──人で無い存在の跋扈する世界には、多くの場合、様々な“規範”や“法則”を司る者が存在している。
彼女たちは“女神”と称されることもあるし、“天使”と呼ばれることもある。特定の信仰や伝承に根差す存在では無い為、これらの呼称は正しくもあり、また間違ってもいる。
どちらにしても、彼女たちは己の担当している領分を粛々と守り、世界の運行が正しく進むようにと尽力をしているのが常だ。
ただし、その日──魔族たちの特区“絃神島”に降臨した女神は、年若い上にある種の情熱に憑かれており……要するに、思いっきり“やらかす”前振りはあったのだった。
※
──政府組織“獅子王機関”に所属する退魔師であり、呪詛と暗殺の専門家である舞威媛、煌坂紗矢華は悩んでいた。
「(私は雪菜に特別な感情を抱いている。けれど、彼女はもう、私の方を見てくれることは無い。“獅子王機関”としても、それは望ましい結果だわ)」
元ルームメイトである姫柊雪菜は、この絃神島に君臨する……本人の意思とは関係なく……最強の吸血鬼“第四真祖”の力の継承者、古城暁への生贄として、妃になるべく遣わされ、その役目を本人も知らぬままに無事果たした。
恋愛ごとには疎い古城だが、それでも雪菜との関係は盤石のものとなり、二人が結ばれる未来は確定していると言ってもよい。
最初こそ古城に対して嫉妬交じりの敵愾心を露わにしていた紗矢華だったが、雪菜の選択を尊重する意味でも、紗矢華自身も古城に惹かれ始めているという意味でも、今は二人の交際を認めている。
けれど、それはそれとして雪菜への執着が消える訳ではなく、納得したからこそ胸に燻る炎は、時おり火勢を強めることもあった。
「明日からは、またラ・フォリア王女の護衛をしないといけない。こんな感情に惑わされている場合じゃないのに」
ラ・フォリア・リハヴァイン。北欧の国家、アルディギア王国の王女であり、古城の妻の座を狙う一筋縄ではいかない才女。
気を抜いて接すると、冗談のような過酷な事態へと放り込まれていることもある、ラ・フォリアの相手をするとなると、こんな迷いを抱えた状態でいるのは命取りですらある。
だからこそ、紗矢華は己の想いに決着を付けようとしていた。
しかし、自然と認めていくことにすら時間がかかったのに、強制的な恋心の終了などできるはずもなく、まして紗矢華は古城に対する自身の好意に未だ無自覚である為、良い解決策など都合よく浮かぶはずもない。
紗矢香自身は邪魔だと思っている巨乳にそっと手を当てながら、己と向き合っていた彼女は、部屋の中にいつの間にか現れていた、極めて神聖な気配に気づかなかった。
「ぱんぱかぱーん! おめでとうございます!」
「きゃあっ!? な、なに、何なの!?」
咄嗟に己の愛用の武器である六式重装降魔弓“煌華鱗”を構える紗矢香だったが、目前に立っている存在のあまりにも神々しい気配、魔の者たちとは対極にある神聖なオーラに、呆気に取られてしまう。
下手をすれば古城に並ぶか、あるいは上回るかも知れないというほど、圧倒的な力の片鱗を放ちながら、金色の髪と純白の装束を備える美女は、紗矢華に向かってマイペースに話を続ける。
「あなたは私こと百合の女神リリーティアによって選別されました! あなたの恋心、私が見事に叶えて差し上げましょう!」
「百合の女神!? リリーティア!?」
「その通りです! 下らない偏見や差別によって、レズビアンの女性の幸福が脅かされるのを許さない! 百合神としてはまだまだ新人ですが、私は理想に燃えております!」
リリーティアの清浄かつ強大な気配と、女同士の恋愛に関する熱量に押されて、紗矢華は弱々しく「わ、私はレズビアンなんかじゃ……」と否定の言葉を吐きかける。
しかし、言葉を最後まで紡ぐ前に、紗矢華の身体はふわふわのベッドの上へと放り出されていた。
そこは、寝台以外は何もないのに、不思議と殺風景な印象を受けず、穏やかで満たされたような気持ちが湧いてくる、奇妙な空間だった。
音も何もしないのに、心臓の音だけが聞こえて不安になるということもなく、何かの快い音律は耳に響いているような気さえする。
通常の空間ではないことは、擬似的な空間切断を可能とする紗矢華には一目でわかり、これを作り出したと思わしいリリーティアの力も本物だと信じざるを得ない。
「ここは私が産み出した“百合空間”! この場でレズセックスを一発キメれば、即座にカップル成立! レズビアンウェディングへまっしぐらという、素敵で無敵な空間なのです!」
「そ、それって洗脳とかそういうものじゃないの!?」
「百合無罪! 乙女の恋心が満たされればいいのです! 私は人間の法や規律よりも上位の存在なので、問題はありません!」
とんでもないことを次々発言するリリーティアに、紗矢華は「こいつは邪神なのではないか?」と疑いをかけるが、元の部屋に煌華鱗を置いてきてしまったので、抵抗する術はない。
リリーティアの主張が、紗矢華にとって気になるのも事実ではあった。
「つまり、ここであの娘と、その……女の子同士のセックスをすれば……?」
「はい! 思い人の乙女は忽ちに貴女へ惚れ込み、運命の恋へと昇華することでしょう!」
雪菜と運命の恋を交わす。紗矢華にとって、これほど魅力的なことは無い。
けれど、紗矢華は既に古城にも心を惹かれている為、雪菜を自分のモノにしてしまうのは、二重の裏切りではないかという想いが湧き上がる。
「私の好きな……というより、あなたが想定している私のお相手は、もう好きな相手がいるの。略奪になってしまうわ!」
「真面目な人ですね。百合に略奪されるなら、雄猿共も本望でしょうに。ご安心あれ、その辺の都合は私の百合パワーでどうとでも致しましょう! 誰も傷つけない、迷惑をかけない形に収めてみせますとも」
「ほ、本当に……?」
誰も傷つけず、雪菜の選択や初恋も否定することなく、その上で自分の同性の伴侶にできてしまう? そんな都合のいいことが可能なのか?
しかし、相手は神を名乗る存在。不可能を可能にするという凄みを、確かに感じる。
「それでは、あなたのお相手もこの場に召喚致しましょう! レッツ、レズセックス!」
「ま、待って! ちょっとまだ心の準備が……!」
リリーティアはさっきから、会話は成立しているはずなのに、紗矢華の意向をくみ取ってくれない。神ゆえに傲慢なのか、粗忽なだけなのか、どちらだろうか。
そうして、寝台の上にまた一人、絶世の美女が姿を現した。
銀色の髪、スカイブルーの瞳、豊満な体つき……日本人ではあり得ない、美貌。
言うまでもないが、姫柊雪菜ではない。
「お、王女様……?」
「紗矢華──どういうことか、説明してもらえますか?」
寝台の上で紗矢華と向かい合い、一見するとにこやかだが、怒気や不快感が背後に透けて見える表情で語り掛けてくる貴人。
ラ・フォリア・リハヴァイン王女が、その豊かなプロポーションを露わにしながら、紗矢華に圧をかけていた。
「ちょっ、ちょっと待って!? どうして王女様がここに……!」
「え? 身分違いの護衛対象に、愛情を抱いてしまったという話でしょう? 大丈夫、私は百合の女神! すべて理解していますとも!」
……何かとてつもなく大きな勘違いを、リリーティアはしているらしい。
そういえば、紗矢華は雪菜への想いは心に秘めていたが、ラ・フォリアの警護については口に出していた。
「それでは、存分にレズセックス! 同性同士の激しいセックス! 交わして愛情深めてくださいね! 触れあえば触れ合うだけ、体は気持ちよく、心は惹かれ合うようにしてあります! 最低でも一回はしないと部屋から出しませんから」
「ま、待って! 待ってってばぁ!」
紗矢華の言葉を無視して、さっさと姿を消してしまうリリーティア。
後には滝のような汗をかく紗矢華と、怖い笑顔を浮かべたラ・フォリアだけが、寝台の上に取り残された。
「話を聞かせてもらえますね?」
「……はい」
小さく縮こまりながら、紗矢華はラ・フォリアへと、百合の女神が出現した経緯と、その顛末について話す。
ラ・フォリアは冷たい笑顔を保ったままで話を聞いていたが、そう長くもない説明を聞き終えると、紗矢華に向かって問いかけた。
「つまりは、貴女のせいで私は一日早く日本へと訪れることになり、この奇妙な状況に巻き込まれているということですね、紗矢華?」
「そ、その通りです……」
幾度かの交友で多少は打ち解けた部分もあるが、紗矢華は一公務員で、相手は国家の代表である。これが失態と受け止められれば、獅子王機関が紗矢華をどう処遇するかは、非常に暗澹たる未来しか見えない。
「責任を補填する手段については、心当たりがあるのですか? こんな下着同然の姿で呼び出され、辱められた精神的苦痛についても、癒す手立てが紗矢華にあるとでも?」
「うぅぅぅ……」
正論の雨を前に、低く唸ることしかできない紗矢華。
しかし、聡明なラ・フォリアならば、一番の原因は話を聞かずに暴走したリリーティアであり、多分に紗矢華も被害者であると、理解していないはずもない。
まるで紗矢華こそが元凶であり、ラ・フォリアだけが被害者だと言い募っているのは、明確な上下を二人の間に示す為である。ラ・フォリアは紗矢華自身も理解していない、彼女の古城に対する好意を見抜いているからだ。
加えて事態が打破できた後に、強大な力を持つと見える百合の女神なる存在へ責任を突き付け、アルディギア王国への協力を要請する為もあった。
アルディギア王国は第一真祖領と隣接している上に関係が悪く、ラ・フォリアが古城に近付いたのも、恋心はあれど国の為に“人間兵器としての王家の子”を産むという目的もあるくらいだ。
百合の女神の力は、ラ・フォリアの目利きでは第一真祖を軽く超えている。
自国の防衛に役立てられるのならば、彼女は自分自身すらカードにする気満々であった。この辺りは、ラ・フォリアが腹黒王女と言われる所以である。
ただし、ラ・フォリアの知略は本来、状況を完璧に把握しているから十全に機能するものであり、この時の彼女はある重要なファクターを見落としていた。
「俯いていても、事態は好転しませんよ? 私は紗矢華に、私と私に国家に対してどのような補填を行うのか、聞いているのです。あなたのつまらないレズごっこのせいで、私が被った損害をどのように埋めるのですか?」
「……レズごっこ?」
誤解の無いように言うと、ラ・フォリアに同性愛者への偏見はない。これは単に、より紗矢華を嬲り、効率的に自身の利益を繋げる為に敢えて露悪的な言葉を使っただけだ。
ラ・フォリアは百合の女神が現れるところからしか事情を聞いていない為、その直前に紗矢華がかなり精神的に追い詰められるほどに、自分のレズビアン衝動に悩んでいた事実を知らなかった。
積み上げられたストレスは、ただでさえ悲鳴を上げていた紗矢華の心をぶちりと圧殺し……紗矢華は極めてあっさりと“ブチギレた”。
「うるさいっ! あなたに何が分かるのよぉっ!」
「え……あへぇぇぇぇぇぇぇっ♥」
思い切り紗矢華から頬を打たれて、ラ・フォリアは愛液を噴き出しながら寝台の上に倒れた。そう、愛液を噴き出しながらである。
「わ、私がどれだけ悩んだかも知らない癖に! 私がぜんぶ悪いっていうの!? この、このぉっ!」
「ま、待ってください、紗矢華! 何かおかしい……きゃふぅぅぅっ♥ あ、お゛ぉぉぉぉぉっ♥」
紗矢華の拳が体にめり込む度に、平手が肌を打つ度に、これまでラ・フォリアが感じたこともないような快感が全身を駆け巡り、古城を思って己の身体を弄った自慰の記憶、そのすべてを足した快感をあっさり上回り塗りつぶす。
『──触れあえば触れ合うだけ、体は気持ちよく、心は惹かれ合うようにしてあります!』
百合の女神はこんな風に言っていた。それは別に、セックスだけに限った話ではない。手を握るだけでも、ハグをするだけでも、キスを交わすだけでも、同性間の恋愛感情と性欲を高めていくのだ。
ましてや激しい殴打など、セックスとほぼ同義である。紗矢華に打たれる度にラ・フォリアは絶頂し、口から涎が垂れて、愛液が止まらなくなってしまう。
「さ、紗矢華、やめてくださいっ♥ こ、このままでは、私は……んひぃぃぃぃっ♥ や、やめなさいと言っているでしょう♥」
「おへぇぇっ♥ あひゅぅぅぅぅっ♥」
ラ・フォリアの反撃のビンタが、思い切り紗矢華の胸へと突き刺さる。ずっと動きにくいから邪魔だと思っていた巨乳から、紗矢華の全身を雷で撃ったような、凄まじい快感が迸った。
気持ちよさに悶絶して転がる紗矢華を、押さえ込もうとラ・フォリアが圧し掛かる。肌と肌が擦れあい、二人の身体の快感がますます高まっていく。
「いきなり暴力だなんて、野蛮この上ありませんわ、紗矢華♥ 私が凶暴な獣を躾けてあげます♥ ほらっ♥ ほらっ♥ どうですか♥ 私に屈したくなってきたでしょう♥」
「あひぃぃぃっ♥ んひぃぃぃぃぃっ♥ 気持ちいいよぉぉぉぉっ♥ ふぅー♥ んふぅー♥ こ、のぉぉっ♥」
「きゃぁぁぁっ♥ お、おひゅぅぅぅぅ~っ♥ た、たまりませんわ~……♥」
紗矢華の頭を自分の股間の下敷きにして、その背中やお尻を殴打していたラ。フォリアだが、思いきり体を起こした紗矢華によって投げ飛ばされてしまい、ベッドの上を転がる。その際に股間を打たれた痛みすらも、快感に変わっていた。
「この、ラ・フォリア♥ 腹黒王女め♥ 私がどんな気持ちだったか、教えてあげる♥ このっ♥ えいっ♥ わ、私のこと、どんどん好きになるでしょう♥ 私はこんなに苦しんでいたのよ♥」
「んむぅぅぅぅっ♥ 紗矢華の大事なところぉ♥ 女性器♥ ぐりぐり鼻先に押し付けられながらの腹パン♥ お腹にパンチぃぃっ♥ す、素敵すぎるぅ♥ 紗矢華に子宮ボコられてイキますわぁぁぁぁっ♥」
ぶしゃぁぁぁっ♥ と愛液を噴き出すラ・フォリアの姿に、興奮してますます振り下ろす拳に力を籠める紗矢華。紗矢華もラ・フォリアの反撃で彼女への愛情を刷り込まれてしまい、愛する人を感じさせる快楽に酔い始めている。
ラ・フォリアの方もされるがままではなく、得意な氷魔法で口内に小さな氷の柱を作り出すと、舌で押し出すように紗矢華の女性器へと挿入する。その刺激と冷たさで悶絶し、紗矢華はラ・フォリアの上から転げ落ちた。
「あははっ♥ いい様ですわ、紗矢華♥ 私の氷のバイブで感じてしまって、可愛らしく悶絶して♥ 興奮します♥ 私に屈服しなさい、このレズ女♥ 私を好きになりなさい♥ 私以外を見るのは許しません♥ 私の紗矢華ぁ♥」
「ぎゃんっ♥ ひぐぅぅぅっ♥ ラ・フォリアのおっぱいパンチぃ♥ 王女様に私の胸、パンチングマシーン代わりにされるの感じるのぉぉぉっ♥ 好き♥ 好きになっちゃうぅぅっ♥ ラ・フォリアのこと愛しちゃうぅぅっ♥」
今度はラ・フォリアが、紗矢華の顔にぐしょ濡れの女性器を押し付け、その豊かなあ胸を左右から殴りつけ、愛撫する。この優秀な退魔師の少女を、自分の虜にしてやる為に、愛を込めた平手が降り注ぐ。
しかし、やはり肉弾戦においては、紗矢華の方に僅かに軍配が上った。紗矢華は何とか腕を組み合わせると、殴打の際にラ・フォリアの腰が僅かに浮くのを狙って、思い切りその肛門へ向けてカンチョーを放った。
「ぎゃぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~っ♥」
王女とは思えない情けない悲鳴を上げながら、寝台の上で転げまわるラ・フォリア。顔をラ・フォリアの愛液塗れにした紗矢華は、そのグラマラスな体を掴みあげると、そのままベアハッグの要領で抱き潰した。
「んぎぅぅぅっ……♥ ぐ、えぇぇ……気持ち良すぎるぅぅぅ……♥ あ、あ……紗矢華ぁ……♥ なんて、力強い……げぅっ♥」
「この腹黒王女様めぇぇ……♥ 堕ちろ♥ 堕ちろぉぉっ♥ 私のモノにしてあげる♥ 一生大事にするから、堕ちてきて♥ ほら、気持ちいいでしょう♥ 痛く苦しくされるの好きになったでしょう♥ 愛してるって言えぇぇぇっ♥」
「あ、あひぃぃぃ~っ……♥ あい、じてるぅぅっ……愛してますわぁぁっ♥ 紗矢華、紗矢華のこと、愛してますからぁぁぁっ♥ このまま締め落としてくださいぃぃぃっ♥」
「ラ・フォリア王女♥ 好き♥ 私も好き♥ これで王女様は私にモノよぉぉぉぉっ♥」
ぎゅぅぅぅっ♥ と力いっぱいのベアハッグによって、笑顔を浮かべたままでラ・フォリアは泡を噴いて意識を失い、紗矢華は「好き、好き、好き♥」と憑かれたように繰り返しながらキスを繰り返す。
そのままラ・フォリアを押し倒した紗矢華は、「起きろ♥」と王女の頬をひっぱたいて覚醒させると、その体にのしかかって女性器同士をこすり合わせ始める。
暴力を伴わない、女性同士のセックス。
紗矢華が行為中はリードをしていたが、ラ・フォリアも一切抵抗はせずに、その背中に愛し気に腕を回して、可憐な喘ぎ声をあげていた。
※
「……」
「……」
ものすごく気まずい空気を漂わせながら、紗矢華とラ・フォリアは背中合わせで寝台の上に座っていた。
やってしまった。同性同士のセックスを行っただけでなく、思いっきり殴り合った上に、愛の告白までしてしまった。
互いの胸に宿った愛しさは消えることはなく、かといって認める訳にもいかず、二人はただ背中を合わせて座り続けている。もっとも、その右手はしっかりと繋がれていたのだが。
「お疲れ様でしたー♥ ラブラブ同性カップルの誕生ですね♥」
「リリーティア! こ、この、あなたのせいで……!」
「はいはい、私はぜんぶ分かっているんですから、そんな風に強がらなくてもいいですよ♥ はい、これ」
相変わらず紗矢華の話を聞かず、リリーティアは二人の指輪を差し出してくる。
そういえば、同性同士の結婚がどうとか、この女神は言っていた気がする。
どうやらこのまま、紗矢華とラ・フォリアにウェディングまで行わせるつもりらしい。
「お、王女様、このままじゃ……」
「……百合の女神様、質問がございます」
「はい! 何でもお答えします!」
「我がアルディギア王国の王女は、様々な事情から強大な子を産む必要に迫られています。紗矢華と結ばれても、その問題を解決することは出来ますか?」
「王女!?」
ラ・フォリアがノリノリであることを知り、紗矢華の喉からは思いっきり嬉しそうな声が漏れてしまう。
「勿論です! えい」
「な、なに、これは!?」
紗矢華の身体の奥から、人間の器を遥かに超えた霊力が噴き出し、彼女の百年に満たない生涯の中では覚醒しないはずだった、すべての潜在能力が引き出される。その力は、古城にも匹敵するほどだ。
外の世界ではその間にも、煌坂紗矢華が獅子王機関における最強の舞威媛であり、あまりの霊能力の高さから物理法則を書き換え、女性を妊娠させることが可能であると情報が改変が行われていく。
アルディギア王国の王女、ラ・フォリア・リハヴァインと、婚約関係にあるということも。
「はい、これで紗矢華さんが嫁入りすれば、あなたの王国は安泰です! 百合の女神の加護が千年の繁栄を約束するでしょう!」
「王女様、よかったんですか? わ、私のせいで……あなたの恋心は、きっとこの空間で生まれた、不自然なもの……んっ♥」
ラ・フォリアの方から肩を抱き、紗矢華の唇が塞がれる。
先までは力負けして、紗矢華の下で喘ぐばかりだったが、今のラ・フォリアには王族としての威厳が取り戻されていた。
「今、ここにある思いが全てです。私は、私の胸の内を受け入れますわ。紗矢華、アルディギア王国に嫁いでください。逃がしませんよ、お父様も絡め取られるようにして、婿入りしたのはご存じでしょう?」
「王女……ラ・フォリア。そう、よね。私も、今の想いを受け入れる。雪菜のことも、古城のことも、今の私は冷静に受け止められているわ。そのうえで、あなたが一番好きよ、ラ・フォリア。あなたを、生涯愛します」
静かに紗矢華は宣言すると、受け取った指輪をラ・フォリアの手を取って通し、ラ・フォリアも紗矢華の手の甲に頬をすりつけてから、指輪を交換しあった。
百合の女神の祝福が二人へと降り注ぎ、これから襲い来るあらゆる困難に立ち向かい、打ち払う力を紗矢華とラ・フォリアの新たな百合夫婦へと与える。
……気付けば、紗矢華は自分の部屋へと戻っていた。傍らには煌華鱗が転がっており、先までの出来事は白昼夢なのではないかと、一瞬思わせる。
しかし、紗矢華の手には指輪の輝きが備わっており、それがあの不思議な空間での出来事が現実だと教えていた。
「(──明日になれば、愛しいラ・フォリアに会える)」
自分のベッドの上で体を丸めても、胸の内には温かな充足が満ちているばかり。きっとラ・フォリアもそうなのだと信じて、静かに紗矢華は目を閉じた。
※
……なお、最初の馴れ初めのせいで、ラ・フォリアは紗矢華にいじめられるのが大好きなマゾ気質に目覚めてしまっており、空港で感動的な抱擁をしている時に、耳元でこっそり「腹を殴ってくれませんか♥」と誘惑されて困った。
もちろん、その日の夜に子宮が屈服するまでボコボコにしてから、子作りセックスに励んだのだけれど。
今回の攻め(?)役
※百合の女神リリーティア
・超越者。西欧教会の規定する神とは別種だが、とにかく次元の異なる霊的存在。マーベルコミックスに登場するコズミック・ビーイングと同じような、概念や法則そのものが人格を持っているようだ。
・百合の女神としては新人であり、『百合神様がみてる』の百合の女神様、『かなえて!ゆりようせい』のゆりようせい等と比べると、かなり年若い存在らしいが、それでも真祖と同格かそれ以上の力を持つ。
・男性に対して攻撃的な言動も見えるが、これは別に男性を嫌っている訳ではなく、紗矢華の前に現れたから。出現した相手によって若干人格が異なり、ラ・フォリアが呼んでいればまた違う性格だっただろう。
・真面目でレズビアンの少女のことを真剣に思ってはいるが、かなり粗忽もの。話を聞かないのは紗矢華の性格の影響を受けてだが、あわてんぼうなのは完全に素である。
・「百合の女神が居るのならば恋愛の女神もいるだろうし、ラ・フォリアの感情が塗り替えられるのはおかしいのでは?」という意見もあるかも知れないが、同性愛は紀元前から存在するが、恋愛は18世紀前後の“発明品”である為、仮に恋愛の女神が居ても百合の女神よりはかなり弱い存在らしい。
rey
2023-01-20 02:08:25 +0000 UTC