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軟体怪盗リィンツリーの受難 リィンツリーの軟体身体能力②

■ 現代の義賊・黒猫怪盗リィンツリー(本名:鈴木志保)は、とある資産家・渡部亜希子の罠に嵌って捕らわれの身となってしまっていた。体が訛らないよう、ストレッチやトレーニングの時間が取られるが……?


■ 前半はリィンツリーがまた渡部に捕まっておらず、のびのびと怪盗行為を働いていた頃のお話です。リィンツリーは極力人を傷つけないように行動しますが、悪党を懲らしめるくらいは普通にします。

■ この作品には極端な軟体の描写が含まれます。苦手な人は回避をお願いします。

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 黒猫怪盗・リィンツリーは泥棒であり、犯罪者である。

 それが彼女を追う警察官――柴田竜一警部補の認識であった。

 リィンツリーが現代の義賊を名乗り、悪人たちを懲らしめるために怪盗行為を行っていることは当然柴田も理解しているが、それでも犯罪行為は犯罪行為だ。

 リィンツリーの類まれなる身体能力に関しては、彼も一目置くところであり、それはきちんとした方向に使えば犯罪行為などしなくとも十分な世間への貢献が出来るというのが、柴田の主張である。

(必ずやリィンツリーを捕まえて、法の裁きを受けさせる! そして、その後は真っ当な道を歩ませ、更生させて見せる!)

 それが彼の彼女を追い続ける原動力であり、信念であった。

 彼は最もリィンツリーの怪盗行為を憎んでいるが――同時に、リィンツリーのことを認めてもいるのである。


 だからこそ、その資産家の主張は、彼には受け入れがたいものだった。


「リィンツリーは人殺しなどしない! これは何かの間違いだ!」

 そう堂々と言い切った柴田に対し、資産家の男は忌々しい顔を向ける。

「やかましい! 他の誰も入れていないはずの、この金庫を警備していたワシの息子が死んだのは事実だ! リィンツリーは我が家宝を盗んだだけでは飽き足らず――ワシの愛する息子の命まで奪っていったのだ!」

 そう主張する資産家の腕の中には、事切れた男性が抱えられていた。

 目立った外傷はないが、その口からは大量の血を吐いたと見え、床に凄まじい量の血が撒き散らされている。

 資産家の男は自らの息子の頭を抱え、大きな声でむせび泣く。

「おお、なんとむごいことか……! 安心しろ、お前の仇は、必ずワシが――」

「自分で殺しておいて、よくもまあぬけぬけと口に出来るものですね」

 資産家の声を遮って、可愛らしい高温の声が響く。

 柴田は即座に周囲を見回し――天井に張り付いていたいるリィンツリーを目視する。

「リィンツリーがいたぞ! かま――ぐぇっ!?」

 咄嗟に銃を抜いて構えようとした柴田の上に、リィンツリーが降りて来た。

 まるで猫が肩に飛び乗ってくるかの如く、器用に柴田の頭の上に着地する。

 衝撃で意識が遠くなり、地面に崩れ落ちる柴田の背中に、リィンツリーは乗っていた。

「はい、ちょっと黙っててくださいねー」

「リっ、リィンツリー! 貴様、どうやってここに!?」

「忍び込むのは怪盗の十八番ですから、それは別に気にしなくていいでしょう? そんなことより、はい、これ」

 リィンツリーは着ているラバースーツの胸元から、大量の書類を取り出して床に投げ出す。

 その書類を見た資産家の顏は、見る見る青褪めていった。

「貴方がやらかした不正と違法な商取引の覚書です。あなたの息子さんは、これを世間に明らかにしようとしていたようですね? それを防ぐため、私が家宝を盗み出そうとするという嘘の予告を出して、彼をこの他の誰も入れない場所で殺した……自分はアリバイを作るために、このストーカー警察官と一緒にいた」

「ぐっ、ぐぅう……ッ!」

 言葉にならずに呻く資産家。

 それはもはや自分の罪を自白しているに等しい。

「全く、人を勝手に利用とした罪は重いですよ? これらの不正の証拠と共に、あなたが毒物を発注したという通信記録も色んなところに送りつけておきましたから。それと――」

 リィンツリーはさらに胸元から一つの美術品を取り出す。

「貴方が自分で隠した家宝はここにおいておきますね。どさくさ紛れに私が盗んだことにされたら嫌ですし」

「きっ、きっ、きっ……!」

 もはやまともな言葉も紡げなくなった男は、懐に手を入れる。

 奇声をあげながら、取り出した拳銃をリィンツリーに向けた。

「しねええええええ!!!」

 銃声が一つ。

 リィンツリーは、体を仰け反らせ、柴田の上から落下した。

「ひゃはっ! ひゃはははは! ざまあみろ! 小娘がふざけた、真似、を?」

 もんどりうって倒れたリィンツリーに追撃をしようとした男は、リィンツリーの姿がないことに気付く。

 その視界が、真っ黒なもので覆われた。

「むがっ!?」

「拳銃弾くらい、避けられないで怪盗が務まると思いますか?」

 男はいつのまにかリィンツリーが自分の頭に飛びついて来ていたことに、遅れて気付く。

 真正面から頭を抱え込むようにしがみつき、完全に男の視界を奪っていた。

「ぬぐぅうっ!?」

 ラバースーツを顔面に押し当てられ、呼吸が出来なくなった男は、拳銃を持っていない方の手でリィンツリーの臀部を鷲掴みにして引き剥がそうとしたが、逆にその手をリィンツリーに掴まれてしまう。

「ふぎっ! んぎいいっ!?」

「触らないでください。セクハラですよ?」

 リィンツリーの握力は強く、男の腕をあっさりと抑え込んでしまっていた。

「ふごっ、うごおっ……!」

 もがき苦しむ男は、リィンツリーの締め技からなんとか解放されるべく、その頭をフル回転させ――その手に持っていた拳銃を、リィンツリーに押し当てる。

「ひへぇっ!」

 不明瞭な声で叫び、資産家の男が引き金を引く。

 二度目の銃声。

 床に力なく倒れたのは、資産家の男の方だった。

 男が引き金を引く一瞬前、リィンツリーは拘束を外し、素早く飛び上がって移動していた。

 結果、リィンツリーを撃ち抜くはずだった弾丸は、男自身の首を掠め――大量の血を噴き出す。

「あがっ、がっ、ああ……っ!」

 血が噴き出る首筋を抑えながら、床に倒れ込む男。

 自滅を誘発したリィンツリーは平然とした様子で、そんな男の醜態を見下ろしていた。

「ちゃんと病院で治療を受ければ助かると思いますよ。出血しすぎなければですが。自分の犯した罪を病院で存分に反省してくださいね」

 リィンツリーはそう告げると、部屋の入口へと向かう。

 ようやく復活してきた柴田が、そんなリィンツリーに向かって叫んだ。

「まっ、待てっ、リィンツリー! 今日という今日は、逃がさんぞ……!」

「今日は別に怪盗しに来たわけじゃないですよ。私の名前を勝手に使おうとした不届き物を成敗するためです」

「そう言う問題ではない! 今回の件はお前の仕業ではなかったかもしれないが、お前が窃盗犯であることに変わりはないんだ!」

 その場を他の警察官に任せ、柴田は逃げるリィンツリーを追いかける。

 リィンツリーはひょいひょいと襲い掛かってくる警察官たちをかわし、そのまま窓の外へと身を投げ出した。

 唖然とする柴田たちを前に、リィンツリーはほぼ垂直な壁を、するすると降りていく。

 あまりの常識外れな身のこなしを見せ付けられ、柴田は今日もリィンツリーにまんまと逃げられてしまったのだった。

「おのれおのれおのれぇえええ! いつか、絶対捕まえてやるからなぁ! 覚悟してろ、リィンツリー!」

 柴田の悔し気な叫び声が、資産家の家に響き渡るのだった。

 なお、自分で自分を撃ってしまった資産家は、病院に運ばれた結果、無事死なずに済んだ。

 ただし、確かな不正行為が明らかになり、自分の息子もその手にかけてしまった。

 そんな彼は当然お縄につき、何もかもをも失ったのであった。

 リィンツリーは積極的に暴力を振るうことはほとんどないが、相手によっては容赦なく叩き潰すこともある。


 リィンツリーはますます悪いことをしている資産家たちに畏れられ、彼女を追う柴田は余計にその執着心を燃やすのであった。





 そんなリィンツリーは現在――彼女を捕まえた、渡部という女性資産家の元で、身体検査を受けていた。

 拘束され続ければ、当然その体は訛ってしまう。

 渡部はリィンツリーという存在そのものを愛でるために、彼女が存分に体を動かせる部屋を用意していた。

 無論、ただの部屋ではリィンツリーはすぐに脱出し、渡部の元から消えてしまうことだろう。

 そうさせぬため、渡部は窓も入口もない、物理的に脱出できない広い部屋を用意していた。

 縦横高さ、それぞれ十メートルずつはある正方形の空間だ。

 その中の様子を、強化ガラス越しに渡部は眺めている。

 頬に手を当てて、うっとりした様子で感嘆の息を吐いていた。

「はぁ……素晴らしい……やはり、伸び伸びと動き回ってる君は最高に美しいなぁ……」

『こんな狭い部屋に閉じ込めておいて、その言いぐさはさすがに開いた口が塞がりませんよ?』

 渡部の声は、埋め込み式のスピーカーを通じて、リィンツリーにも聞こえていた。

 リィンツリー側の声は、当然渡部の方でも聞けるようになっている。

 強化ガラス越しに睨みやるリィンツリーの視線を、渡部は心地よさそうに受け入れていた。

「だって、こうでもしないとリィンツリーはすぐ逃げるじゃないか」

『当たり前ですが?』

「うん、仕方ないということだな!」

 勝手な主張を繰り返す渡部に、リィンツリーはもう何度目かもわからない溜息を吐き出す。

 リィンツリーは生まれたままの姿で、ストレッチを続けていた。

 体を訛らせるわけにいかないのは、リィンツリーにとっても大事なことだ。

 脱出するためにも、脱出できたあとに、怪盗に戻るためにも、リィンツリーは渡部の思惑に乗るしかない。

 体を捻り――上半身を百八十度反対に向ける。

 人並み外れた柔軟性があってこその行為に、渡部は思わず身を乗り出してその様子を眺めていた。

 さらにリィンツリーはそのまま体を折り曲げ、上半身を下半身と重ねて見せた。

「おぉお……!」

 手で足首を掴み、体を密着させると――頭を曲げ、腕と足の間に挟むようにして――ごろりと転がる。

 腕と足を絡み合わせながら、ゴロゴロと数回転。

 とても人間とは思えない姿で、自在に動き回っていた。

「なんと、まぁ……! うむむ。恐ろしい柔軟性だ……」

『んっ……っと……!』

 複雑に捻じれ絡み合っていたリィンツリーの身体が、ブレイクダンスでもするかのようにクルクルと頭を中心に回転し、回転しながら体をまっすぐに戻し、最終的にぴょんと跳び上がって、元の自然な体勢に戻って見せる。

『うん……まあまあですね。少し、硬くなってしまいましたから、解さないと……』

「……いや、どこが?」

 思わず渡部がツッコミを入れてしまう。

 リィンツリーは不満げ渡部を睨みあげる。

『あれだけぎゅうぎゅう詰めにして押し込んで放置して、体が固くならないわけがないでしょう?』

「む、ぅ……そう、だな……君が言うからには……そうなのだろう」

 その所業は常識を超えているからこそ、彼女の身体の柔軟性というものは、普通では計れないものがある。

 渡部はそう納得しつつ――ふと気になっていたことを訪ねてみた。

「ところでリィンツリーくん。君はどんな狭い隙間にも入れると聞いたが、本当なのかい?」

『……猫じゃないんですから、そんなこと出来るわけないでしょう。常識で考えてくださいよ』

 常識外れの存在であるリィンツリーがいうには、あまりにも白々しい言葉だった。

 そんなリィンツリーの様子を見ていた渡部は、ニヤリと笑みを浮かべる。

「そうかそうか。だとすると……今回用意したこれは、無駄になるかもしれないなぁ」

 渡部がぱちんと指を鳴らすと、リィンツリーの閉じ込められている部屋の天井が開く。

 リィンツリーは一瞬脱出のチャンスかと目を輝かせたが、すぐに上の空間も、いままで彼女がいた空間と同じく、脱出路が塞がれている部屋だと見て取った。

 では天井は何のために開かれたのか。

 その答えが、リィンツリーのいる部屋へと降りて来る。

「名付けて――パイプ迷宮。様々な太さのパイプを迷路状に張り巡らせているものだ」

『……これに入れとでも? ハムスターやモグラじゃあるまいし……私にメリットがありませんが』

「まあ待ちたまえ。これはゲームだと考えてくれればいい。そのパイプ迷宮の中には、いくつかアイテムを配置しておいた。着るものなども用意してある」

 渡部は得意げに、その迷路の概要を告げた。

「当然、細い道の先ほど、有用と思われるものを用意した。脱出に直接繋がるようなものは入れていないつもりだが……あるいは君なら、私の考えを上回り、それを使って脱出できる、かもしれないな」

 いわばそれは、渡部からリィンツリーに向けた挑戦状である。

 リィンツリーの能力を計ると同時に、そのリィンツリーの素晴らしい御業を自分に見せて欲しい。

 そんな渡部の歪んだ愛情が、そのパイプ迷宮には込められていた。

 その込められた意図や感情を感じ取ったリィンツリーは、実に嫌そうな顔をする。

『……あなたは本当にいい性格をしていますね、本当に』

「お褒めに預かり光栄だよ。さあ、どうする? リィンツリー。迷宮に挑戦してみるかい?」

 リィンツリーの皮肉をあっさりと受け流し、渡部は問う。

 怪盗としてのプライドが高いリィンツリーに、その挑戦を受けないという選択肢はなかった。

『……いいでしょう。どんなアイテムだか知りませんが……私に道具を渡すことの愚かしさを教えて差し上げますよ』

 肩を回し、手首を回して見せるリィンツリー。

 その関節からは、パキポキと骨が鳴る音がした。


つづく

Comments

はずの、ですね^w^; すみません。ご指摘ありがとうございます。修正しておきます。

夜空さくら

>他の誰も入れていないはうzの、 z←

c933103


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