──すべての始まりは、アイドルグループTINGSのマネージャーである、日生直輝がかけている眼鏡が壊れたことだった。
誰かに壊されたとかではなく、新調する機会を後回しにしていたら、レンズが外れた上に床に落ちて大きく傷が入ってしまったというもの。
人が抱えているものを見透かすようにも時どき見える彼だが、眼鏡が無いとほとんど視界がぼやけてしまい、TINGSのメンバーである祇園寺雪音は、ふらつく彼を甲斐甲斐しく支えていた。
「大丈夫かい、マネージャーちゃん? みんな、今日の練習はここまでにしよう」
「いや、ボクは眼鏡の新調に行くから、みんなはこのまま自己練習を……」
「まともに前が見えていないんだろう、それでは眼鏡店までたどり着くことも難しいはずだ。私様にお任せしろ、店まで付き添ってやろう。なに、すべては『TINGSのためだ』」
「……?」
伊藤紅葉は、親友である雪音が急に“キラキラ”した気がして、首を傾げる。
どうやら謎の輝きは他のメンバーには見えていないようで、みなそれぞれに直輝のことを心配していた。
「マネージャーなんだから、ちゃんと自己管理しなさいよ! まあ『理王様はマネージャー無しでも自己練習してもいいんだけど』」
「理王、そういう言い方はよくありませんよ。本当は心配しているのに」
「し、『心配なんてしてないし!』」
聖舞理王が発言する度にエレクトリカルパレードみたいにキラキラ輝き、如何に周囲から“戦慄するレベルの馬鹿”と言われる紅葉でも、これが“嘘に反応して光って見えている”ということに気付く。
もしも最初に光ったのが雪音でなければ、大きな声で自身の状態を申告し、その奇妙な体質が本来は直輝のものであり、どういう原理か彼の視界が失われている間、紅葉の方へと移っているということが知れただろう。
だが考え無しで発現する彼女でも、よりにもよって雪音が“TINGSの為の行動していない”という嘘を吐いたことで呆気に取られ、呆然と雪音と直輝を見つめている。
「雪音ちゃん、私も同行しましょうか?」
「いや、春たちはこのまま連絡を待つといい。大勢で押しかけても、妙な空気になるだけだろう」
「あ、あの……雪音たんは、マネージャーと二人きりになりたいの……な、なーんて」
紅葉が自分の口をついて出た言葉に、流石に後悔する。TINGSのメンバーからの非難の視線が、そこまで苛烈ではないまでもザクザクと突き刺さる。
「あんた、本当に空気読みなさいよ……」
「紅葉、流石にこの光景を見て『嫉妬を覚えるのはあなたくらいです』」
「ははっ、『私とマネージャーちゃんはなんでもない』よ。それとも、紅葉に隠れて付き合っているとでも?」
前半は光って、後半は光らなかった。
玉城杏夏が実は雪音と直輝の姿に嫉妬しているのが、どうでもよくなるほどの情報。
ぱくぱくと口を開け閉めして、紅葉は小さく「ごめんなさい」と呟くことしか出来ない。
「みんな、不安にさせてすまない。眼鏡を新調したら『すぐ帰るから』」
「もっとも、今からでは遅くなるだろうから、みんなは先に解散しておくといい。『寄り道はしないようにする』よ」
結局、他のメンバーたちは雪音と直輝の行動を疑うこともなく、二人を送り出して解散することになった。
「ちょっと、あんた本当に大丈夫?」
「どうも紅葉はさっきから様子がおかしいですね」
「調子悪い? 熱とかあるの?」
まったく嘘のない、他メンバーが気遣う言葉が、逆に紅葉の心をギリギリと苛んだ。
※
──荷物を置いたままだったので、レッスン場に雪音が戻って来るのは分かっていた。
常夜灯が輝いているだけのそこへ戻って来た雪音は、ギョッとした顔で咄嗟に『首筋に手をやる』。
普段の紅葉なら「かゆいのかなー?」とか思うところだが、嘘だとわかっていると、何かを隠しているのが明らかだった……眼鏡の新調のついでに、とっぷりと日が暮れるまで“寄り道”した結果の、何かを。
「……紅葉、一人で練習していたのか? 熱心だな」
「……ねえ、雪音たん。私たち、親友だよね?」
「急にどうした? そういうのは、言葉に敢えてすると、安っぽくなるぞ」
不器用な言葉だけれど、間違いなく紅葉を親友だと思ってくれている、嘘のない反応。
TINGSから一時的に抜けて、ツインユニットゆきもじを結成したくらいに、二人の中は極めて深く、その絆が強いと信じている。
紅葉はずっと、雪音を一人ぼっちにはさせないと願って、共に行動してきた。
雪音も、そんな紅葉を……時おり考えの足りなさに呆れながらも……特別に想ってくれていたはずだ。
そう信じて、紅葉は頭がよくないなりに自身を繕いながら、雪音に確認の言葉を投げかけていく。きっと紅葉自身を見ることが出来れば、その体はピカピカと発光していることだろう。
「マネージャーの眼鏡、直ったの?」
「いや、残念ながら度がキツい上に乱視が入っているから、レンズは取り寄せになってしまうらしい。三日後に届くらしいが、代わりの眼鏡も店に無くてな……『仕方なく、家に送り届けてから、ここに戻って来た』」
本当のことを、言ってくれない。他のメンバーがいる場所ならまだしも、今なら紅葉しかいないのに。もしも秘密を告白するなら、絶好の機会のはずだ。
「そ、そうなんだ。眼鏡作って無かったなら、ちょっと時間かかりすぎな気がするなー? マネージャーの家で、お茶とか飲んでたとか?」
「昼間からそうだけど、紅葉は私様とマネージャーちゃんの関係を疑ってるのか? 時間がかかったのは『眼鏡がないせいで階段やエスカレーターで時間がかかったから』だよ。『家の中には入らず、玄関で別れて』帰って来た」
嘘、嘘、嘘ばかり。
家の中に入って、首筋に隠さなければいけないものができるくらいに、過ごしてから帰って来たのだ。
紅葉は歯がカチカチ鳴るのを必死で抑えながら「ふ、ふーん、そうなんだー」と答えた。そう答えるのが、精一杯だった。
嘘は発光で分かりやすく見破れるが、細かい機微など紅葉は読み取ることが出来ない。まして、雪音の両親は共に高名な俳優だ。雪音にも、その熱い血は流れている。
「雪音たん、マネージャーの件だけじゃなくて、何か私に話すこととか、ない?」
だから、雪音が隠そうとしているのなら、暴き立てる手段は紅葉には無くて。
ひたすらに相手に頭を垂れて、どうか教えてください、本当のことを言ってくださいと、繰り返すことしか出来ない。
「紅葉、今日は本当にどうしたんだ? 紅葉が言う通り、私様たちは親友だろう?」
その言葉には、本当に嘘はない。気づかわし気な表情も、心から紅葉を案じている。
「だから『隠し事があれば、必ず紅葉に話す』よ。大体、紅葉との関係を思えば『隠し通せるはずがない』だろう?」
ぷつん、と。
紅葉の頭の中で、何か太いものがキレた。
それは単に、紅葉にマネージャーとの関係を隠しているというだけではない。
戦慄するようなバカ相手ならば、確実に隠し通せるのだと、雪音が悪びれることなく想っているのだという、証左だ。
「そっかぁ、ごめんね、雪音たん」
きっと雪音は、紅葉のその言葉をしつこく疑ったことに対してだと思っただろう。
紅葉相手に背中を向けて「構わないよ、TINGSとしての活動を再開して、不安だったんだろう?」と声がけしながら、荷物に手を伸ばす雪音へと、紅葉はスタンガンを押し付けた。
「ぎゃぺぇっ!」
王子様みたいに格好いい顔からは想像できない悲鳴が上がって、この悲鳴はきっとマネージャーは聞いたことがないだろうなと、紅葉は思った。
※
──直輝のレンズが届くまでの三日間、TINGSの活動も休止となり、久しぶりのまとまった休暇がメンバーには齎された。
雪音は懸命な少女である為、紅葉の態度から何かを怪しんでいるのは察しており、この三日間は仕事関係以外の連絡は取らないで置こうと、二人で決め合っていたようだ。
……だからこそ、せっかくの休日の三日間を共に過ごせない分、分かりやすい痕がつくほどに求めあってしまったのだろうが。
結果的に、紅葉が雪音を監禁しても、誰も疑うことはなかった。両親も多忙で、家でも顔を会わさないのを疑問に思うことはない。
「ふ、ぁぁっ♥ う、あぁ……も、紅葉、やめっ……ひうぅぅぅっ♥」
寝台の上で目隠しをして、頭の上で手を縛り付けて。
腋に顔を埋めてぺちゃぺちゃと舐めながら、王子様みたいな外見に似合わない、つるつるの子供みたいなあそこを弄り回す。
紅葉はこれまで、男女ともに性行為の経験なんて無かったのだけれど、雪音の体を落とすのは馬鹿でも出来るくらいに簡単だった。
何しろ、どこが気持ちいいのか全部、嘘が光って教えてくれる。
感じているか問いかけて、どんな否定や制止の言葉をかけられても、身体が光って見えればそこは気持ちがいいところ。逆に光らなければ、すぐに他を攻めればいい。
雪音の性感帯は、忽ちの内に紅葉に掌握され、こうやって腋を舐められると汗を滲ませながら感じてしまうことも、おしっこをするところの調度裏側くらいをぐにぐにと触るとすぐにイクことも、紅葉にはバレている。
「ごめんね、ごめんね……雪音たん、もう私のこと嫌いになったよね……?」
「……そ、そんなこと、ない。『すぐに離してくれれば、それで許すから』……んはぁぁっ♥ ど、して、弱いところばっかりぃぃっ♥」
時どき謝るフリをすれば、雪音が紅葉を手放せないことはすぐ分かり、解放しなくても紅葉に同乗して突き放せないのはバレバレだ。
騙していた罪悪感もあるのかなと思うと、カッと頭の後ろの方が熱くなり、紅葉は腋に軽く歯を立てたり、乳首をぎゅーっ……♥ と指で挟んで引っ張ったり、雪音が弱いところを責め立てる。
元から雪音は紅葉に心を許しているところがあるので、快感を与えられれば素直に享受してしまい、その体はどんどん紅葉専用へと作り替えられていく。
「すんすん……♥ はぁー……んはぁー……♥ や、やめてくれ、紅葉……こ、『こんなの嗅がされても、気持ち悪い』だけだ……ふほぉっ♥」
散々イカせて、王子様みたいな綺麗な顔が涙や鼻水でぐちゃぐちゃになり、すぼめた口から舌を突き出して「ほぉぉっ……♥」とか呻きだしたら、雪音は自分のおマ〇コを雪音の鼻先へ押し付けて、ひたすらに嗅がす。
息を荒げれば荒げるほど、紅葉のマン臭へ雪音の中の空気は入れ替わっていってしまう。そのことを想像するだけで軽くイッてしまい、ぴしゅっ♥ とマン汁を顔に引っ掛けると、びくんと雪音は体を震わせる。
「ふふっ……雪音たん、もしかして、紅葉のえっちなおつゆでイッちゃった……? 雪音たんって、もしかしてレズなんじゃない?」
「な、なにを言うんだ! つ、『冷たくて驚いただけ』で……んむぅぅっ♥」
「あぁっ♥ 雪音たんの唇とキスしてるぅ♥ 私のおマ〇コとちゅっちゅっしちゃってるぅ♥ 責任♥ 責任取ってもらわなきゃ♥ 雪音たん、責任取ってくれるよね♥」
恐らくは、元から素質はあったのだろう。ただ己の空白を完璧に埋める対象として、直輝という存在が現れたから、そちらに強く傾倒しただけで、雪音の性嗜好はバイセクシャルのものに最初から近い。
そして、直輝は決して悪用はしていないものの、その体質も雪音が惚れ込む要因の一つであり……今、それを紅葉が手にしているのならば、紅葉の方へと流れてしまうのも当然だ。
「んっ……雪音たん、舐めてもいいよ……♥ 舐めなくても、いいけどね……♥」
「んっ♥ んむぅぅっ……♥ んちゅっ……♥ れちゅっ♥」
「あはぁぁっ♥ 気持ちいい♥ 雪音たんのおマ〇コクンニ、気持ちいいよぉ♥ もっと舐めてぇ♥ んんっ♥」
雪音は、舐めなくてもいいと言ったのに、腐乱に紅葉のあそこを舐めて、しゃぶってくる。
雪音は演技派だが、嘘が上手い訳ではない。TINGSに足りないものを埋める為、悪役を買って出た時も、春や直輝にはあっさり見破られていた。
だから、こうやって懸命に奉仕することで、隙を狙って脱出しようとか……そういう“不義理なこと”には思考が及ばないのだ。
このクンニは間違いなく、雪音が開発されてしまった結果だった。
「(あぁ……♥ マネージャーちゃんだって、あの人だって……♥ 私様の気持ちいいところを、こんなに的確に満たしてくれない……♥ 紅葉、紅葉ぃ……♥ こんなに愛してくれる相手を、私は裏切っていたのか……紅葉ぃ♥)」
「あはぁっ……やっぱり、雪音ちゃんはレズだよ♥ 私と同じレズビアンだって♥ つきあお♥ 私たち、つきあお♥ マネージャーとは別れてよ♥ アイドルとマネージャーの恋愛なんて、不健全だよぉ……んふぅっ♥」
「んむっ、ふぅぅ……それはぁ……♥」
悩んでいる仕草を見せているが、雪音の体はピカピカと光ってみせている。
もう、答は決めてしまっているのに、一応の義理立てで悩んだフリをしているだけだ。
紅葉はぐっと自分の股間へと雪音の顔を押し付け、小さく囁きかけた。
「おしっこ、飲ませてあげるねぇ……♥」
「んむっ♥ むぅぅぅっ♥ むっ、むぐぅぅぅっ♥」
「わかってる、わかってる……ホントは雪音たん、嫌がってないよね♥ TINGSを一旦抜けた時も、他にもきっとやり方あったのに、自分が悪者になってたし、雪音たんはマゾなんだよ……♥ こんなこと、マネージャーはしてくれないよ♥」
それが本当か嘘かなんて、どうでもいい。雪音の嘘を悉く暴き立て、本当のことを指摘してきた紅葉が言うから、意味があるのだ。
もう、雪音は自分自身のことは疑っても、紅葉を疑うことはできない。
自分が女の子から小便を飲まされて悦ぶ、マン堕ちレズビアンだと思い込まされていく……。
「んっ、出るぅぅ……♥ 飲んで♥ 雪音たん、飲んでぇぇぇっ♥」
「ごきゅっ、ごぷぷっ♥ ぷはっ、ごぽぉぉっ……♥ ごくんっ、ごくっ……おげぇぇぇぇぷっ……♥」
「下品なゲップぅ……ね、雪音たんはマゾで、レズだよね♥ マネージャーと、別れてくれるよね……♥ そうしたら、毎日でもこんなことしたげる……これからも、一緒にいてあげるよ……♥」
「はぁぁっ……♥ んっ、あふぅぅっ……♥ わ、私様は……レズで、マゾなんだぁぁ……♥ も、紅葉の愛情に、ようやく気付けた……マネージャーちゃんとは、別れる♥ 私様に、紅葉の人生任せておけぇ♥」
その言葉の何処にも、嘘の輝きは見えなかった。
紅葉はそれだけで軽くイッてしまい、マン汁を雪音の喉へ流し込む。
嬉しそうな雪音の上目遣いを見ながら、紅葉は「いとおかし♥」と内心、よくわからず使っている口癖を呟いていた。
※
──直輝の眼鏡が新調され、再びTINGSの活動が再開された。
それぞれに休暇中もレッスンを続けていたようで、パフォーマンスのキレは明らかに上がっている。
ただ、雪音だけが少し疲れ気味の様子で、足を引っ張るほどではないが、ところどころで危うい場面が見受けられた。
「雪音、大丈夫かい? もし不調なら、言ってくれれば」
「問題ないよ、むしろ絶好調さ。万が一、体調の不調が見えたら『マネージャーちゃんを頼るから』安心してくれ」
「(……ん?)」
眼鏡が直ったことで、嘘の輝きを見る力は直輝に戻っている。雪音は割と背負い込みやすいところはあるが、なんだか今の感じだと、直輝を頼るという選択肢自体がないような様子で。
「雪音たん、無理しないで♥ あっちで、ちょっと休憩しよう♥」
「ああ……紅葉が言うなら、そうしようか♥」
心配していたが、すぐに紅葉が声をかけてくれて、二人は手を繋いで一旦休憩へと向かう。
自分が必ずしも見ていなくても、紅葉もいるのだから任せた方がいいのかもなと、直輝はどこかのほほんと考えていた。