──神持朱夏が、自分が特別ではないかも知れないと最初に揺るがされたのは、車のトランクが“武器”になると思い知らされた時だった。
聖イシドロス大学を武力と厳格なルールで支配していた“武闘派”のメンバーだったアヤカは、いつしか自分が“選ばれし者”だと考えるようになり、動く死体が跋扈する終末めいた世界で一方的に命を奪う権利を持つのだと思いあがるようになっていた。
そんな彼女は大学の崩壊と共に、メンバーの一人を殺害した上でまんまと車で逃亡し、自分がハリウッドのアクションスター以上に“神めいた何か”に愛されていることを確認したのだが……その女との出会いは、アヤカの思い上がりを揺るがせるには十分すぎた。
「──君は、車の中にいて。トランクを、少し借りるよ」
美しい金髪と青い目は天然ものに見えるのに、不思議と日本人顔のその女性は、“彼ら”の群れのど真ん中で車の止まってしまっていたアヤカの前に現れ、ゆっくりと車での後部へと回った。
「ちょっと! 武器も入ってないのに、何をする気……」
メリメリと音がして。ガゴンッと車が揺れて。
見れば、女は車から毟り取ったと思わしい、トランクの外装を大盾のように構えており……呆気に取られているアヤカの前で、殺戮が始まった。
女がトランクを構えて殴り飛ばせば、木っ端みじんに粉砕しながら“彼ら”が十数体まとめて吹き飛び。
トランクを投擲すれば、無人の野でも行くように“彼ら”を両断しながら飛空してから女の手元へ還り。
あるいは接近してきた“彼ら”の足先へ鉄板を振り下ろして潰し、動きを止める等と器用なこともする。
数十体いたはずの“彼ら”が徹底的に原型を無くすまでに五分もかかっておらず、恐らく素手でも十二分に蹂躙できたのではと思わせる、圧倒的な戦力だった。
恐らくフルメンバーかつ全盛期の“武闘派”全員でも、秒で肉塊に帰られる程の力があるだろうと感じる。
「車はもう、動かないらしいね。ボンネットも借りていいかな?」
アヤカがうなずくよりも早く女はボンネットを引きちぎり、それをまるで中世の騎士のように背中に負うと、アヤカに向って手を差し伸べてきた。
「私は、ケイト。ケイト・パラディーヌ。よければ、一緒に行こう」
「……アヤカ」
まだ呆気に取られてはいるものの、想像を絶するほどの“武力”と出会ったアヤカは。
「(──やっぱり、この世界って私の為にあるんだ!)」
……既にケイトを“自分の力”としてカウントし、精神の復調を果たしている辺りが、別の意味でタフであった。
※
──ケイトは外国人なのかと問うと、彼女は「……どうだろうね」となんだか煮え切らない反応だった。
どこか遠くを見ているようなその眼は、アヤカを何だか不安にさせるものだったので、この話題は意図的に避けるようにした。
残念ながら、車が故障した今となっては、アヤカの側からケイトへリターンできるものは何もない。
ケイトが一人いれば、機動隊の盾術すらも霞むほどの圧倒的な戦力で、どれほどの大群であろうと“彼ら”を蹴散らしてしまうからだ。アヤカは戦力としてカウントされず、単なるただ飯食らいと化していた。
それはそれでケイトの善意に乗っかることが出来るならば楽なのだが、アヤカの胸にあるのは奴隷根性ではなく「己は不死身である」という全能感である為、ただ恵まれるばかりでは充足しない。
何としてでもケイトを篭絡し、自分の命が助かっているのはこの女の善意などではなく、自分の才覚によるものだという状況に持ち込まねばならない……そんな風に頭を悩ませていた時、ふと食糧を手渡された際に指が触れ合い、ケイトが少しだけ赤面したのをアヤカは目撃した。
「ケイトって、もしかしてLGBTの人?」
「乱暴な括りだね、それは……アヤカには決して手を出さないよ。信じてくれという他ないけど」
自分の体がこの女に対して、交渉材料になるという事実。
その夜のうちに、アヤカはケイトの前で服を脱ぎ「守ってもらっているお礼がしたいの……♥」としなを作り……そして、直後にマン負けした。
「あぁぁぁぁっ♥ んっ、あぁぁぁぁぁっ♥ ひっ、ひぃぃぃぃぃ~っ♥ んっ♥ んひぃぃぃぃぃっ♥ あっ、あっ、あ~っ♥」
ケイトが周辺の“彼ら”を殲滅した後で無ければ、大群を呼び寄せてしまうと頭を悩ませることになりそうな、嬌声。
どうやら高潔な人格を持ってはいても……あるいは持っているからこそ、ケイトはかなり性欲を煮凝らせていたようで、その出口をアヤカは作ってしまったのだ。
「はぁぁぁぁっ♥ ひっ、ひうぅぅぅぅっ♥ な、なんれぇぇぇ……なんれ、こんなに上手なのぉぉぉぉっ♥ おひぃぃぃぃっ♥ またイクっ♥ 指でくちゅくちゅされてるだけなのに、マンイキ止まんないぃぃぃっ♥ ひっ、ひうぅぅぅぅっ♥ 腰が抜けるぅぅぅぅぅっ♥」
「アヤカのここ、とてもかわいくて素直だね……♥ 私の指をきゅうきゅうと締め付けてきて、もっとして♥ もっと気持ちよく♥ そう訴えかけてくるようで……♥ ほら、二本に増やすとどうかな?」
「おひゅぅぅぅぅぅぅぅ~っ♥ 焼けるっ♥ 頭の中、焼けちゃうぅぅぅぅっ♥ ば、馬鹿になりゅぅぅぅぅぅ~っ♥ お、女の子の指で馬鹿になりゅのぉぉぉぉぉっ♥」
アヤカは幾度も手マンだけで絶頂に達し、陰核を優しく摘ままれて淫らな汁を噴き、快楽で訳がわからなくなってあらぬことを叫んだ……気がする。
内容は、ほとんど覚えていないのだ。翌日、ケイトが顔を赤くして「アヤカは、大胆だね……♥」と言ってくるくらいで。好きとか、愛してるとか、お嫁さんにしてとか、ずっと一緒にいてとか、叫んでいたような記憶がよみがえり、顔を抑えてアヤカは悶絶し……そして、この経験がアヤカをまた揺るがしていく。
※
──平和な日常に対して鬱屈と軽蔑を抱き、暴力の行使が精神を自由にしてくれると、いつしか信仰めいて思うようになっていたアヤカだが、そんな彼女にとって日常が崩壊したのは、パンデミックが起きて“彼ら”が溢れた時ではなく、恐らくはサークル活動に参加しようとして拒否られた時だったと思う。
ただ何の目標もなく、楽しい時間と言う建設性の欠片もないものを追求する連中に、何故かアヤカは空虚を見透かされ、やる気がないことを指摘された。
無くて悪いか、こんなくだらない日常に参画しなくて悪いのか。
内心見下して罵倒していた連中に見透かされる屈辱は、アヤカに非日常への憧れと暴力への神聖視を深めさせていく。
結果として、人殺しも自分の世界観を守る為だけに辞さない、人格破綻者が完成した訳だが……明確にアヤカよりも強い暴力を有するケイトは、自身を律することを旨としていた。
それは、とてもとても……アヤカにとっては、不安なことだった。
「(だって、これじゃあまるで……暴力の行使で、精神の自由が得られないみたいじゃない)」
得られないのだが、それを認めることは“選ばれし不死者”アヤカにはできない。
彼女はケイトを堕落させようと、頻繁に交情を迫ったが、ケイトは周囲の安全……主に、アヤカの安全が確保できるまでは決して誘いに乗ってこない。他者を、自分の欲望よりも優先する女だと、まざまざと見せつけてくる。
「う、あぁぁっ……♥ やだ、やだぁぁ……そこ、汚っ……ひぃぃぃっ♥ あうぅぅぅっ♥ 吸わないでぇぇぇぇっ♥」
「私だって、大差ないよ……気にしないで、アヤカ♥」
「あみゅぅぅぅぅぅぅっ♥ そ、そういうこと、言ってるんじゃ……はへぇぇぇぇぇぇ~っ♥ 噛むのもだめぇぇぇぇぇっ♥ わ、私っ♥ 女の子相手なのに、フェラされてるぅぅぅぅぅ~っ♥」
むしろ、逆だ。
安全が確保でき、アヤカが食事や休息を堪能できた後、ケイトはアヤカの体を求めるが……溺れていくのは、アヤカの方。
毎晩のように抱かれる中で、様々なプレイを覚え込まされ、女同士の快楽に狂っていく。
胸同士をくっつけ合わせると、それだけで気絶しそうなくらい安心感と快楽が得られるとか。
本当に安心を覚えてしまっている時は、首筋を撫でられるだけでマン汁噴いてイってしまうとか。
ケイトのむれた腋に顔を挟まれて、「んっ♥ んーっ♥」と呻きながら窒息プレイすると最高にキマるとか。
……こうやってクリフェラを覚えさせられて、今後は男のモノを挿入れたくらいでは何も感じなくなりそうだとか。
ひっくり返って腰をヘコつかえ、ぴしゅっ♥ ぷしゅぅぅぅっ♥ と愛液を噴き上げながら……全能感は完全になりを顰め、ケイトのくれる快楽こそが生きる目的になっていく。
それは、無欲な正道の人に自身の人生を捧げるという意味であり……アヤカは何も特別ではなかった、単に本当にスペシャルなケイトに選ばれただけの人間だったと認めることだ。
それは、アヤカが自身を特別だと思い込むことで見過ごしていた罪悪感を思い出させることに繋がり……守られている状況とも重なって、遂にアヤカは自分の“罪”を告白した。
自分がこの暴力の箱庭で、それを許されていたのだという、陶酔の告白でもなく。純然たる罪の告解として。
今の状況で、ケイトに見放されれば命は無い……そのことは分かっていてもなお、隠しておくことも自分をだまし続けることも、もう出来なかった。
アヤカが子供の用に泣きながら、武闘派のリーダーを焼き殺したことを告白し終えたところで……ケイトはふぅと溜息を吐いた。
背筋が凍るかと思ったが、その吐息は呆れを含んだものではなかった。
「私は、どうしてあんなに簡単に人を殺せるか、分かる?」
「人って……あいつらは、もう死んでて……」
「それでも、人だよ。躊躇なく破壊して、肉片をばら撒ける理由は……その前から、無数の命を奪い続け来たからだ」
それは、なんとなく想像できていた。ケイトの戦い方は、格下を嬲るものではな本来なく、恐らくは命がけの闘争の中で磨いたものと思わしかった。
「多分、アヤカよりもずっと沢山を殺してる。アヤカは暴力に陶酔していたというけれど、暴力の快感は“健全な感覚”だよ。行き過ぎれば周囲との軋轢は産むけれど……それでも、異常者の思考とは程遠い。けれど私は、もうそれすらもない。生きてる者を守るために、他の誰かを大切を消すことに、感慨が沸かないの」
ケイトがアヤカを抱き寄せる。
豊かな胸の間に顔を埋められ、甘い匂いで肺腑が満たされていく。
「あぁっ……♥」と甘い“鳴き声”を上げたアヤカに、ケイトは囁く。
「私は、君を裁く権利なんてない。軽蔑する資格も無い。これからも、君の傍に居て守るよ……けれど、君が変わることは肯定する。変われない私の傍で、これからも私を助けて」
……差し出せるものは、体以外にもあった。
子供のように泣きながら、アヤカはケイトの胸を吸っていた。
※
「おぉぉっ♥ おほぉぉぉっ♥ おマ〇コっ♥ よわよわレズおマ〇コいじってぇ♥ ケイトの指、ほしいのぉぉっ♥」
素っ裸になって頭の後ろで手を組み、腰をヘコつかせてマン媚びしながら、アヤカは吹っ切れたように陶酔した笑みを浮かべる。
これまで歪んだ選民思想や、あるいはそれが薄れたせいで沸いてきた罪悪感に駆られ、純粋に感じたことのなかった、ケイトのもたらす快楽を求める。その素直な姿は、ケイトのことも興奮させていた。
「たっぷり濡れてるね、アヤカ……♥ そんなに、私の指が好きなの♥」
「あぁんっ♥ 指じゃ足りないっ♥ 足りないのぉぉっ♥ 不死身とかイキってたけど♥ あたしはレズセックスであっさりイキ死ぬ♥ クソザコレズマ○コでしたぁぁ♥️ 大好きなケイトにもっとレズパコされたぁい♥」
淫靡な言葉を口にしながら、内心で周囲を見下して気位の塔の上にいた時とは、比べ物にならないほど瑞々しい表情でアヤカは笑う。
そして、ケイトの指がくちくちと秘所を弄る度に、甘ったるい声を上げて体を震わせた。
「おぉぉぉっ♥ しゅきっ♥ おマ〇コキス好き♥ 貝合わせ♥ ケイトとのラブラブ貝合わせ、しゅぐイクのぉぉっ♥ あっという間に、気持ちよくなっちゃうのぉぉぉっ♥ あへぇぇっ♥」
「んっ……♥ もっと、もっといやらしくなってよ、アヤカ♥ 私の為に、変わって行って♥」
「う、うんっ♥ うんっ♥ け、ケイトの望むようになる♥ ケイトに都合のいい女になるからぁぁっ♥ あっ、あぁぁぁっ♥ 焼けるぅぅぅぅっ♥ ひぃぃぃぃぃぃ~っ♥」
脳が快楽で焼ける感覚は、まるで炎に包まれているようで。
生まれ変わるような快感の中で、アヤカの空虚はケイトによって満たされる。
そんなケイトの胸の内は、ほとんどが献身と友愛なのだから……アヤカもまた、それに合わせて変わっていくのを感じ取っていた。
※
「──なんか、お参りに来るのが遅れてごめん。いろいろと、忙しくてさ……」
未曽有のパンデミックは終焉を迎え、世界は復興へと歩みだしている。
アヤカは未だに着慣れないスーツ姿で、復興を支援するNGO団体にケイトと共に参加していた。
その忙しい時間を縫うようにして参ったのは……とある教師の墓標だった。
佐倉慈。めぐねぇと一部の生徒に呼ばれていた、新任の教師。
アヤカが大学に進学する前、巡ヶ丘学院高校で何度か指導されたことがある程度の縁ではあったが……不思議と印象に残っていたのと、“ちょっとした縁”の関係で、こうして墓参りに来ている。
墓の前に花が四輪供えられており、事前に“いろいろあった”相手が参ったのをアヤカは察していた。
「なんか、真面目にあんたの話を聞いたことなかったけどさ。守ったんでしょ、あの子らの事。今なら、それがどれだけ立派なことか分かるよ。あんたみたいな人が……本当は、特別なんだろうね」
先に備えられた花を穢してしまう気がして、線香だけを備えたアヤカはこちらはバッチリとスーツの似合っているケイトの方へ歩き出す。
いつか、ここに……そして、自分の罪に花を供えられる日が来たら、来よう。できるだけ多くの人を、救ってから。
そう心に誓うと、恋人の方に寄りかかるようにして、特別の呪縛から放たれた少女は日常へと帰って行った。
今回の攻め役
※ケイト・パラディーヌ
・パラディン。作中の戦い方や容姿、また「多くの生命を殺めた」という言動でピンと来た人もいると思うが、彼女の正体は『世界樹の迷宮』シリーズのパラディン♀……いわゆる“師匠”である。外国人風の見た目なのに、顔立ちが日本人めいていたり、普通にアヤカと言葉が通じているのはその為。
・フォレストセルを撃破後、何故か崩壊前の日本へと降り立っており、魔物たちとの戦闘経験を生かして“護り屋”で生計を立てていたが、巡ヶ丘パンデミックに巻き込まれる羽目となった……が、既に三竜も討伐後の彼女にとっては、飛び道具も持たない“彼ら”は脅威でも何でもなかった。
・基本的には人名を優先する慈悲深い性格なのだが、その為ならば“彼ら”を容赦なく損壊していく姿勢から、守っていた対象に逃げられたり、罵倒されたりという経験も、アヤカに会う前はあったらしい。その結果、守り抜けなかった命もあったのかも知れない。
・現代人と生命観が違いすぎ「敵の生命の価値を鑑みる理由が分からない」ケイトにとって、敵対する相手の命を「特別な自分の糧」と考えているアヤカは、この時代で珍しく理解の及ぶ対象であり、実は告白前から本性を見抜き、その上で結構本気だったらしい。女の趣味が悪い。
・じゃあ、この世界っていずれは禍ツ神がやらかして荒廃するの? というと、よく分からない。うろ覚えだが、ケイトの覚えている“崩壊の日”が現在より大分前らしく、もしかしたらランダル・コーポレーションの研究や事故によって、未来が変わったのかも知れない。
屋根が高い
2023-06-30 06:09:53 +0000 UTCはち
2023-06-30 05:33:28 +0000 UTC屋根が高い
2023-06-29 17:24:37 +0000 UTCまりね
2023-06-29 14:34:47 +0000 UTC屋根が高い
2023-06-29 08:09:16 +0000 UTC邪バレンスタイン
2023-06-29 08:05:25 +0000 UTC