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ヒトイヌ公園の裏事情 ~ヒトイヌ公園が繋いだ縁③~

■ ヒトイヌ公園シリーズです。今回は利用者ではなく、ヒトイヌ公園で働く職員側のお話となります。姉妹の視点を交えつつ、ヒトイヌ公園の裏事情を描いていきます。

■ ヒトイヌ公園で、入園者の『サクラ』になる姉妹。施設側の人間であるということは伏せて、入園者とのコミュニケーションも取るのです。

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 ヒトイヌ公園。SMプレイの一種であるヒトイヌプレイを屋外で行うことが出来る公園。

 中に入るには多額の入園料を支払う必要がある。ただし、一定の条件を満たすことができれば、その入園料はかなりお得になる。

 それはヒトイヌ入園と呼ばれるもので、パートナーの一方か、あるいは両方がヒトイヌになることで利用することが出来た。

 素の入園料は非常に高額なため、よほどお金に余裕がある一部の資産家以外は、何らかの形でヒトイヌ入園を試みるのが普通だった。



 その日、ヒトイヌ公園を利用しに来たその男女のカップルも、片方がヒトイヌ拘束を施されることによって、公園に入園することが出来ていた。

「相変わらず、ここの公園はすごいわねぇ……」

 広い公園を見渡しながら、その女性はぽつりと呟いた。

 半分は独り言のつもりだったが、彼女の呟きに彼女の足元にいるヒトイヌが反応する。

「ンァウ」

 女性の言葉に完全同意なのか、その首を上下に動かしていた。

 そんな彼の体には、ヒトイヌ拘束が施されている。

 全身を覆うラバースーツに加え、その口には犬のフォルムになれるマスクが被せられている。

 マスクは彼の口の動きに連動して、パクパク開くようなギミックが搭載されており、その他の拘束具も最も基本的なものだ。

 両手両足を折り畳んだ状態で固定する拘束に、首輪、そしてお尻の穴に差し込まれた尻尾飾り付きのアナルプラグ。

 なお、彼の股間に生えているペニスは――勃起した状態で、プラプラと揺れている。

 当然裸のままむき出しではなく、ペニスサックが被せられており、分厚いラバーで出来たそれの中腹には、ベルトが巻かれており、それがペニスを締め付けて勝手に射精できないようになっていた。

 そのベルトは微かに振動しており、ペニスに刺激を与えることで、彼のペニスを勃起状態に保っている。

 それらの拘束具を身に着けた彼を見下ろしながら、彼女の方は楽し気に歩いていた。

「ふふふ。今日はどこに行きましょうか。以前一緒に遊んでくれた『野良』の子がいればいいんだけど……」

 そう呟きながら、彼女は彼氏の首に巻き付いたリードを牽いて、公園内をあてもなく散策する。

 歩き続けた彼氏の息が荒くなってくる頃、一人と一頭は前から歩いてくる別のヒトイヌに気づいた。

 ヒトイヌ公園には男女の組み合わせが最も多く訪れるが、同性同士のペアも決して珍しくはなかった。

 彼らが出くわしたそのペアも、男女ではなく、女性同士のペアだった。

 彼氏がそのペアを見て、思わず目を丸くして立ち止まってしまう。

 そんな彼の反応も無理はないと思いつつ――彼女は彼のリードを軽く引っ張って自分に意識を向かせる。

「んぅッ! ウゥ……ッ」

 申し訳なさそうに唸る彼氏。彼女はつんと澄ましながらも、前から歩いてくるペアに舌を巻いていた。

(むぅ……そんな格好されたら、勝てないじゃないの)

 そう彼女が思ったのは、その女性同士のペアの、飼い主側の女性に原因があった。

 その飼い主側の女性は――ラバースーツに身を包んでいたのだ。

 体にぴっちり張り付いて、体のラインを浮かび上がらせている。 

 スタイルはかなり整っているといってよく、同性の女性でも思わず羨むような、抜群に優れたプロポーションをしていた。

 その女性ほど優れた体つきをしていれば、彼女は躊躇なく同様の格好をしていただろうと思う。

(……恥ずかしいから避けてたけど……今度ここに来たときは、挑戦してみようかしら?)

 そんなことを思いながらも、そのためにはまずしっかりと無駄な肉を落とし、体を整えることから始めなければならないなと若干遠い目もしてしまうのだった。


 一方、ラバースーツを着てヒトイヌを散歩させている女性側――美海の方といえば。

 ヒトイヌとなった姉を散歩させている興奮で、頭がくらくらしていた。





 あたしの足下で、お姉ちゃんがヒトイヌになっている。

 お姉ちゃんの足取りは想像以上にしっかりしていた。ふらつく様子もなく、あたしが普通に歩く速度に難なくついて来ている。

(どれくらいの頻度でヒトイヌになってるんだろ……この調子だと、結構な頻度でなってるんじゃ……?)

 ここで働き始めて十年程度にはなっているはずだし、不思議ではないのだけど。

 何とも不思議な気分であたしはお姉ちゃんと一緒に公園内を歩いていた。

「フーッ……フーッ……フーッ……」

 お姉ちゃんの呼吸音が聞こえてきている。

 さすがに少し息が上がっている様子だ。

(四つん這いで歩くのって大変そうだしね……そろそろ求刑した方が……あ)

 あたしがそんなことを考えていると、反対側からヒトイヌを散歩させている女性が歩いて来た。

 その人は普通の服装で、男のヒトイヌを連れている。

(うぅ……恥ずかしくなって来た……)

 自分の格好を思い出し、顏が赤くなってしまう。

 あたしはすぐにでも離れてしまいたかったけれど、仕事でやっている以上、そういうわけにもいかない。

 相手次第ではあるけれど、ある程度向こうに合わせて行動する必要があった。

 ドキドキしながらその人たちの側に近付いていく。

「こ、こんにちは」

 若干硬い声音ながらも、女の人がそう挨拶してくれる。

 あたしは喉に引っかかるような思いをしながらも、何とか声を絞り出した。

「こんにち、は。い、いい散歩日和ですね~」

 当たり障りのない話題をチョイスしたつもりだった。

 それを受け、女の人は笑顔を浮かべてくれる。

「そうですね。熱くもなく、寒くもなく……寒く、ないですか?」

「あ、あー、えっと、そんなに寒くは、ないですね……」

 あたしはラバースーツを着ている自分の体を隠すように、体を捩らせた。

 改めて注目されると、さすがにかなり恥ずかしい。

 あたしが無難にやり過ごそうとしている間に、お姉ちゃんはお姉ちゃんで、ヒトイヌの相手をしてくれていた。

 じっと正面から見つめ合い、お互いに鼻先を――犬の鼻先を模したマスク同士を近づける。

 不自由なヒトイヌ拘束で行う、精一杯の挨拶といったところだろうか。

「……可愛いヒトイヌですね。恋人さんですか?」

「え。あー、えっと……」

 こういう質問をされるとは思っていなかったので、戸惑う。

(なんて答えればいいの!? サクラだから、仕事っていうわけにもいかないし……!)

 あたしとお姉ちゃんの関係を一言でいうのは難しい。

 そういう話を聞きたいわけでもないだろうし。

(いや、でもここは恋人って言って置けばいいのよね。逆に。仕事なんだから、うん。それがいい、はず)

 あたしはドキドキ緊張しながら、お客さんの質問に答える。

「え、ええ。実は、そうなんですよ……この人が、こういうの好きで……」

 しどろもどろになりながらも、何とか応えるあたし。

 足元のお姉ちゃんがなんか言いたげな顔で見上げて来ているような気がしたけれど、ひとまず放置した。

(も、文句はあとで聞くから……!)

 そんなことを内心考えつつ、あたしは相手に向かって問いかける。

「そちらは……恋人さん、ですか?」

「はい。ヒトイヌプレイが好きで……時々利用しに来るんです。どっちがヒトイヌになるかは、その時次第なんですけど」

 朗らかに教えてくれるお客さん。

(そういえば、どちらがヒトイヌになるかは決まっていないタイプのペアもいるって、降旗さんが言ってたわね……)

 ヒトイヌプレイに限らず、SMプレイというものは基本的に責める側が決まっているものだと思っていたので、意外に感じた記憶がある。

 意外とSとMが明確に定まっていないこともあるのだ。

(あたしとお姉ちゃんはどうなのかな――って、あたしたちは仕事でやってるだけだってば!)

 内心、自分でツッコミを入れてしまいつつ、あたしはどうにか当たり障りのない世間話を続ける。

「じゃあ、あなたは今日が初めての利用なんですね?」

「ええ、まあ……一応……そうなります、ね」

 厳密にはそうでなかったりするのだけど、とりあえずそう応えておいた。

 職員としての利用は利用歴に含めるべきではないと思えたからだ。

 あたしのことをプレイ仲間だと思っているお客さんは、嬉々として色んな話をしてくれた。

 主に公園内のどの施設がおススメかという話だった。

 逆にいまいちな施設はどこかという話も聞かせてくれた。

(棚ぼただけど……記憶しておこうかな)

 施設側の人間として、改善点を口にしてくれる相手は貴重だ。

 それを自然な形で聴けるこの立場は、最大限に利用するべきだろう。

「芝生広場は広くて心地よくて、普通にヒトイヌプレイをする場合は滅多にない場所で、そういう意味での真新しさはあるけれど……やっぱり、ミスマッチな感じはしちゃうのよねぇ……」

 しみじみとして呟く女の人。

 その気持ちは容易に想像できる。

(確かに特別感は一番かもしれないけれど、実質的に出来る行為もすくないしね……)

 ヒトイヌとの遊びの中に、ボール拾いはある。

 ボールを遠くに転がして、それをヒトイヌに取って来てもらうというものだ。

 普通の犬に対してやるのであれば、この公園の芝生広場の広さは十分だろう。

 だけど、身動きがとり辛いヒトイヌがそれをするには、あまりにも芝生広場は広すぎた。

(お姉ちゃんくらいヒトイヌの動きに慣れた人ならまだしも……あんまり慣れてない人がやると、時間と体力だけが無暗に消費されちゃうだろうし……)

 加えて、屋外ゆえに生じる問題もあった。

 この公園はかなり整っているとは思うけれど、転倒することによって生じるリスクは当然存在する。

 それはまあ屋内でもそんなに変わらないと思うけれど、天気の問題もある。

 雨の日は当然外には出られないし、晴れの日は晴れの日で温度と湿度がとても高くなってしまう。

 お姉ちゃんが身に着けているラバースーツは風通しが良くなるような構造になっていてとても優秀だけど、それでも直射日光を浴び続けられるほど、壊れた性能はしていない。

(仕事として考えるなら、出来る限り人の目につくところに出るべきだとは思うけれど……時と場合を考えないと、危なそうね……)

 一人納得していると、話していた人は、水分補給の大切さも教えてくれた。

「吸水スポットは公園の至るところに置いてくれているから、積極的に活用していった方がいいと思うわ。……貴女の場合は心配ないかもしれないけれど、ラバースーツって結構な汗を知らず知らずのうちにかいちゃうものだから」

 そんなアドバイスをしてくれる。

 あたしに必要ないという理由は、ラバースーツを着ているからだろう。

 身をもってどれくらい汗をかくのかを理解しているから、自分の喉が乾けば水分補給をすればいいわけだ。

(そういう意味じゃ、案外ラバースーツを着るっていうのも大事なことなのかも……)

 そんなことを考えてしまう。

 その後もあたしとそのお客さんは話を続けていた。

 あたしは彼女と一緒に休憩所の椅子に座って、休憩がてら話を聞いた。

 その間、お姉ちゃんは愛艇のヒトイヌとさりげなくコミュニケーションを取っていた。

 もちろんお姉ちゃんもそのヒトイヌも口枷を嵌められているので、言葉を交わすことは出来ないけれど、軽く頭同士を擦り合わせてスキンシップを取っていた。

(さすが、ここで働いて長いというか……心得てるのね、お姉ちゃん)

 あたしが感心していると、話していた相手の人が立ちあがる。

「ふぅ。そろそろ行こうかな。あなたはどこに行く予定だったの?」

「あー……そうですねぇ……」

 特に決めていなかった、というのが正直なところだ。

 いまのところ他に客が来ているということもないみたいだし、もう少しこの人たちと一緒に行動してもいいだろう。

「……特に決めてなかったので、もう少しご一緒してもいいですか?」

「もちろん! それじゃあ、行きましょうか!」

 ニコニコと笑顔でそう促してくれるお客さん。

 私は改めてお姉ちゃんのリードを手に、カップルたちと一緒に公園の中を移動し始めた。


 二人について、辿り着いた場所は――体育館のような、屋内遊技場だった。


つづく

 


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