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夜空さくら
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黒い人皮を纏う巫女の話 序

■ 拘束されることを好む奇特な神様を崇拝しているとある山間の村。滝の裏の洞窟にある社を管理するために、巫女はある特殊な『衣服』を身に纏うことになる。これは、新しく巫女に選ばれた、容姿に自信のない、一人の女性の物語。

■ こちらの作品は、支援者様向けに書いているものです。続きは支援者様向けに公開していきますので、ご支援のほど、ぜひよろしくお願いいたします!ーw-ペコリ

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 初めて私が神様を目にした時――そのあまりの神々しさに目が眩んだものだった。


 艶やかで腰まで届くほどに黒髪に、滑らかで雪のような肌。

 整った顔立ちは、『美しい』という陳腐な言葉では言い表せないほどの輝きを放ち、意識が持っていかれる。

 そして、さぞ触り心地がいいのだろうと見るだけでわかる胸の膨らみが、荒縄で縊り出されている。

 ふっくらと色っぽく膨らんだ唇は、竹筒のような物が割り裂いており、声を封じていた。

 両手は背中側で合掌させられるような形で捻り上げられている上、指先一つ一つが細い紐のようなものでしっかり括られていた。

 その手首や肘の辺りにも縄がかけられていて、上半身は毛ほども動かせないに違いない。

 胸を縊り出している縄からは股間に向けて縄が垂らされ、その股間に突き立っている木の栓のようなものを固定していた。

 栓を突き入れられた女の穴とお尻の穴を、垂らされた縄が縦断し、栓が抜け落ちないように抑えている。

 さらにその両足も揃えた状態で、縄によって固定されていて、歩いて移動することも出来ない。

 そんな状態で神輿の上に座らせられている。

 絶世の美女が縄を打たれ、洞窟奥にある神殿へと運ばれていくのを、私は見つめていた。

 その美女が神様であるということは、後に聞かされた。

 彼女は拘束を好む変わった神様で、私たちの村は拘束を捧げ、管理する代わりに、大いなる加護を授けていただいているのだと。

 その時、私は思ったのだ。

 神様とお近づきになりたい、と。


 美しい神様に触れ、自分もその美しさにあやかりたいと――そう思ったのだ。


 というのも、私は自分の容姿が嫌いだった。

 少しぽっちゃりした体格に、お世辞にも整っているとはいえないへちゃむくれな顔。

 胸はそこそこ大きく見えるけれど、それは太っているからで、綺麗でもなんでもない。

 くびれなんてものはなく、手足も短くて流行りの洋服なんて欠片も似合わなかった。

 もちろん、自分なりに努力はした。規則正しい生活を心がけ、身支度や化粧に時間を費やし、運動を率先してやって体を絞ろうとした。

 けれど、生まれ持った顔立ちはどうにもならないし、体質もどうにもならなかった。

 周りの子たちが恋愛だなんだと盛り上がる中でも、私の存在はいつも蚊帳の外で、そういった話題で自分の名前があがることはついぞなかった。

 それでも私は諦めなかった。


 自分の力でどうにもならないなら――神様の力に縋ろうと思ったのだ。


 村では何十年に一度、神様のお世話をする巫女が選ばれる。

 時代によって様々な選出方法があったそうだけど、私が選ばれた時は試験と先代巫女様の面談で決定した。

 先代の巫女様はいい歳のお婆さんで、そろそろ巫女の任を引き継ぎたいと思っていたそうだ。

「案外体力を使うからのぉ。若いもんに引き継いでおきたかったんじゃ」

 私が巫女として仕えることが決まった時、先代はそう語った。

 先代は五十年近く神様のお世話係を務めて来たという。

「龍神様には大いに恩恵を授けていただいておるでの。出来る限りその要望に応えるのが、巫女の仕事じゃ」

 神様との触れあい方は、代々の巫女によって違っていたらしく、先代の場合は持ちつ持たれつの関係性を重視していたらしい。

 あまりお互い踏み込み過ぎず、距離感を大事にしている様子だった。

「あんたが龍神様とどういう関係性を築くかは、あんた次第じゃが……あまり踏み込み過ぎると、取り込まれるでの」

 先代はそう言って、私に巫女の仕事を引き継ぎ、そして去って行った。


 先代のいう『取り込まれる』ということがどういうことか――私は身を持って味わうことになる。





 巫女の朝は早い。

 まだ日が昇っていないような時間に置き、準備を始めなければならないからだ。

 巫女の朝一番の仕事は、境内の清掃。

 神様がいる社の掃除をする。

 ただ、そのためには、ある特殊な装備を身に着けなければならなかった。


 井戸の水で身を清めた後、私は巫女のために用意された蔵の中で着替えをする。

 その蔵の中には、巫女が身に着ける特殊な服が吊るされている。

 ドキドキと高鳴る心臓を感じつつ、私はそれに触れた。

「これが……神様の……っ」


 それは一言でいうならば、『黒い人皮』であった。


 艶やかな妖しげな光沢を放つ、人の形をした皮。

 頭部の部分はなく、首のところですっぱり斬られている。

 背中がぱっくり開いていて、そこから体を中に差し込む形で身に着ける。

 私はかなりぽっちゃり体型なのだけど、その皮は普通の体型をしているように見えた。

 果たして本当に入るのだろうか――私は一抹の不安を掻き消し、その『人皮』を身に着けるべく、全裸になってその皮を手に取った。


 この黒い人皮は、神様が自分の社を管理する巫女のために用意してくださった、巫女用の特殊な衣服だという。

 神様が拘束されているあの社は、神様の分泌する体液で濡れていて、何の用意もなくそこに入ると、その影響を受けて大変なことになってしまう。

 それを防ぐために、その人皮は存在する。

 私がまず足を通していくと、案の定かなりキツかった。

 肉が引き絞られ、片足を通すのも一苦労だ。

「く、くぅう……っ!」

 それでも我慢して足をその中に捻じ込み、パツパツにしながらも足に人皮を通していく。

 私の膨れ気味の足は、その皮に包まれるに従い、しゅっとした理想的な身体の線を生み出していっていた。

 いい具合に圧力がかかって、体を整えてくれているのだ。

 大根みたいだった私の足が、程よく細くて綺麗な輪郭をした脚へと生まれ変わる。

 皮を被っているのに生まれ変わるというのも変な話だけど、私の感覚的には正にそれで正しかった。

(ずっと着ておきたいくらい……ほんと、素晴らしいわ……神様のお恵みね)

 もう片方の足も頑張って皮の中に押し込んでいく。

 すらっとした理想的な両足になった。

 お尻のお肉が、その皮の上に乗ってしまっている。

「くっ……、うっ……! この……っ、おぉ……!」

 皮は大の男が思い切り引っ張っても破れない強度を持っているから、私が思い切り引っ張っても問題ない。

 ミチミチと私の体が締め付けられて悲鳴をあげているくらいだ。

 どうにかそのお尻を捻じ込んで、下半身が完全に皮に包まれる。

「はぅっ!」

 ミチミチと、体が締め付けられていた。

 細身になった腰の感覚に酔いしれる。

 普段は無駄に肉のついたお尻がだらしなくて嫌だけど、この皮を身に着けている時だけは自分の体でも好きになれた。

 でも、細身になった下半身の上に、今度はお腹の肉が乗っている。

「んぅうう……っ!」

 そのお腹の肉を、皮の中に押し込みながら、黒い人皮をさらに引き上げていく。

 背中がぱっくり空いているからか、案外お腹は簡単に通過した。

 ただし、簡単に身に着けられた代わりに、そのお腹の贅肉はかなり目立っている。黒い人皮に包まれた姿は、妊婦みたいだった。

 それを気にしないようにしつつ、次は手を皮の中に通していく。

 皮の中は奇妙に温かくて、ヌルヌルしていた。

 指先までちゃんと分かれているから、通す指を間違えないように気を付けながら、その皮を身に着ける。

「くっ、ぅう……ッ! ん、ぅ……ッ!」

 指先一つ一つに通した皮を、引き伸ばしながらきっちり身に着けていく。

 私は指も太いから、かなり苦労したけれど、どうにか全部捻じ込むことが出来た。

 すると、私の手は私の手とは思えない、色っぽくてすらっとした手に変貌する。

「えへ、えへへ……っ」

 その手を目の前に翳して、掌と甲を繰り返し見て、その姿に酔いしれる。

 いつものぶくぶく太った自分の腕とは思えない。

「……やっぱり、神様の皮って特殊なんだなぁ……ひゃっ!?」

 思わず変な声が出た。

 見下ろしてみると、身に着けた神様の皮が私の体に張り付いて来て、胸とお腹の膨らみが浮かび上がっていた。

「わ、わ……っ!」

 先んじて説明は受けていたから、混乱して取り乱さずに済んだ。

 神様の皮は、ある程度身に着けると、あとは勝手に開いている背中の部分が閉まっていく。

 ギチギチと音を立てながら、私の体が黒い人皮に締め付けられている。

「ふぐ……っ、ううぅ……っ!」

 自分の皮膚の上に、もう一つ皮膚が出来たみたいに、肌に感じていた空気の感触が薄れていく。

 気付いた時には、私の体は首から舌が完全に神様の皮に覆われていた。

「はぁ……はぁ……はぁ……っ」

 荒い呼吸をしながら、立ち上がろうとして――体の至るところに皮の感触が走る。

「んひぃっ!」

 多少苦しくはあったけれど、痛かったり気持ち悪かったりすることはない。

 これは、むしろ、気持ちいい。

 全身しっかりと締め付けられているような感覚で、とてもいい感触だった。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 人皮を身に着けただけなのに、すごい汗を搔いているのがわかる。

 前髪から垂れて落ちた汗は、人皮の上を転がって地面まで落ちた。

 これだけ撥水性が高いと、中は相当蒸れてしまいそうだけど、そんな感じは全くしない。

 足先や手先も汗が溜まっているような感じは全くしなかった。

「……どういう仕組みなんだろ。汗を吸い取ってる感じもしないけれど……」

 私は疑問を呟きつつ、神様の皮なんだからそんなこともあるだろうと納得した。

 改めて自分の体を見下ろしてみると、とんでもなく細身で、凄く女性的魅力に満ちた体が目に入った。

 ぽっちゃりした自分の体とは思えない。

 胸の膨らみも、太っているからではなく、豊満な身体付きと言える形になっている。ただ、ちょっと恥ずかしい。

「い、急いで準備しないと……!」

 この人皮を身に着けていれば、社を濡らしている神様の体液の影響を受けずに掃除が出来る。

 私は人皮を身に着けた体の上から、巫女服を身に着けた。手足の先や、首元が黒くなっている以外は、普通の格好になる。

「……うう、でも、せっかくこんな素敵な身体になれたのに……」

 この蔵には、鏡が用意されていた。巫女が身支度を整えられるように、高価な姿見が設置されているのだ。

 それを覗き込んでみると、体はすらっとしているのに、ぽっちゃりした凡人以下の顔立ちをした私の顔が映る。

 せっかく理想的な体型になれても、顏が酷いから台無しだ。

「いっそ、この顔も全部この皮に覆ってもらえればなぁ……」

 自分の顔が見えなくなっても、よっぽどその方がいいと思う。

 でも残念ながら、顏まで覆うものは用意されていなかった。

 私は顔を伏せながら蔵を出て、龍神様を祀る滝裏の洞窟へと向かった。


 そして私は――思いがけず、龍神様と対面することになる。


つづく


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