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ヒトイヌ公園の裏事情 ~地下の飼育室④~

■ ヒトイヌ公園シリーズです。今回は利用者ではなく、ヒトイヌ公園で働く職員側のお話となります。姉妹の視点を交えつつ、ヒトイヌ公園の裏事情を描いていきます。

■ 過去シリーズにも出て来た様々な道具をプチ体験する美海。ヒトイヌ公園の怪し気な魅力に、ズブズブ嵌っていっちゃいます!0w0クワッ!


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 ヒトイヌ公園では、ヒトイヌプレイの格好のまま、屋外を歩くことが出来るみたいだ。

「……怪我とか、大丈夫なんでしょうか?」

 あたしが思わずそう聞くと、降旗さんは笑顔で教えてくれた。

「その心配は不要さ。基本的に公園内にヒトイヌが傷つくようなものは一切ないから。茂みの中に無理矢理分け入ったりすればさすがに話は変わってくるけどね。基本的には問題ないよ」

 それに、と降旗さんは目の前にあったキーボードをカタカタと捜査して、壁一面に並んでいるモニターの中で、一番大きな画面の映像を切り替える。

 そこには、犬耳と尻尾以外、ほとんど裸に見える女性が映っていた。

 いきなり人の裸を見せ付けられて、思わずドキリとしてしまったけれど、よくよくみるとそのヒトイヌの体の表面は、透明な何かでテカテカと光っていた。

「……? これは……透明な、服?」

「一見裸で危ないように見えるヒトイヌも、こうして透明なラバースーツを着て肌を守っているのさ」

「すごい技術……」

 両足を曲げたまま動いているのが妙だとは思ったけれど、ちゃんと足の先まで覆われているらしい。

 さっきのラバースーツを着たヒトイヌとそう格好は変わっていないはずなのだけど、体を覆う素材が透明かそうでないかで随分見た目が違うんだなぁ、としみじみ思った。

 でも間違いなく似たような服に体が包まれているということは、その胸の揺れ方でわかる。

 本当に裸だったら、四つん這いで動くその人の胸はもっと激しく動いてしまっているからだ。

「でもこれじゃあ、ヒトイヌって、いうより、牛じゃないかな……」

 つい正直な言葉が口に出てしまった。

 降旗さんが手を伸ばしてあたしの頭をぺちりと叩く。

「そーいうこと言わないの。生まれつきの体型を気にしてるヒトイヌもいるんだから」

「ご、ごめんなさい……?」

 全然痛くはなかったけれど、叩かれるとは思っていなかったのでちょっと呆然としてしまった。

 身体的特徴を揶揄したあたしが悪いから、怒りとか不満とかは全然わかなかったけれど。

 むしろ私より苦い顔をしたのは、寺沢さんの方だった。

「係長……彼女はまだ部外者なんですから、いつものノリは控えてくださいよ」

「おっと。それはそうだね。ごめんよ」

「い、いえ。あたしが悪いので……」

「まあそれはそれとして、ヒトイヌとして有利な体型はスレンダーなスタイルの方だね」

 常に四つん這いで歩くことになるので、大きいと負担が大きいのだろう。

 つまりあたしみたいな慎ましやかな体型だときっと有利――って。

「誰が貧乳ですか!」

「言ってない言ってない」

 ツッコミを入れられてしまった。

「まあ、ヒトイヌになるなら覚えておいて損はないかな。ちなみに公園で支給されるラバースーツ……ヒトイヌスーツは、着用者の好みによって色々種類や構造を変えることも出来るんだよ」

「色々あるんですか?」

「もちろん。人の好みは色々だし、ヒトイヌの種類にも色々あるからね……公園の仕様上、裸のヒトイヌは認められていないけれど」

「絶対ダメなんですか?」

 解放感を感じたいということなら、それを望む人もいそうなものだけど。

 私の疑問に対し、降旗さんは頷いた。

「絶対にダメってことでもないんだけど、その場合行動制限が付けられちゃうからね。完裸なら建物内からほとんど出れなくなって、うちに来る意味が半減するし」

「それは……確かに」

 ヒトイヌスーツも着ずに外にも出られないなら、ここでヒトイヌになる理由がほとんどないように思う。

「借りられるヒトイヌスーツ? にはどんな種類があるんですか?」

「まず色は黒と透明を基本として、赤、青、緑、紫、様々用意してあるよ。さすがにあんまり選ばれないけれど、金とか銀とかの派手な奴もある」

 サンプルのように、画面に色ごとのヒトイヌが映し出される。

 なるほど、確かに金と銀はあまりに挑戦的過ぎる色だ。他の色は赤は赤でも派手な色合いじゃないから、余計にギラギラして見える。

「身体のどこまでを覆うかもそれぞれだけど、肌が見えてるように見えるとこは透明になってるだけだね。あと、オプションだけど、ほんとに毛でもさもさに覆われるタイプもあるよ」

 あれはどちらかというと着ぐるみの範疇だからあまりお勧めしてないんだけどね、と降旗さんはぼやく。

 映像を見せて貰ったけれど、確かにそれまでの如何にもヒトイヌって感じの姿より、だいぶ本物の犬っぽく見えていた。

 もちろんあくまで人が着ているので、凄くエッチな感じはするけれど。

「次に装備品の話だ。犬耳と尻尾飾り、それから首輪は最低限付けることになってる」

 そう言いながら、降旗さんは机の引き出しから犬耳と首輪を取り出して来た。

 犬耳はヘッドホンみたいな形をしていて、それを点けると本来の耳が覆い隠され、頭の上に犬耳が生えているように見えるみたいだった。

「この犬耳と首輪には特別な機能が付いていてね……まあ、実際にやってみせた方が早いか。この首輪首に巻いてみて」

 アッサリ差し出されたそれに、思わず面食らってしまう。

「ちょっと、係長……!」

「大丈夫大丈夫。ちょっと機能を体験してもらうだけだから」

 そう軽い調子でいう降旗さん。

 あたしは少し悩んだけれど、ここまで来たらどんな機能があるのか気になる。

 私が自分の首にその首輪を巻き付けると、その首からびりっと変な電気が走ったような、そんな感触がした。

「ンン……? ンアゥッ、アッ……アゥッ!?」

 一体どういう機能なのか聴こうと思ったら、まともに声が、いや、言葉が出なくなっていることに気付く。

 頭でどう口を動かして声を出せばいいかわかっているのに、全然喉がいうことを聞いてくれない。

 どうやらそれがその首輪の機能のようだった。

「それが首輪に取り付けられた機能の一つ。人間の言葉が出せなくなる機能さ! 犬っぽい声をあげるのに抵抗があるヒトイヌもいるからね。それを付けていれば、存分に声をあげられるってわけさ」

「ンぅウッ……アウッ、ワウンッ」

(ほんとに一切言葉が形にならない……! やばいでしょ、これ……)

 普段何も考えずに使っている言葉が、あっさり使えなくさせられてしまい、あたしはかなり動揺していた。

 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、降旗さんはマイペースに続ける。

「もう一つの訓練も体験してみるといい。――ほいっと」

 軽い調子で降旗さんがぽちりとその引き金を引いた。

 するとまた首輪がバチバチッとしたかと思うと、気付いたらあたしはその場にしゃがみ込んでいた。

「ひゃうっ!?」

 スカートを履いて来てしまっていたので、思い切り股を開くような体勢になってしまっていた。

 慌てて立って隠そうとするけれど、あたしの体はしゃがみ込んだ体勢のまま、動かせない。

 降旗さんがそんなあたしの頭を撫でながら、どういうことなのか教えてくれた。

「人が四つん這いでしか動けなくなるする機能だよ。自然とヒトイヌらしい歩き方しか出来なくなるってわけさ」

 ただ、と降旗さんは付け加える。

「大体はヒトイヌスーツで、そもそも二足歩行が出来ないようにしちゃうから、使用頻度はあんまり多くないんだけどね」

 声もそうだけど、人に特定の行為しか許可しないというような装置は、だいぶヤバい気がする。

 その気になれば、ヒトイヌになりたくない人を強制的にヒトイヌにすることも出来てしまいそうだ。

 あたしはそう感じて戦慄したけれど、それをするというならそもそもヒトイヌスーツを着せるだけでも出来るということに気付いてしまった。

(口枷してるヒトイヌも結構いるし、あんま関係なさそう)

 ヒトイヌらしい行為を強制するというよりは、気兼ねなくそう行動できるようにするという目的の方が重要なのかもしれなかった。

「犬耳には、本来の耳を塞いで、偽物の耳から音を取り込んでいるかのようにする機能があるんだよ。それに加えて……これも聞いてみて貰った方が早いか」

 降旗さんはそういって、あたしの頭に犬耳ヘッドホンを装着する。

 ぴったりサイズで、あたしの耳が覆われ、犬耳だけになってしまう。

 耳を覆っている部分には突起があって、それが耳の奥まで入り込んで来ていた。

 そして、その耳の奥まで入り込んでいる部分から、降旗さんの声が聞こえてくる。

『どうだい? 頭の上から聞こえて来てるみたいになってるだろ?」

 確かに、頭の横から音が入ってくるんじゃなくて、上から頭の中に入って来ている感じがした。

 感心していると、喋っていた降旗さんの声が、急に聞き取れなくなる。

『――――、――、――――――……』

 何か喋っていることはわかるのに、まるで宇宙人の言葉でも聞いているかのように、その内容が分からなくなってしまっていた。

「んぅうっ……? ワゥッ、ウゥう……ッ!」

(なに……? どうなってるの、これ……?)

 あたしがそう不安になって呻いていると、また急に、ハッキリと降旗さんの声が聞こえるようになった。

『どうだい? いまのが犬耳のもう一つの機能。人間の言葉を、理解不能な音に変えてしまう機能だよ』

 そんな機能が発動していたとは知らなかった。

 目を丸くしてしまうあたしから、犬耳が取り外される。

「なんとなくのニュアンスくらいはわかるから、飼い主とのコミュニケーションも問題ないってわけさ。飼い犬とはいえ、あまりにも人間の言葉を完全に理解出来てしまったら、リアリティがないよね」

(それは……そう……なのかな……?)

 あたしがわかるのは、どうもこの公園に来るような人たちは、やたらと強いこだわりがあるということだった。

 とんでもない変態が集まる施設もあったものだと、あたしは感心半分呆れ半分に聴いていた。

 あたしの首から、首輪も取り外される。

「うん……寺沢くん。やっぱり彼女は採用でいいと思うよ。ヒトイヌの映像を見ても問題なかったし、結構素養あるみたいだし」

 降旗さんは突然そんなことを言い出した。

 その言葉に寺沢さんもなぜか同意する。

「それは、そうですね……しかし、事務員としての採用なんですが……」

「ヒトイヌになれる職員は何人いてもいいでしょ。万が一の時の保険になるし」

 どうやらあたしにヒトイヌ適性があるということらしい。

(確かに別にヒトイヌの映像を見ても嫌悪感とか、そういうのは湧かなかったけれど……)

 なぜか二人は私が大丈夫だと確信しているようだった。

 あたしがそう判断されたことに、釈然としないものを感じていることに気付いたのか、降旗さんは苦笑を浮かべる。

「なんでかっていうとね、君の今の格好が証拠になってるからだよ」

「格好……? ……あっ!?」

 あたしはそこでようやく気付いた。

 首輪はとっくに外されていて、強制的に四つん這いにする機能がなくなっていることを。

 そして、そうだというのにしゃがみ込んだ体勢のままでいてしまっていることを。

 あたしはようやく自覚した。

 慌てて足を閉じて手を払いながら立ち上がる。二人の視線が生暖かくて恥ずかしい。

 顔から火が出そうだった。

 そんなあたしに対し、降旗さんがその手を差し出してくる。

「私は君を歓迎するよ、萩原美海ちゃん」

 歓迎されて喜んでもいいのだろうか。

 あたしは羞恥で顔が真っ赤になっていることを理解しつつ、反射的に差し出された降旗さんの手を握り返していた。


 この時に、あたしがそれからどうなるかは、決まったのかもしれない。


つづく


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