、二人の暖かな雰囲気に浸され、心地よさに心がくらみながら、その時生じたどす黒い感情は消えてはくれなかった。

 食事後、さすがに泊まるのはどうかと思っていたら、羽桜ちゃんの両親はタクシーを回してくれた。まさに至れり尽くせり、だ。

 その後部座席に乗り込み、御礼を言うと「また来てね」という二人から笑顔を向けられた。どこまでも暖かな『家族』だった。

 それに曖昧に応えて――タクシーが走り出し、一人になって。

 あたしはようやく息を吐くことが出来た。

「はぁ……」

「何か言いたげだな?」

 いつの間にか真横に羽桜ちゃんが座っていて死ぬほど驚いた。

「え、あれ!? さっき家の前で手を振ってたよね!?」

「これは分身だ。ちなみにタクシーの運転手は余の用意した式神のようなものだから気にしなくていいぞ」

 なんということでしょう。

 すっかり普通状態の羽桜ちゃんに慣れていたけれど、改めて彼女が人智を超えた存在なのだということを思い出す。

「さて。余の親に関しては、貴様に体感してもらった通りだ。思うことを口にするがいい」

「…………いい、人たちだったね。悪くいって、ごめん」

 侮辱されて怒ったのも無理はないとは思う。思うけれど。

 羽桜ちゃんは満足そうに何度もうむうむと頷いていた。

「そうであろう。あの二人は稀有な存在だ。広く世界を見渡しているが、あそこまで善なる者は中々おらぬ」

「…………っ」

 この調子だと、たぶん彼女はあたしの家庭環境にも気付いている。あたしが不良となった理由が、両親にあることにも気付いているのかもしれない。

 彼女もいうのだろうか。家族は大切にしなければいけないとか、家族だから仲良くできるはずだとか、そういう綺麗ごとを。

 ほとんどの家庭に当てはまることが当てはまらないことがあることを、知りもせず。

「あのように、本来親とはとても素晴らしいものだ。だから」

 羽桜ちゃんは、あたしが一番言って欲しくないこと――ではなく。


「貴様の両親は親失格だ。どうして欲しい?」


 一番欲しい言葉を、くれた。

 思わず唖然として彼女を見ると、羽桜ちゃんは恐ろしく冷たい目で前方を、向かっている方向を。

 おそらくはあたしの家にいる両親を――睨んでいた。

「ネグレクトに暴行未遂、あげく性風俗への強制も検討しているようではないか。余の感覚的にも絶対許せぬことだが、この国の法に照らし合わせても立派な犯罪行為だな。あの者たちは貴様の望むように処分してやろう」

 あとのことは心配するな、と羽桜ちゃんはいう。

「保護者の欠落はこの国においては色々な不利益も生むが、余の力をもってすれば問題など生じない。進学や就職、移住や婚約など、時に応じて必要な保証人は余が用意してやる。貴様は二度と親に会わずとも済む」

「え……」

「なんだ、それでは不満か? やはり首を落としてこの世から退場させるか?」

「い、いや、そういうわけじゃないけれど!」

 さらっと処刑宣告をしないで欲しい。いくら糞親が対象でも心臓に悪い。

 だって彼女はやろうと思えば本気で出来るのだから。

 一瞬そうしてもらった方がいいかもと思ったのは事実だけど、さすがに目覚めが悪くなりそうだった。

 そういうことをいうくらいに、彼女があたしの親に対して怒っていることは十分伝わって来た。

「けど……どうして? かけがいのない親とは仲良くするべきとか、そういう考えじゃないの?」

 それを示すために自分の家族仲を見せつけたと思っていたのだけれど。

 あたしの疑問に、羽桜ちゃんは鼻を鳴らして応えた。

「余の親に会わせたのは、貴様が侮辱した存在がどういう存在かしっかり理解させておきたかったというだけで、別に余とあの二人の関係まで真似ろとは言わん」

 それにそもそも、と羽桜ちゃんは続ける。

「余は確かに自分の親を好いておるが、それはあれが親だからではない。あの二人が慕うに足る性格や性質を有しているからだ。親である、というだけでなぜ慕わねばならんのだ?」

 それもまた、あたしがずっと思ってきたことだった。

 あんな親を持つ自分の境遇が疎ましくて嫌で仕方なくて、だからあたしは羽桜ちゃんと出会って口論になったとき、育ちの良さそうな彼女の境遇を恨んで、本来関係のない親を攻撃するようなことを言ったのだろう。

 思いがけないところで、あたしはあたしの原点を自覚した。

「男だから女だから、親だから子だから、『人間だから』――そんな事実に意味はない。傾向はあるにしても、真に意味があって見るべきなのは個々の事例のみだ。ゆえに余は全てを個々のものとして対処する。そうでなければ――」


 言葉も身体の構造も生態も生きる環境も習性も価値観すらも――全てが異なる数多の種族たちをまとめあげることなど到底出来んかったわ、と。


 元覇王は告げるのだった。

 カリスマのあまり、その背に後光すら感じる。

「は、覇王様……!」

 思わず感極まってしまうあたしに対し、彼女の要求はシンプルだった。

「それは元だ。羽桜ちゃんと呼べ」

 彼女にとって、それは譲れない拘りらしい。


 こうしてあたしは羽桜ちゃんの協力の元、最高の形で最悪の両親と縁を切ることが出来――あたしは羽桜ちゃんの別宅で暮らさせてもらえることになった。

 今でも時々、羽桜ちゃんに求められて彼女の爪にネイルを施してあげるのは、あたしの密かな自慢であり、誇りだった。



羽桜ちゃん、不良少女にお仕置きする 終わり



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