1993.10.31
銀の弾丸を打ち込まなければ。
この怒れる、美しい獅子を締めなければ。
黒い8オンスグローブに包まれた両拳を、胸の前に構えます。
痛々しく腫れた頬。血漿と唾液、体液に塗れたその表情。
私が壊した彼女の顔。
その奥に、まっすぐな瞳が爛々と輝いているのです。
私の手数にたいして、彼女の有効打は取るに足りないものでした。
しかしその数発だけで、私の顔面も少なくないダメージを受けていました。
特に5Rに受けたフック。
ガツンとした衝撃に世界が暗転し、人生初のダウンを喫しました。
歴史のある我がブランニュー家にとって、ダウンは恥ずべきこと。
ですが、これは私から彼女へ示せる、最大の敬意の一つとなったことでしょう。
マットに滴る夥しい鼻血。
マウスピース越しにズタズタになった口内。
あの血の苦い味は、試合後3日間消えませんでしたね。
まさに殺し合いのようなヒリヒリする打ち合い。
でも、ついにその時は来たのです。
最期のラッシュ。
残り30秒の打ち合いを制し、彼女の頬を砕いた瞬間。
彼女の腰が落ちた瞬間に、フィニッシュまでのフローが私の脳裏をイメージとして駆け抜けました。
自分でも驚くほどのインスピレーションです。
これが『ゾーンに入る』ということなのでしょうね。
2秒後の私は脳内のイメージ通り、再び恐ろしいフックを彼女の右頬に叩き込みました。
本当に恐ろしい手応えです。どの選手もこの1発を入れるだけでただの肉塊になる。
それを、これ以上ないほどの完成度で彼女へ叩き込んだのです。
しかし、彼女は倒れなかった。
後ろへよろめき、コーナーを背にして、彼女は拳をまだ構えたのです。その目は虚でしたが、私はその中に生きる闘志を確かに見い出しました。
あれを見逃していなかったら__。私の勝利はなかったかもしれません。
読み合い。
彼女のパンチを交わし、トドメとなるパンチ___
アッパーカットを顔面に叩き込みました。
恐ろしい銃声ともに私の弾丸が、彼女の脳天をぶち抜きます。
臀部と膝のバネを使った、私の持てる最高のパンチ。
満身創痍の人間に打ち込むべきではないでしょう。
並の人間であれば二度とリングに上がれなくなるだろう、それほどに恐ろしい行いでした。
でも、私は彼女にそれをすることを選びました。
そうでもしないと、彼女は倒せない。
それほどに恐ろしかったのです。
マットに倒れ込んだ彼女は、とうとうただの肉塊になりました。
私はその情熱的な瞳から闘気の光が消えていくのをぼーっと見下ろしていました。
(ミス・ブランニュー! ニュートラルコーナーへ!)
そんなレフェリーの怒鳴り声も耳に入りませんでした。
私のシューズの爪先。その先で消える炎に。
拳に残る、彼女の顔の感触に。
たまらなく欲情しました。
私のものになったその支配感。
生物種としての優越感に、全身に快感が走りました。
そして、
ひどい罪悪感も。
普段の私に日記を残す習慣はありません。
強迫観念に突き動かされたのです。
夜ベッドで目を閉じる時。
あの瞬間が強い感情とともにフラッシュバックして。
ぐちゃぐちゃの心の行くまま、熱い体を慰めずにはいられないのです。
この鮮明な記憶が、文字となり、紙の表面に踊ることで。
色褪せていくことに期待しているのです。
↓ 差分
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いつもご支援ありがとうございます!
sakata
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