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夜空さくら
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百合学園の特別指導プログラム⑥

■ 百合学園で、特に生活態度などが悪い生徒に対して行われる、特別指導プログラムに関するお話。

■ 大葉の指導役である満里奈。成績優秀なはずの彼女が、どうして大葉という問題児と組まされたのか。その答えが明らかになりますーw-ウム

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 大葉が首輪を取り付けられた翌日。彼女は無事、遅刻もせずに登校して来ていた。

 電車内で懲りずに船を漕ぎかけて、首輪の居眠り防止機能が発動して飛び起きはしたものの、結果として遅刻はしていない。

「今日は無事登校してきましたね。よいことです」

 校門のところで満里奈が彼女を待っていた。

 その彼女の首にも大葉と同じ首輪が装着されているが、大葉ほど気にしている様子はない。

「へへへ……あたしだって成長するんだよ、お姉さま」

 そこでふと、大葉は特に約束をしていたわけでもなかったのに、満里奈が校門にいることに疑問を抱く。

「あれ? お姉さまって風紀委員とかだったりする? 朝の挨拶活動とかあるの?」

「いきなり何の話ですか?」

「だって今日はまだ早いというか……お姉さまってあたしが登校する時にはいつも校門に立ってない? お姉さまのおうちってどの辺りなの? すぐ近くとか?」

「……もしかして、気付いていなかったのですか?」

 満里奈はかなり呆れた顔を大葉に向ける。

「私は学校の敷地内にある学生寮で生活をしています」

「え。そうなの!?」

「学校内を案内した時に教えて……はいませんでしたね。貴女が好き勝手動こうとするので、言い損ねていました」

「そ、そうだったんだー。いいなー。楽そう。……あれ? でも入学説明会の時、寮生活の選択肢があるなんて言われてなかった気が……」

「だからそれは貴女が寝ていたからでしょう?」

「はい、そうでした! ごめんなさい!」

 満里奈に本格的に呆れた顔を向けられて、反射的に謝る大葉であった。

 勢いよく頭を下げる大葉に、溜息を吐く満里奈。

「……まあ、寮といっても、一般の生徒が入ることはない寮ですから」

「え、そうなの?」

 成績優秀者だけが入れる寮なのかと、大葉は予想した。

 しかし、続く満里奈の言葉は、大葉にとっては意外な内容だった。

「貴女は入ることになると思いますよ。早ければ数か月以内に」

「え!? あたしが!?」

 大葉は目を丸くして驚いたが、満里奈の視線からそれが決して喜ばしいことではないことを察する。

 そして、聞きたかったことを思い出した。

「……そういえば、お姉さま。あたしのせいで、同じような拘束具を身に着けなきゃならないって、理不尽とは思わないの? お姉さまは優秀なのに」

 それは昨晩から大葉が気になっていた点だった。

 素行不良の大葉の行動で、成績優秀な満里奈が同等の罰を受けるのは、冷静に考えてみればあまりにも理不尽だ。

 大葉に足を引っ張られているだけで、満里奈側にメリットがない。

 その違和感。そして、一般の生徒は入ることのないという寮に、満里奈が入寮しているという事実。

 それらの事実から、大葉はある推測をしていた。

「……そうですね。どうやら貴女も察したようですし、潮時のようです」

 満里奈は少し寂しそうに、自身のことについて語った。

「私はかつて、貴女と同じように素行不良の問題児とされていました。その結果、今より遥かに厳しい拘束の罰を受け、こうして更生したのです」

 そう語る満里奈の表情は、真実を告げている真剣なものだった。



 昼休み。

 大葉は満里奈と合流して、中庭で昼食を食べていた。

 首輪や貞操帯などの影響もあって、二人は背筋をピンと伸ばしてベンチに並んで座っており、傍から見るとお見合いか何かをしているような、不自然なまでに真面目な体勢を取っているように見える。

 姿勢よくパンを食べながら、満里奈は朝の話の続きをする。

「貴女は自分のことを問題児だと思っているようですが、怠惰なだけで悪意がない分、入学当時の私に比べれば可愛いものです」

「ええ……」

「私はいわゆるヤンキーというものでしたから。手が付けられないレベルに荒れた野良ネコのようなものでしたよ」

「マジで!?」

 そう言って満里奈はある写真を大葉と共有する。

 そこにはいまの満里奈とは似ても似つかない、ギラギラした表情の少女が映っていた。そもそも身なりからしていまの満里奈とは――いまは大葉と同じ拘束具を身に付けているからそれはそれで普段と違うが――全く異なる。髪はボサボサで、服装も着崩していた。

 大葉はその画面と、隣に座っている満里奈を思わず見比べる。

「えええ……ほんとにこれ、お姉さまなの……?」

「事実です。ほら、この顎の辺りにあるほくろ、同じ位置にあるでしょう?」

 満里奈に指摘され、大葉は確かに同じ位置にほくろがあると気づく。

「……お姉さま、ワルだったんだぁ」

「思春期の若気の至り……と言えれば可愛いものだったのですけどね。傷害事件も起こしてしまったので、そんな可愛いものでもなかったですよ」

「お、おぉう……」

 大葉は思わず満里奈から少し距離を取ってしまった。

 大葉は怠惰による問題行動こそ多いが、基本的には善人側の人間である。

 人を傷つけるようなことはしようとも思わない。

 そのため、暴力沙汰を起こしたという満里奈を少し怖く感じてしまう。

「昔のことを武勇伝として語るつもりはありません。それに、あの頃の私が荒れていたのは、家庭環境もあってのことでしたし……いまはもう、そういうことをしようとも思いませんよ」

「そ、それならいいんだけど」

 離した分の距離を再度詰める大葉。

「いまの私がこうなれたのは、この学校の『指導』のおかげでもあります」

 満里奈はふっと微笑む。

「まあ……そういうわけで、私が貴女の『姉妹』になったのは当然なんですよ」

「そうなの?」

「ええ。貴女も聞いたことがあるでしょう? この制度は入学時に行われた検査で、相性のいい者同士を組み合わせていると。それを不服に感じた者はいないと」

「……そういえば、友達がそんな噂してたかも」

「それは事実です。相性のいいもの同士……というよりは、要は同じレベルということです。問題児も、指導する側になる時には更生しているので、問題児の気持ちがわかって指導することができるわけです」

「なるほどぉ……」

「もちろん、私と貴女に関しては問題行動のレベルが違いますが……恐らく、貴女の年代はとても優秀というか、大人しい子が多いのでしょう」

「……確かに、イイ子が多いかも」

 大葉が入学してすでに数か月経つが、大きな虐め問題どころか、小さなトラブルすら大葉の耳には入っていなかった。

 普通なら大葉のように罰を受ける子が数人出ていてもいいはずなのに、大葉以外の誰かが特別指導を受けたという話を大葉は聞いていない。

 もっともそれは、先んじて厳しい罰を受けている大葉の姿が、真面目な面々にはちょうどいい戒めとして機能しているということもあったのだが――大葉はそのことを自覚していなかった。

 さて、と満里奈は話を締めにかかった。

「そういうわけで、私はこのくらいの拘束具は慣れていますし、連帯責任でこのような状態になることも、過去の自分の行動の結果と理解していますので、特に不服には思いません」

 そういって、満里奈は大葉に優しい目を向ける。

「貴女は私のようにならないよう、今のうちにしっかり更生してくださいね」

 じゃないと、と満里奈はにこやかに笑う。

「今以上の厳しい指導を受けることになりますよ? 私はもう慣れているので平気ですけれど、死ぬほど辛いので受けずに済むならそれに越したことはないです」

「……ど、どんな罰……いや、指導なの?」

 ごくりと喉を鳴らして満里奈に尋ねる大葉。

 好奇心が抑えられなかった。

 そんな大葉に対し、満里奈は少し考えてから口を開く。

「そうですね……事前に指導の内容を伝えるのはあまりよくないとされているのですが、貴女の場合は聞いておいた方がいいのかもしれません」

 そう結論付けた満里奈は、早速話し始める。


 この学校で行われる――最も厳しい『特別指導』の話を。


 満里奈は指で学生寮の建物を指差す。

「この学校の学生寮は、本格的に問題があると判断された生徒が入れられる収容所のようなものです。二十四時間三百六十五日、常に管理……つまりは拘束された状態になり、更生を促されます」

「ええええ……」

 そうかもしれないとは思っていたが、本当にそうだとハッキリ宣言されると、大葉は唖然としてしまう。

「それって色々……大丈夫なの? その、身体とか」

「しっかり管理されているので、ある意味では普通に暮らしているより安全ですよ。敷地内から出ることは出来ないので、交通事故や事件に巻き込まれるリスクもないです」

「確かに……?」

 大葉は首を傾げてしまう。

 満里奈の言っていることが正しいような気もするし、そうでない気もする。

 彼女には判断が出来なかった。

「まずあそこに入ると、磔台のような物に裸で拘束され、全身を徹底的に洗浄されます。肛門の中から胃の中まで、徹底的にです」

「うぇ!?」

「さらに全身脱毛で剃髪……髪の毛も剃られます」

「ええええ!?」

「あ、永久脱毛じゃないから安心していいですよ」

「できないけれど!?」

 ツッコミを入れてしまいながら、大葉は満里奈がどこかズレているような気がしてならない。

「どうせあの学生寮に入るレベルになると、数か月は全身を拘束されますから、問題ないんですよ。更生して拘束を緩めて貰える頃には、ショートカット程度には生えますから」

「はえええ……」

 大葉は満里奈の説明を聞きながら、そう声を上げることしか出来なかった。

「その後は、肛門に太くしっかりとしたアナルバルーンと、尿道にもカテーテルが挿入され、排泄も管理されます」

 事も無げに満里奈は説明を続けた。

 無論、大葉にしてみれば信じられないような内容だ。

「口には開口具が取り付けられ、胃に直接流動食を流し込むためのチューブの通ったディルドが通されます。なお、呼吸は別で気道を確保するための細いチューブが鼻に通されますので、窒息の心配はありません」

「そう言う問題じゃなくない!?」

 明らかに窒息を心配するよりも遥かに問題な処置の話を聞き、大葉は唖然とする。

「頭には全頭マスクが装着されます。目の部分には特殊なディスプレイが嵌め込まれており、視界は確保されます。耳は耳栓で遮音してしまいますが、ちゃんとイヤホンも仕込まれていますので、ちゃんと周りの音を聞くことも出来ます」

「……あのー……それって、その機能を切ったら何も見えないし聞こえなくならない……?」

「実際体験してみると、光の強弱くらいはわかりますし、体を伝って音も割と聞こえますよ」

「それは見えてるとも聞こえてるとも言わない気がするよ……?」

 満里奈は平然としていたが、大葉はとても安心できなかった。

「貞操帯と貞操ブラはそのままですし、その辺りの装置はそこまで変わりません。なお、手枷は電磁力を使って枷同士が張り付くタイプのものになり、授業中や勉強中などの必要な時以外は全て後ろ手に拘束されます」

「えぇ……それで生活出来るの?」

「出来ます。というか、そもそも食べる必要も用を足す必要もないですからね。ひたすら勉強に打ち込めますし、案外悪くないですよ。そのおかげで入学当初は最低クラスの学力しかなかった私も、いまでは上から数えた方が早いですからね」

「効果的……ではあるんだろうけどぉ……」

「寝る時には、ベッドに体を固定して眠ります。就寝時間になるともう全身クタクタですから、一瞬で眠れると思います」

「……それって、就寝っていうか、気絶っていうんじゃなかった?」

「まあともかくこのように、寮に入ることになると、四六時中監視されることになりますので、改善がみられるまで責められ続けることになりますから……くれぐれも、そうならないようにしてください」

「はぁい…………あれ? でもお姉さま」

「なんですか?」

「お姉さまって、もう更生したんだよね? それなら……なんでまだ寮生活してるの?」

 その大葉の質問に、満里奈が応えようとしたところで――昼休み終了の予冷が鳴る。

 すっと満里奈は立ち上がった。

「話し込みすぎましたね。急いで教室に向かいなさい、大葉」

「わ、わかった!」

 手足に拘束はほとんどないとはいえ、太い首輪によって首が固定されているため、急ぐのにも限度がある。

 大葉より拘束に慣れている満里奈は、驚くほど滑らかな動きで自分の教室へと向かって行った。

 大葉はそんな満里奈に感心しながら、自分の教室へと急ぐ。

 廊下は走ってはいけないため、ギリギリになってしまったが、遅刻にはならずに済んだ。

 ほっとしながら授業を受ける準備をしていた大葉は、スマホに満里奈からメッセージが来ていることに気付く。

『今日の放課後、授業が終わったら学生寮前に来なさい』

 呼び出しに疑問を感じつつも、大葉はそれに了解の返信をするのだった。


 こうして大葉は放課後、学生寮に足を踏み入れることになった。


つづく


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