──目に入る番や婦婦、恋仲と思わしい二人組。
そのことごとくが女同士であるという、奇妙奇天烈な光景を目にしながら、カルデアから派遣されたサーヴァント、清姫とエリザベート・バートリーはそれぞれ別の方向へと首を傾げてみせた。
「なんというか、ごく当たり前の光景から片方だけが消滅すると、こうも不自然に見えるものなのですね」
「これは、小ジカを連れて来ないって判断は正しかったかも知れないわね……けど、今のところはあの二人が姿を消すほどの危険も感じないけど」
突如として発生した小特異点。
その解決に向かったサーヴァント、アルテラとエレナ・ブラヴァツキーが姿を消したことで、第二陣として送り込まれたのが清姫とエリザベートであった。
アルテラたちからの報告で、この特異点が百合……女性同士の恋愛など特別な絆に関わるものであることが判明しており、男性である人類最後のマスター・藤丸立夏は安全確保のために同行ができない。
強壮なサーヴァントであるアルテラたちが姿を消したことで不安はあるものの、清姫もエリザベートもカルデア選りすぐりの実力者であるし、何よりもマスターである藤丸立夏に深い愛情を抱いている。
この特異点を汚染している“百合”などという一過性の感情には、惑わされないだろうというのがカルデアの判断であった。
「それにしても、男性のサーヴァントが送り込めないとは言え、せめてパートナーについては考えてほしいところです、何故よりにもよって、エリザベートをわたくしに同行させるのやら」
「あんたがアタシについて来てるんでしょ!毎回毎回、アタシに絡んできて。本当は小ジカじゃなくてアタシが好きなんじゃないの?」
「……訂正しなさい。それはわたくしが、愛しのマスターに嘘を吐いているということですか?」
「はん、自分のこだわりばかり押し付けて、人のことを侮辱したのを棚に上げる蛇女に下げる頭は無いのよ」
この二人、一緒に行動していることはそこそこあるのだが、それは玉藻の前ことキャス狐が間に入って、潤滑油となってのことである。互いの“愛”に関するスタンスが違いすぎる上に、立夏を奪い合うライバル関係でもる為、こうして二人きりで同行させると、あっという間に不協和音を奏で始めるのだ。
とは言え、ここは謂わば敵地……そこで争い合う愚かさは二人とも理解しており、正気に還ると口喧嘩を中断し、妙な目を向けられていないかと焦って見回す。
幾人か通行人から注目を浴びていたが、彼女たちは誰しも暖かい瞳でこちらを見つめており、中には「頑張ってください!」みたいなポーズで応援してくるものまでいた。
「わ、分からない……どうしてあの反応で、そこそこの好感が帰ってくるワケ?」
「黒髭さんにお聞きしたのですが、百合というのは恋愛感情だけではなく、時には憎悪や殺意といった、殺伐としたものも含まれるのだとか」
「なにそれ、なんだって言えちゃうじゃないの……まあ、好都合ではあるか」
この特異点では、一般人とサーヴァントが混在して暮らしており、一般人も同性同士のカップルなのだが、サーヴァントのカップルはある種のアイドルのような扱いを受けているらしい。
ジャンヌ・ダルクとマリー・アントワネット、織田信長と沖田総司、酒呑童子と茨木童子、ブーディカとマタ・ハリ……カルデアにも身を置いているサーヴァントたちが非常に近い距離で頬を寄せ合う広告の類があちこちにあり、少女たちは黄色い声を上げている。
清姫とエリザベートも、要するに喧嘩ップルか、あるいは殺伐コンビだと周りから認識されているのだ。潜伏がしやすい代わりに、非常に不愉快だとも言える。
「……手でも繋ぐ?」
「結構です。早く手がかりを掴み、この特異点の歪みを修正しなければ」
「その手がかりだけれど……早速見つかったみたいよ」
汚いものでも見るように……別に清姫は同性愛に偏見があるわけではないが……広告の類から目を逸らしていた清姫に対し、それらに好機をの目を向けていたエリザベートが囁く。もっとも、その声は新たな情報を得たというのに、あまり嬉しそうには聞こえなかった。
「この広告に、何か……!? これは!」
そこには、アルテラとエレナが愛し気な様子で頬を寄せ合い、ジャック・ザ・リパー、ジャンヌ・ダルク・オルタ・リリィ、ナーサリーライム、ポール・バニヤンといった見た目の幼いサーヴァントたちを抱き締めている広告が表示されていた。
“新進気鋭の新米婦婦!四人の娘のお世話でてんてこ舞い!”とキャッチフレーズのようなものが書かれており、霊基を見ても元はカルデアに存在していた二人であることは間違いないようだ。
実際に顔を突き合わせているのではないので明言はできないが、二人の目からは操られているような不自然なものは感じられず、それがかえって不気味に思われる。
「既に、取り込まれていた……そういうことみたいよ」
「これは、早急にカルデアに連絡して、対策のために戦力を組むべきですね」
二人はただちに特異点からの脱出を図ろうとするが……振り返った先には、二人の小さな乙女の影があった。
紫の髪をたなびかせ、似通った顔でこちらに微笑みかける女神たち……ステンノとエウリュアレ。
エリザベートの方は、一瞬だけカップルサーヴァントを装って回避することを考えたが、清姫がそんな虚言を受け入れないだろうと判断し、身構える。なんだかんだと、互いに対する理解はそこそこ深い二人なのだ。
「ようこそ、また新しいお客様ね。我らが主の生み出した、白百合の楽園に何の用かしら?」
「我らが主……あなたたちが、この特異点の支配者では無いんですか?」
「ふふっ、その質問は悪手だわ。そちらで情報の精査ができない上に、どんな答えが返ってこようが、あなたたちがよそ者であるのは確定するんだから」
ステントとエウリュアレが頬を寄せ合い、明らかに恋愛関係にあると思わしい吐息をほぅ……と吐いてみせる。
「──清姫!」
「支持しないでください!既にやってます!」
二人は先手必勝とばかり、清姫はステンノへ、エリザベートはエウリュアレへと襲い掛かる。
女神たちは特に焦る様子も、それどころか迎え撃つような様子すらなく、互いの体を離してとてとてと後ろ歩きで距離を取っていく。
「なに、こいつら一体何を狙って……いぎゃぁぁぁぁぁぁっ!?」
「こ、これは……あぁぁぁぁぁぁっ!いひぃぃぃぃぃぃぃっ!?」
直後、ちょうど左右に分かれたステンノとエウリュアレの中間に差し掛かった瞬間、虚空から降り注いだ強力な電撃を浴びて、一撃で清姫とエリザベートは黒焦げになり、その身を纏う衣装は乱暴された後を思い起こすほどボロボロになってしまった。
「あっ、あがっ……なに、これぇぇ……」
「あなたたち、本当に何も知らないのね。こんなに広告があちこちに張られているんだから、少しの洞察力があれば気付くんじゃなくて?」
「無理を言っては可哀そうよ、私(ステンノ)。前のお客様も、まったく同じ形で敗北していたんだから……」
……もしも、ここに送り込まれたのがジャンヌ・ダルク・オルタや刑部姫であれば、あるいはステンノたちの行動の意味を察し、また広告からも情報を読み取ることができたかも知れない。
この百合特異点、二人以上のカップルが存在しない……ステンノとエウリュアレも、ゴルゴーンを連れていない。
すなわち、この特異点は単に百合嗜好の乙女たちが集う場所ではなく……“百合の間に挟まることは重罪”であり、その間に挟まれるのは“二人が子供だと認識している相手だけ”なのである。
「法則を知らない、哀れな迷い子たち……ここの理を教えてあげるべきね、私(エウリュアレ)?」
「先に迷い込み、今は家族まで持って幸せになっている子たちと同じくね、私(ステンノ)?」
「う、あぁぁ……わ、私は、そんなものには屈指な……いひぃぃぃっ♥」
「き、清姫?」
電撃を受けた時とは違う、明らかに甘い嬌声に、エリザベートは目を見張る。
ステンノに歩み寄られた清姫は、何故か抵抗も逃走も出来ずにだらんと手を垂らしており、女神の美しいかんばせに釘付けになっている。彼女たちは強力な魅了の力を持っているが、それは男性にしか通用しないはず……まして清姫には恋ゆる男性がおり、百合趣味と言う訳でもないはずなのに。
「あっ……あっ、あっ……♥ な、なんなのですか、これはぁ……♥ こ、声を聞くだけで、胸が高鳴って……♥ うぅ、苦しい……♥」
「その苦しみは秘めてはいけないものよ♥ さあ、大人しく開放なさい……♥」
「あっ、あうぅ……♥ す、好き……♥ いやぁぁっ♥ こ、こんな……どうしてぇ……♥」
「ちょっ、ちょっと冗談でしょ!? あんた小ジカのことは……!」
「あなたは、こっち♥ さあ、この目を見なさい……女神の力ある瞳をね……♥」
「ほぉぉぉぉぉっ♥」
魅惑の美声に、女神の視線……男性を魅せる為の技は、この場においては乙女を百合に誘う絶技に変わる。
清姫の胸の中には、マスターどころか安珍へ向けた感情すらも消し飛ぶほどのステンノへの恋心が沸き上がり、エウリュアレに見つめられたエリザベートに至っては唇を尖らしてキスをしようと夢中になってしまう。
「さあ、脱ぎなさい……女神の供物となる裸体を魅せるの♥ ふふ……私(エウリュアレ)ほどではないけれど、なんて美しいのかしら……♥」
「あっ……あぁ~っ……♥」
ステンノの美声にマジ惚れ状態の清姫は、しょろろろっ……と裸体を褒められて子犬のように嬉ションをしてしまった。女神の魅了は、ただ恋心を植え付けるものではなく、信仰心を沸き上がらせるもの……今の清姫は神から「君かわいいね!」と言われたのと同様でり、失禁で済んでいるだけむしろ精強であった。
「目を逸らさないで……ここの主もよそ見は嫌いなの♥ まっすぐに目を逸らさず……そうよ、地上で溺れる感覚はどうかしら♥」
「あっ、はうぅぅ……あう、あう……♥ こ、こんなぁ……♥ 完璧で究極なアイドル、こんなところで見つけちゃったぁ♥」
夜遊びしそうな言葉を吐きながら、エリザベートの目は完全にハートマークのそれとなっている。あまりにも完璧な美少女の前に、エリザベートの心はみごと恋に堕とされ……そのままぱふっ♥ と薄い胸の合間に顔を挟まれてしまう。
「(んみゅぅぅぅぅぅぅぅっ♥ 匂い、あまぁぁぁぁぁぁっ♥ お゛ぉぉぉっ♥ しゅきっ♥ これ、しゅきぃぃぃぃぃぃっ♥)」
「ふふっ……私(ステンノ)の子供にしてもいいくらい可愛いわ……そうよ、私(ステンノ)にはもう私(エウリュアレ)がいるから、あなたたちは、あなたたち同士で愛し合いなさい……♥」
「そうね、百合の花が咲き乱れれば咲き乱れるほどに、主はお喜びになるの……ねえ、あの子のことが好きでしょう? 私(エウリュアレ)のことが好きなら、私(エウリュアレ)が言えば、あの子を好きになるわよね?」
「んぐぅぅぅぅっ♥ むほぉぉぉっ……♥」
胸に挟まれて、ちっぱいズリを受けているエリザベートに対して、清姫は腋に顔を挟み込まれており、淡くも濃厚な雌臭に完全に魅せられ、髪と同じ薄緑の陰毛がうっすらと生えた秘所を露わにするほど服をたくし上げて、腰を前後に振りたくってしまっている。
女神たちの匂い責めと、その間も襲ってくる甘い声音に麗しの視線……ぷしゅぅぅっ♥ ぷしゅっ♥ ぷっしぃぃぃっ♥ と、愛撫も直接受けていないのにイキ狂った二人は、完全に女神たちの虜となりレズ堕ちした顔を、後頭部を掴むようにして見つめ合わされる。
「あっ……あぁぁ……♥ あんた、なんでそんな……エッチな顔、してるのよぉ……♥」
「だ、誰の顔が卑猥ですかぁ……♥ あ、あなたこそ、そんなたまらない……むしゃぶりたくなるような唇を……お゛っ♥」
「だめ、だめぇぇぇ……♥ み、魅了されて好き放題にされるのは、まだいい……耐えられる♥ こ、こんな……清姫に恋するのはダメなのぉぉぉっ♥ 目、逸らしてぇぇ♥ どんどんかわいく見えてきてヤバいのぉぉぉぉっ♥」
「はぁー……♥ はぁー……♥ う、うるさいです♥ わ、わたくしの気持ちも知らないで♥ わたくしのことが、可愛く見えるですってぇ……なんと身勝手な♥ わたくしの方が、万倍エリザベートを性的に見ています♥ け、けれどこれは操られているからです♥ 勘違いしないでくださ……えへぇぇぇぇっ♥」
この間も耳元では「好きになる、好きになる♥ あなたの百合の花になる♥」と囁かれ、時おり覗き込まれては女神の微笑が降り注ぐ。
そうやって、完全に同性愛者嗜好へと変わり果ててしまえば……お互いはあまりにも魅力的な美少女だった。
これまでの喧嘩じみた日々すらも、その表情の一つ一つを思い出し、仕草への愛しみが増していく。他の相手に魅了されているはずなのに、今の二人が恋をしているのは、紛れもなく悪友である互いだった。
「き、清姫ぇ……♥ い、一回……一回、キスしてみましょお……♥ そ、そうすれば、アタシたちはノーマルだって分かるから……♥ え、えぇと……小ブタ……いや小ウマ……? そ、そうそう、小ジカが好きだって思い出すはずよぉ……♥」
「はへぇ……♥ そ、それは良い考え、ですねぇ……♥ わ、わたくしの好きな方は、ただ一人だけです♥ そ、それは絶対に揺るがないとわかっ──んむぅぅぅぅぅぅっ♥ 唇、あまぁぁっ♥ 好き♥ 好きです♥ わたくしが好きなのはエリザベートですぅぅぅぅぅっ♥」
「あぁぁぁっ♥ 嬉しい、清姫ぇ♥ 好きなの♥ 愛してるのぉぉぉぉっ♥ んむっ……えへへっ♥ 清姫のお大事、触っちゃうんだからぁ♥」
「あっ♥ あうぅぅぅぅっ♥ エリザベートの手マンっ……♥ びりびりって……ひぅぅぅっ♥ わたくしの恋情に、またそうやって火をつけるぅぅっ♥ んむっ、ちゅっ♥ じゅるるっ♥ おいひぃっ♥ エリザベートのお胸、好きですぅぅぅっ♥」
キス一発で頭の中を完全に書き換えられた清姫とエリザベートは、互いの秘所を指や膝で刺激し合いながら、貪るように口づけを繰り返し、胸の先端を口で咥えたり、首筋に強く痕を残したりを繰り返す。
その間に、クスクスと笑いながらステンノとエウリュアレが少女たちの頭を撫でてやり……間に挟まっているのに、電撃はもう襲ってこなかった。
「幸せ♥ 幸せよ、清姫っ♥ もっとぎゅっとしてぇ……あ、あぅぅっ♥ そこよ♥ アタシのいいところ、指で触れてぇ……♥ お母様たちの前で結ばれましょう♥」
「あっ♥ あんっ♥ エリザベート、可愛い……♥ ずっと、ずっとそばにぃ……んぁぁっ♥ そこ、弱いですっ♥ ステンノお母様とエウリュアレお母様に♥ エリザベートとの永遠の愛、誓いますぅぅぅぅっ♥」
絶叫と共に、互いの指で果てあい、二人は胸を押し付け合うようにして抱きしめ合い、愛しすぎて「ふえぇぇ……♥」と泣き出すことさえしながら、互いへの愛を確認し合っていた。
「──どうやら、新しい百合が咲いたようだねぇ」
「ああ、我が主……♥見てちょうだい、私(ステンノ)の子供よ……♥」
「私(エウリュアレ)が母になる悦びまで頂いて……永遠に忠誠を誓うわ、我が主(マスター)……♥」
清姫とエリザベートは、互いのどこが好きか言い合う女子高生みたいな遊びを始めている。
それを見つめながら、この特異点を発生させた存在……同心円状の瞳孔を持つ、燈色の髪の少女がもちもちした肌で微笑んだ……。
屋根が高い
2023-06-30 15:37:14 +0000 UTCヨネザワ伍長
2023-06-30 14:32:31 +0000 UTC